推理小説の部屋

ひとこと書評


カラット探偵事務所の事件簿3/乾くるみ (PHP文芸文庫)

★★★☆ 

「カラット探偵事務所の事件簿」シリーズの第3弾。1が2011年、2が2012年で、そこから8年空いての文庫化。 単に文庫化が遅れているだけなのかと思っていたら、本当に「文蔵」掲載されたのが2019年からなんですね。 シリーズ物が途中で中断することはよくありますけど、これだけ中断していて、再開したらあっさり文庫化できるほど続くというのもまた珍しいような。

予想通り、FILE 13~FILE 19で、FILE 19は書き下ろしでした。例のよって助手・井上の仕掛けを忘れていたのですが、 さすがに読み進めていくうちに気づきました(思い出しました、の方が正しいか)。

(2020.12.09)


カーテンコール!/加納朋子 (新潮文庫)

★★★☆ 

閉校が決まった私立萌木女学園。単位不足で卒業できなかった落ちこぼれ生徒たちを何とか卒業させるべく、 半年間の特別補講合宿が始まった。スマホもネットも外出や持ち込みの自由もプライバシーもない生活の中、 コミュ障、寝坊魔、腐女子、摂食障害といった問題を抱えた生徒児たちは……?

心や体に何らかの問題を抱えた生徒たちを、理事長のプライバシー無視のゼロ距離コミュニケーションによって解決していく様が心地よいです。 そんな理事長自身にも大きなトラウマとなる出来事が隠されていたことが最終章で明かされます。

(2020.11.15)


七月に流れる花/八月は冷たい城/恩田陸 (講談社文庫)

★★★  

呼ばれた子供は必ず「夏のお城」に行かなくてはならない……。不思議なしきたりがある町で、 引っ越してきたばかりの少女・ミチルは「みどりおとこ」に導かれ、「夏のお城」へと向かう。

タイトルから「三月」シリーズかと一瞬思いましたが、無関係でした。 元々「ミステリーランド」向けに書き下ろされたということで、ジュブナイルっぽくもありますが、 一言で雰囲気を伝えるならば「不穏」。「七月~」の方はしきたりのことを何も知らない少女目線で描かれるため、 何が起こっているのか全くわからない不穏な空気を一緒に共有できます。 そしてネタが明かされた上での少年視点サイド「八月~」でさらに別の「不穏」を持ってくるあたり、さすがです。 一歩間違えるとホラーになりそうな感じですが、ちゃんとミステリーで踏みとどまってますね。

(2020.11.08)


狩人の悪夢/有栖川有栖 (角川文庫)

★★★  

火村と有栖シリーズ長編。人気ホラー作家・白布施に誘われて「夢守荘」に泊まることになった有栖。 しかし翌日、かつて白布施のアシスタントが住んでいた家で、女性の遺体が発見される。 その女性の遺体からは、右手首が切り取られていた……。

状況がちぐはぐ過ぎることから不可解な状況が発生しているが、その「ちぐはぐな状況」をヒントに解きほぐしていく火村、という構図。 ある意味「スペイン岬の謎」の有栖川有栖バージョンなのかも知れません。

(2020.11.04)


インド倶楽部の謎/有栖川有栖 (講談社文庫)

★★★  

火村と有栖の国名シリーズ長編。運命のすべてが記されているという「アガスティアの葉」で予言された死の日付通りに、 リーディングに参加した「インド倶楽部」のメンバーが殺された。 予言のトリックは?そこに隠された動機とは?

国名シリーズも第9弾で、ついに本家に並びました(クイーンの国名シリーズは「ニッポン樫鳥の謎」を含めると10作ありますが、あれは原題「The Door Between」なので本来国名シリーズではないです)。 既に10作目「カナダ金貨の謎」もリリースされているので、本家越えは確定ですね。

一見神秘に見える状況に、火村がちゃんとロジックで立ち向かうところがいいですね。

(2020.10.25)


夜行/森見登美彦 (小学館文庫)

★★★  

十年前、同じ英会話スクールに通う六人の仲間で鞍馬の火祭を見物に出かけた夜、長谷川さんは姿を消した。 十年ぶりに集まった五人が語った出来事は、岸田という銅板画家の描いた「夜行」という連作にまつわる話だった……。

ファンタジー×青春×……と考えたると、ホラー、というほどでもなく怪談、というのが一番ぴったり来ますかね。 「夜行」と対になると言われていながらその存在が謎のままの「曙光」という連作の存在が、 物語の終盤になってまさにネガとポジが入れ替わるように顕れる構成が見事でした。

(2020.10.02)


怪盗不思議紳士/我孫子武丸 (角川文庫)

★★★☆ 

金持ちを予告通り狙うが人は殺さない義賊・怪盗不思議紳士。そんな彼を追う名探偵・九条響太郎。 だが、戦後再び現れた不思議紳士は、華族を惨殺する冷酷な強盗成り果てていた。 九条響太郎の助手を務めることになった瑞樹だったが、 響太郎は乗った車が爆発し死んでしまう。 残された瑞樹は、不思議紳士に対する復讐を誓うのだが……。

細かい章立ての構成が珍しいな、と思っていたのですが、元が舞台の脚本なんですね。 キャラクターが魅力的ですね。最後いいところを全部かっさらって行った感があります。 そして続編もありそうですね。

(2020.09.17)


ホワイトラビット/伊坂幸太郎 (新潮文庫)

★★★☆ 

仙台を舞台に、犯人が人質を取って立てこもった「白兎事件」を様々な視点から描く。

これまでの伊坂作品にも出てきたポリシーを持つ泥棒・黒澤が一応主人公の一人、なんでしょうか。 複数の視点を切り替えることで、真相を煙に巻く叙述トリックを巧みに散りばめています。 また映像化しづらい作品を……。

最初に兎田と猪田、って出てきたので、十二支勢揃いか?と思ったら、そんなことはありませんでした。 むしろ稲葉の白兎でしたね。

(2020.09.03)


遠い唇/北村薫 (角川文庫)

★★★☆ 

「謎解き」に焦点を当てた短編集。

暗号やら、ダイイング・メッセージやら、といった謎解きに焦点を当てた短編が集められています。 乱歩の「二銭銅貨」の補遺ともいえるパスティーシュの「続・二銭銅貨」や、 「冬のオペラ」の名探偵・巫弓彦と姫宮あゆみが18年ぶりに登場する「ビスケット」を収録。 本来名探偵しか知りえなかった前提知識を、インターネットを使うことで誰でも手に入れられる時代になった、 というのはなかなか興味深い考察ですね。時代と共に名探偵の在り方も変わるのかも知れません。

(2020.08.26)


AX/伊坂幸太郎 (角川文庫)

★★★★ 

「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く、殺し屋小説第3弾。 凄腕の殺し屋でありながら、文具メーカーの営業として働き、恐妻家で家族を愛するという表の顔も持つ「兜」。

これまでのシリーズでは、視点が色々と行ったり来たりする(それを最初のシンボルマークで示す)、 というのが定番でしたが、今作では最終章を除いて「兜」の視点のみで進んで行きます。 殺し屋を辞めたい、しかし家族に危害が及ぶことは避けたい。そんな葛藤が煮詰まって行って、 最終章に結実するところはさすがでした。

(2020.08.22)


人類最強の初恋/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

人類最強の請負人・哀川潤を語り手とした 「人類最強の初恋」「人類最強の失恋」の2編の中編を収録

地球上に好敵手がいなくなってしまった「人類最強」の相手は、ついに宇宙人に。 「シースルー」「ストーンズ」といった宇宙人?と対決する時も常に楽しそうな哀川さん。 しかし地の文がすべて哀川さんの一人称なので、読みにくいですね。

タイトルから、もう少し人類最強の乙女チックなところが見られたりするのかな、 と想像していたんですが、やはり人類最強は人類最強でした。

(2020.08.12)


ダマシ×ダマシ/森博嗣 (講談社文庫)

★★★☆ 

Xシリーズ第6弾。

小川の探偵事務所に来た依頼は結婚詐欺の犯人捜し。しかしその犯人と思しき人物が殺されてしまい、事件は混沌へ……。

椙田(保呂草)も高跳びしてしまったし、これでXシリーズは完結なんでしょうか? 小川含め、椙田探偵事務所の面々にも転機が訪れた作品。

(2020.08.03)


巴里マカロンの謎/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★☆ 

帯に「11年ぶり、シリーズ最新刊!」とあるので、「米澤穂信に国名シリーズなんてあったっけ?」 と思ったら、「小市民」シリーズでした。

「巴里マカロンの謎」「紐育チーズケーキの謎」「伯林あげぱんの謎」「花府シュークリームの謎」の4編を収録。話が繋がっている連作短編集。

久しぶりに読むと、小山内さんの性格、結構ドギツイですね。静かに燃やす憎悪というか。 小鳩くんが小山内さんの扱い方に慣れていっているのが面白いですね。

(2020.07.26)


掟上今日子の退職願/西尾維新 (講談社文庫)

★★★☆ 

最速の探偵・忘却探偵・掟上今日子シリーズの第5弾。またバディが変わって、 今回は話ごとに異なる女性警部がバディ役に。

同じ警官でも、憧れるもの、苦々しく思うもの、など忘却探偵に対するスタンスは人ぞれぞれなのが面白いですね。

しかし何で「私には最初からわかっていました」って言っちゃうかなあ、というあたりのメンタルは謎ですね。

(2020.07.23)


悪魔を憐れむ/西澤保彦 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

タック・タカチシリーズの短編集最新作。大学を卒業した面々のその後がわかる貴重な作品です。

全てタックの1人称。1作目がウサコと、2作目はタックのみ、3作目はタカチと、4作目はボアン先輩と、 と全員集合。ウサコが電撃結婚したり、タックとタカチは遠距離恋愛を育んでいたり、 ボアン先輩がついに卒業して女子高の先生になったりする経緯が描かれます

中ではやはり表題作「悪魔を憐れむ」が異色。金田一少年で言うと「地獄の傀儡師」レベルの凶悪なライバルになりそうなキャラですが、多分この1編だけなんでしょうね。 自らは犯罪を犯していないところがタチが悪い……。

(2020.07.11)


掟上今日子の遺言書/西尾維新 (講談社文庫)

★★★☆ 

忘却探偵シリーズ初の長編(だよね?)。第1シリーズに出てきた、事件に巻き込まれた挙句犯人扱いされてしまうという「冤罪体質」の隠館厄介が再び語り部として登場。 いきなり女子校生の飛び降り自殺に巻き込まれて入院しているところからスタートする、 という相変わらずの不運ぶり。

ドラマの岡田将生の印象が強いので、厄介が大柄って書かれてもいまいちピンと来ないんですよね。 今日子さんは新垣結衣で何の問題もないんですけど。

今日子さん、記憶が残ってない割には厄介をかなり気に入っている感じですよね。 元々好みのタイプってことなんでしょうか。 朴念仁の厄介はその好意に全く気づいていないっぽいですが。

ラストで示唆された「罪悪館殺人事件」はこの後のシリーズで書かれるんでしょうか?

(2020.01.26)


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