推理小説の部屋

ひとこと書評


山手線探偵 まわる各駅停車と消えたチワワの謎/七尾与史 (ポプラ文庫)

★★★  

霧村雨は、探偵事務所の家賃が払えなくなり、仕方なく山手線内を「事務所」として、 依頼人を待ち続ける「山手線探偵」となった。広報担当の小学5年生の助手・シホ、 自称セミフィクション小説家の三木幹夫と共に、さまざまな謎を解き明かす。

痴漢冤罪事件から始まり、連続殺人、ストーカー、 そして霧村が山手線にこだわり続けることになった事件へとつながっていく構成がうまいですね。 小さな解決の積み重ねで霧村の探偵としての実力を見せるのもうまいです。

(2012.07.01)


ふたりの距離の概算/米澤穂信 (角川文庫)

★★★☆ 

古典部シリーズ第5弾。2年生に進級し、新入部員を迎えることになった古典部の面々。 しかしすぐに馴染んだと思われた新入部員・大日向友子は、ある日謎の言葉を残し、 入部しないと告げ、去っていった。最後に会話をしていた自分のせいだと思い込む千丹田と、 大日向との間の「すれ違い」を解き明かすため、 マラソン大会を走り(歩き)ながら奉太郎は入部してからの日々を振り返り、ある結論を導いた…。

マラソン大会で後ろから出発して追いかけてくる伊原、千丹田、大日向との距離を考えながら、 回想を通じて聞くべきことと推理とを組み立てていく奉太郎。 実際に自分が見聞きしたことを元に推理しているので「安楽椅子探偵」とは違いますが、 マラソン推理ってのもなかなか斬新ですね。 そしてまた細かい会話の断片ににヒント・違和感・伏線が散りばめられていて、 最後にきちんと収束するところが見事ですね。

(2012.06.30)


アリアドネの弾丸(上)(下)/海堂尊 (宝島社文庫)

★★★☆ 

「田口&白鳥」シリーズ最新作の文庫版。 最新式の縦型MRI「コロンブスエッグ」の中で「銃殺」されていた遺体と、 傍で倒れていた高階院長。果たして院長による殺人事件なのか?

シリーズ中でも屈指のトリックが使われている限りなく本格に近いミステリ。 惜しむらくは先にドラマ版で観てしまったことですね…。 キャストの多少の入れ替えはありましたが、メイントリックは結構まんまだったんだなあ…。

しかしデジタルハウンドドッグ加納やら、 スカラムーシュ彦根やら、イメージインスペクターシオンやら、 これまでのキャストの能力を総動員する感じの戦い方は面白かったですね。 次の「ケルベロスの肖像」でシリーズは完結のようです。

(2012.06.27)


腕貫探偵、残業中/西澤保彦 (実業之日本社文庫)

★★★★ 

腕貫探偵の続編。 「葬儀屋」と陰であだ名される市役所勤務の謎の男。 そんな彼の定時後の姿は、実は美食家だった。 レストランに、料亭に、屋台に……今夜グルメな彼の元を訪れるのは?

前回が通常業務オンリーだったのに対して、今回は時間外オンリーという趣向。 腕貫男の意外なグルメっぷりが明かされます。 西澤さんのミステリでは、美味しい肴と酒を囲んでディスカッションしながら推理するという、 安楽椅子探偵ならぬ居酒屋探偵な趣向の小説が数多くありますが、 今回もそんな感じで、出てくる料理の美味しそうな描写と言ったら。

そして、超金持ちのお嬢様でありながら性格は男前な女子大生・ユリエに惚れられ、 「だーりん」と呼ばれながら、突き放すでも愛想よくするわけでも無く、 ホワイトデーのお返しに洗いゴマをプレゼントするような腕貫さんが、 何ともトボけてて魅力的ですね。

(2012.06.21)


堀アンナの事件簿 ABCDEFG殺人事件/鯨統一郎 (PHP文芸文庫)

★★★  

コメディミステリの新シリーズ。「カープ探偵事務所」に入ってきた堀アンナは、やる気はあるが、 どこか抜けている女の子。ある日、耳が急に聴こえなくなってしまう。 何とか読唇術でごまかしつつもやり過ごしてきたアンナだったが、 代わりに「物の声を聴く能力」を身につけていた…。

安楽椅子そのものが探偵という、名前通りの安楽椅子探偵もの。 殺害現場にいた石や木から直接証言を引き出せるので、推理も何もあったもんじゃないという気もしますが、 主要メンバーを大胆に退場させる展開には驚きました。

各章のタイトルが日本語と英語のダブルミーニングになってるところが面白いですね。 A=安楽椅子/Armchair、B=爆弾/Bomb、C=地下室/Cellar、 D=電気椅子/Death chair、E=英語/English、F=不感症/Frigidity、 G=銀河/Galaxy。 しかしこの縛りだと、将来QとかXとかで困りそうですが。

(2012.06.17)


古城駅の奥の奥/山口雅也 (講談社文庫)

★★★☆ 

山口雅也さんのジュブナイル向けミステリ。講談社ミステリーランド向けに書かれた「ステーションの奥の奥」を、 講談社ノベルス版にするときに加筆・改題したものだそうです。

「かつて子供だったあなたと少年少女のための」というコンセプト通り、 子供が読んでも面白いだろうな、と思いますが、大人が読んでもちゃんと楽しめるようになってます。

密室トリックについては「それは反則だろう」と思わないでもないですが、 そういうものだと思って読み返すとちゃんと伏線も張られていて、 全ての謎にちゃんと答が用意されているあたりは見事ですね。

(2012.06.09)


さよならのためだけに/我孫子武丸 (徳間文庫)

★★★☆ 

遺伝子情報を元にベストマッチする相手を探すPM社(パービリオン・マッチメーカー社=十億人から一人を見つけ出します)。 少子化問題解決のために先進諸国でPM社の国策事業化が進む近未来。 過去の離婚率0%の実績を誇る「特A」判定が出た夫婦・水元と月(ルナ)だったが、ハネムーンから戻ってきた夜、 どうにも合わないということで離婚を決断する。 しかしPMの「特A」夫婦に離婚はあり得ない。巨大企業、警察、親戚、友人、全てが敵に回る中、 「別れるために」二人は共闘を始める。

「本格恋愛ミステリ」とありますが、2人の戦いはコメディチックでありながらも、 ホラーやサスペンスを感じさせるところもあり、またPM社の真相を聞かされるとなるほど、 と納得してしまうミステリ的要素もあって、なかなか楽しめました。 「別れるために」共闘していくうちに、お互いのことが色々見えてくる、 という何とも皮肉な展開が面白いですね。 ラストもかなり爽快感があって楽しめました。

(2012.06.03)


スリープ/乾くるみ (ハルキ文庫)

★★★★ 

天才中学生美少女の亜里沙は、テレビ番組のレポーターとしてで訪れた「未来科学研究所」で、 冷凍睡眠装置の研究の取材を行っていた。そこで立ち入り禁止のフロアに迷い込んだ亜里沙は、 見てはいけないものを見てしまった。 目が覚めた亜里沙は、かつての同級生にしてノーベル賞学者となっていた戸松鋭二博士と出会う。 そこは30年後の世界だった……。、

タイムトリップSFの変種と捉えてもいいでしょうね。 「夏への扉」のオマージュでもあります。 2036年の世界観もなかなか面白いです。

終盤の展開に???となりますが、最後にちゃんと一つに収束するあたり、 サプライズ・ミステリの旗手らしいさすがの仕掛けですね。面白かったです。

(2012.05.31)


ブレイズメス1990/海堂尊 (講談社文庫)

★★★☆ 

「ブラックペアン1988」に続く、 「チーム・バチスタ Episode 0」的位置づけの作品。 世界でただ一人しかできない「ダイレクト・アナストモーシス」という心臓外科の技術を持つモナコの天才外科医・天城雪彦。 桜宮に新たな心臓手術専門病院を作るために天城を日本に呼び寄せた佐伯教授の意図は何なのか?

高階、黒崎、垣谷、猫田、花房、といった後のシリーズで重要なキーとなる配役の若き姿が見られるというのもこのシリーズンの楽しみなんですが、 しかし実質の語り手である世良や、今回の主役の天城は、 後のシリーズではどんな役割を与えられているんでしょうか… (普通に花房と結婚して専業主夫になってたらそれはそれで笑うけど)。

(追記)そうか、世良先生は極北クレイマーに出てましたね。 天城先生は、あの腕なら有名になってなきゃおかしいと思うんですが、 「スリジエ・ハートセンター」の夢破れてどこかへ行ってしまったとか?

(2012.05.26)


零崎軋識の人間ノック/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

人間シリーズ第2弾。零崎一族の中でも「大将」と呼ばれる、 鉛の釘バットを操る「愚神礼賛(シームレスバイアス)」こと零崎軋識が主役。

しかし終わってみると、零崎軋識はあくまで狂言回し的な役割で、 哀川潤だったり、匂宮出夢だったり、玖渚だったり、石凪だったり、 後に出てくるキャラクターの紹介みたいな感じでしたね。

(2012.05.20)


セカンド・ラブ/乾くるみ (文春文庫)

★★★  

「イニシエーション・ラブ」に続く「ラブ」シリーズ(?)第2弾。 工場に務め無口で友人も趣味も少ない里谷正明は、 先輩に誘われたスキーで内田春香と出会った。 大学院に通う金持ちのお嬢様である春香に急速に惹かれていく正明。 しかし春香とそっくりな新宿のスナックに勤めるホステス・ミナが現れ…。

例によって仕掛けがあります(イニシエーション・ラブ読んでる人なら、 当然これくらいは予想できるだろうから、ネタバレじゃないよね??)。 が、しかし…今回のは正直言って、理由がわからないので、 何か後味の悪さだけが残る感じでしたねー。

各章のタイトルに仕掛けられた遊びは面白かったです。 無理矢理な当てはめもありますが、こんな感じかな?
偶数章タイトル宇多田ヒカルのシングル奇数章タイトル中森明菜のシングル
秘密をその胸にCan You Keep A Secret?緩やかな動きスローモーション
時は自動的にAutomatic誰でも無い私少女A
一人にしないMovin' on without you二番目の愛をセカンド・ラブ
はるかな初恋First Love二分の一の女1/2の神話
あなたに夢中Addicted to you黄昏が訪れてトワイライト −夕暮れ便り−
待つのが辛いWait & See 〜リスク〜うらはらな心禁区
貴方のためにFor you北へと向かう翼北ウイング

(2012.05.18)


ブラザー・サン シスター・ムーン/恩田陸 (河出文庫)

★★★  

高校時代に何となく仲間だった男女3人組。 本と音楽と映画と、それぞれが向き合った青春とその結果は?

恩田陸さんの自伝的小説、らしいです。小説家になった第1部の綾音はもちろんわかりますが、 音楽に明け暮れた第2部の衛もかなり恩田さんの大学時代が投影されているっぽいですね。

(2012.05.17)


おそろし 三島屋変調百物語事始/宮部みゆき (角川文庫)

★★★☆ 

過去の出来事で心に傷を負った人々の話を集める「変調百物語」。 その物語の奥にある怪異を含めて話した人の心を救う「癒しの怪談」。

基本一話一話別の話が核となっているものの、互いに絡み合っていて、 次が気になるのでどんどん読み進んでしまいます。

しかし一巻で5話だと、100の物語を集めるには20巻必要なんですが、 どこまで続くんでしょうか。

(2012.05.12)


カンナ 天草の神兵/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

カンナシリーズ第2弾。今度の舞台は熊本は天草。天草四郎出生の謎が解き明かされる?

「諒司を見かけた」と言えば全国どこでも行けるので、便利な設定ではありますね。

著作リストを見て、カンナシリーズのタイトルの末尾が九字になっていることに気付いたものの、 解説で思いっきりネタバレされてて、がっくりみたいな。

(2012.04.28)


赤ちゃんはまだ夢の中/青井夏海 (創元推理文庫)

★★★  

助産師探偵シリーズ第3弾。「新しい恋人のもとへ行きたい」「居候が多すぎる」 「借金取りがやって来る」「上の子に厳し過ぎる」といった、 それぞれ問題を抱えた家のトラブル解決のために奔走する助産師コンビ。 しかし謎を解決するのは、やっぱり伝説のカリスマ助産婦・明楽先生なのだった。

相変わらずおせっかい過ぎる陽奈に違和感を感じないではないですが…。

(2012.04.28)


追想五断章/米澤穂信 (集英社文庫)

★★★  

古書店に持ち込まれた依頼。父の遺した遺稿5編を探して欲しい。 探していくうちに、「アントワープの銃弾」という事件に行き当たる。 遺された断章に秘められたメッセージとは?

結末の1行だけが別に存在するリドルストーリー、という設定がうまいですね。 5つの断章の仕掛けも見事です。 ただ、「探偵役」のテンションが低いので、読んでるこっちまで引きずられ気味に…。

(2012.04.28)


訪問者/恩田陸 (祥伝社文庫)

★★★  

急死した映画監督峠昌彦の親友である井上は、彼の死の真相を探るため、 彼が幼い頃育った山中の洋館を訪ねた。 そこには昌彦を育て、3年前に不審死を遂げた実業家・朝霞千沙子の、 4人の兄弟たちが住んでいた。彼らの元には「訪問者に気をつけろ」 という警告状が。果たして昌彦の死、千沙子の死の真相は? そして訪問者とは誰なのか?

連載形式で進めていたからか、毎回の章の終わりのヒキが凄いですね。 あとがきを読む限り、どうも作者自身も着地点を探りながら書いていたようで、 先の読めないサスペンス感と、それでいて一応ちゃんと「不審死」にも理屈が付けられているあたりのバランス感覚がいいです。

(2012.04.22)


妃は船を沈める/有栖川有栖 (光文社文庫)

★★★  

臨床犯罪学者・火村シリーズ。「猿の左手」と「残酷な揺り籠」の2作の連作中編を収録。

「妃」と呼ばれ、若い男たちに囲まれ暮らしていた魅惑的な女性・妃沙子には、 常に不幸な事件がつきまとっていた。友人の男の車ごと海への転落死は、 彼女が所有する三つの願いをかなえてくれるという「猿の手」による呪いなのか? そして大きな地震の前後に彼女の家の離れで射殺されていた男はなぜ殺されなければならなかったのか?

「幕間」で出てきたアリスが見かけた女性って、やけに印象的に描かれてますけど、 今作品だけなんでしょうか。それとも今後のシリーズに再登場はあるんでしょうかね。

(2012.04.22)


聖女の救済/東野圭吾 (文春文庫)

★★★★ 

結婚して一年の夫婦の夫が、妻の帰省中に毒殺された。毒物の混入方法は不明。 草薙刑事が容疑者でもある未亡人に惹かれていることを察した内海薫は、 湯川教授に独自に依頼をする。湯川が導き出した答えは、 「理論的には可能だが、現実的には不可能な虚数解」だった…。

ガリレオシリーズ長編第2弾。 真相がわかると「理論的には可能だが、現実的には不可能な虚数解」 という湯川の言葉が納得できますね。 内海がiPodで聴いている曲が福山雅治だったり、といったところのくすぐりも効いてます。 草薙の恋心も、ちゃんと解決への伏線に繋がっているところに感心させられました。

(2012.04.14)


人柱はミイラと出会う/石持浅海 (新潮文庫)

★★★★ 

橋やマンションの建築の際に地下に設けられた個室に工事終了まで篭って土地の神への契約を果たす「人柱」職人が存在する日本。 その他にも、政治家の後ろで「見えない存在」としてサポートする黒衣が居り、 既婚の女性にはお歯黒を塗る習慣が残っており、 厄年には一年間仕事をしないようにする「厄年休暇」があり、 警察を助けて逃走犯を追う「警察鷹」を鷹匠が操り、 忘れたいことがあった時にはミョウガを食べ、 地方の知事は偶数月と奇数月で東京と地方を行き来する参勤交代が残っている、 そんなパラレルな日本で起こる様々な事件を、人柱職人の東郷直海が解決する。

パラレルな日本を舞台に、ルールを設定した上で、そのルールの上であくまでロジカルにミステリを解決する、 というスタイル。西澤保彦さんの「SF新本格」シリーズにも通じるものがありますね。 留学生であるリリーの目から、日本特異なルールが語られる、 というスタイルも面白いです。ラストのオチも効いてました。

(2012.04.12)


遥かなる時空の中で3 紅の月/近藤史恵 (GAMECITY文庫)

★★★  

「遥かなる時空の中で」ノベライズシリーズ。TVアニメ化もされたらしいです。 第3弾ともなると、かなりストーリーも複雑になっていて、 八葉が敵味方に別れていたりと、なかなか凝った感じになってます。 1→2→3の複雑度の増し方が面白いですね。

しかしラストが、どう見てもフラグ立て損なった感じで終わってるんですけど、 この後アニメやゲームではちゃんとハッピーエンドに繋がったんでしょうか?

(2012.04.11)


クレイジー・クレーマー/黒田研二 (実業之日本社文庫)

★★★  

大型スーパー〈デイリータウン〉のマネージャー袖山剛史を悩ませるのは、 クレーマー・岬圭祐と、万引き常習犯「マンビー」であった。 激化するクレーマーとの戦いは、ついに一線を越え、殺人事件が…。

例によって物語の構造自体に仕掛けが施されてるんだろうな、とは思って読み進めていくわけですが、 うーん、今回のはちょっと個人的にはいまいちだったかなあ。 用意周到に伏線が張り巡らされているとは思いましたけどね。

(2012.04.08)


金色の野辺に唄う/あさのあつこ (小学館文庫)

★★★  

没落した旧家・藤崎家の曾祖母・松恵が92歳の大往生を迎えようとしていた。 娘の奈緒子、孫の嫁・美代子、曾孫の東真、近所の花屋の店員・史明、 それぞれの視点から、松恵に関わる記憶が思い起こされる…。

それぞれの抱えている過去やら現在やらが結構重いのですが、 読後感はそれなりに爽やかなのは不思議ですね。 希望が見えるからでしょうか。

(2012.04.03)


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