推理小説の部屋

ひとこと書評


謀殺のチェスゲーム/山田正紀 (ハルキ文庫)

★★★  

日本を舞台とした、軍事シミュレーション戦略小説です。 なんでこんなの読もうと思ったんだろうなあ、謎だ(笑)。 名前が「殺戮のチェスゲーム(ダン・シモンズ)」に似てたからかな?

あちらは「マインド・ヴァンパイア」なる怪物が出てくる、SFホラー系でしたが、 こちらはそういうSF的な要素はありません。ただ、 日本が舞台にはなっていますが、ちょっとしたパラレルワールドのようです。 新幹線が東北から北海道まで行ってたりするし。 この世界の「日本」はかなり軍事大国に近づいているようです。

戦略家、自衛隊、企業、ヤクザ、の4つの勢力(駆け落ちカップルも含めると5つか) が互いの思惑でぶつかり合い、思いもよらない結果に結びついていくところが面白かったです。 ただ、途中で説明される「戦略理論」は正直なところさっぱりわかりませんでした。 絶対的に説明が足りてないような気がするんですが、こちらの理解が足りないだけか。 なんか作者も理解していないで、 単にキーワードだけ使って書いているような印象を受けてしまったんですが。

あと、場面転換の時に行が空くところと空かないところがあって、 そこが妙にわかりづらく感じました(空けるのと空けないのの差は どこから来るのかわかりませんでした。演出なのかなあ?)。

まあ、たまにはこんなのもいいかな。

(1999.09.26)


変身/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★☆ 

ある日突然不慮の事故により、頭を撃たれた主人公・純一。 最先端の医療技術による世界初の「脳移植」によって、 奇跡的に一命を取りとめた。 しかし、時が経つにつれ、 徐々に性格が変わっていくのを自覚しつつも、 自分では止められない。 一体移植された脳の持ち主は誰なのか?

サスペンス溢れる作品です。 自分が自分でない何者かになっていく、 その恐怖がよく描かれています。 ある面では「アルジャーノンに花束を」にも似てますが、 こちらの方がより救いがないです。 記憶をなくす、とかの直接的なことよりも、 徐々に性格が変わっていく、という方が怖いですね。

オチはもっとブラックなのを想像していました。

(1999.09.18)


ななつのこ/加納朋子 (創元推理文庫)

★★★★ 

単行本の時から「感動の一冊」と話題になっていた 「ななつのこ」がついに文庫化されました。 というわけで早速読んでみました。

「ななつのこ」という絵本に感動した、短大の文学部所属の主人公が、 その作者にファンレターを出すところから物語は始まります。 その手紙に身の回りの些細な謎を添えて書いたところ、 返事にはその謎に対する鮮やかな答えが…。

派手な殺人などは起こらなくとも、 日常の些細な謎が「ミステリー」を成立させることができることがよくわかります。 しかしやはりどうしても北村薫さんの「円紫師匠と私」 シリーズと比べてみたくなってしまいますね。

「私」と同じく本好きという点は共通してますが、 「ななつのこ」の主人公には「駒子」というちゃんとした名前があります。 また、「私」がかなり理想化された女子大生のような感じを受ける (これは作者が男性であることにも関係しているかも知れません)のに対して、 「ななつのこ」の主人公にはかなり現実的(?)な感じを受けました。

「ななつのこ」では、作中の「現実」の謎と、 関連する「絵本の中」で語られる謎とが、二重構造になっていて、 「現実の謎」と「作中作の謎」の両方が解き明かされるという趣向になっています (実質的に作者は二倍の労力を必要とするわけで、 大変だなあと思いました)。

また、一章一章が一つの作品を形成していると同時に、 七章で1つの作品としての「連作短編」としての性質も強くなっています。 そこら辺が「円紫師匠と私」シリーズとの大きな違いでしょうか。 要するに、これ一冊で「完成」しているので、 この作品の「続編」はちょっと考えにくい、ということです。

「円紫師匠と私」シリーズが好きな人にも、そうでない人にもオススメの一品です。

(1999.09.12)


学生街の殺人/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★  

「秘密」が映画化されたりして、いま乗ってる東野圭吾さん。 「宿命」以来結構久しぶりに読みました。かなり初期の作品で、 「放課後」や「卒業」のような「青春ミステリ」の感じが残ってます。 内容も密室が出てきたり、どんでん返しがあったり、と言った感じで、 今の東野圭吾さんは書かないだろうな、という「青さ」が新鮮です。

ちょっと内容の割には長いかな、と思いました。

(1999.09.04)


三匹の猿/笠井潔 (講談社文庫)

★★★  

本格ミステリの大御所、笠井潔さんの作品。 笠井潔さんと言えば、 矢吹駈が探偵役の「バイバイ、エンジェル」を含む三部作が有名ですが、 これはその作品とは別の、私立探偵・飛鳥井を主人公としたシリーズです。 アメリカ帰りで、妻を亡くした過去を持つ私立探偵…という設定からもわかるように、 ハードボイルドです。

どうもこのハードボイルドって、あんまり読んだことないんですけど、 余計な描写が多すぎて私はあまり好きになれないんですよね (いや、ハードボイルド全般がそうなのではないかも知れませんが)。 なんか事件の本質が掴みにくいと言うか。 どうも解説を読むと、その原因は三人称の地の文に一人称を隠してしまった、 独特の文体にもあるような気がします。 客観的な状況の報告なのか、主観的な考えていることの描写なのか、 分かりづらいんですよね。 なんか、現実の社会問題とリンクしていろいろ書かれてるところが、 どうにも鬱陶しく感じました。やっぱハードボイルド向いてないのかなあ? いや、でも「バイバイ、エンジェル」もやたらと出てくるペダンティックの多さに閉口した記憶があるので、 この人の文体が合ってないのかも知れません。 そもそも、ハードボイルドなんてそれほど数読んでないし (あ、でも法月綸太郎の「頼子のために」は面白かったなあ)。

事件そのものは、なかなか面白かったです。 あんまり救いがないところも、またハードボイルドか…

(1999.08.28)


金田一少年の事件簿・殺戮のディープブルー/天樹征丸 (講談社)

★★★  

アニメ映画「金田一少年の事件簿2」の原作本だそうですが、 トリックまで含めてかなり違ってるそうなので、どちらから見てもOKだそうです。

映画版ということで、「上海魚人伝説殺人事件」の楊小龍が出てきたり、 明智警視が小説版で初登場したり、テロリストに占拠されたり、 となかなかサービス満点な内容になってます。

が、正直言って、ミステリとしてはかなり薄味ですね。 上下巻に分かれてはいますが、 トリックが使われたのはたった1回だし、 それもかなり小粒なトリックです。 まあ、映画用ということで、アクションシーンを多目にするために、 このような構成になっているんだとは思いますが…。

あとがきで、「次作では是非『電脳山荘』のようなバリバリの本格物を…」 と書いてるので、自作に期待したいところですね。

(1999.08.21)


スナーク狩り/宮部みゆき (光文社文庫)

★★★☆ 

宮部みゆきさんのサスペンス小説。 2つの異なる視点(途中から第3の視点も現れます)から描かれる物語が、 やがて交錯し、クライマックスへとつながっていく構成が見事です。 わずか半日の物語なのですが、一気に読ませます。

テーマもなかなか考えさせられます。 人が人を裁くことはできるのか。 あの「火車」と同じ年に刊行されたそうですが、 こちらもなかなかオススメです。

(1999.08.19)


星降り山荘の殺人/倉知淳 (講談社文庫)

★★★★☆

いやあ、やられました。久々に綺麗に騙されたというか…。 これがあるから、本格は止められないんだよなあ。

都筑道夫氏の「七十五羽の烏」にインスパイアされた作品、 ということで、各章の頭に「解説」がついているんですが、 これがまたフェアでありながら、騙しに一役買っていると言う…。 うーん、なるほど。こう来るか。

「七十五羽の烏」の時は、あんまりピンと来なかったので、 この「解説」もほとんど私には意味なかったんですけど、 なるほど、こういう風に使えば効果的だよなあ、と思いました。

本格好き・騙されたい人に是非オススメです。

(1999.08.16)


東京下町殺人暮色/宮部みゆき (光文社文庫)

★★★  

東京の下町を舞台とした、連続バラバラ殺人事件をめぐる物語。 またしても、宮部みゆきお得意の「少年」が主人公として据えられています。 なかなか面白かったのですが、動機に納得が行くような行かないような…。

(ホントにひとことですね。でもあんま書くことないです)

(1999.08.16)


本所深川ふしぎ草紙/宮部みゆき (新潮文庫)

★★★  

「本所七不思議」をモチーフにした、七編の物語からなる連作短編集。 時代小説ミステリです。「かまいたち」とは違い、霊感は登場しません。 岡っ引きの「回向院の茂七」が探偵役として、 七不思議にまつわる殺人etc.を解決していきます。

どの作品もまとまってて、うまいなあと感心させられます。 ホント宮部さんは幅が広い。

(1999.08.08)


不変の神の事件/ルーファス・キング (創元推理文庫)

★★★★ 

ある名士の一家の目の前で、娘を自殺にまで追いやった恐喝者は息絶えた。 彼らは死体を始末しようと画策するが、事件は早々に警察に知られてしまい…。

ミステリ黄金時代の「知られざる名手」だそうです。 サスペンスに溢れる作品となってます。 ミステリ的には倒叙物に当たるんでしょうが、 途中から読者も知らない事実が明らかになり、事件は意外な方向に…。 十分ミステリしてます。

薄いので比較的一気に読めます。オススメ。

(1999.08.08)


湖底のまつり/泡坂妻夫 (創元推理文庫)

★★★★ 

泡坂妻夫さんの第3長編らしいです。

なんと言ってもびっくりしたのはその文体。今までの泡坂さんの文体って、 どこか古臭さというか、そういう感じを受けていたのですが、 この作品はホントに泡坂さん?と思うほど違った印象を受けました。 内容もまた、今までの割と「本格っぽい」設定とは大きく異なり、 叙情的でびっくり。 しかし、異なる視点から何度も描かれる出来事、 その微妙なズレが全て伏線となって、 最後に一つにまとまるところは、さすが泡坂さんとしか言いようがありません。

普段あまり推理小説読まない人・本格嫌いな人にオススメしたい作品です。

(1999.08.08)


笑わない数学者/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

森博嗣氏の犀川&萌絵シリーズ第3弾。 正直なところ、今回は簡単に分かってしまいまして、ちょっと拍子抜けでした。 まあ、このシリーズは回を追う毎に、トリックとかうんぬんよりも、 キャラクター同士の掛け合いなどを楽しむ作品になっていくようなので、 これも仕方のないところなのかな。

今回の中で一番面白かったのは、天王寺博士の出すパズルです。

ビリヤードの玉を5つ、リング状に並べる。 ここから玉を取るのだが、 その際複数の玉を取る場合には、連続して並んでいるものしか取れない。 こうして、1個〜5個まで取っていった場合に、 取った玉の数字の合計が1〜21までの全ての整数を表わせるようにするには、 一体どのように玉を並べればよいか。

これが煙草2本以内の時間で解ければ、あなたも犀川助教授レベルだ(笑)。 いや、でも実際そんなに難しくはないです。 しかし正解がどこにも書いてないところが突き放してるなあ。

(1999.08.02)


バトルロワイアル/高見広春 (太田出版)

★★★★☆

ネットで話題の作品。 帯の文句を引用します。

「某小説新人賞選考委員全員から、余りの内容の過激さゆえ、 揃いに揃って拒絶、落選させられた噂の問題作、ついに登場。 管理国家と〈死のゲーム〉を主題に、史上最悪の“椅子取りゲーム”が始まった!!

さらに、カバー裏のあらすじを引用します。

西暦1997年、東洋の全体主義国家、大東亜共和国。 この国では毎年、全国の中学3年生を対象に任意の50クラスを選び、 国防上必要な戦闘シミュレーションと称する殺人ゲーム、 “プログラム”を行っていた。 ゲームはクラス毎に実施、生徒達は与えられた武器で互いに殺し合い、 最後に残った一人だけは家に帰ることができる。
香川県城岩町立城岩中学校3年B組の七原秋也ら生徒42人は、 夜のうちに修学旅行のバスごと政府に拉致され、高松市沖の小さな島に連行された。 催眠ガスによる眠りから覚めた秋也たちに、坂持金髪と名乗る政府の役人が、 “プログラム”の開始を告げる。
ゲームの中に投げ込まれた少年、少女達は、さまざまに行動する。 殺す者、殺せない者、自殺をはかる者、狂う者、仲間をつくる者、孤独になる者。 信じることができない者、なお信じようとする者。愛する気持ちと不信の交錯、 そして流血………。
ギリギリの状況における少年、少女達の絶望的な青春を描いた問答無用、 凶悪無比のデッド&ポップなデス・ゲーム小説!

面白そうでしょ?ネットで見ると、みんな、2日で読んだとか、3日に読んだ、 とか言ってるので、なるべく長く読んでやろうと思ってたんですが、 結局1週間しか持ちませんでした(私の場合、月曜と水曜はある事情(笑)により、 読めないので、実質5日間で読んでしまったことになります)。 いやあ、読み始めると止まらないですね。

装丁からしてイカしてます。アメリカのペーパーバックのような装丁。 タイトルも浮き出てるし。中表紙には「PULP FICTION」って書いてあるし。

設定の突飛さや、残虐な描写が、目を引きますが、 その実、かなり心理描写や背景などがしっかり書き込んであって読ませます。 また、パロディやギャグなどがちりばめられてるので、 残虐な描写がそれほど気にならずに読めます。

天才ショートストップで「ワイルドセブン」の異名を持つ主人公・七原秋也、 ターミネーターのような不良グループの番長・桐山和雄、、 傷だらけの転校生・川田章吾、主人公に想いを寄せるヒロイン・中川典子、 天使の微笑みで相手を欺く不良少女・相馬光子、、 はてはオカマの月岡彰まで。 タレント揃いの3年B組って感じです。

まあ、拒絶したくなる気持ちがわからなくはないですけど、 これを評価できない審査委員って意味ないような気がしますねえ。 まあ、面白い作品は、口コミで広がっていくでしょう。 特にネットが発達した今ならば。

(1999.07.25)


乱れからくり/泡坂妻夫 (創元推理文庫)

★★★☆ 

泡坂妻夫さんの長編。からくり玩具に関する知識がぎっしりと詰っていて、 手品やからくりが本当に好きなんだなあ、 ということがよくわかります。

内容も密室あり、ダイイングメッセージあり、と豊富な内容で 飽きさせません。

ただ、泡坂さんの文章を読むといつも思うんですが、 どうもいまいち読みづらいんですよねえ。 なんか翻訳ものの海外ミステリを読んでる時と同じような 感じを受けるんです。これはしょうがないのかなあ。

(1999.07.18)


招かれざる客/笹沢左保 (光文社文庫)

★★★  

笹沢左保さんのデビュー作だそうです。 非常にスタンダードな本格推理小説ですね。

アリバイ・凶器・動機などの面で鉄壁に守られた容疑者を、 警部補が足で一つ一つ解き明かして行く、 その過程が何ともたまりません。 前半の調書は正直退屈なんですが、 後半の警部補の手記になってから、俄然面白くなりますね。

(1999.07.11)


スキップ/北村薫 (新潮文庫)

★★★★★

北村薫さんの「時と人の三部作」の第1弾・待望の文庫落ちです。

一ノ瀬真理子は17歳の高校生。目が覚めると、25年の時を越えて、 42歳の桜木真理子になっていた…。

タイムスリップものの一変種である「リプレイもの」 (私の命名)の、さらに変種です。リプレイものは過去に戻るものが多いのに比べ、 未来へ意識が飛ぶ、というところが異なります。

基本的にタイムスリップものが大好きな私としては、ハマりました。 タイムスリップものの楽しみの一つに、 時代のギャップがありますが、これがまた丁寧によく描けてます。 何でも解説を読む限りでは、 資料などを使わずに北村薫さんの記憶だけで描かれてるそうです。 すごいですね。

出てくる人みんながあまりに「いい人」なのが、 ちょっと現実的でないといえば言えるかも知れませんが、 この安心感がなんとも言えず心地よいです。

早く「時と人の三部作」第3弾「リセット」も読んでみたいですね。

(1999.07.04)


長い長い殺人/宮部みゆき (光文社文庫)

★★★★☆

いやあ、面白かった。これはやられたって感じです。

宮部さんの作品では、長編デビュー作の「パーフェクト・ブルー」で、 元警察犬のマサが語る、犬の一人称という作品がありました。 しかしこの作品では、なんと財布の一人称で物語りが語られていきます。 しかも一章ごとに持ち主の異なる財布が (「刑事の財布」「目撃者の財布」「探偵の財布」から「犯人の財布」まで)。 もうこのプロットだけで「やられた」って感じですね。

しかも持ち主が異なると財布の性格も異なるのか、 各章ごとに文章の雰囲気もかなり異なります。 「探偵の財布」の語り口はハードボイルドっぽいし、 「少年の財布」の語りは応援したくなるような感じだし。

各章は短編小説としても読めるようになっていて、 かつ全体で一連の保険金殺人疑惑を追うような連作長編になっています。 この事件もなかなか魅力的です。一般的な推理小説と異なり、 かなり早い段階で犯人と目される人物は明らかにされます。 それが、読者に対してだけではなく、 ワイドショーを通じて日本全国に明らかになるところが、 なんとも現代的でユニークですね。

そして、この事件に関わりをもった人物が、互いに影響を受けながら、 事件の真相解明も進んで行きます。果たして真相は?

文句無しにオススメです。是非とも読んでみて下さい。

(1999.07.03)


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