推理小説の部屋

ひとこと書評


福音の少年/あさのあつこ (角川文庫)

★★★  

「バッテリー」のあさのあつこが描く、ふたりの少年を結ぶ、絆と闇の物語。

16歳の高校生・藍子と付き合っている優等生の明帆、そして藍子の幼馴染である陽。 これまで意図的に避けてきた二人だが、ついにぶつかってしまう。 そして藍子のアパートはガス爆発による火事で、藍子を含む9人が死亡した。 どこか不可解さを感じ、真相を探る二人の前に藍子の携帯が…。

最初に現在視点から事件の結果を見せておいて、 そこから過去回想に戻っていく構成は、登場人物たちの運命が見えているだけに、 切なくも緊迫感が高まっていく効果をあげていますね。

そしてあさのあつこさんお得意の「二人の少年」。 確かにバッテリーの二人の原型がここにもあるようです。 しかし売春や殺人とテーマはかなり重目。 ちょっと最後が消化不良かなあ。番外編でもいいので、後日談が読みたいです。

(2007.07.07)


あきらめのよい相談者/剣持鷹士 (創元推理文庫)

★★★  

若きイソ弁(※法律事務所に持ち込まれた仕事を回してもらい、サラリーを受け取る弁護士)である剣持鷹士。 ある時、依頼人からどうみても勝ち目のない相談を受ける。 この手の依頼人は経験上厄介であることを覚悟していた鷹士だが、 その依頼人は鷹士の説明にあっさりと引き下がった。 果たして依頼人の目的は何だったのか? 友人の「安楽椅子探偵」コーキこと女王光輝(めのうみつてる)に相談してみると、 コーキは驚くべき推理を…。

表題作の他、4作を収録。主人公と著者名が同一ですが、 どうも著者自身が本当に弁護士のようですね。 あまりなじみのない弁護士の日常と、会話全般にわたって使われている福岡弁とが相俟って、 独特の空気を作り出しています。 安楽椅子探偵物としてはなかなかよくできてます。 ただ、物語の設定の性質上しかたないんですけど、 持ち込まれる依頼の内容が内容だけに、主人公の弁護士と一緒にイライラさせられること請け合い。 解決した、といっても(本当かどうかわからない)真相がわかるだけで、特に誰かの疑いが晴れる、 とかいうこともないので、ちょっとカタルシス的にいまいちかな。 そういう意味では「詳し過ぎる陳述書」が一番読後感は良かったです。

(2007.06.26)


陽気なギャングが地球を回す/伊坂幸太郎 (祥伝社文庫)

★★★★ 

演説名人、天才スリ、人間嘘発見器、秒刻みの体内時計。 「特別な力」を持つ4人組が、スマートに銀行強盗をこなす。 しかし完璧だったはずの計画は、別の現金輸送車強奪事件とかち合って失敗する。 果たしてこれは偶然だったのか?

キャラが立ってて、ぐいぐい読ませて、面白かったです。伏線も丹念に張ってあって、 なるほど、あれがこう繋がるのか、という感じでした。 続編も色々あるようで、楽しみです。

ところで、久遠のキャラってどうも誰かと印象が被るんですよね…… と思っていて、思い当たりました。どうも私の中で、森博嗣先生のVシリーズの小鳥遊練無と印象が被っているようです。 子供っぽい言動、明るいキャラ、実は格闘技やってる、などなど。 だとすると、雪子は一人息子を持ってるから紅子さんで、 冷静沈着な成瀬は保呂草、ってところでしょうか。 うーん、響野がぴったり来るキャラはいないな…紫子さんか?

(2007.06.22)


チルドレン/伊坂幸太郎 (講談社文庫)

★★★☆ 

五つの物語が織り成す連作短編集。

陣内たち3人が銀行強盗に巻き込まれ、出逢う「バンク」。 家裁の調査官となった陣内が、不自然な父子の謎を解き明かす「チルドレン」。 失恋した陣内の周りの世界が止まった?「レトリーバー」。 そして少年は陣内の起こす奇跡を目撃する「チルドレンII」。 陣内の最大のトラウマを解消する瞬間「イン」の5作を収録。

時系列も語り手もバラバラですが、共通するのは何ともはた迷惑な「陣内」のいうキャラクター。 本当に周りにいたら迷惑なことこの上ないほど自己中心的なキャラクターですが、 何とも憎めなくて、結果オーライ、という。

鴨居や永瀬が12年後の世界でどうしているのかもちょっと知りたかった気もしますね。 まあ、この体裁ならばいくらでも続編書けそうですし、期待していましょう。

(2007.06.19)


超人計画/滝本竜彦 (角川文庫)

★★☆  

引きこもり作家・滝本竜彦の、3作目にして自分をぶちまけた?エッセイ。

連載されていたエッセイらしいのですが、ぶっちゃけ過ぎ。 ダメ人間の作り方、みたいな感じです。 脳内彼女・レイとの甘い生活を抜け出し、 リアル3次元彼女を作るべく「超人計画」を遂行しようとする作者。 そして引きこもりに至るまでの痛々しい過去。 エロゲーにはまり、若ハゲ、脱法ドラッグで留年・中退、etc.etc....。 どこまで真実かはわかりませんが、かなり真実が混じっているっぽい。

しかしこの単行本を出した後、結婚できたらしいので、それは良かったんではないでしょうか。 この後の作品がまだ出てないようなのが気になりますけど…。

(2007.06.17)


死亡推定時刻/朔立木 (光文社文庫)

★★★  

地元の有力者の一人娘が誘拐される事件が起こった。 警察の指示に従った結果、身代金の受け渡しは失敗し、少女は死体となって発見された。 警察は失態を取り繕うため、一人の青年を犯人に仕立て上げるのだが…。 現役の法律家による、冤罪ドキュメンタリー小説。

作者本人も書いていますが、フィクションというよりは、ドキュメンタリーに近い感じ。 もちろん、事件自体はフィクションなのですが、 さすがに本職、圧倒的なリアリティで、こういうこともあるんだろうな、 と思わせる説得力を持ってます。

ただ、あまりにもリアリティに偏り過ぎで、読んでのカタルシスに欠けるきらいはあります。 そういう意味でもフィクションというよりはドキュメンタリーとして読むべきなのかも…。

(2007.06.15)


麿の酩酊事件簿 月に酔/高田崇史 (講談社文庫)

★★★☆ 

麿の酩酊事件簿シリーズ第2弾。80条以上にもおよぶ勧修寺家に伝わる「家訓」のために、 お見合いをすることも叶わず、自力でお嫁さんを捜す文麿。 しかし知り合いになった美女達はなぜか、彼の知らない内に悩みを解決され、 彼の元を去っていくのであった。

シリーズ物なので、お約束の展開はまあいつも通り。 しかし今作では、ちょっとしたアクセントとして、執事・大原の孫娘・七海が、 勧修寺家に執事見習いとして入ってくるところで、いつもとはちょっと違う様子も。 過去のある事件のせいで男嫌いとなってしまった七海ですが、 泥酔の末に現れる「もう一人の文麿」にはまんざらでもない様子。 なかなか面白そうな展開になってきましたが、これ続きあるんですかね?

(2007.06.12)


マネー・ボール/マイケル・ルイス (ランダムハウス講談社)

★★★☆ 

「メジャー球団の中でもきわめて資金力の乏しいオークランド・アスレチックスが、なぜこんなに強いのか?」

これまでの「常識」を覆す新基準でチームを構成していくアスレチックス。 いわく、盗塁や守備力は関係ない。重要なのは打点や打率ではなく、出塁率。 他の球団が見向きもしない選手をドラフト上位で指名し、 安い年俸で大活躍させる。しかしそんなアスレチックスの快進撃を、 マスコミや他球団は「まぐれの勝利」と認めようとしないのであった…。

非常に興味深い話でした。「資金があるチームの方が強い」という常識を覆す(実際に覆している) チームが現れたのにも関わらず、それを認めようとしない他チームたち。 そのお陰でアスレチックスは相変わらず勝利を重ねることができる、という何とも皮肉な構図。

メジャーに興味がある人はもちろん、興味ない人でも面白く読める一冊ではないでしょうか。

(2007.06.10)


キャラねっと完全版 愛$探偵ノベル/清涼院流水 (角川文庫)

★★★☆ 

オンライン学園RPG「キャラねっと」を巡る、様々な事件。 池丸大王と池丸女王の双子姉弟は、それぞれ「キャラねっと」上で奇妙な事件へと巻き込まれる。 仲間と共に謎に挑む内に、彼らは「キャラねっと」の深層へと引きずり込まれていく…。

みすてりあるキャラねっとは読んだことあったんですが、 その後の続編が出ているのは何となく知っていたものの把握しきれなくてスルーしてました。 やっぱりスニーカー文庫って追いにくい…。そういう意味で、今回角川文庫から「完全版」が出てくれたのはありがたかったです。

中身は「みすてりあるキャラねっと」「めいきゃっぴキャラねっと」「であいまちょキャラねっと」 の3年に渡る3部作を余すことなく収録、さらに加筆・修正もされている、というまさに完全版です。 加筆されたと思わしき「断章」部分を読むと、ちょっと本編のネタバレになっちゃている部分もあるんですが、 これは原作読者向けのサービスだと考えると仕方のないところなのかな。

清涼院流水先生の作品の場合、話が進むにつれて、意表を突きたいがばかりに世界観そのものが破綻してしまうことが多いのですが (トップランシリーズとか)、 本作はそんな「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」に頼ることもなく、作品の世界観の中できっちりと着地させたのには感心しました。

主人公池丸大王・池丸女王を初めとして、もちろん神宮べるも、かなり魅力的に描かれていて、 ちゃんとラノベっぽいキャラ萌え要素を発揮するのにも成功しています。 ただ、表紙とかに実写モデル使ったのはどうなんだろうな…。イラストだけで通しても良かったのでは? いや、表紙がかなり恥ずかしいってのもあるんですが。

(2007.06.05)


みんな元気。/舞城王太郎 (新潮文庫)

★★☆  

中短編集「みんな元気。」より、中編「みんな元気。」と短編「Dead for Good」「矢を止める五羽の梔鳥」の3篇を収録。

「夜中に目が覚めると、隣の姉が眠りながら浮かんでいた」。 相変わらずの舞城節。一人称で時系列も事件もバンバン飛びまくり。 結局のところテーマは「家族」ということなんでしょうけど。

(2007.05.31)


アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎 (創元推理文庫)

★★★☆ 

大学に通うために単身アパートに引っ越してきた僕(椎名)。 彼が出会ったのは全身黒尽くめの悪魔めいた長身の青年。 彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。 たった一冊の広辞苑を奪うために、モデルガン片手に本屋の裏口に立つ僕。 果たして僕はどうなってしまうのか…。 第25回吉川英治文学新人賞受賞作。

現在の「椎名」パートと、二年前の「琴美」パートが交互に挟まれるカットバック構成。 当然2つのパートが無関係ということはなく、絶妙に関連しながら話が進んでいくのですが、 そこには大きな仕掛けが…。

椎名パートの犯罪のお気楽さ(現実感のなさ)、琴美パートの犯罪の不気味さ、 それらが対照的で、お互いのパートに対する効果を盛り上げています。

しかしこれ、映画化されたらしいのですが……映像化できるのか??

(2007.05.29)


彼女はたぶん魔法を使う/樋口有介 (創元推理文庫)

★★★  

私立探偵・柚木草平シリーズ第1弾。 元警察官でありながら、警察を辞め、雑誌ライターでありながら私立探偵を営む草平。 妻と娘とは別居中。元上司のキャリア女性警官とは愛人関係にありながら、 警察で手に負えない事件を回してもらっている。 行く先々で、なぜかことごとく美女に出会い、その度にモチベーションを上げる草平。

今回の依頼は、妹を轢き逃げされた姉から、真犯人を捜して欲しいという依頼。 単純な轢き逃げだったはずなのに、なぜか車輌は見つからず犯人も捕まらない。 姉は殺人事件なのではと疑っている。だが、捜査を進める内に意外な事実が浮かんできて…。

和製ハードボイルド。草平のセリフがもうクサくってクサくって、 どの顔下げてこんなセリフを恥ずかしげもなく吐けるのか、ってくらいですが、 慣れてくるとそこが楽しみになったりして。妻や娘に完全に手玉に取られているところも微笑ましい。 ハードボイルドらしく事件の方は後味ちょっと苦めで。

今度はどんな美女と出逢うのか、読み進むのが楽しみなシリーズですね。

(2007.05.27)


まひるの月を追いかけて/恩田陸 (文春文庫)

★★★  

失踪した異母兄・研吾を捜しに、彼の恋人・優佳利と共に古都・奈良を訪れることになった静。 しかし旅に仕掛けられた欺瞞が次々と明らかになり、 傍観者のつもりだった静は、否応無しに物語の主人公へと引きずり出される。 果たして研吾が思い続けた「あの人」とは一体誰なのか?

恩田さんの作品に度々登場する異母兄弟というシチュエーション。 それぞれ大人になり、一度は家庭を築きながらも、 それぞれの理由で壊してしまった4人の登場人物。 奈良を巡りながら、彼らの過去や想いが少しずつ明らかになっていく。

一番「鈍感」な静の一人称で語られるため、読者も一体何が進行しているのか、 わからないまま翻弄されていきます。 殺人事件が起こるわけでもないのに、展開はとてもドラマチック。 読み始めた時には全く予想だにしなかった結末へと着地しました。

(2007.05.24)


葉桜の季節に君を想うということ/歌野晶午 (文春文庫)

★★★★ 

自称「何でもやってやろう屋」の成瀬将虎は、悪質な霊感商法の「蓬莱倶楽部」を調査する依頼を受ける。 そんな折、自殺を図ろうとしている麻宮さくらと、運命の出逢いを果たすのだが…。

タイトルからは純愛物を想像しますが、どうもそんな感じでもなく、 探偵物なのかな、と思って読み進めていくと、章ごとに時系列も登場人物も入れ替わり。 面食らいながらさらに読み進めていくのですが、やがてそれらのピースが一つにハマり、驚愕の真相が…。

いや、良く出来てます。多くを語ろうとすると全てネタバレになりそうなので、 うかつなことは言えないのですが、なるほど、これは、読み返したくなるミステリですね。 これが「本格」か?と言われると正直疑問なところもありますが、 使われているトリックはまぎれもなく本格のそれですね。

(2007.05.16)


ほたる館物語(3)/あさのあつこ (ピュアフル文庫)

★★★  

第3巻。女将の初恋の人の母親?山ばあさんが登場。 戦争がもたらした過去の悲劇を知りたいと思う一子たち。 しかし「子供だから」という理由で、大人の壁に阻まれる…。

相変わらず反発しまくりの一子ですが、ゆうれい君こと柳井君もほたる館でバイトを始めたりして、なかなかいい感じに。 一子、柳井、雪美、大人に対する三者三様の反応が興味深いです。

(2007.05.15)


名探偵 木更津悠也/麻耶雄嵩 (光文社文庫)

★★★  

名探偵に木更津悠也、ワトソン役に香月実朝のコンビで送る、連作短編集。

売れない物書きであり、常に名探偵・木更津悠也の傍でワトソン役に徹する男。 しかしその実、誰よりも先に真相に達し、 名探偵をさりげなく解決へと誘導することもある。 今前の「ワトソン役」の概念を覆す、この2人の歪んだ関係がポイントですね。 解説によると「名探偵萌え」らしいですが。

4作とも「白幽霊」が絡んでいますが、直接の関係は無し。 しかも「白幽霊」自体の謎は残ったまま、ということで、 どうやら白幽霊の謎そのものに挑む長編もありそうな雰囲気です。

犯人に気付いたきっかけと過剰な装飾の意味、という点で、 「禁区」の動機は面白かったです。

(2007.05.12)


マグレと都市伝説 間暮警部の事件簿/鯨統一郎 (小学館文庫)

★★★  

「神田川」見立て殺人に続く、 間暮警部シリーズ第2弾。

前回は一曲に対する「見立て」でしたが、今回はメドレー見立て。 しかも最後の3本は小泉今日子、近藤真彦、中森明菜、 と前回の70年代ヒット曲に比べると随分とテリトリーに入ってきたので、前作よりは楽しめました。

また、今回はさらにプロットに「口裂け女」や「人面犬」といった「都市伝説」を絡めてあります。 都市伝説が目撃されていて、でも推理で解決して、しかし最後にもう一度ひっくり返る、 という凝った構成。 くだらなさやあり得なさは前作と大差ないのですが、 ここまで徹底してお約束を繰り返してもらえると、 これはこれでアリかな、と思えてきますね。

しかし本書で一番笑ったのは、巻末の「主要参考文献」。 7編それぞれのアーティストのベスト盤が並べてあるのですが、

「本書の内容を予見させる可能性がありますので、本文読了後にご確認ください。」
予見できるか――ッ!!

(2007.05.10)


語り女たち/北村薫 (新潮文庫)

★★★  

さまざまな女たちが「私」に打ち明ける不思議な出来事。 ファンタジー・ホラー・サスペンス、色とりどりな17篇から成る物語。

語り手を女性限定とするだけで、こんなにも艶めかしくなるものなんですね。 内容も、一言でくくると多分ファンタジーが一番しっくりしそうですが、 バリエーション豊富で飽きさせません。挿絵の版画がまたいい味を出してますね。

(2007.05.09)


あかね色の風/ラブ・レター/あさのあつこ (幻冬舎文庫)

★★★  

あさのあつこの初期中編・2編を収録。

「あかね色の風」は、小学校6年生の遠子のクラスに転校してきたきた千絵との話。 正反対なタイプの二人だったが、不思議と通じるものがあり、 化石を通じて二人は交流を深める。

「ラブ・レター」は、隣の席の男の子に手紙を出そうとする愛美の想いをつづった作品。

どちらも思春期の少女を扱っている、まさにあさのあつこさんの真骨頂とでもいうべき小説。 しかしいわゆる児童文学とは一味違って、剥き出しの感情が描かれているので、結構痛かったり。 遠子が「バッテリー」の巧の原型、というのはなるほど納得です。

(2007.04.24)


南方署強行犯係 狼の寓話/近藤史恵 (徳間文庫)

★★★☆ 

作者が初めての警察小説に挑んだ新シリーズ。

南方署刑事課に配属された新人刑事の圭司。最初の現場でドジを踏んでしまい、 組まされた相棒は強行犯係唯一の女刑事・黒岩。 証拠は明白、容疑者は逃亡中。 簡単に解決するように見える事件を任された二人だったが、 「動機」だけが見つからない。果たして事件の真相は…。

章の合間に挿入される童話が、最初は本編から浮いてて「?」てな感じなのですが、 進むにつれて見事に本編へと溶け込んでいき、さらには解決の手掛かりとなる構成は見事でした。

主人公の圭司とその兄・宗司、そして女刑事・黒岩、といったキャラクターも魅力的に描かれていて、 「DV」という重いテーマの事件に対する救いになってます。 また一つ楽しみなシリーズができました。

(2007.04.24)


黄昏の百合の骨/恩田陸 (講談社文庫)

★★★☆ 

急死した祖母の遺言に従って、幼少の頃を過ごした「白百合荘」へとやってきた水野理瀬。 高校生の理瀬を迎えたのは血の繋がらない叔母二人。そして従兄弟の亘と稔。 「魔女の家」と呼ばれる館の秘密を探る内に、館の周りで奇妙な事件が相次いでいることに気付く。 果たして祖母の残した「ジュピター」とは何なのか。

直接的には麦の海に沈む果実の続編、という位置づけ。 さらに図書室の海に収録の「睡蓮」がを読むと、 理瀬と亘・稔との幼い頃の関係もわかります。 高校生となった理瀬が、幼少の頃を過ごした洋館へと戻ってくるところから始まります。 隠れて煙草を吸ったりと、すっかりすれてしまって大人になってしまった理瀬。 「憧れのお兄ちゃん」だった亘を手玉に取るところなんてもう…。

この、いわゆる「三月」シリーズは、むしろ解決する伏線よりも張られる伏線の方が多かったりして、 読後すっきりしないこともよくあるんですけど、 この作品に関してはかなり単体での完結度が高い作品になってますね (いや、もちろんシリーズとしての伏線も多いんですが)。

雅雪、そして慎二が、今後の理瀬に対してどのように関わってくるのか、楽しみではあります。

(2007.04.22)


霧舎巧 傑作短編集/霧舎巧 (講談社文庫)

★★★☆ 

作者初の短編集。「あかずの扉研究会」の面子を初めとして、 御手洗潔シリーズのパスティーシュなども収録された意欲作。

あとがきでも書かれていますが、確かに霧舎さんの作品の本質は、 大掛かりなトリックよりも、むしろ張り巡らされた伏線を最後に一本にまとめ上げる、 その構成力にあるような気がします。そういう意味では、 短編や連作短編ってのは、より霧舎さんの作風が活かせるフィールドなのかも。

そしてそんな霧舎さんの真骨頂が発揮されているのが、 短編集のための書き下ろしのボーナストラック「クリスマスの約束」でしょう。 後付けなのかも知れませんが、このまとめ方には感心させられました。

(2007.04.17)


Q&A/恩田陸 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

質問とそれに対する回答、という対話だけで進んでいく異色作。 郊外のショッピングセンター「M」で起こった災害。 火事、毒ガス、テロ…さまざまな原因が取りざたされ、69人もの死者が出た痛ましい事件だったが、 原因は何もなかった。果たして「M」の中で一体何が起こったのか?

集団パニックによる死。しかしその原因が何物でもなかった時、人はどうするか? やがて物語は、事件そのものから派生して、事件の間接的な影響を受けたさまざまな事件へと波及していく。

真相はそれなりにぼやかされていますが、最後のチャプターを読むと、 どうも通常のミステリとかサスペンスの枠に収まる作品ではなかったのかな、 という気もしてきます。

(2007.04.14)


イニシエーション・ラブ/乾くるみ (文春文庫)

★★★☆ 

Boy meets girl. 代打で参加した合コンで出会ったマユに一目で虜になった僕。 やがて二人は恋に落ち、甘い日々を迎える。 遠距離恋愛となった二人の間に障害はなかったはずなのだが…。

「必ず二回読みたくなる小説」という触れ込みの作品。 確かに初読と再読でこれほど印象の変わる作品もないかも。 まあでも、そこまで言われてしまうと、ある程度経験値を積んだ読者ならば、 仕掛けを見破るのはそれほど難しくはないかも。 それでもやっぱり読み返しましたけどね。

とにかく何言ってもネタバレになりそうなので、詳しく言えませんけど、 細かいネタまで良く練られてますね。

(2007.04.12)


QED 龍馬暗殺/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ最新作。幕末から明治維新にかけての激動の時代、 龍馬暗殺の謎に迫る。そしてまた現実世界ではタタルたちは、 高知の山村に閉じ込められてしまい、事件に巻き込まれてしまうのであった…。

例によって、歴史上の過去の事件と、現在の事件を並行して解決していくのですが、 しかしさすがに「嵐の山荘」に閉じ込められるのはいくらなんでもやり過ぎだろう、 という気がしないではないです。まあ、今更なツッコミですが。

「銀魂」にも通じる幕末の色んな勢力の思惑はなかなか興味深かったです。

(2007.04.10)


バッテリー VI/あさのあつこ (角川文庫)

★★★☆ 

待望の最終巻。1〜5巻までは半年ペースくらいでリリースされてきたのに、 最終巻は1年近く待たされました。

いよいよ新田東対横手の非公式試合。実質チームを預かることになった海音寺は、 巧に「今のままでは門脇には勝てない」と告げる。 果たして巧達バッテリーに足りないものとは何なのか?

試合に向けて高まっていく緊張感。それは巧たち新田東だけでなく、 横手の門脇と瑞垣の関係にも微妙な変化をもたらしていくところが面白いですね。

しかし散々引っ張った割には、正直すっきりしない終わり方。 もう少しわかりやすく結果を書いても良かったのではないかなあ。 続編らしい「ラストイニング」までおあずけなんでしょうか。 文庫落ちするまで何年かかるんだろう…。

(2007.04.08)


幻夜/東野圭吾 (集英社文庫)

★★★★☆

阪神淡路大震災の混乱の中、衝動的に殺人を犯してしまった男。 それを目撃していた女。二人は手を組み、昏い夜の中を歩み始める。 しかしその夜は、幻だった…。

「白夜行」に続くシリーズ第2弾。 登場人物は一新されてますが、男女が互いのために罪を犯しながらサポートし合う、 という基本構成は一緒。しかし「白夜行」での二人の立場は対等なものだったのに対して、 本作品では明らかに女性の美冬側の立場の方が強い、という点が大きな違いでしょうか。

終末に向かって伏線が解かれていく様は見事。 そして前作との意外な繋がりも暗示されていたりして。 ということは、三部作となる次作もそういう繋がりなんでしょうか。

(2007.04.01)


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