推理小説の部屋

ひとこと書評


時計を忘れて森へいこう/光原百合 (創元推理文庫)

★★★☆ 

高校生の翠は、落とした時計を探しに入った森の中で、 レンジャーの護さんと出逢った。森と自然を愛する護に惹かれていく翠。 彼はまた、手触りの粗い事実という糸から、美しい真実を織り上げる、名探偵でもあったのだ。

光原百合さんの初期の作品らしいです。 森と共に生きる癒し系探偵による、短編3編を収録。 日常の謎系に属するんでしょうが、全て何らかの形で死が絡んでいるところがちょっと特殊かも。 人と人の繋がりや絆といったものの大切さを思い知らされます。

もうちょっと翠の高校の友人たちとの絡みも見てみたかった感じもします。 その内続編も書かれるでしょうから期待しましょう。

(2006.07.01)


バッテリー V/あさのあつこ (角川文庫)

評価保留

5巻目。単行本と同じ切り方ならば、次の6巻で完結のはず。 その前の、最後に向けた準備編、といった位置づけでしょうか。

天才打者門脇たちとの再試合を前に、巧と豪のバッテリーは凄味を増して復活していた。 コントロール抜群の巧でさえ制御しきれないほどのポテンシャルを秘めた速球。 海音寺、瑞垣、門脇、それぞれの思惑で試合を迎える…。

新田東バッテリー華麗なる復活。しかし単なる復活ではなく、 危うさと凄味を増した復活、といった感じで、オトムライでさえその扱いに困るほど。

いよいよ次巻で再試合。新田東のリベンジなるか? 瑞垣がキレたところが見られたのは良かったです。

(2006.06.29)


失はれる物語/乙一 (角川文庫)

★★★☆ 

角川スニーカー文庫の「失踪HOLIDAY」「きみにしか聞こえない―CALLING YOU―」「さみしさの周波数」 収録の短編から選ばれた5編に、 中短編2本(+あとがきにかえての書き下ろし1編)を加えた短編集。

基本的にスニーカー文庫収録なんで系統としては「白乙一」系なんですが、 主人公の境遇やら内向的な性格やらは何ともリアルでジメジメしているというか…。 ここら辺は乙一さんのキャラクター作りが存分に反映されていると言えそうですね。

今回初読の「ボクの賢いパンツくん」は超短編なんで置いておくとして、 「マリアの指」は乙一さんにしては珍しい本格(しかもフーダニット)に挑戦しようとしたのかと思われる中編。 遺体の描写などのギミックは黒乙一らしい痛々しさに溢れていますが、 叙述を駆使したり、後味の良い結末だったりと、なかなかの秀作でした。

(2006.06.27)


匣の中/乾くるみ (講談社文庫)

★★★  

竹本健治の「匣の中の失楽」に対するオマージュとなるアンチミステリ。

作中作「匣の中から匣の外へ」に描かれた通りに、現実でも連続密室殺人事件が起こる。 果たして犯人は仲間の中にいるのか? 五行に彩られためくるめく密室と、それに伴う過剰なまでのペンダディズム。 そしてあまりにもミステリの常識を覆した真相とは?

うん、これはまごう事なきアンチミステリ。 普通の人が読んだら「なんじゃこりゃ」って投げ出すでしょうね。 残念ながら「匣の中の失楽」を未読なので、半分も楽しめてないのかもしれませんが、 それでも十分堪能させていただきました。

作中明かされていない暗号の謎や真相は、ネットで検索すると色々とわかります。 こりゃあ凝ってるわ。

(2006.06.27)


神様のパズル/機本信司 (ハルキ文庫)

★★★  

留年寸前の「僕」が担当教授から命じられたのは、 不登校の天才女子学生・穂積沙羅華をゼミに参加させることだった。 巨大な加速器“むげん”の原理の考案者でもある穂積は、 16歳のちょっとエキセントリックな女の子だった…。

「宇宙の作り方」を考察する、という非常にエキサイティングなテーマに挑んだ作品。 青春ものの体裁をとりながら、かなり本格的な宇宙論・量子論が展開されます。 にもかかわらず、全体に流れる空気は何ともユルいというか。 主人公は卒論そっちのけで田植えしてるし。

展開されるオリジナルの理論も、かなり魅力的な説に見えます。 難しいはずの理論も、かなり噛み砕いて「わかった気」にさせてくれます。 これは主人公をおちこぼれという設定にしたプロットの勝利でしょうか。 理系を目指す中高生には是非読んでもらいたいものですね。

(2006.06.24)


天使はモップを持って (文春文庫)

★★★★ 

掃除スタッフにはとても見えない、いまどきの若いギャル風のキリコ。 しかし彼女は掃除の達人なのであった。 そしてまた、社内の些細な謎を解き明かす名探偵でもあったのだ。

新入社員・大介を語り手に、掃除ギャル・キリコを探偵役にした連作短編集。 社内で起こる大小さまざまな謎を、キリコの推理が解き明かします。 探偵役が清掃員、という設定が奇抜ですが、なるほど、 社内の色々な事情に(知らぬ間に)通じている可能性が高いわけで、面白いですね。

事件は、セクハラやら不倫やら結構ドロドロとした事件も多いのですが、 「いじられキャラ」の語り手・大介と、キリコの軽妙なやりとりで、 読後感はとても良いです。

このオチだと、今後の続編はないのかな、と思ったのですが、 解説読むと続編シリーズもあるようですね。楽しみです。

(2006.06.16)


さよなら妖精/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★★☆

米澤穂信の青春ボーイ・ミーツ・ガール・ミステリ、待望の文庫化。

雨宿りをする一人の少女との偶然の出会いが、平凡で路行の世界に波紋を起こす。 自分とは無関係だと思っていた異世界から来た少女。 彼女にとっては、日常も全て「哲学的な意味がありますか?」という謎に満ちた世界だった。 そして彼女は戦乱の故郷へと帰っていく…。

分類すれば「日常の謎」系ミステリに属するんでしょうが、 青春小説としての比率の方が高いので、 ミステリ読みじゃない人に読ませたらミステリだとは思わないかも。 マーヤが見つける日常の小さな謎を解決していく、という日常のパートと、 マーヤが帰った国は一体どこなのか?、という大きな謎を解決するパートとの、 構成がうまいですね。 出てくるキャラクタも皆魅力的で(高校生にしてはちょっと健全過ぎるきらいはありますが)、 特に真の「探偵役」の太刀洗はクールでミステリアスな魅力に溢れています。

しかしユーゴスラビアのことなんか、ホントに何も知らなかったんだなあ、 と実感させられた次第。単にセルビア=モンテネグロに国名が変わっただけだと思ってました。

(2006.06.16)


ブレイブストーリー(上)(中)(下)/宮部みゆき (角川文庫)

★★★☆ 

アニメ映画化に合わせて文庫化されました。ど直球のファンタジー。

両親の離婚という現実を変えたいと強く願った小学生・亘の前に、 「幻界(ヴィジョン)」への扉が現れた。 「幻界」は現実世界のヒトの心が作り出すファンタジー世界。 実界からの「旅人」は、幻界のどこかにある運命の塔で女神に会うことで、 一つだけ願いをかなえてもらえることができるという…。 ワタルはさまざまな障害を仲間達と乗り越え、運命の塔を目指す…。

幻界の世界設定は、さまざまな亜人種が住んでいたり、魔法があったり、 ドラゴンがいたり、といった、割とありがちなファンタジー世界。 しかし、激しい人種差別主義をかかげる北の帝国、 国を超えた不可侵領域の特別自治州、などなど、 妙に現実世界を反映したような設定があるのが、 さすがヒトの心を反映した幻界。 旅人やヒト柱などの設定もよく練りこまれています。

ワタルの旅の目的、ミツルとの勝負、幻界の危機、 などなど、途中、これどうやって収拾つけるんだろう? というほどの状況になりますが、最後はさすがにうまくまとめてますね。

(2006.06.11)


秘密室ボン QUIZ SHOW/清涼院流水 (講談社文庫)

★★☆  

講談社ノベルス20周年を記念してメフィスト賞作家達が「密室」をテーマに競作する企画 「密室本」の1冊。 「秘密室」の中に閉じ込められたメフィスト翔。 90分の時間制限のうちに、「密室の神様」とのクイズ問答に答え、この密室から抜け出さなければならない。 果たして、翔は、秘密室を解く鍵=人生の必勝法を見つけることができるのか?

流水大説らしい作品、といえばそれまでなんですが、 うーん何か最後の投げっぱなし感は否めず。

第2部のなぞなぞもメフィスト賞作家同士の内輪ネタって感じがして。 サービス精神に溢れているのはわかるんですけどね。

(2006.06.03)


ZOO 1/2/乙一 (集英社文庫)

★★★☆ 

乙一の、一つのジャンルにくくれない短編を集めた短編集。 文庫化に当たって分冊されました。

「カザリとヨーコ」…うわー、黒乙一全開って感じですね。 これ映像化されてるんですね?ちょっと興味あるなあ。

「SEVEN ROOMS」…角川スニーカー文庫のアンソロジー「殺人鬼の放課後」収録のホラー。 ストレートで理不尽なホラーなんですが、救いがあるというか、読み終わった後にジーンとさせるところはさすが。

「SO-far そ・ふぁー」…どこからこういうのを思いつくんだろうなあ、という感じのサイコ・ファンタジー(?)。

「陽だまりの詩」…こちらは白乙一全開、って感じの近未来SF。 オムニバス「ZOO」ではアニメになっているそうで、是非観てみたいですね。

「ZOO」…これはまた映像で観たら凄そうだなあ、という感じのサイコ・ホラー。

「血液を探せ!」…長男がナガヲ、次男がツグヲ、妻がツマ子、主治医がオモジ、 というやる気のないネーミングからもわかるようなコメディ。 でもその実しっかりと密室トリック物だったりするところが侮れません。

「冷たい森の白い家」…これもかなり黒乙一全開ですね。オチもかなりブラック。さすがにこれを映像化する勇気のある監督はいなかったか…。

「Closet」…倒叙っぽい記述を交えつつ、密室トリックとして正統な本格ミステリに仕上がってます。

「神の言葉」…黒乙一ならではのブラック・ファンタジー。 最後の世界の描写が怖すぎるんですが。

「落ちる飛行機の中で」…かなりコメディタッチですが、 描き方によってはかなりドロドロした話にもできそうです。 そこを軽く仕上げているところが乙一流でしょうか。

「むかし夕日の公園で」…ショート・ショート。「暗いところで待ち合わせ」 みたいな展開にもできそうですが、そうなる前にサクッと終わってしまうところが素敵。

オススメは、ベタですが「陽だまりの詩」、 あとは本格っぽさを買って「血液を探せ!」ですかね。

(2006.05.27)


被害者は誰?/貫井徳郎 (講談社文庫)

★★★★ 

大人気のミステリ作家であり、美形、しかも超天才という吉祥院慶彦。 彼の後輩・桂島刑事により持ち込まれた、奇妙な事件の数々。 果たして導き出される意外な結末とは?

パット・マガーの「被害者を捜せ!」の本歌取りを目指した連作短編。 通常の推理小説では犯人を捜すのが普通ですが、犯人は明らかなのに、 被害者がわからなかったり、といった特殊なシチュエーションのフーダニットに仕上がっています。 ただでさえプロットが難しそうななんですが、表題作「被害者は誰?」の他、「目撃者は誰?」「探偵は誰?」と、 同じシリーズキャラクターの連作短編として仕上げているのは、もう見事という他ありません。 当然普通の設定では、そういったシチュエーションは難しいので、 手記やらモノローグやら作中作やら、と言ったメタミステリの手法との組み合わせによって実現されています。 この「罠」の仕掛け方もまた見事。綺麗に騙される醍醐味を味わえます。

しかし貫井さんの作品って、結構重いテーマを扱った作品とかも多いんですけど (そういう中に本格テイストを見事に盛り込んでいる)、 こういうのを見ると本当に本格好きなんだなあ、というのがわかりますね。

(2006.05.24)


スイス時計の謎/有栖川有栖 (講談社文庫)

★★★☆ 

国名シリーズ最新作。4編の短編を収録。

「あるYの悲劇」はアンソロジー「Y」の悲劇に収録済みの、ダイイングメッセージ物。 「女彫刻家の首」は、被害者の首はなぜ持ち去られたのか?というアリバイ崩し。 「シャイロックの密室」は密室トリックの倒叙物。 表題作「スイス時計の謎」はオーソドックスなフーダニット。

「スイス時計の謎」の純粋に犯人を追い詰めていくロジックに痺れました。 ここまでストレートなフーダニットのロジックってのは最近お目にかかってないなあ、 という感じ。 そして、これまで割と火村の過去を匂わせるような描写はありましたが、 有栖の過去に触れた作品はこれが初めてではないでしょうか? ちょっと新鮮でした。「その時に書いた、ロジックが世界を支配する本格ミステリ」 ってのが「月光ゲーム」だったのかな、とか。

(2006.05.20)


街の灯/北村薫 (文春文庫)

★★★☆ 

昭和七年の日本を舞台に、士族の花村家の長女・英子を語り手として、 女性運転手《ベッキーさん》を探偵補佐役(?)とする、 北村薫の新シリーズ。

北村薫さんらしい、上品で爽やかな語り口。 「円紫と私」シリーズだとちょっと現代からすると天然記念物っぽい雰囲気もなきにしもあらずですが、 昭和七年の良家の令嬢、という設定にするとあら不思議。何の違和感もありません。

で、このシリーズの魅力はやはり《ベッキーさん》かと。 女性にして運転手、剣道などの武道の嗜みもあり、さらには銃の腕前も一級、 というまさに「女性が憧れる女性」の理想像のような感じ。

で、そのベッキーさんが「円紫さん」のように探偵役なのかと思いきや、 さにあらず。必ずしも謎を解くわけではなく、 主人公の疑問点を整理するための「道具」として作用しています。 実は全てをお見通しなのかも知れないのですが、決して出しゃばり過ぎず、 ヒントを与える程度で、奥ゆかしいですね。

今後のシリーズも楽しみです。

(2006.05.17)


グラン・ギニョール城/芦辺拓 (創元推理文庫)

★★★☆ 

欧州の城・「グラン・ギニョール城」に招かれたアマチュア探偵・レジナルド・ナイジェルソープ。 弁護士・建築士・退役軍人など一癖も二癖もある連中の集まる中、連続密室殺人が…。 果たしてナイジェルソープはこの謎を解き明かせるのか?

一方、弁護士・森江春策は、ひょんなことから「グラン・ギニョール城(前編)」の載った「ミステリー・リーグ」を手に入れる。過去の事件と現在の事件、両方を追っていく森江は、 やがてその「グラン・ギニョール城」の中の登場人物の一人として取り込まれていく…。

芦辺拓のブレイク作となったらしい作品。 作中作と現実の事件とが交互に現れる、というよくある構成。 なんですが、途中からその両方の章が融合していく、という意外な展開に。 これはかなりアクロバティック。よくこんな突飛な設定を思いついたなあ、 と感心しました。

密室・からくり・暗号・遺産・過去の誘拐殺人・謎の中国人、などなど、 海外本格ファンにはたまらない展開。堪能させていただきました。

(2006.05.14)


熊の場所/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

舞城王太郎の短編集。3本の短編を収録。

「熊の場所」は、ちょっと乙一チックな印象を受けました。 ほんの一粒だけファンタジーな要素が散りばめられた、 ジュブナイルっぽい雰囲気の、ホラー。

「バット男」は実際のところ一人死んでるんだからミステリかサスペンスなんだろうけど、 やっぱり青春ものなのかなあ。 都市伝説とすれ違いの恋愛模様と殺人事件が絡む、という不思議な物語。

「ピコーン!」は謎の死を遂げた恋人の真相を探る、というわけでプロット的には一番ミステリしてますね。 まあ、演出はかなりエロに偏ってますけど…。女の子一人称は初めてですが、パワフル過ぎて疲れますね…。

(2006.05.10)


煙か土か食い物/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

福井の小さな町を舞台に起きた連続主婦殴打生き埋め事件。 サンディエゴのERで働く腕利きの救命外科医・奈津川四郎の元に、 母親がその犠牲者になったとの報が入る。 一体犯人はどんなマザファッカーだ!? 血と暴力に彩られた奈津川家の宿命が、復讐を誓う四郎へと襲い掛かる。

舞城王太郎のデビュー作にして第19回メフィスト賞受賞作。 タイトルは「人は死んだら、煙(火葬)か、土(土葬)か、食い物(他の犠牲)しかない」、 という主人公の祖母の言葉より。 色んな意味で規格外な作品。一人称主体の文体、そして暴力の連鎖はどう見てもハードボイルドなのに、 起こっている事件は暗号に見立て、アナグラムと至って過剰に本格っぽい。 そのギャップが何とも独特な世界観を作り出してます。 最後の伏線の収束っぷりは、本格に近いカタルシスを感じました。

そして極めつけは名探偵の存在。ルンババ12ってシリーズキャラクターだったんかい。 しかもいきなり死んでるし。お前はメルカトル鮎か! まあ、それはともかく「世界は密室でできている。」の方はルンババ12エピソード0みたいな位置づけだったのか…。

まあでも名探偵なんて、この物語の世界観においては何の意味もないんですけどね。 っていうか、ホントに全くいなくてもプロットに変更無しでいけるんじゃないか、 というくらい。

どうやら福井を舞台にした小説にこだわっているようで、それはそれで面白いと思いました。

(2006.05.09)


世界は密室でできている。/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

福井の中学生・友紀夫と、隣に住む親友のルンババ。ルンババの姉の死の衝撃を乗り越えて、 やってきた修学旅行でエキセントリックな姉妹と遭遇。 そして次から次へと密室殺人が現れて…。

舞城王太郎先生初挑戦。独特の、一気に畳み掛けるような文体のせいで、 読むのに疲れますね。密度が濃い、というか。 主人公はかなり一般人ですが、登場人物がことごとくエキセントリックなところも、 読みにくさの一因かも。ちょっとノるまでに時間がかかりました。 慣れれば心地よくなりますけどね。

新青春エンタテインメントと謳われてますが、確かにこれはミステリではないですね。 いや、密室やら殺人やら見立てやら名探偵やら、ミステリの道具立ては確かに出てくるのですが、 それらは全てオマケに過ぎないというか。何しろいきなり10人が殺されている現場で、 いきなり脈絡もなく解決しているし。 この作品では、そういう実際の事件やら何やらよりも、 ルンババのトラウマだったり、エノキのトラウマだったり、 それらを見守る友紀夫の心の動きだったり、 そういうものの方がよっぽど丁寧に描かれてます。

(2006.05.04)


リドル・ロマンス 迷・宮・浪・漫/西澤保彦 (集英社文庫)

★★★  

長身痩躯、腰まで伸びた黒髪、国籍不詳の美形の心理探偵「ハーレクイン」。 彼のオフィスを訪れるクライアントたちの「望み」を叶えるのが彼の仕事。 クライアント本人が気付いていない「本当の望み」を見つけ出すために、 過去へ未来へと自在に心を操る…。

ミステリというよりは、ファンタジー? いわゆる普通のミステリとは少し趣が違ってます。 特に象徴的なのは第一作目の「トランス・ウーマン」。 何しろ探偵役自らが殺人幇助してしまいますからね。

西澤さんの作品群の中でもかなりの変り種。 なかなか楽しめました。

(2006.04.28)


黒と茶の幻想(上)(下)/恩田陸 (講談社文庫)

★★★☆ 

彰彦・蒔生・利枝子・節子の大学の同級生4人組。40も近くなり、それぞれ家庭を持った4人が、Y島の太古の杉を目指す。 途中で語られる「美しい謎」。そして本人達さえ忘れていた過去の真実が少しずつ明らかになっていく…。

「三月は深き紅の淵を」の中で(作中作の方の)第一部とされていたのがまさにこの「黒と茶の幻想」でした。 自分の感想見てみると、「大小さまざまな謎が散りばめられ、それらが解決され、あるいは放置される、という話」となってますが、 まさにそういう話でした。

また、回想の中に出てくる重要人物・梶原憂理は麦の海に沈む果実に出てくる重要人物。 というわけで、この作品は《三月》シリーズと呼んでも差し支えないんですよね、きっと。

特に事件が起きるわけではなく、ひたすら会話だけで進んでいくのですが、 それでこれだけ読ませる、というのも凄いなあ。4人それぞれの一人称で語られる4部構成で、 上巻読んだ時点では一番謎の多い蒔生視点が最後なのかな、と思いきや、 一番何もなさそうだった節子が最後ってのもかなり効果的でした。 会話のくだらなさもかなりリアリティあってよかったです。

どうもこの《三月》シリーズは、他にも色々な作品とリンクしているようで、楽しみです。

(2006.04.27)


夏期限定トロピカルパフェ事件/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★☆ 

春期限定いちごタルト事件に続く、書き下ろし「小市民」シリーズ第2弾。

小市民の星を目指すため、高校生活において互恵関係にある小鳩君と小山内さん。 しかし高校二年の夏休みは何かが違った。 なぜか「小山内スイーツセレクション・夏」めぐりに連日付き合わされる羽目になった小鳩君。 しかしスイーツセレクションめぐりはやがて思いも寄らぬ事件へと発展して行く…。

連作短編、というよりはかなり長編寄りの構成になってますね。 章の長さもバラバラですし。しかし短いページながら、 全ての事件(?)がちゃんと結末に向かって収束していくのは見事な構成。 本格好きにはたまりません。

さて、このヒキで、この後秋期・冬期と進んでいくんでしょうか。 続きは気になりますが、次作は1年後かなあ?

(2006.04.20)


悪戯王子と猫の物語/森博嗣・ささきすばる (講談社文庫)

★★★  

森博嗣と、奥様の漫画家・ささきすばるのコラボレーションで送る、20の物語。

ささきすばるさんの官能的な絵柄が、森先生の幻想的な文章とあいまって、 大人の絵本となってます。

アイソパラメトリックと同じく、オールカラーなので、ページ数の割に割高なのは仕方ないところでしょうか。

(2006.04.16)


QED 竹取伝説/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ最新作。独立した作品としてももちろん読めますが、 前作「QED 式の密室」からの続き要素が多いので、続けて読んだ方がよさげですね。

前作に引き続き、当時の貴族と庶民の間の対立と、それを勝者の論理だけから書き残した「騙り」が基本となってます。 本当かどうかはともかく、かなり説得力があることは確か。

(2006.04.15)


メビウス・レター/北森鴻 (講談社文庫)

★★★☆ 

幻想小説作家・阿坂龍一郎宛に届いた手紙。それは7年前の事件の犯人を告発する手紙だった。 一体誰が何のために?過去と現在が入り混じり、事件は意外な方向へ…。

過去の事件を告発する手紙、という叙述を仕掛けやすい舞台。 まあ例によって様々な手でミスリードの伏線が張り巡らされています。 まあ意外だったことは意外なんですけど、過去の事件の一本筋が通った感じに比べると、 現在の方がちょっと意外性を追求し過ぎて、ちょっと無理が生じてる感じが…。 どうもすんなりと受け入れ難い結末ですね、色んな意味で。 最後がモノローグで終わっているのは、余韻を残していていいんですけど。

(2006.04.09)


アイソパラメトリック/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

短編集、というにはあまりにも短い、超SS集。

カラーで写真と共に綴られる25編の掌編。ほとんどが1ページで終わるショートショート。 正直このページ数でこの値段ってのは、いくらカラーページが使われているからといってもちょっと…。

最後の1行でちゃんとオチてる作品が好きですね。「夢」とか。

(2006.04.02)


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