推理小説の部屋

ひとこと書評


海の底/有川浩 (角川文庫)

★★★★ 

「塩の街」「空の中」に続く自衛隊シリーズ第3弾。

突然横須賀の港に押し寄せた巨大なザリガニ。 15人の小中学生と共に停泊中の潜水艦「きりしお」に閉じ込められた隊員達。 突然訪れた緊急事態に、警察は、そして自衛隊はどう動くのか?

潜水艦に閉じ込められた!となったら、当然潜水艦で出動して、 脅威を取り除く行動に出るのかと思いきや、そういった行動は一切無し。 「巨大ザリガニの出現」はトンデモですが、それ以外は実にリアリスティックな、 有事のシミュレーションになってます。

ラブコメ要素は今回もかなり健在。解説でも書かれてますが夏木と冬原のキャラは、 「図書館戦争」の2人にも通じるものが(アニメしか観たこと無いけど)。

(2009.06.28)


ネコソギラジカル(下) 青色サヴァンと戯言遣い/西尾維新 (講談社文庫)

★★★☆ 

最悪・西東天、最強・哀川潤、最終・想影真心、全てに決着がつく。 そしてぼくと青色サヴァン・玖渚友の選択は…。

戯言シリーズ完結編。例によって「青色サヴァンと戯言遣い」は冒頭でちょこっとあって、 あとはひたすら想影真心と最強請負人の決着がメインな感じです。

まあ色々ありましたが、終わりよければ全て良し、という感じでしょうか。 ミステリ的に成立していたのは最初の「クビキリサイクル」だけだったかなあ。 まあこれはそういうもんだということで。

(2009.06.21)


モノレールねこ/加納朋子 (文春文庫)

★★★☆ 

加納朋子さんのノンジャンル短編集。何かを失くした登場人物がそれを取り戻すまでの物語。

伝書鳩ならぬ不細工な伝書猫を介した友情物語・表題作「モノレールねこ」。
一人で待つことが怖い妻が真っ白なジグソーパズルの中に見た物とは?「パズルの中の犬」。
突然両親と祖父母を失くした女子中学生の元に一人残されたダメダメな叔父「マイ・フーリッシュ・アンクル」。
偽装結婚した男女と幽霊との奇妙な共同生活「シンデレラのお城」。
幼くして死んだ娘に一年に一度だけ会えるホテル「セイムタイム・ネクストイヤー」。
のれんわけしたラーメン屋の店長の奮闘記「ちょうちょう」。
ロクデナシのクソオヤジの真意とは?「ポトスの樹」。
ザリガニ視点のとある一家の物語「バルタン最期の日」。

結構「死」が共通的に出てくるんですが、読後感は何とも温かい気持ちになりますね。

(2009.06.14)


ブレイクスルー・トライアル/伊園旬 (宝島社文庫)

★★★☆ 

セキュリティ企業セキュリティ・ミレニアム社が開催する侵入イベント「ブレイクスルー・トライアル」。 最新のIT技術によるIDカード認証や生体認証で固められた電子の要塞に侵入し、 12時間以内に「マーカー」を手にして戻ってこられたチームが、1億円の賞金を手に入れられる。 元社員の門脇は大学時代の親友丹羽と、ダイヤモンド強盗犯チームはダイヤモンド奪還のため、 ワタナベ製作所チームはライバル企業の偵察のために、それぞれトライアルに参加することに。

「チーム・バチスタ」を生んだ第5回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。 侵入モノというのは昔から映画や小説でもおなじみのテーマですが、 さらに最新の技術が駆使されているあたりが見所でしょうか。

主人公である門脇チームに関しては十分掘り下げられてますが、 その他チーム(梓&梁本含む)の、特にその後をもうちょっと書いて欲しかったなあ、という気も。 まあこれは続編の短編集みたいな感じでそれぞれ記述してもらっても良いんですが。 期待しています。

しかし作者女性だったんですね。解説読むまで気付かなかった…。

(2009.06.13)


延長戦に入りました/奥田英朗 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

雑誌「モノ・マガジン」に連載していたエッセイ「スポーツ万華鏡」をまとめたもの。

90年代の連載なんで、ネタは大分古めですけど、 個人的には今よりもスポーツを真面目に観てた時期なので、 共感するネタも多かったり。 助っ人外国人の名前とか、ああいたなあ、とか懐かしさを感じたり。

(2009.05.31)


エンド・ゲーム 常野物語/恩田陸 (集英社文庫)

★★★  

昔から「あれ」と呼ばれる存在と「裏返し」「裏返される」戦いを繰り広げてきた一族。 禁忌を破って同じ能力を持つ者同士が結婚し、常野の一族と距離を置いて暮らす拝島家。 一族最強の力を持つと言われる父が失踪し十数年、 母が倒れたのを気に、時子は一族への接触を試みる。 そこに現れたのは「洗濯屋」と呼ばれる男だった。

「常野物語」シリーズ第3弾。 今回は人格や記憶まで含めてリセットできる能力「裏返し」と、 さらに「洗濯屋」の登場によって、 自分の信じる世界が崩壊していく恐怖が描かれてます。

ただ、常野の一族ってこんな殺伐とした能力の持ち主ばかりじゃないと思うんですけどね。 また短編集みたいな感じで、色んな能力を見てみたいなあ。

(2009.05.24)


QED 神器封殺/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QED 〜ventus〜 熊野の残照の続編となる事件。 前作は、シリーズ初のゲストキャラ(神山禮子)視点で、 禮子の過去が焦点で特に現実の事件はありませんでしたが、 今回は小松崎・沙織と合流し、現実の殺人事件を追いかけます。

前作の禮子視点からの客観的なタタルたちの変人っぷり描写も面白かったですが、 今作はまた奈々視点に戻ってます。さらにタタルに輪をかけたような変人、 毒草師・御名形史紋も登場。これはどうやら別シリーズ「毒草師」の探偵役らしいです。

現実の殺人事件の方は犯人もトリックも判明した後に、袋とじが待っている、 という構成もいかにもこのシリーズらしいですね。 あくまで歴史の謎が主、現実の事件の謎は従、なのですね。

(2009.05.19)


猫島ハウスの騒動/若竹七海 (光文社文庫)

★★★☆ 

ヴィラ・マグノリアの殺人古書店アゼリアの死体、 に続く、葉崎コージー・ミステリの第3弾。 今回の舞台は、葉崎半島の先、人間よりも猫の数の方が多い猫の楽園・猫島。

平和な猫の楽園の海岸に捨てられた、ナイフが突き刺さった猫の剥製。 さらに崖から飛び降りてきた男とマリンバイクとの衝突死。 果たして2つの事件に関連はあるのか? 猫アレルギーの警部補・駒持、出世欲まるで無しのお気楽巡査・七瀬、ポリス猫・DC、 が島中を駆け巡る。

平和な観光地、ということで、おっとりのんびりした登場人物が多く、 被害者は悪人ばかり、というわけで、かなりお気楽な気分で読めました。 五月雨式に証拠が繋がっていく様子なんかは、駒持警部補視点で書いたら、 「フロスト警部」シリーズみたいな感じになるかもなあ、とか思ったり。 酷い目に合わされる部下がいるところも含めて。

(2009.05.15)


スペース/加納朋子 (創元推理文庫)

★★★★ 

「ななつのこ」「魔法飛行」に続く、「駒子シリーズ」第3弾。

いつもの駒子シリーズの「スペース」と、その舞台裏を描いた「バックスペース」、 2つの中編からなる構成。「スペース」はさらに、駒子の日常からなる第1章、 謎の核となる手紙から構成された第2章、そして謎解きの第3章から構成されてます。

今回の謎は第2章の一連の手紙が、一体誰が誰に向かって書いたものなのか、そして手紙の中で度々現れる不思議な現象は何なのか、ということなのですが、 しかし手紙には書かれていない「空白(スペース)」にこそ真実が隠されている、 という趣向です。

しかしついに駒子は謎を積極的に作る立場に関与しだしました。 こ、これはもしかして《後期クイーン問題》!?(違います)

瀬尾さんと駒子の関係も、最後の手紙を読む限りではどうやら少しは進展があったようで。 あとがきによると次の長編が完結編となる予定だとか。 楽しみにしています。

(2009.05.13)


ひとがた流し/北村薫 (新潮文庫)

★★★☆ 

十代の頃から大切な時間を共有してきた三人の女友達、千波、牧子、美々。 出会いや別れ、さまざまな試練を乗り越えて、人と人の絆が描かれる。

女子アナウンサーの千波、絵本作家の牧子(「月の砂漠をさばさばと」の作者)、 写真家の妻・美々。 それぞれの家族を通じて、「友情」「夫婦」「親子」「恋人」といった色々な「絆」が描かれます。

章が変わると一人称の語り手が変わる構成自体はよく見かけますが、 まるでバトンを渡すように手から手へと物を介して次の語り手へと引き継がれるところが面白いですね。

(2009.05.10)


フライ,ダディ,フライ/金城一紀 (角川文庫)

★★★☆ 

オチコボレ高校生達の奮闘を描く「ザ・ゾンビーズ・シリーズ」の第2弾 (第1弾は「レボリューションNo.3」)。 今回は短編集ではなく長編。

鈴木一、47歳。いたって平凡なサラリーマン。しかしある日、娘を傷つけられたことから、 彼の人生は一変する。娘を守るため、父親の誇りを取り戻すため、お父さんは立ち上がる…。

今回の主人公はしがないお父さん。しかし娘を傷つけられ、 ゾンビーズの面々と出会ったことで、その平凡な人生が一変することに。 まさに生まれ変わるように徐々に戦う身体になっていくお父さんの様子にワクワクさせられます。

山下は今回も色々とオイシイところを持っていってます。

(2009.05.06)


コミック 東野圭吾 ミステリー傑作選/東野圭吾 原作/沖本秀子・風祭壮太・浦川まさる&佳弥 作画 (秋田文庫)

★★★  

これはミステリじゃなくてコミック扱いなんじゃ…と思いつつも、 文庫版なのでミステリということで。

「浪速少年探偵団」「加賀恭一郎シリーズ」「殺人現場は空の上」の各シリーズを漫画化。 シリーズごとに作画が同じ人なので、世界観は統一されてます。 作画で一番うまいのは浪速少年探偵団シリーズの沖本秀子さんですかね。 しのぶセンセが男前過ぎる。

しかしこうして昔の作品がコミック化されるとは、東野圭吾さんも本当にメジャーになりましたねえ、 と感慨深かったり。

(2009.04.30)


ニッポン硬貨の謎 エラリー・クイーン最後の事件/北村薫 (創元推理文庫)

★★★★ 

ミステリ作家にして名探偵エラリー・クイーン氏の未発表原稿が見つかった。 そこには来日した際に遭遇した恐るべき幼児連続殺害事件と、 書店で50円玉20枚を千円札に両替する謎の男の話だった。

北村薫さんはあくまで見つかった未発表原稿の「訳者」という体で、 脚注まで使って見事なパスティーシュに仕立て上げてます。 そして何と言っても圧巻は、途中に挟まれたクイーン論。 「なぜ『シャム双子の謎』には読者への挑戦がなかったのか」をはじめとして、 北村薫さんのクイーン愛が溢れてます。

しかしまさか「50円玉20枚の謎」を、 「九尾の猫」ばりの連続殺人事件に仕立て上げるとは。 脱帽です。

(2009.04.26)


ネコソギラジカル(中) 赤き制裁 vs. 橙なる種/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

死んだはずの、かつてのぼくの親友・想影真心。最悪・狐面の男の切り札として姿を現した「橙なる種」は、 圧倒的な力で全てを薙ぎ倒すのだった…。

最終章第2弾。タイトル「赤き制裁 vs. 橙なる種」はかなり看板に偽りありというか、 その対決は早々に終わって、あとは十三階段崩し、みたいな内容ですね。

十三階段もほぼ崩壊し、どうやら最終巻は玖渚サイドのメンバーとの対決?がメインになるようです。 とはいえ、人類最強の請負人の行方も知れないので、絡んでくるのでしょうが。

(2009.04.24)


名探偵はもういない/霧舎巧 (講談社文庫)

★★★★ 

雪で閉ざされた双子の山荘、怪しげで訳ありげな宿泊客、 何者からか届いた挑戦状、「リチャード」と名乗るアメリカの警視とその息子エル、 …と本格ファンにはたまらないシチュエーションで行われる、ど真ん中の本格。 最後に「読者への挑戦」まで挟まれています。

最後の意味がよくわからなかったのですが、 どうやら敬二は続編の「名探偵はどこにいる」では刑事として登場するようですね。

(2009.04.19)


パズル・パレス(上)(下)/ダン・ブラウン (角川文庫)

★★★☆ 

「ダ・ヴィンチ・コード」でおなじみラングドンシリーズのダン・ブラウンのデビュー作。 国家安全保障局(NSA)で全ての通信の暗号を解読するためのコンピュータ《トランスレータ》。 しかしかつてのNSA職員の手によって、トランスレータで解読できない新方式の暗号が開発された。 暗号化ソフトにかけられたプロテクトを解除するパスワードを巡り、 様々な想いが錯綜する…。

デビュー作だけに、謎の作り方とかがいまいち浅い面も見受けられますが、 サスペンスの盛り上げ方は大したものです。 そもそもの「通常の方法で解けない暗号化コード自体のパスコード探す」という設定自体に納得が行かなかったのですが(だってコードなけりゃ結局解けないことになりますよね?)、 詠み進めていくうちになるほどな、と。

(2009.04.18)


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