推理小説の部屋

ひとこと書評


クロスファイア/宮部みゆき (光文社文庫)

★★★★ 

映画化もされた宮部さんの超能力モノ。ついに文庫化。

「私は装填された銃」――念力放火(パイロキネシス)の能力を、 自らの定めた「正義」と「制裁」のために使う能力者・青木淳子。 しかしあまたの殺戮と出会いの末、 彼女は自分の「正義」に疑問を持ち始める…。

久々の超能力モノでしたが、面白かったです。 何と言っても今までの超能力者に比べてけた違いに強い。 戦闘シーンの迫力は凄かったです。

正義への苦悩、出会い、恋、など、 戦闘者であり人間である青木淳子の魅力を十二分に描ききってました。

(2002.09.25)


木曜組曲/恩田陸 (徳間文庫)

★★★  

耽美派小説の巨匠、重松時子が薬物死を遂げてから四年。 時子の血縁の女たちが、今年も時子の命日に当たる「二月の第二週木曜日」に、 三日間「うぐいす館」に集まって彼女を偲ぶ宴を催していた。 だが、今年は何か様子が違う。一体彼女の死は本当に自殺だったのか? それとも…?

出てくる女性たちが皆物書き。また、この女性たちの会話が生々しくて、 恩田さんらしい作品だなあ、と思いました。 同じ女性作家でも、宮部さんなんかではこういう作品は書かないよねー。

基本的に一幕劇でありながら、会話だけで次々と「新事実」が発覚していく展開は、 とてもスリリング。ただ、視点が定まっていないので、 途中までは誰に乗ればいいのかわからずにちょっととまどいました。

映画化されたそうですね。結構評判いいみたいです。 こちらも楽しみ。

(2002.09.16)


とんち探偵一休さん 金閣寺に密室/鯨統一郎 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

あのとんちで有名な一休さんが、密室状態の金閣寺で自殺していた足利義満の死の謎を解く。

「邪馬台国はどこですか?」でデビューした「裏解釈の達人」(解説によると) 鯨統一郎さんが、一休さんの出生の謎やらなんやらに挑んだ作品。 「このはしわたるべからず」や「絵の虎を捕まえよ」などの有名なエピソードをはさみながら、 それらが実はちゃんと伏線になってたっていう「裏読み」にはかなりやられました。 能楽者の世阿弥や、新右衛門・茜といった、脇のキャラクターもいいですね。

(2002.09.08)


メドゥサ、鏡をごらん/井上夢人 (講談社文庫)

★★★☆ 

感想書きづらい作品だなあ……。 とりあえずあらすじ紹介。

作家・藤井陽造は、コンクリートを満たした木枠の中に全身を塗り固めて絶命していた。 傍らには自筆で「メドゥサを見た」と記したメモが遺されており、 娘とその婚約者は、異様な死の謎を解くため、 藤井が死ぬ直前に書いていた原稿を探し始める。 しかし次々と奇妙な事件が。 そして相次ぐ不可解な死。一体何が…

ジャンルは敢えて分類するとホラーになるのかなあ? 冒頭の謎からグイグイと引き込まれて、その内に「これは理では解決しないぞ?」 と気づいたときには既に引き返せないところまで来ている……。 読者が作者に引き込まれる、メタフィクション、 まさにウロボロスと呼ぶにふさわしい構成かも(蛇だけに)。

SF的な装置こそ出てこないものの、 何が現実で何がそうでないのかの境界が次第に曖昧になっていくところなんかは、 まさに「クラインの壷」の進化した形なのではないかと思いました。

(2002.08.24)


放浪探偵と七つの殺人/歌野晶午 (講談社文庫)

★★★  

歌野晶午の「信濃譲二」シリーズの短編集。

なんか時代設定が昭和だったりしてすごく古い作品なのかな、と思ったら、 初出を見ると1997年とか、一番古くても1994年だったりして、そんなに古くない。 デビュー作の時代設定と辻褄を合わせるためなんでしょうね。

神出鬼没で鬚面、冬でもタンクトップにサンダル。 確かに特徴的ではあるけど、あんまり魅力を感じない探偵役ではありますなあ。 物理トリック中心の本格系ではありますけど、あまり印象に残る作品はありませんでした。 あ、烏の話はちょっと面白かったかも。

(2002.08.18)


理由/宮部みゆき (朝日文庫)

★★★☆ 

宮部みゆきの直木賞受賞作。 架空の事件「荒川の一家四人殺人事件」を、 事件終了後の関係者のインタビューの形を採り、 じっくりと描いています。

このインタビュー形式に最初は戸惑いました。 こっちは何が起こったのか知らないってのに、 核心に触れようとするところでまた別の人の視点に変わってしまうし。 段々と事件の概要が見えてきてからは俄然面白くなってきましたが。

それにしても…いや、確かに面白かったですし、読み応えもありましたが、 こうまで重厚長大にしなくては賞は取れないんだろうか? という気持ちにさせられたのもまた事実。 なんか読みながらゴールは見えている迷路を、延々と右手法で辿っているような 感覚を受けてしまいました(この袋小路がまた長い)。 まあ、これはこういう手法を採った以上仕方ないのかな?

(2002.08.17)


ハサミ男/殊能将之 (講談社文庫)

★★★☆ 

第13回メフィスト賞受賞作。

連続殺人犯の「ハサミ男」。 3人目のターゲットを定めて、身辺調査。いざ決行、という夜、 見つけたのはその「ハサミ男」の手口そっくりに殺された、被害者の遺体だった…。

真犯人が、第一発見者になってしまい、かつ探偵として模倣犯を追い詰める、 というプロットが秀逸。

殺人鬼側からの記述と警察側からの記述が交互に重なり、 さらに殺人鬼は多重人格。 そこに叙述風味も加わって、アクロバティックな作品に仕上がってます。

(2002.08.12)


月の裏側/恩田陸 (幻冬舎文庫)

★★★  

九州の水郷都市・箭納倉(ゆなくら)。ここで3件の失踪事件が相次いだ。 しかも3人とも、しばらくして戻ってきた。失踪時の記憶がないまま…。 事件を調べる元大学教授・協一郎は言う。 「戻ってきた彼らは人間ではない。別の何者かだ」 水に囲まれたこの町に一体何が?

テーマは「水」。誰もが一度は考えたことのあると思われる 「自分以外はみんな作り物なのではないか?」という妄想。 それを徹底的に押し進めたようなSFですね。 普通の作品や映画なら、水が押し寄せてくるところでクライマックス、 となりそうなところですが、その後を書いてるところが非常に興味深かったです。 淡々として全てを受け入れてしまう多聞のキャラがいいですね。

章によって三人称だったり、誰かの一人称だったりがめまぐるしく変わりますが、 特に前半の章の最初の部分に挿入された「断片」の構成はうまいな、と思いました。

(2002.08.10)


ミステリー・アンソロジーIV 殺意の時間割/赤川次郎・鯨統一郎・近藤史恵・西澤保彦・はやみねかおる (角川スニーカー文庫)

★★★  

角川スニーカー文庫の書き下ろしミステリー・アンソロジー第4弾。 ついに赤川次郎さんまで登場です。今回のテーマは「アリバイ」。

とある主婦が、娘を救ってくれた恩人から奇妙な依頼を受ける 赤川次郎さんの「命の恩人」。5作品中、唯一子供が登場しませんね(娘は除く)。

鯨統一郎さんの「Bは爆弾のB」は、 「名探偵はここにいる」に収録の「究極の安楽椅子探偵」シリーズ 「Aは安楽椅子のA」の続編。しかしシリーズ続けるつもりがあるんでしょうか? 登場人物の扱いが…。

アリバイモノの定番・双子が登場するのは、近藤史恵さんの「水仙の季節」。 アリバイ作りに利用されたお人好しな主人公の推理は? 後味がやっぱり近藤史恵さんっぽい。

西澤保彦さんの「アリバイ・ジ・アンビバレンス」は、個人的には一押し。 完全なアリバイが成立しているにも関わらず、自分が殺人をやったと主張する女子高生。 「逆アリバイもの」とでもいうべき奇妙な設定が秀逸。 例によって机上の議論で推理していく様子が見事。 ただ高校生たちが登場人物の割にはあまりに事件はドロドロしてますが…。

はやみねかおるさんの「天狗と宿題、幼なじみ」は、 長老の口から語られた戦前の肝試しで起こった不思議な出来事を、 小学生コンビが夏休みの自由研究の宿題で解き明かすという話。 真面目な男の子と、わがまま奔放だけど霊感だけは強い女の子、 という設定が面白い。シリーズ物なのかな?

すぐ読み終わっちゃうので、正直コストパフォーマンスはあまり高くないかも… と思いますが、人気作家の書き下ろし新作が読めるというのは嬉しい限り。

(2002.08.04)


山伏地蔵坊の放浪/有栖川有栖 (創元推理文庫)

★★★☆ 

以前図書館で借りて読んだことがあるんですが、文庫化を機に再読。

世にも怪しい「山伏」が、土曜の夜に語り始める「事件」の数々。 バー「えいぷりる」に集まる連中は、眉唾だと思いつつも、 面白い話が聞ければいいや、ということで、毎週集まるのであった。

探偵役の山伏自身が事件を語り、また解決編を語る、 という構成のため、登場人物の独り言ではないですが 「自分で話を作って、自分で解決するんだから気楽なもんだ」 っていうインチキ感が漂っているのが、なんとも言えぬ味になってますね。

今回再読してみて、派手目のトリックが結構今時新鮮でいいかも、 と思いました(直前に読んだのがアンチミステリだった、というのも影響してるかも)。

(2002.08.02)


ウロボロスの偽書/竹本健治 (講談社文庫)

★★☆  

作中の言葉でいうと「疑似推理小説(ミステロイド)」。 こういうアンチミステリっていうんですか? 個人的にはやっぱりどうも苦手ですね。

主に3種類の章から成り立ってます。 いつの間にかまぎれこんでいる「殺人鬼の章」、 竹本健治自身が書いてる身の回りの章、 それと竹本が書いていることになっている「トリック芸者シリーズ」 の3つの章が入り乱れてます。 で、殺人鬼の章に書かれていたことが現実に起こったり、 作中人物だったはずの芸者達が現実に現われたり… といった具合に何が本当で虚構だか混沌としてきます。

相対化・メタ化を徹底的に推し進めることでまさに 「自分が自分を食うウロボロス」を体現していると言えるでしょうが、 ただ正直な話、あんまり面白くなかったです。 特に竹本さん自身の章が内輪っぽすぎて、いまいち。 「トリック芸者」はパロディミステリとしてそれなりに楽しめましたけど。

(2002.07.30)


黒猫の三角/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

S&Mシリーズが終わり、 バツ一の美女にして科学者・瀬在丸紅子が探偵役となる新シリーズが開始。

衆人環視の密室の中で起きた殺人事件。 さらに今作ではゾロ目連続殺人、というミッシングリンクの要素も入ってます。 ハウダニットと共にホワイダニットもポイントなわけですね。

しかしそこはやはり森ミステリらしく、動機の線から攻めるのは無理。 というか、やっぱり理解しようと思っても無理だよなあ。

それにしても登場人物に変な名前が多いですね。 小鳥遊練無と香具山紫子ってどこかで読んだ記憶が…と思ったら、 「地球儀のスライス」に収録されていた「気さくなお人形、19歳」に出てきてましたね。

しかし次作以降の予定、既に9冊もあるのか…すごいな。 しかも「捩れ屋敷の利純」ってノベルスで見かけたら萌絵が出てくるみたいだし、 この刊行予定のが全部Vシリーズなのかどうかもわからないんですが。 まあいいや。文庫化されたのを順番に読むだけです。

(2002.07.20)


13人目の探偵士/山口雅也 (講談社ノベルス)

★★★★ 

山口雅也さんの本当のデビュー作。 あのキッド・ピストルズシリーズの第0作にも当たります。 元はゲームブックとして書かれたものを、 長編に書き直したもので、単行本化されてから10年経ってようやくノベルスまで来ました。

舞台はパラレル英国。 13番まである童謡に合わせて同様に探偵ばかりを狙う連続殺人鬼「猫」。 あの「緋色の研究」から100年の記念すべき「探偵士百年祭」を控えた探偵士協会の建物の中で、 現「探偵皇」が12人目の被害者になってしまった。 死体と共に密室に残されていた記憶喪失の「私」は、3人の探偵士の誰かに依頼し、 72時間のリミット以内に真犯人を見つける必要があった…。

密室、ダイイングメッセージ、消えた凶器、双子、アリバイトリック、記憶喪失の男…。 とにかくミステリの要素をこれでもか、という具合に詰め込んでいて、 お腹いっぱいになれます。元がゲームブックらしく、 途中3人の探偵士のパートを並行して選べるようになっているのですが、 密室の大家・フェル博士の弟子である安楽椅子探偵、 アメリカ出身の細かいことは考えないハードボイルド・タフガイ、 考古学にも造詣の深い夫と協議離婚中の女探偵、 とタイプが全く違う3人なので、 それぞれ全く違った展開を見せて面白いですね。 また、この3つのパートの絡まり具合も絶妙でした。

(2002.07.16)


名探偵の肖像/二階堂黎人 (講談社文庫)

★★★  

パスティーシュやコメディ短編、それに対談、評論を加えた、 ちょっと変わった短編集。二階堂黎人さんのカーに対する愛情がヒシヒシと伝わってきます。

パスティーシュは、ルブランのルパンもの、鮎川氏の鬼貫警部もの、 そしてカーのHM卿ものの3つ。さらにアジモフを意識したというSFものの短編に、 推理小説の特徴を読書界のソムリエ(読むリエ)に例えて大真面目に描いたパロディ短編を加えた5つの短編。 さらにともに「トリック至上主義」を掲げる芦辺拓氏との対談、 さらにカーの全作品の評論が載ってます。 正直、カーは「三つの棺」「火刑法廷」「曲がった蝶番」くらいしか読んでないんで、 評論はほとんどスルーしてしまいましたが…。 まあ、でも二階堂さんの作品の原体験がカーにあるというのは、よくわかりました。

(2002.07.15)


Jの神話/乾くるみ (講談社文庫)

★★★  

1998年に第4回メフィスト賞を受賞した、乾くるみのデビュー作。

全寮制の名門女子高「純和福音女学院」に入学することになった優子を襲う怪事件。 塔から身を投げ自殺した少女、カリスマ生徒会長、「黒猫」と呼ばれる美人探偵…。 果たして事件の背後には一体何が?そして「ジャック」の正体とは?

うーん……。本格ミステリだと思って読み進めていたら、 とんでもなかったというか。いや、それが作者の狙いなんでしょうけど。 この感覚は「パラサイト・イブ」をSFだと思って読み進めていたら…というのに近いかも。

まあ、とにかく、読み始める前にはこんな結末は微塵も予想していなかったことは確かです。

(2002.07.11)


月の砂漠をさばさばと/北村薫 (新潮文庫)

★★★  

これは絵本です。絵はおーなり由子さん。

小学校三年生のさきちゃんと作家のお母さんの何気ない会話を通して、 二人の色々な日常が切り取られています。

北村薫さんの温かい視線が良く出ている作品だと思います。

(2002.07.02)


殺意は幽霊館から 天才・龍之介がゆく!/柄刀一 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

IQ190の天才青年龍之介が探偵役として活躍するシリーズもの、なんでしょうか。 いや、他の作品を知らないもので。 もしかしたらジュブナイル系なのかな? それにしては、龍之介の年齢設定が高いような気もするし。

「幽霊館」を探索しようと訪れた一行の目の前で、 突然空中に浮かび上がった人間の姿。しかし館の三階まで飛び上がったように見えた次の瞬間、それは消えていた。 さらに館の中に入ると、女性が突如窓に現われ、飛び降りたように見えたが、やはりその姿は消えていた。 果たして幽霊なのか? 次の日、館の中で見かけた女性が死体となって発見された…。

こういう天才系探偵だと、だいたい高慢で鼻持ちならない性格のことが多いのですが、 この龍之介は28歳にも関わらず引っ込み思案で臆病者なのが変わっていますね。

内容自体はもう物理トリック満載のど真ん中直球の本格といった風情。 中でも「空中を舞った幽霊」のトリックが、シンプルながら大納得できたので、 ☆一つおまけです。

ああ、これで400円文庫も読み尽くしてしまった…

(2002.07.02)


樹海伝説 騙しの森へ/折原一 (祥伝社文庫)

★★★  

折原さんお得意の叙述トリック物。 もはや400円文庫の分類でも「叙述トリック」って書いてあるし。 いや、書かなくても折原さんってだけで書いてあるも同然ですけどね。

かつて樹海の真ん中にある山荘で起きた一家心中。 その山荘を求めて辿り着きながら戻ってくることのできなかった青年の手記「遭難記」。 その情報を元にして樹海へと入っていくハイキングサークルの面々。 何重にも仕掛けられた罠が登場人物たちを襲う…

折原さんの叙述物でいつも感じるのは、登場人物に感情移入できないことなんですが、 この作品も例に漏れずやっぱり…でした。 こんな奴らならどうなってもいいや、って思っちゃうから、 いまいちサスペンス感が…。 まあ、中編でここまでまとめたのはさすがです。

(2002.07.02)


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