推理小説の部屋

ひとこと書評


今夜はパラシュート博物館へ/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

短編集第3弾。装丁がS&Mシリーズの感じに戻りました。 短編集は短編集でイメージを揃えているんでしょうね。

しかし本当に計ったように定期的に刊行されますね。 すごいなあ。

(2004.03.25)


ある日どこかで/リチャード・マシスン (創元推理文庫)

★★★☆ 

「時を越えたラブストーリー」シリーズ、ということで。 映画化もされた、奇蹟のラブストーリー。

脳腫瘍であと半年足らずの命と判断された脚本家のリチャードは、 旅の途中に立ち寄ったホテルで一人の女性に一目惚れをする。 女優・エリーズ・マッケナ。1896年の彼女に会うために、 リチャードは時間旅行を試みる…。

タイム・トラベルものは色々と見てきましたが、 ここまで強引なタイム・トラベルは初めて見ました(笑)。 信念だけで時を越えちゃうんだからスゴいよなあ。 まあ、すべて主人公の妄想だった、とも取れるように書いてあるわけですけど。

時を越える前の描写などはちょっとくどい気もしましたけど、 タイム・トラベルもののお約束は一応押さえてあります。 ハッピー・エンド、とは言い切れないけど、 予定調和的なエンディングで、これはこれでよかったです。

(2004.03.14)


ジェニーの肖像/ロバート・ネイサン (偕成社文庫)

★★★  

恩田陸さんのライオンハートのあとがきで書かれていた、 「時を越えたラブストーリー」という元になった作品だそうで、 興味があったので読んで見ました。

なんか妙にひらがなが多いなあ、と思ったらこの「偕成社文庫」ってのは、 中学・高校生向けの文庫(新書サイズだけど)なんですね。

売れない画家・アダムズの前に現れた一人の少女。 いつも突然現れては消えていく少女は、 しかし会うたびに突然成長していくのであった。 アダムズは彼女をモデルに絵を描き、そして惹かれていく…。

時を越えるというテーマとラブストーリーは相性がいいんでしょうか。 ハッピーエンドだったら☆もう一つだったんですが。

(2004.03.06)


金のゆりかご/北川歩実 (集英社文庫)

★★★☆ 

最新科学をモチーフに「人間」の本質に迫る北川歩実さんの作品群。 今回のテーマは「早期幼児教育」

タクシーの運転手の野上雄貴は、 「GCS式早期幼児教育」の創始者・近松吾郎によって設立されたGCS幼児教育センター出身。 近松の愛人の子供であり、かつて「天才少年Y」ともてはやされた野上を、 やがて成長して凡人になるに従いあっさりと見捨てた近松。 その近松からGCSの幹部として入社するように要請があった。 一体近松の意図は何なのか? 意図を探るうちに、やがて9年前に起きた「事故」の内容が明らかに…。

久しぶりに読んだ北川さんの作品。相変わらず最新科学をモチーフにして、 幼少期の記憶やアイデンティティのあいまい性、 「天才」とは一体何なのか、といった興味深いテーマがちりばめられてます。

後半は次々と明らかになる「真相」の連続に、ちょっと疲れましたが、 しかし「真犯人」にはかなり驚かされました。

(2004.03.06)


ライオンハート/恩田陸 (新潮文庫)

★★★★☆

1月発売の恩田陸さんの文庫第3弾。

17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ・フロリダ、 時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。 結ばれることは無い運命だけど、会えば必ずその瞬間にわかる…。 時を越えた出会いを描いたSFラブストーリー。

タイムリープネタキターーーーーーーーーーー! という感じで、一気読みでした。 好きなんですよ、このテーマ。 「リプレイ」のススメなんてページを作ってるくらいで。

分類すると、リプレイ系ともターン系とも微妙に異なるので、 一番近いパターンとしては北村薫さんのリセットが当たるかとも思うのですが、 記憶の中の時系列が必ずしも実際の時系列順になっていない、 という点が今作の大きな特徴ですね。

節目節目の歴史的なイベントと、絵画と、出会いとを絡めて書いている構成が見事。 各場面場面が印象的なので、繰り返し出てくる「夢」の場面でも 「ああ、あの場面だな」とわかるところなんかは凄いと思いました。

また、この「奇妙な運命」に対してちゃんと理由付けがなされているところも凄い。 納得するかどうかは別ですけど、ちゃんと理由付けしようするとする姿勢を買いたいです。

(2004.02.24)


殺意は砂糖の右側に 天才・龍之介がゆく!/柄刀一 (祥伝社文庫)

★★★  

離島で育ったちょっと世間からずれたIQ190の天才・龍之介が活躍する、 連作短編集。

龍之介の科学的知識を活かした、物理・化学トリックが主体。 こういうのって、確かに面白いことは面白いんですが、 種明かしをされたところで「へえ、そんなこともあるんだあ」という感想しか持てないんですよね。 読者の側に、探偵と同等の情報量が与えられていないので、 どうにも納得ができないというか。

ただ、こういう連作短編集でありながら、ちゃんと「龍之介の後見人を探す」 という目的に向かって一歩ずつ進んでいって、最後はフィリピンまで行ってしまうところは、 ちょっと珍しいかも、と思いました。 でも連作短編の性質上、見つかったら終わりなので、きっとずっとすれ違い続けるのでしょうけど。

(2004.02.21)


なみだ研究所へようこそ!/鯨統一郎 (祥伝社文庫)

★★★  

サイコセラピスト探偵・波田煌子(なみだ・きらこ)が活躍する、連作短編集。

メンタルクリニック「なみだ研究所」の「伝説のセラピスト」波田煌子は、 正式な心理学の知識もなく、治療法も行き当たりばったり。 しかし突然流れ落ちる涙と共に、患者の悩みの原因をズバリと言い当てるのだった。

いわゆる「日常の謎」系の短編集ですが、 ただでさえわずかな手掛かりから「そりゃ無茶だろう」という推理(?)を展開することが多い鯨さん。 今回はモチーフとして心理学というさらに怪しげなモノを持ってきたために、 怪しさに磨きがかかって、ほとんど妄想推理というか、こじつけというか。 「ただの駄洒落じゃん」というのもいくつかあったりして。

語り手の松本清が、やたらと波田煌子のことを敵視するので、 波田煌子の魅力がいまいち伝わりにくいのが何かもったいない感じですね。 まあ、それも狙いの一つであるとは思うのですが。

(2004.02.12)


文庫版 絡新婦の理/京極夏彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

足掛け1年と数ヶ月、ようやく読了。

やっぱりこのサイズになっちゃうと、「持ち歩く」という、 本来の文庫の持つ特性は全く失われてしまうため、読む機会そのものが圧倒的に減ってしまいますね。 割高になってしまうかも知れないけど、「屍鬼」のように分冊にしてくれた方が、 読者としてはありがたいかも。まあ、京極さんなりのこだわりがあって1冊にしているんでしょうけどね。

連続無差別目潰し殺人、千葉を舞台とした連続絞殺魔、 ミッション系女学園の中で秘密結社と「黒い聖母」。 バラバラに思えた事件の点と点を結ぶ「横糸」が現れ、 さらに事件は次のステージへ…。

究極の操り系。そこまでうまくいくことなんてあるの?? とも思いますけど、非常に狡猾に罠を仕掛けている「蜘蛛」が今回の犯人。 プロローグを読んだのなんてもう1年以上前なんですっかり忘れてましたが、 最後のエピローグからそのままつながっていたのですね。

今回は関口はほとんど出番無し。でも木場も榎木津も大活躍で、 なかなか飽きさせません。榎木津が出てくると、 一体どんなものを「視て」くれるのか、楽しみにしている自分がいます。

解決編のボリュームはさすがの読みごたえでした。さあ、次は宴だ (いつだ)。

(2004.02.11)


ドミノ/恩田陸 (角川文庫)

★★★★ 

1月は3冊も恩田陸さんの文庫が発売されました。こんなこともあるんだなあ。

ある7月の蒸し暑い午後、 東京駅を舞台に繰り広げられる27人+1匹の狂想曲。 全く無関係に行動していたはずの保険会社社員、オーディションを受けに来た小学生、 ミステリ研究会の学生、ホラー映画監督、彼女と別れたがっている青年実業家、 警察OB、過激派グループメンバー、などなどが、 次々と絡みだし、最後はとんでもないことに…。

いやあ、面白かった。メインの登場人物だけで27人+1匹もいるのに、 ちゃんと書き込まれているというか、キャラが立っているというか。 章ごとに登場人物が目まぐるしく代わるわけですが、 最初の「登場人物紹介」が効いていることもあって、 混乱せずに読み進むことができました。

解説によると、単行本には最初の登場人物紹介にイラストが添えられていたようで。 見てみたいな。

(2004.02.07)

(2004.03.06 追記)
この話、サターンの「街」みたいなヴィジュアル・ノベル・ゲームにしたら面白いんじゃないでしょうかね。 27人+1匹をつなげるのは大変だと思いますが、 いけると思うんだけどなあ。

(2004.03.06)


絶叫城殺人事件/有栖川有栖 (新潮文庫)

★★★  

火村・有栖シリーズの短編集。全ての作品が「○○○殺人事件」 (○○○は建物や部屋の名称)で統一されてます。 中には殺人事件じゃないのも混じってますが、まあそれはご愛嬌。

有栖川先生の短編集らしく、推理クイズ的というか、 密室あり、アリバイ崩しあり、と本格物の基本を抑えていて安心して読めます。 最後の「絶叫城殺人事件」は一瞬ミッシングリンクものかと思いましたが、 違いました。でも真相はなかなか皮肉で悲しくてよかったです。

あとは「黒鳥亭殺人事件」「雪華楼殺人事件」が良かったです。

(2004.02.01)


黒い仏/殊能将之 (講談社文庫)

★★★  

殊能将之の第3長編。美濃牛に続く、名探偵・石動シリーズの第2弾。

まず、前作に比べてずっと薄くなったのに好感触。 いや、今バックグラウンドで「絡新婦の理」読んでるんですけど、 やっぱりあそこまで厚くなっちゃうと、電車に持ち込む気にもならないし、 文庫の意味ないし(笑)。

発表当時、賛否両論の雨あられだったそうですが、 うーん、なるほど。これは確かに賛否両論あるだろうなあ。

たとえるなら、西部劇だと思って見ていて、最後の決闘のシーンになったら、 一方が光線銃を出してUFOで飛び去ってしまった、みたいな。

いや、単発作品でやるのはアリだと思うんですが、シリーズ作品でこれをやっちゃうかなあ。 しかも前作はガチガチの本格系だったし。 まあだからこそ衝撃が大きいとも言えるんですけど、 でもこれやっちゃったら、この先このシリーズでどんな不可能状況が出てきても、 「何でもアリだからな…」と思ってしまって、 素直に読めなくなってしまうような…。 でもこの先のシリーズってのもあるようですね。

まあ、なんにせよ、この作家が何を仕掛けてくるかわからない、 ということだけはわかりました。この先も注目していきたいと思います。

(2004.01.30)


麦の海に沈む果実/恩田陸 (講談社文庫)

★★★☆ 

恩田さんお得意の、学園ホラー。

三月以外の転入生は破滅をもたらすといわれる全寮制の学園。 「三月の国」に二月最後の日に来た理瀬。 度々「行方不明」になる生徒たち。 そんな「三月の国」に「王」として君臨する、両性具有を理想とする完璧主義者の校長。 理瀬が迷い込んだ「三月の国」の秘密とは?

恩田さんはこういう「閉鎖された空間」で、 多感な「少年・少女たち」が繰り広げる青春群像劇が本当に得意ですね。

そして読んでいきながら「三月?もしや」と思っていたのですが、 出ました「三月は深き紅の淵を」! まさにキタ――――――――――――!!って感じです。 そうか、あの第4部に断片的に挟まれていた話は、これだったのか。 解説によると、「三月は深き紅の淵を」がメフィスト96年4月号〜97年5月号まで、 この「麦の海に沈む果実」がメフィスト98年10月号〜99年9月号まで連載、 ということらしいので、まさに「三月は深き紅の淵を」は、 本作の予告編だったとも言えますね。 逆にこちらがもう一つの「三月は深き紅の淵を」と見ることもできるし。 もしどちらか片方しか読んでない人がいたら、是非もう一方を読んでみることをお薦めします。

最後のあまりの予想できなさにちょっと戸惑いもありましたが、 日本でありながら異世界のような雰囲気を十分に味わうことができました。

(2004.01.24)


神はダイスを遊ばない/森巣博 (新潮文庫)

★★★★ 

フィクション、ノンフィクション、哲学書、エッセイ、小説…。 世界中のカシノを相手に20年以上も賭博を打ち続ける「常打ち賭人」の森巣博が送る、 ジャンルを超越したギャンブル本。

カシノで行われるギャンブルには胴元であるハウスの取り分である「控除率」 (カシノのギャンブルでは大体2%程度らしい)が存在しており、 これがある限り賭人は普通に賭けているだけでは、いつかは負けてしまう。 これは純粋に確率的・数学的な真理。

「常打ち賭人」とは、この確率2%の不利を受け入れながら、 それでも何とかトータルで勝つべく打ち続ける賭人たち。 そのためには負けることを前提とした打ち方が必要。

この本で紹介しているのはギャンブル必勝法ではないし、 科学で解明できない賭博の「不思議」が何度も出てきます。 しかし業の深い博奕打ち達の、傍から見るとちょっと滑稽にも見える様々な生態。 そんなのを見ているだけでも面白い、 極上のエンターテイメントになってます。

(2004.01.12)


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