推理小説の部屋

ひとこと書評


夢魔の牢獄/西澤保彦 (講談社文庫)

★★★  

知らぬは悠成ばかりなり――

教師の田附悠成は、しばしば夢を見る。しかしある時、夢の中で見たのと同じ文箱が物置から出てきたのを機に、 あれは単なる夢ではなく誰かの過去を追体験しているのではないか?と気づく。 やがて22年前に恩師の義理の息子が殺害された事件の真相の手掛かりを夢見ることになり……。

西澤さんお得意SF新本格の一種。タイムリープの一種ですが、いつの誰の夢を見るかは制御できないし、 憑依中も単に見るだけで過去の行動に干渉できないので、現実世界には特にSF的な影響は与えないですね (悠成が本来なら知り得ない情報を持っていること以外は)。

内容は、西澤さんのもうひとつの軸でもある官能風味がふんだんに盛り込まれた内容。 もう友人たちの関係の乱れていること乱れていること。 それこそ知らないの悠成だけだったんじゃないの?って感じ。 そして様々な伏線が回収されて明かされる驚愕の真相。 うーん、謎が解けるカタルシスはありますが、後味は……って感じですね。

(2023.05.26)


ドミノin上海/恩田陸 (角川文庫)

★★★★☆

すべての道はパンダに通ず――

「ドミノ」の続編。19年前か……。 前作と共通する登場人物もいるようですが、すっかり忘れています。が、何の問題もありません。 今回は、人間だけでなく、パンダ、イグアナ(の霊)、犬、まで入り乱れて、 なぜか皆「青龍飯店」へと集まっていく、という構成。 ラストの諸々が一気に解決していくところはスッキリしますね。

(2023.05.13)


楽譜と旅する男/芦辺拓 (光文社文庫)

★★★  

「奇譚を売る店」「おじさんのトランク」と並ぶ「幻想奇譚シリーズ」の第2弾。 失われた楽譜を求める人に、どこからか探し出して届ける謎の男が、 世界のあちこちに神出鬼没に現れ、様々な謎を解く手がかりを与えていく……。

楽譜に絡めた色んな謎が散りばめられています。楽譜に書かれた「̂」はどこの言語なのか? 螺旋状に上がっていく音階はなぜ最後同じ音の連続で終わるのか? 戦地で聴いた村人の音楽は何だったのか?人の手で弾けないほどに音符で塗りつぶされた楽譜に秘められた謎とは? 西太后のためのオペラとは?パリの劇場で暗号で待ち合わせをしたはずの二人はなぜ逢えなかったのか?

ラストで連作短編ならではの仕掛けもあったり、楽しめました。

(2023.04.18)


掟上今日子の旅行記/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

掟上今日子シリーズ第8弾。薄っ!って感じでしたが、今回は1編の中編のみを収録。

旅行会社で冤罪の退職金代わりにフランスにやってきた厄介だったが、なぜか今日子さんを見かけた。 1日寝ると記憶がリセットされる今日子さんがなぜ海外に? そして目を離したすきに「探偵・掟上今日子」ではなく「怪盗・掟上今日子」が誕生!?

自分が「怪盗」だと思い込むと、性格まで普段と変わる今日子さんが面白かったです。

(2023.04.11)


魔法使いと最後の事件/東川篤哉 (文春文庫)

★★★  

魔法使いシリーズ完結編。前作の最後で行方不明となってしまったマリィだが……。

なんやかんやで魔法のかかった婚姻届を提出してしまい、夫婦になってしまった聡介とマリィ。 お幸せに。

(2023.03.19)


さらば愛しき魔法使い/東川篤哉 (文春文庫)

★★★  

八王子を舞台にした魔法使いシリーズ第3弾。いわゆる倒叙もので、マリィの魔法で犯人は早々に判明するものの、 それでは逮捕できないので何とか証拠or自白をさせようとヘタレ刑事の聡介が奮闘する、というフォーマット。

久しぶりにこのシリーズ読みましたが、そういえば登場人物が(犯人含めて)全員ポンコツでした。 熟女好きでドMな聡介、その上司で独身、「出会い系捜査」で婿探しに余念のない椿姫。 マリィがなぜ聡介に惹かれているのかがわからないのですが、まあそうしないと話が進まないからですかね。

次でこのシリーズ完結のようです。

(2023.03.13)


ハートフル・ラブ/乾くるみ (文春文庫)

★★★  

イニシエーション・ラブセカンド・ラブに続く、「ラブ」シリーズ第3弾。 今度は短編集。

「夫の余命」は何かで読んだことあるなあ、と思ったら、アンソロジー神様の罠収録作ですね。

「xx・ラブ」シリーズは、女性不信になるようなヒドい女性が出てくるのが常ですが、 今回は出てこないなあ……と思ったら、書き下ろしの「数学科の女」がそんな作品でした。

普通に「HEARTFUL LOVE」だと思っていたのですが、帯を外したら「HURTFUL LOVES」でした……。

(2023.02.19)


沈黙の目撃者/西澤保彦 (徳間文庫)

★★★  

下戸だったはずの先輩刑事の殺害現場に残されていたビアマグ。 第一発見者が聞いた、「死んだはずの娘」の悲鳴は何だったのか?

特定の飲み物を入れると、死者の意識が戻るという「不思議なマグカップ」を巡る連作短編。 後半の話になると、さらにその飲み物を他者が飲むことにより死者の意識が「憑依」できることが判明し、 さらに複雑になっていきます。一定のルールの下でロジカルに推理が行われる「SF新本格」の流れを汲むものですが、 官能表現も多いので、読者を選ぶかも。

(2023.02.03)


逢魔が刻 腕貫探偵リブート/西澤保彦 (実業之日本社文庫)

★★★  

腕貫探偵シリーズ第7弾。ついに腕貫さん、4作品中1作品にしか登場しなくなりました。 残り3作品中2作品もほぼユリエが探偵役だし、もう1作は櫃洗が舞台だというだけだし。

(2023.01.23)


帰ってきた腕貫探偵/西澤保彦 (実業之日本社文庫)

★★★  

腕貫探偵シリーズ第6弾。どんどん腕貫さんの影が薄くなりますね……。 ある意味「探偵役なんてただの舞台装置」というメッセージなのか。 「指輪もの騙り」に至っては腕貫さん登場しないし。 一番腕貫さんの存在価値が強いのが、幽霊相手の「追憶」っていうのも面白いですね。

(2023.01.22)


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