★★★
「奏雨」「狙撃」「落下」「雷撃」「代替」「春雷」「縁起」の7つの短編を収録。
2文字のタイトルだけだと内容思い出せなくなりそうなので、簡単なメモ。
ジャンルもバラバラですが、どれも「舞城王太郎み」があります。 関西弁による会話、突然発現する不条理や不可思議、すべてが決着するわけではないが、 何となくの落としどころで納得する登場人物たち、等々。
(2024.07.23)
★★★★☆
高校2年生の夏休み、幼馴染の一之瀬ユウナが死んだ。喪失感に襲われた日々を送る大地だったが、 大晦日、鎮魂のつもりでユウナの好きだった線香花火に火をつけた。 すると、宙に浮かんだユウナが現れた。彼女の姿は、大地にしか見えないらしい。 しかも線香花火が消えてしばらくするとユウナも消えてしまう。 もう製造元がつぶれてしまった貴重な線香花火のストックを駄菓子屋で確保した大地は、 ユウナに様々な場所を見せるために奔走するのだが……。
「夏と花火と私の死体」でデビューした乙一にとって、まさに自己本歌取りというか、原点的作品ですね。 ユウナがジャンプを始めとする少年漫画好きで、将来も漫画に関わる職業に就きたい、という夢を持っていたあたりも好感が持てます。 2時間映画にするにはちょうどいいくらいの題材なんじゃないかなあ。
(2024.07.23)
★★★
熱狂的なスワローズファンの父に「つばめ」と名付けられ、 その父とともに警視庁捜査一課の刑事を務める神宮司父娘(「親子鷹」ならぬ「親娘燕」らしい)。 なぜか遭遇するのは熱狂的な野球ファンによる変な事件ばかり。
実は野球ファン(しかも広島カープの熱狂的ファン)らしい東川篤哉先生の新シリーズ。 カープが25年ぶりにリーグ優勝した2016年から始まり、1年に1話、その年のペナントレースの話題や順位の話も盛り込んで、 最後は全身赤く染めたカープ女子が安楽椅子探偵として謎を解決する、という連作短編です。 実際にあった試合展開がアリバイの証拠(あるいはアリバイトリック)になっているあたりが面白いですね。 2021年以降も続いているようです。
(2024.07.09)
★★★
幼い頃から外国に憧れてきた(が、ケチ堅実な教師である両親の元、ほとんど外国に行かせてもらえなかった)遥。
仕事をしながら色んな国へ行ける!ということで、念願の海外旅行の添乗員になった。
しかし現実は色々と厳しく……。
お仕事モノ連作短編集。新人が向かうにはあまりにも厳しい環境だったり、ワガママなお客さんだったり、 色々大変ですね。この手の話は、ため込んだストレスを、ラストでいかにカタルシスに変えられるか、 なのですが、全体的には若干ストレス>カタルシス、だったかなあ。 ラストの話でコロナ禍に突入してしまい、添乗員の仕事そのものがなくなってしまうのが切ない。
(2024.07.09)
★★★★
直木賞受賞作。有岡城を舞台に、黒田官兵衛が安楽椅子探偵を!?
織田信長に叛旗を翻し有岡城に立て籠もった荒木村重のもとに、黒田官兵衛が降伏を薦めにやってきた。 村重は官兵衛を返すでもなく殺すでもなく、地下牢へと幽閉する。 そして官兵衛に、有岡城内で起こる不思議な事件の謎を解くように求めるのであった。
あまり日本史詳しくないのですが、結構忠実になぞっているんですかね。 時代小説の中に安楽椅子ミステリを落とし込んで、ちゃんと本格ミステリになっているところはさすがです。
(2024.07.09)
★★★★☆
弁護士・白石健介の遺体が発見され、捜査線上に浮かんだ倉木達郎は、愛知の金融業者殺害事件と繋がりのある人物だった。 その愛知の事件では、逮捕された容疑者が獄中で自殺し、真相はわからないまま時効となっていた。 そんな時、突然倉木が二つの事件の真犯人であると自白。 しかし容疑者の息子と被害者の娘は、倉木の言動に違和感を覚える。
被害者の娘と容疑者の息子、という似ているようで対極的な立場の二人を「白鳥とコウモリ」にたとえています。 一つの嘘がまた別の嘘を呼んで……という負の連鎖と、事件の構図がひっくり返っていく様はさすがでした。
(2024.06.15)
★★★
新シリーズ?5歳の時に光を失ったお梅。揉み療治を生業とするお梅だが、 彼女には目が見えない分、色々と見えていた。 相棒の犬・十丸と、天竺鼠の「先生」と共に、身体でだけではない「凝り」の原因をほぐしていく。
あらすじを読んだ時には、「日常系」の連作短編かな、と思ったのですが、全体通して一つの話でした。 まだまだ謎が多いお梅の周辺。続編もリリースされるようで、楽しみです。
(2024.06.09)
★★★☆
古道具屋を営む太郎と散多。散多には物に触れるとその記憶が見えるという不思議な力があった。 しかし記憶が見える「物」の条件はよくわからない。ある日既に亡くなっている若き日の両親と思わしき記憶を見たことから、 二人はその条件を追及し始める。鍵は「タイル」と「転用」? 解体現場で目撃されるという少女の都市伝説との関係は?
何とも不思議な読み味の作品でした。セリフに「」を使わないのも特徴的。 途中から出てくる醍醐覇南子(ダイゴハナコ)もかなり印象的なキャラクターですね。
(2024.06.09)
★★★★
「小市民」シリーズ長編もいよいよ完結編。 高校生活の終わりが見えてきた12月、小鳩くんは交通事故に遭い、入院してしまう。 しかし必ず映っているはずのコンビニの監視カメラには、車は映っていなかった。 小鳩くんは入院しながら3年前の出来事を思い出す……。
中学3年生の時の、ひき逃げ事件を機に知り合った小鳩くんと小山内さん。 「小市民」互恵関係の始まりを描く「小市民エピソード0」と、 現在のひき逃げ事件を二重写しにして進めていく展開。 小鳩くんがなぜ今のような性格になったのか、その経緯も良くわかります。
最後はかなりハードな展開になって、小山内さんがどこまで計算していたのかわからないのですが、 狼の本性が垣間見える感じでした。
エピローグの振り返り加減からしても、長編としては終わりっぽいのですが、 「巴里マカロンの謎」のような、 国名シリーズならぬ都市名シリーズで短編集が発売される可能性はあるのかな、 と思っています。
(2024.05.23)
★★★
掟上今日子さんが逮捕された。しかも密室の中で強盗殺人で? 「冤罪製造機」の刑事・日怠井(ひだるい)と、 「冤罪体質」にして忘却探偵の「専門家」でもある隠館厄介(かくしだてやくすけ)の二人で、 牢獄の中で安楽椅子探偵ならぬ電気椅子探偵を気取る今日子さんの手足となって真相を究明する。
睡眠を脅しに使う今日子さんがえげつない。そして捕まっていても今日子さんは今日子さんだったのでした。
(2024.05.03)
★★★
湘南の架空都市・葉崎を舞台としたコージーミステリ、10年ぶりの新作。 しかし探偵役は葉村晶ではなく、警部補の二村貴美子。
色んな人の色んな思惑が交錯して次々と事件が連鎖していくところは「ドミノ」チック。 「今は誘拐犯を刺激するから逮捕するな」という謎指令が下っている中で、 一気に4人も逮捕してしまうとか、勝手に自白始めてしまうとか、ドタバタぶりが面白かったです。
都合よく「良く似た他人」が出てきたりしますが、ちゃんと理由付けされてました。
(2024.05.03)
★★★
料理屋「しの田」のひとり娘真阿は、胸の病で外出することを禁じられていた。 そんな中、幽霊絵師・火狂が店に居候することになる。彼には人には見えないものを見る力があるようだった。 やがて真阿も火狂の絵に呼応するかのように不思議な夢を見るようになり……。
時代としては明治になるんですかね。江戸の文化が残りつつも、 新たな時代に向けて動き出している時代。
歳は離れているものの、真阿と興四郎の関係が、お互いリスペクトがあっていい感じだなあ、と思いました。
(2024.04.24)
★★★
「コロナ○○録」シリーズ3部作、完結編。
田口先生がついに学長室に!(部屋だけ) 桜宮サーガ年表によれば、「チームバチスタの栄光」は2006年の出来事らしいので、 新型コロナの2020年には14年が過ぎているわけで、 それくらいの役職についていてもおかしくはないということですかね。
(2024.03.31)
★★★
「純喫茶『一服堂』の四季」に続く「一服○」シリーズ第2弾。 正直前作忘れているんですが、「続編は難しいだろうな」と感想で書いてありました。 しかし「二代目安楽椅子(ヨリ子)」という離れ業を使うことで、まさかの続編が誕生。
鎌倉にある、見た目普通の住居としか思えない居酒屋「一服亭」。 女将の二代目・安楽椅子(ヨリ子)は、初対面の人には気絶してしまうほどの人見知りという、 全く接客業に向かないタイプだった。しかし、料理を作りながら聞いている情報を元に、真相を言い当てる……。
東川篤哉先生お得意のユーモアミステリでありながら、猟奇殺人が絡む、というのは前作と同じ。 料理を出して間違った方向に推理を誘導した上で罵倒する、って初代でもありましっけ? ささやかな叙述トリックもありました。
(2024.03.25)
★★★
晴男は中年女性・優子に強姦殺人の現場を目撃され、彼女の家に連れて行かれる。 そこには男女10人ほどが「家族」として暮らす異様な家だった。 一方、区役所で働く北島は、変わり果てた初恋の女性・愛香と再会する。
晴男視点の章と、北島視点の章が交互にある構成ですが、そこに仕掛けが。 フィクションかと思ったら、ベースとなる実在の事件があったのですね。
(2024.02.18)
★★★★☆
電子書籍化不可能と言われる話題作。
大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去。浮気相手の子として生まれ、父親と会ったこともない藤阪燈真は、 ひょんなことから父の遺稿「世界で一番透きとおった物語」を探し求めることに……。
いやー、びっくりしました。仕掛けに気づいてからは「マジかよ……」の連続。 何言ってもネタバレになりそうなので多くは語れませんが、 こんな可能性があるんだな、と思いました。
(2024.01.28)
★★★☆
スランプに悩む音大生グループが、夏休みに小さな無人島を訪れる。 その島「笛島」は、音楽にまつわる神「オセサマ」がいて、音楽に関するご利益があるという。 しかしその島には、人間を襲う凶悪な虫たちが生息していた……。
「その可能性はすでに考えた」「探偵が早すぎる」などの超絶探偵を生み出してきた井上真偽の、新作。 これまでの作風と違って、パニックホラーの様相。しかし中盤、「探偵役」と「悪役」が登場し、 そこからは「伝承の謎」を論理的に解決していくあたり、本格のテイストはちゃんと盛り込まれています。
(2024.01.21)
★★★
小説家でレズビアンの織部妙は、美人と評判の新人作家橋本さなぎの処女作に嫉妬していた。 しかし本人に会ってみると違和感を覚える。彼女が惹かれたのは、さなぎの「秘書」をしているという初芝祐のほうだった……。
3人の女性による心理的な駆け引きの物語。途中で「ゴーストライター?」という推測は誰でも覚えると思いますが、 真相はその斜め上を行ってました。
(2024.01.21)
★★★
舞城王太郎先生の短編集。タイトルからすると、「されど私の可愛い檸檬」 「私はあなたの瞳の林檎」に続くフルーツシリーズなんでしょうか。
記憶にないのに突然妊娠した妻の秘密とは……?表題作「畏れ入谷の彼女の柘榴」。
40年ほど前に行方不明になった子を探すと人語を離す猿といたずら好きの蟹が現れた?「裏山の凄い猿」。
他人の心残りを昇華する役目を持つ不思議な家に生まれた三きょうだいの話「うちの玄関に座るため息」。
の3編を収録。
どれもちょっと不思議な現象と、会話劇で成り立っている物語。 登場人物が何か欠落していて、それを会話の中で自覚していく、という構成が共通しているようです。
(2024.01.04)