推理小説の部屋

ひとこと書評


図書館戦争シリーズ(4) 図書館革命/有川浩 (角川文庫)

★★★★☆

図書館戦争シリーズ、本編最終巻。 原発テロ未遂を機に、図書隊と良化隊の戦いは新たな局面を迎え、 そして郁と堂上も新たなステージへ…。

面白かったです。すっかり郁と堂上のやり取りがバカップル漫才にしか見えなくなってきましたが。 郁の何気ない一言から始まった大逆転の一手も新鮮で面白かったですし。

そして、これは全くの偶然なのですが、冒頭の原発テロ未遂と、 それに乗じて色々な思惑が交錯するところは、 今の日本の状況と被って色々と考えさせられますね。 「自分が何かを失う可能性を自覚していない、正義を振りかざす『善意の人々』」とか。 しかしそんな痛烈な批判を織り交ぜつつも、 全体としてはあくまでエンターテイメントに徹して書かれていて、楽しめました。 完結に敬意を表して★1つ追加。

来月からの「別冊」も楽しみです。

(2011.06.29)


ブルータワー/石田衣良 (文春文庫)

★★★☆ 

悪性の脳腫瘍で余命数ヶ月を宣告された瀬野周司。 しかし彼の意識は頭痛と共に新宿の高層マンションから、200年後の「青い塔」へとタイムスリップした。 そこは「黄魔」という致死率87%のウイルスが猛威を振るい、 塔の外では生きられない世界だった。 階級社会を凝縮したような塔の最上階で、周司は人類を救うために闘いを決意する。

色んなジャンルの小説を書いている印象があった石田衣良さんですが、 意外にもSFは初めてらしいです。 そして私も、 アンソロジーとかで目にしていたので、初めてな感じがしませんでしたが、 彼単独名義の小説を読み通したのは初めてだったらしい。

タイムスリップ物の変形、「リプレイ」物の未来版、と言った感じでしょうか。 妙に現代と未来で関係者の名前や役割がかぶっているところが面白いですね。 「伝説の嘘つき王子の詩」とか、周りを固める仕掛けも色々と工夫されていて、 楽しめました。

(2011.06.24)


京都・陰陽師の殺人 作家六波羅一輝の推理/鯨統一郎 (中公文庫)

★★★  

民俗学に興味のある新人作家・六波羅一輝。 彼には、事件の様々な断片を無意識の内に整理して真相を暴きだすという特技があった。 婚約者を「鬼」に殺されたというお嬢様からの依頼により、京都を訪れた一輝達の前に、 「安倍晴明の子孫」を名乗る陰陽師が現れ、呪いで殺したという犯行声明を…。

どうもシリーズ物だったみたいです。いきなり第3作から読んでしまいました。 でも特に支障なく読めましたけどね。

無意識に真相をワープロに打ち出す、という推理シーンは、 正直ちょっとキャラとしては弱いかな、と思いました。

(2011.06.23)


デンデラ/佐藤友哉 (新潮文庫)

★★★  

姥捨ての風習に従い、「お山」へ捨てられ、そのまま極楽浄土へと旅立つつもりだった斎藤カユは、 気付くと助けられていた。 そこは捨てられた老婆50人で30年の歳月をかけて形成された共同体「デンデラ」だった…。

基本70歳以上の老婆しか出てこない、という凄まじい設定の小説。 その登場人物一覧に意味はあるのか??と突っ込まざるを得ません。 襲撃派と穏健派の対立、熊の襲撃、疫病の蔓延、 その裏で秘密裏に行われていた殺人事件、とイベント盛りだくさんな中、 カユ視点で「デンデラ」が崩壊するまでを描いています。

(2011.06.18)


No.6 #6/あさのあつこ (講談社文庫)

★★★  

近未来SF小説の第6話。過去感想はこちら→#1#2#3#4#5

ネズミと紫苑は「老」に出会い、No.6誕生の秘密を聞く。 ネズミと紫苑の出逢いは、運命による必然だった? 一方、イヌカシはネズミに指示された作戦を遂行し、開かないはずの矯正施設への扉が開いた…。

どうやら全9巻で完結となった模様。しかし今の文庫刊行ペースだと、 あと3年はかかりそうですね。

7月からノイタミナ枠でアニメ化されるらしいです。 完結までやってしまうとなるとちょっと複雑だなあ。 完結篇の2ndシーズンは文庫完結後、とかにしてくれるとちょうど良いんですけど。

(2011.06.16)


警視庁特捜班ドットジェイピー/我孫子武丸 (光文社文庫)

★★★☆ 

不祥事が続き人気凋落の一途を辿る警察のイメージアップのため、 警視総監と都知事の肝いりで始められた警視庁初の戦隊「警視庁特捜班ドットジェイピー」。 全国から集められた、何らかのスペシャリストではあるものの、性格に難がある5人の美男美女。 射撃の腕は一流だがついつい実弾で試したくなってしまうソルジャーブルー。 あらゆる格闘技に精通するも男に免疫が無く相手を再起不能になるまで打ちのめしてしまうバージンホワイト。 コンピュータの達人にして上司の秘密を暴き警告することに生きがいを感じるデジタルブラック。 童顔の裏に隠された女殺しのテクニックの数々と恐るべき人脈・キューティイエロー。 「難攻不落の美女」にしてその実態は妄想腐女子・ビューティパープル。 彼らが巻き込まれた事件とは……?

我孫子先生お得意のユーモアミステリ。 キャラが極端なので、どう転がしたって面白くなりそうですけど、やっぱり面白かったです。 サスペンス的な要素も詰め込まれていて、楽しめました。

結局ブラックのハッキング技術とか、ブルーの射撃の腕とかは、 事件解決に活かされないままでしたが、続編もあるそうなので、楽しみです。

(2011.06.15)


火村英生に捧げる犯罪/有栖川有栖 (文春文庫)

★★★  

火村&有栖シリーズの短編集。携帯サイトに掲載されたショートショートと言ってもいい短編から、 中編まで、収録された作品はまちまち。

表題作は、一体どんな犯人が火村に挑戦してくるのだろう、と思っていたので、 完全に意表を突かれた形でした。まさかアリスが出動しただけで解決するなんていう犯罪が存在するとは…。

「いつも見事にかずしてくれますもんね、あの人」「アホ。そこがすごいんやないか。いつもはずすということは、実は全てをお見通しなのかもしれへんぞ」
ワトソン役は辛いですねー。

(2011.06.12)


有川浩脚本集 もう一つのシアター!/有川浩 (メディアワークス文庫)

★★★  

「シアター!」を元にした舞台劇「もう一つのシアター!」の脚本を、 なぜか原作者自ら書き下ろすハメになった、著者初の脚本集。

劇団を主役にした原作をさらに舞台にしてしまうというメタな試み。 原作を読み込んで役を作り上げてきた、という役者さん達のなりきり度がスゴいですね。 作者自身が【註】をつけていて、意図していないところでウケたり、 生の舞台は読めない、と言っているところが面白かったです。

(2011.06.11)


もう誘拐なんてしない/東川篤哉 (文春文庫)

★★★  

福岡県の門司でたこ焼き屋台のバイトをしていた翔太郎は、セーラー服の美少女に「助けて」と言われて助けてしまう。 彼女は門司一帯を縄張りとするヤクザ・花園組の組長の娘だった。 彼女の頼みで狂言誘拐を実行することになった翔太郎だったが、 偽札やら死体やら事件は意外な方向に転がり…。

セーラー服美少女絵里香、 バナナの叩き売りからスタートしたこじんまりしたヤクザ花園組、 その組長である父よりも存在感抜群の絵里香の姉・皐月、 等等、キャラクターが魅力的ですね。 青春コメディとしてもクライムミステリとしても読めます。

しかしその裏にしっかりと伏線を張り巡らせて、 ちゃんと本格ミステリとしても成立しているあたりがさすが東川先生ですね。

というわけで、現在文庫化されている7冊を読了。 「謎解きはディナーのあとで」の文庫落ちを楽しみにしています。

(2011.06.09)


小説こちら葛飾区亀有公園前派出所/秋本治×大沢在昌・石田衣良・今野敏・柴田よしき・京極夏彦・逢坂剛・東野圭吾 (集英社文庫)

★★★  

「こち亀」連載30周年、日本推理作家協会設立60周年、「週刊プレイボーイ」創刊40周年、 を記念して、週刊プレイボーイ誌上に掲載された特別企画アンソロジー。 日本推理作家協会所属のベストセラー作家達が、時には自分の作品のキャラクターと絡ませながら、 両さんとの共演を小説化。

大沢在昌は「新宿鮫」と、石田衣良は「IWGP」のマコトと両さんを絡め、 京極夏彦はぬらりひょんと大原部長の青年期にトラウマを与えた事件を絡めています。 それぞれ個性が表れてますね。

最後の東野圭吾の一編は、日本推理作家協会の内輪ネタとも取れますが、 両さんの強引でパワフルな行動原理がどんどんエスカレートする様子や、 綺麗に決まったオチなど、このまま17Pの漫画にしても全く違和感の無い出来だと思いました。

(2011.06.08)


館島/東川篤哉 (創元推理文庫)

★★★  

自らが設計した奇妙な館の螺旋階段の下で「墜落死」していた天才建築家。 しかし墜落現場はどこなのか、見つけることはできなかった。 果たして事故死なのか、殺人事件なのか? 半年後、未亡人の意向によりが再び関係者が集まれられた時、 「密室」の中で新たな連続殺人が…。

「館物」らしい大ネタが炸裂していて、なかなか楽しめました。 続編もあるらしいですね。

美女でありながら酒に目が無く男っぽい性格の沙樹のキャラは、 東川先生の好みなんでしょうかね。 刑事は鵜飼+流平、女探偵は朱美、奈々江はさくら、 という感じがしないでは無いですが…。

(2011.06.04)


QED 〜flumen〜 九段坂の春/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ初の連続短編集。春夏秋冬、四季に合わせて、中学生の祟(タタル)、 高校生の奈々、大学生の小松崎、そして大学院生の御名形史紋、 それぞれの過去が語られます。

タタルと史紋が、同じ女性に一本取られていた、というのはなかなか興味深い接点ですね。 シリーズのファン向け作品、という感じで、楽しめました。

(2011.06.01)


図書館戦争シリーズ(3) 図書館危機/有川浩 (角川文庫)

★★★☆ 

図書館戦争シリーズ第3弾。 茨城攻防戦がメインですが、他に言葉狩りの話やら、 王子様の正体を知ってしまった郁の苦悩やら、 手塚と柴崎がいつの間にか接近してたりとか…。

相変わらずラブってコメって甘々な感じです。 その日常描写があるからこそ、戦闘場面の凄惨さが映えるのかも知れませんけどね。 次巻の「図書館革命」で、メインストーリーは完結。楽しみです。

(2011.05.28)


交換殺人には向かない夜/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★★ 

烏賊川市シリーズ第4弾。烏賊川市に大雪が降った夜、 探偵と大家は浮気調査のために画家の屋敷に潜入調査、 助手とお嬢様は自称・女優と映画鑑賞をしていた。 一方、刑事達は、街で身元不明の夫人の殺人事件を追っていた…。

タイトル通り「交換殺人」がテーマなんですが、 非常にうまく構成されており、見事にやられました。 文句無く、これまでのシリーズ最高の出来です。 相変わらずの、ギャグと見せかけての伏線の張り方も (「そんなのは伏線とは呼ばない!」というレベルのものも含めて)周到です。 詳しい感想は全てネタバレに繋がってしまいそうなので、これくらいで。

しかし「猪鹿村」って、絶対「猪鹿町」になる伏線だと思っていたのに、 それはシリーズのもっと先の作品で、ってことなんでしょうか。

(2011.05.26)


豆腐小僧 その他/京極夏彦 (角川文庫)

★★★  

「角川つばさ文庫」に掲載されたジュブナイル向け原作を再録。 その他、オリジナル狂言や落語を収録した作品集。

「小説 豆富小僧」は、子供向けながらも、妖怪てんこ盛りの京極節炸裂で、 なかなか楽しめました。

(2011.05.22)


完全犯罪に猫は何匹必要か?/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★  

本屋大賞受賞の東川篤哉先生の烏賊川市シリーズ第3弾。

探偵・鵜飼に愛猫の捜索を依頼した「招き寿司」チェーン社長・豪徳寺豊蔵が、 自宅のビニールハウスの中で殺害された。 現場に置かれた巨大招き猫の意味は? 十年前に迷宮入りした殺人事件との関連は?

今度の事件はアリバイ崩し。ビニールハウスに招き猫という非日常的なアイテムを活用して、 なかなか思いついてもやろうとは思わないようなトリックに挑戦しています。

刑事組と探偵組のコラボレーションも絶好調で、 第一の殺人のトリックと犯人解明は刑事が、 第二の殺人のトリックと動機解明は探偵が、とどちらも立てる構成も見事。 大家の朱美も、完全に大家以上の働きを見せているところも面白いですね。

(2011.05.21)


密室に向かって撃て!/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★  

本屋大賞受賞の東川篤哉先生のメジャー第2弾。

烏賊川警察の失態により、何者かによって持ち去られた密造模造拳銃。 残る弾数は6発。ホームレス射殺事件に続き、名門・十乗寺家の屋敷で、 殺人事件が起こる。衆人監視の「密室」の中、犯人はどこへ消えたのか?

メインとなるトリックは「一発ネタ」という気もしますが、 ちゃんとギャグに紛れてしっかりと本格ネタを作りこんでいるところはさすが。 そして、前作では、第一の殺人と第二の殺人の解決役が別でしたが、 本作では、トリックの解明役と、動機の解明役が別、という趣向。 毎回変わった趣向で楽しませてくれます。

(2011.05.19)


密室の鍵貸します/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★  

本屋大賞受賞の東川篤哉先生のメジャーデビュー作。

烏賊川市の貧乏学生・戸川流平は、その日先輩の家で映画を見ていた。 しかしその時、就職を巡って一方的にフラれた元恋人は背中を刺され四階から転落し、 一緒だった先輩もいつの間にか浴室で刺されて死んでいた。 ドアにはチェーンが。密室に閉じ込められ、第一容疑者となってしまった流平の運命は?

ユーモアをちりばめながらも、メインのところにはちゃんと「本格」テイストのトリックを用意しているあたり、 なるほどよくできているなあ、という印象。探偵役が、 まさかの冴えない中年刑事ってところも意表を突いていました。 烏賊川市シリーズも結構出ているようなので、 楽しみにしています。

(2011.05.14)


モップの精は深夜に現れる/近藤史恵 (文春文庫)

★★★☆ 

天使はモップを持ってに続く、 必殺掃除人・キリコを探偵役とした短編シリーズ第2弾。

前作は大介視点で語られていましたが、キリコと大介が結婚したことで、 今作の語り手は作品ごとの「被害者」の一人称で進んでいきます。

近藤さんの作品の常として、結構起きる事件の背後にあるのはドロドロしてたり、 人間の悪意が痛かったりするんですが、それをキリコのキャラクターと、 解決後の前向きな姿勢が救っている感じですね。

まだ続きもあるようですので、短編集としてまとまるまで気長に待ちましょう。

(2011.05.14)


壁抜け男の謎/有栖川有栖 (角川文庫)

★★★  

「ジュリエットの悲鳴」に続く、作者のノンシリーズの短編集。 前作以上にジャンルもページ数もバラバラで、犯人当てから、パスティーシュ、ショートショート、 SF、近未来、新聞に掲載された小説、さらには官能小説まで揃っています。

本格ミステリのイメージが強い作者の色んな面が見られて、楽しめました。 中では「屈辱のかたち」が良かったかなあ。

(2011.05.10)


図書館戦争シリーズ(2) 図書館内乱/有川浩 (角川文庫)

★★★☆ 

第2弾。周囲のキャラクターを掘り下げるために、 小牧に憧れ続ける幼馴染の女の子、柴崎の恋愛事情、手塚の兄との確執、 そして郁の両親来襲、の各話を収録。さらにはまさに「内乱」というべき、 図書隊の中での派閥争いに巻き込まれる話も。

「王子様」ネタはもっと引っ張るのかと思ってましたが、 あっさりと2巻目にしてバレましたね。 ここからさらに2巻分、どうやって引っ張るんでしょうか。楽しみです。

(2011.05.03)


図書館戦争シリーズ(1) 図書館戦争/有川浩 (角川文庫)

★★★☆ 

アニメ化もされた「図書館戦争シリーズ」がついに文庫化。 5か月連続リリース。

「メディア良化法」が成立して30年。不条理な検閲から本を守るために結成された図書隊。 高校時代に出会った「王子様」を追いかけて、防衛隊を志願した女の子・笠原郁は、 女子では全国初の図書特務部隊(ライブラリー・タスクフォース)に抜擢され…。

ラブコメと自衛隊、さらにSFという、作者の大好きな要素をミックスして、 独自の世界観を作り上げているだけあって、乗りに乗っている感があります。 女性にしては大柄の郁と、チビの上官・堂上という組み合わせも絶妙ですし、 柴崎、小牧、手塚、といった周りのキャラクターもいい味出してます。

本編は4冊、番外編含めて6冊で完結だそうです。楽しみにしています。

(2011.04.29)


学ばない探偵たちの学園/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★  

「謎解きはディナーのあとで」が本屋大賞を受賞。 東川篤哉先生の文庫落ちした作品です。

国分寺市にある芸能科もある私立鯉ヶ窪学園に転校した赤坂通は、 文芸部に入るつもりが、何の間違いか探偵部に入部してしまう。 部長の多摩川と部員の八橋、強烈な個性の二人に翻弄されている内に、 学園内で本物の密室殺人が起きてしまい……。

コメディテイストでとても読みやすいです。 それでありながら、メイン部分はちゃんと本格ミステリのお約束を踏襲しています。 単発なんでしょうかね?結構いろんなキャラが出てきているので、 シリーズ物にしないと勿体ないような(特に放送部員兼探偵部員の山下佳代子は、 登場シーンが少な過ぎるような…)。

ちなみに国分寺市には警察署は無いので、「国分寺署」の存在自体がフィクションなんですよね (隣の小金井警察署が国分寺市まで管轄にしています)。

(2011.04.26)


流星の絆/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★★ 

ドラマ化された話題作がようやく文庫化。

幼き頃、流星群を見に行った間に両親を殺された三兄弟は、犯人を見つけ出して敵討ちをすることを誓う。 奪われる側から奪う側へ…3兄弟のコンビネーションで詐欺を続ける彼らが選んだ次のターゲットは、 両親の仇の息子かも知れないのだった…。

犯人当てのミステリと詐欺のクライムサスペンス、両者が絶妙に融合していて、 エンターテイメントとして素晴らしいですね。読後感も抜群です。

しかしドラマを先に観ているからか、場面場面で登場人物が脳内で二宮和也、錦戸亮、戸田恵梨香、要潤、に変換されて困った困った。 同じドラマ化でも、「新参者」なんかは、先に加賀恭一郎シリーズを原作で読んでいるので、 他の加賀恭一郎ものを読んでも脳内で阿部寛に変換されたりすることは無いんですけどね。 あと、あのドラマがかなり原作に忠実に作られていることもわかりました (クドカンテイスト溢れる詐欺の再現シーンは別として)。

(2011.04.21)


夢は枯野をかけめぐる/西澤保彦 (中公文庫)

★★★  

「老い」をテーマにした連作短編集。 48歳独身にして、早期退職をして無職となった羽村祐太。 幼い頃のトラウマから趣味も持たず、倹約に努めてきた彼は、 本人の意思に反して意外とモテモテだったりするのだった…。

章ごとに語り手が変わるタイプの連作短編集。 老いがテーマの「日常の謎」を解き明かす構成。 テーマがテーマだけに、結末が寂しいのは仕方ないのかも知れません。

(2011.04.16)


燦(1)風の刃/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

田鶴藩藩主の次男・圭寿に仕える伊月。 ある日、藩主の鷹狩りの最中に、疾風のように現れた刺客の少年・燦。 鷹を操り、剣の腕も伊月以上の少年は、しかし何故かとどめを刺さずに去ってしまう。 果たして燦のいう「神波の一族」の正体とは?

文庫書き下ろしの時代劇新シリーズ。 あさのさんの作品では対照的な少年2人がW主人公となるケースが多いですが、 このシリーズも例に漏れず。ただし、伊月と圭寿、伊月と燦、 という2組の関係があるところが他の作品と少し違うところでしょうか。 で、逆に女性キャラは影が薄いのも相変わらずで、篠音は次巻以降出て来ないないんではなかろうか…。

(2011.04.13)


恋文の技術/森見登美彦 (ポプラ文庫)

★★★★☆

著者初の書簡体小説。京都の大学院から遠く離れた能登のド田舎に飛ばされ、 クラゲの生態を研究するハメになった守田一郎。 寂しさを紛らわせるために、友人や先輩、妹にかつての家庭教師の教え子、 と様々な人と文通を始めるのだが…。

守田一郎からの手紙のみで、返信が一切ないというトリッキーな構成。 しかし色々な人への手紙を時系列を追って読んでいくうちに、 周りの人間関係や、どんな事件が起こったのか、などが手に取るようにわかってきます。 いやー、面白かったです。

(2011.04.09)


寒椿ゆれる 猿若町捕物帳/近藤史恵 (光文社文庫)

★★★☆ 

猿若町捕物帳シリーズ第4弾。3編の中編を収録。

今巻では、3作を通じて2つの柱が。1つは堅物同心・千蔭の年下の「母上」お駒の妊娠。 そしてもう1つは千蔭のお見合い相手・目が良く数を数えるのが得意な変わり者・おろくとの縁談。

巴之丞や梅が枝といったレギュラーキャラはもちろん健在。 さらに北町奉行所のライバル同心・大石新三郎も、意外な形で物語に絡んできます。 まだまだ先が読みたくなるシリーズです。

(2011.04.02)


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