推理小説の部屋

ひとこと書評


有栖川有栖の密室大図鑑/有栖川有栖(文)・磯田和一(画) (新潮文庫)

★★★  

古今東西の「密室」物40作を、有栖川有栖先生が紹介し、 磯田和一先生による「密室」のイラストつき、という企画。

この手のミステリ紹介系の本はいくつかありますが、 この本の場合、密室の紹介はしていても、トリックのネタバレはしていない、 というところが素晴らしいです。なので、知らない作品についても、 これを読んで、「どんな作品なんだろう」と本編への興味を失うことがありません。 まさにガイドブックとして最適。

40作品中、私が読んだことのあったのはたった10作品でしたが、 読んだ作品に関して言えば、お薦めな物ばかりだったので、 恐らく他のもかなり面白い作品ばかりだと思います。 面白そうなのは早速注文しようかな。

(2005.03.31)


QED 式の密室/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ第5弾。陰陽師の系譜に連なる家で起こった2つの連続自殺。 密室で起こった死は、本当に自殺だったのか?式神は存在する? 安倍晴明の真実と共に解き明かされる秘密…。

QEDエピソード1、といった趣で、タタルがまだ大学生の頃に出遭った、 小松崎と知り合いになるきっかけとなった事件を回想で語る、という形式です。

5つある章のうち、事件の方は4つの章で解決してしまって、 残りは丸々「陰陽師の真実」にページが割かれている構成がなかなか新鮮。 色々と考えさせられますね。

個人的にはこれくらいの薄さは歓迎。

(2005.03.29)


新・世界の七不思議/鯨統一郎 (創元推理文庫)

★★★  

「邪馬台国はどこですか」に続く、シリーズ第2弾。 今回は、アトランティスの不思議、ピラミッドの不思議、といった、 まだ解明されていない謎に関して、バーで「新解釈」談義が行われます。

歴史学者の静香と、フリージャーナリストの宮田との間で繰り広げられるやり取り。 結論が全て日本へと結び付けられてるあたり、かなりトンデモなんですが、 まあそれなりの説得力はありますね。 しかし前作が既にある程度定説が決まりつつある諸説に対する「新解釈」だったのに対して、 今作は本当に謎なものに対する「新解釈」なので、 トンデモ感がいまいち足りないというか。うん、そういう可能性もあるかもね、 と思わせてしまうあたりが、作品としてはちょっと失敗かな、という気もします。 やっぱり「それはあり得ないだろう」という感じのサプライズで締めてもらった方が、 作品としては面白いですよね。

どうやら歴史学者の早乙女静香嬢は、ピンで別の作品にも出てるようですね。

(2005.03.26)


捩れ屋敷の利鈍/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Vシリーズの番外編的位置づけ。保呂草潤平と、S&Mシリーズの西野園萌絵が接触。

メビウスの帯状に作られた捩れ屋敷…うーん、いまいちどんな状態なのか、 説明を読んでも細部が想像できませんでした。

保呂草視点による萌絵の描写ってのが結構新鮮でした。 というか、かなり情緒不安定な天然に見えますね、やっぱり。

紅子と萌絵の間にもなにやら関係がありそうな感じですね。

(2005.03.21)


続 巷説 百物語/京極夏彦 (角川文庫)

★★★★ 

巷説 百物語の続編。 「小股潜りの又市」「事触れの治平」「山猫回しのおぎん」といった、 おなじみのメンバーに巻き込まれる物語蒐集家の「百介」。

最初にある程度ネタをばらしておいて、それを一度「怪異」へと引っくり返して、 最後に引っくり返してまた仕掛けのネタばらしをする、 という倒叙物をアレンジしたような構成が見事です。 普通のミステリだとまず「完全犯罪」の構図が最初に提示されるわけですが、 如何に提示された材料を使って「完全犯罪」の構図を作るか、というところに焦点が当てられます。 特に秀逸だったのは「野鉄砲」ですかね。 もう全ての材料は提示されているにも関わらず、 できあがった構図の美しさはため息が出るほど。

そして治平やおぎんといった又市一味の仲間の過去が明らかになっていくのも本作の特徴。 結局又市の過去だけは完全には明らかにならなかったわけですが…。

さらに、各話の中で少しずつ張られた伏線が、全て「七人みさき」へと収束していく構成も見事。 本当に良く出来ていると思います。これで終わりなのは寂しいですね…と思いきや、 「後 巷説百物語」という第3弾もあるみたいで。文庫化を楽しみにしておきます。

(2005.03.20)


転・送・密・室 神麻嗣子の超能力事件簿/西澤保彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

チョーモンインシリーズの第5弾・短編集。

作品ごとに語り手が変わるのが面白いですね。 保科、聡子、能解さん、神麻さん、とそれぞれの視点から語られることで、 各キャラクターが普段どんなことを考えているのかがわかります。

新キャラクター、「俺女」の神余響子登場。そうか、エージェントのミッションネームにはみんな「神」がつくんですね。 というか、今「かなまり」が一発で変換できたことに驚いていたり。

作者のあとがきにもあるように、「完結篇」への伏線を張りまくり。 特に記憶を奪う?新担当のリキちゃんは、今のところ敵なのか、味方なのか、 目的もよくわからないだけに不気味ですね。

これ以降まだ長編は書かれていないようで。次の長編が完結篇なのかな?

(2005.03.05)


毒薬の小瓶/シャーロット・アームストロング (ハヤカワ文庫)

★★★★ 

イノミスのINOさんが薦めていたので、 読んでみました。

初老の詩人・ギブソンは、二度の戦争で「他人に感情移入し過ぎる」精神の傷を負っていた。 彼は病身で生きる術を持たないローズマリーと出逢い、彼女を生き返らせることに全力を尽くす。 「契約上の」夫婦となり、幸せになった二人を突然の自動車事故が襲い、 そこから全てが狂い始めた。 彼は自殺を決意し、毒薬の小瓶を入手したが…。

まさに「善意のサスペンス」。前半のどんどん沈み込んでいくような、 ジワジワと落ち込んでいくような細かな心理描写が、 全て後半の展開で解きほぐされていく様は見事。 人間って素晴らしい、と思わせてくれます。オススメ。

(2005.02.13)


異邦人 fusion/西澤保彦 (集英社文庫)

★★★☆ 

父の死を機に実家の料亭を継ぐことになった姉。 本来同性愛者であったはずの姉の人生を狂わせたのは自分なのか? 40歳になった「私」は突然23年前にタイムスリップしてしまう。 父の死の真相を解明することはできるのか?

「チョーモンイン・シリーズ」が始まってからは久しぶりの単発超能力物。 「タイムスリップ」という大ネタですが、 自分の意思で時間を超えられるわけでもなく、 しかも基本的に過去の物に物理的に干渉できないという、制約の非常に多い能力。

しかしそこに、ジェンダーやら、親子関係やら、 さらには「密室殺人」めいた謎まで絡んで、 ちゃんとミステリに仕立ててあるのがさすが。

果たして最後はハッピーエンド、なのか?

(2005.02.06)


死んでも治らない 大道寺圭の事件簿/若竹七海 (光文社文庫)

★★★☆ 

元刑事の大道寺圭が、警察を辞めたと同時に書いた著作「死んでも治らない」。 実在する間抜けな犯罪者たちを取り上げたこの作品がそこそこのヒットとなり、 当面食うには困らなくなった大道寺だが、引き換えに妙な犯罪者たちに付きまとわれる羽目に…。

基本は犯罪者たちの間抜けさを貴重としたコメディ(葉崎が舞台だけあって、コージーと言った方がしっくり来るかも)なんですが、 それでも全体としては何となくハードボイルドになっているという不思議な仕上がり。 また、単行本の時に書き下ろされたという、幕間の「大道寺圭最後の事件」も、 直前の話の重要な人物が要所に配置されていたりして、見事な構成。 さすが「ぼくのミステリな日常」でデビューしただけのことはあります。

(2005.01.28)


怪人対名探偵/芦辺拓 (講談社文庫)

★★★☆ 

江戸川乱歩ばりの『怪人・殺人喜劇王』が跳梁跋扈する「無差別復讐」事件。 「名探偵」役を割り当てられる羽目になった弁護士・森江春策は、 「殺人喜劇王」との対決に巻き込まれていく…。

なつかしの「怪人モノ」(その殺害方法の残酷さも含めて)としての雰囲気も満点ですが、 それよりも作中作あり、昔の探偵物あり、さらに作者の「芦辺拓」まで登場し、 メタミステリ的な要素が満載。果たしてこれに合理的な解決が付くのか? と途中は不安になりましたが、ちゃんと本格の地平に着地してくれました。 乱歩に対する愛に溢れた力作です。

(2005.01.09)


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