推理小説の部屋

ひとこと書評


パズラー 謎と論理のエンタテインメント/西澤保彦 (集英社文庫)

★★★☆ 

西澤保彦さんのノンシリーズの短編集。バラエティに富んだ6編の短編を収録。

提示される謎を、登場人物達がディスカッションしながら真相に迫っていく、 というパターンが多い西澤さんの作品ですが、 今作では一人で自問自答しながら真相に迫ったり、 さまざまなパターンで真相に迫っていきます。

中でも、あるはずのアリバイを主張せずに、その実「詰み」へと追い込んでいる「アリバイ・ジ・アンビバレンス」が印象に残りました。 よくこんなシチュエーションを思いつくなあ…。 ツンデレ?な委員長のキャラも○。

(2007.09.28)


エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室/佐藤友哉 (講談社文庫)

★★★  

「鏡家サーガ」第2弾。鏡兄弟の次女にして同人オタクの予言者・鏡稜子の高校時代の話。 というわけで、時系列的には「フリッカー式」よりも前に当たります(公彦はまだ小学生だし)。

人肉しか食べられなくなってしまった少女。 コスプレ少女と同人少女。 いじめられる少女といじめる少年たち。 「自分の姿を奪われた」という美少女…。 2年B組に目を見張る美少女が転校してきた時、惨劇の幕は切って落とされた。 絡み合う事件の真相は?

何というか…。もしこのネタ一発で書かれたら怒ると思うんですけどね。 ただ、ここまで過剰に重ねられるともういいか、と。 そんな感じでございます。一種のメタミステリなんでしょうね。

最終的にほとんど何も解決してないところも見事だなあ…。

(2007.09.21)


ドアの向こう側/二階堂黎人 (講談社文庫)

★★★  

ハードボイルド・幼稚園生探偵・渋柿信介シリーズ第3弾。

「B型の女」の南武線を使ったアリバイトリックがあんまりにも直球なんで笑った。 いや、南武線使ってる人なら多分誰でも思いつくのでは…。 そんなネタでも料理の仕方次第でミステリのネタになるんですね。

しかしこのスタイルで、あまりマジな殺人事件とかはミスマッチですよね。

(2007.09.18)


方舟は冬の国へ/西澤保彦 (光文社文庫)

★★★★ 

失業中の十(つなし)和人が、法外な報酬と共に請けた仕事は、カメラと盗聴器の仕掛けられた別荘で、 初対面の女性と少女と、仲睦まじい「家族」を1ヶ月の間演じる、という奇妙なものだった。 果たしてこの奇妙な依頼の目的は何なのか? やがて滞在を始めた三人の周りで奇妙な現象が起き始める…。

超能力は出てくるのですが、西澤さんお得意のいわゆる「SF新本格」とはちょっと趣が異なります。 殺人事件が起こるわけではないし。謎は色々出てきますが、本筋とは直接関係あったりなかったり。 敢えて分類するとファンタジック・ラブ・ストーリーという感じでしょうか。

余韻を残したラストがとても印象的でした。

(2007.09.11)


キマイラの新しい城/殊能将之 (講談社文庫)

★★★  

石動戯作シリーズ第5弾。自らの城の密室の中で非業の死を遂げたフランス中世の騎士・エドガー。 彼の亡霊が、古城を移築したテーマパークの社長・江里に取り憑いた。 江里は魔術師・イスルギーに依頼するのであった。 「私の死の真相を探ってくれ」。

前代未聞の、「被害者本人からの依頼による密室殺人事件の解明」。 一筋縄ではいかないミステリを書き続ける作者らしい趣向ですが、 メイントリックのバカバカしさにはさすがに脱力…。 うん、まあ確かにね…。

まあでも中世の騎士の目から見た現代の東京の描写など、 変則タイムスリップ物としてもなかなか楽しめました。

(2007.09.04)


さよならの代わりに/貫井徳郎 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

劇団「うさぎの眼」の端役の役者・和希の前に一人の美少女が現れた。 彼女は和希に「講演最終日、主演女優の控え室の前を見張っていて欲しい」 と意味不明な願いを告げる。そして僅かに目を離していた隙に、 その女優は殺されてしまった。彼女は和希に告げる。 「私は容疑者を救うために27年後の未来からタイムスリップしてきた」

本格が基本で、どちらかというと社会派よりの作風が目立つ貫井さんだけに、 ど真ん中のSF青春ミステリってのは意外でした。 しかしタイムスリップ物が好きな私としてはぐいぐいと引き込まれてしまいました。

しかし切ない…。このほろ苦い終わり方は何ともなあ…。

(2007.08.28)


グラスホッパー/伊坂孝太郎 (角川文庫)

★★★☆ 

亡き妻の仇を討つため、薬物・臓器密売組織《令嬢》に近づいた鈴木。 政治家の秘書等を自殺させる能力を持つ「自殺屋」・鯨。 女子供であろうが躊躇なく殺す殺し屋・蝉。 《令嬢》の社長・寺原の息子が「押し屋」に殺された事から、 彼らの運命は絡み始める…。

伊坂さんお得意の視点シャッフルで進んでいく「殺し屋業界」の物語。 どのキャラも立ってて、それだけで読ませます。 何気ない雑談にも伏線が潜んでいたりするので、あなどれませんね。

殺し屋・業界の人たちがたくさん出てきて感覚が麻痺してしまいそうな中、 ただ一人一般人代表として読者の視点を代弁してくれる「鈴木」が貴重な存在です。

しかし伊坂作品の殺し屋は漢字一文字ってのが多いんですかね。 「鯨」「蝉」「槿」、「オーデュポンの祈り」には「桜」ってのもいたなあ。

(2007.08.26)


No.6 #3/あさのあつこ (講談社文庫)

★★★  

近未来SF小説の第3話。過去感想はこちら→#1#2

沙布が当局に捉えられた。ネズミと紫苑は、全く別の経路からそれぞれその事を知る。 そして、矯正施設へと乗り込む決意をする…。

あとがきによると、本当はこの3巻で既に乗り込んで派手なアクションを繰り広げる予定だったのに、 気づいたら西ブロックにいる間に色々考えてしまっていたらしいです。

No.6内部では、どうやら首謀者たちも想定していない事態が進行している様子。 これって紫苑が生き残ったことと関係しているんでしょうか?

そしてついに出てしまいました、「お別れの○○」。いや、そういう要素があるのはわかっていたけど、 それを本編でやってしまうのはどうなのよ。

(2007.08.22)


紅楼夢の殺人/芦辺拓 (文春文庫)

★★★☆ 

中国五大奇書の一つ「紅楼夢」をモチーフとした本格推理小説。 「大観園」を舞台として次々と起こる不可能犯罪。 果たして犯人は誰なのか?そして何のためにこの過剰な装飾は成されたのか?

中国古典×本格推理、という一見あり得ない組み合わせ。 しかし読了してみると、これはこの舞台でないと成立しない、 新たな本格推理の扉を開けた作品になってますね。見事です。

登場人物の名前がみな似た感じで覚えにくいのは難点ですが、 文章はいつもの芦辺調で読みやすいし、頑張って読み通すだけの価値はあります。

(2007.08.14)


星月夜の夢がたり/光原百合 (文春文庫)

★★★  

作者自らが「メルヘン」と呼ぶ32篇の小さな物語を、イラストで彩った絵本のような一冊。

神話や昔話の「異説」だったり、ファンタジーだったり、ちょっとホラーチックだったり、 恋愛話だったり、とバリエーションに富んでいて、ページ数もまちまちで、 まさに「宝石箱」という表現がピッタリ来るような短編集でした。 ミステリ作家だと思っていた光原百合さんの意外なルーツを見た、という感じです。

(2007.08.07)


暗号解読 (上)(下)/サイモン・シン (新潮文庫)

★★★★ 

フェルマーの最終定理のサイモン・シンが書く、 古代から続く暗号作成者と暗号解読者の戦いの歴史。

換字式暗号から始まり、機械式になって解読不能とまで言われたエニグマの登場、 そしてそのエニグマを解読した天才たち。 さらに失われた古代文明の文字・線文字Bの解読。 コンピュータの登場によって鍵交換を不要とした公開鍵暗号の登場、 さらにプライバシーを保証する認証、そして未来の暗号系・量子暗号まで、 例によって非常にわかりやすく、面白く書かれています。

職業柄暗号には普通の人よりは詳しいつもりだったんですが、 アラン・チューリングがエニグマ解読にそんな貢献をしていたとは知りませんでした。 また、第二次世界大戦で最も活躍した暗号は、実はネイティブ・アメリカンのナヴァホ族の言語だった、 という話も興味深かったですね。

最後の懸賞問題への挑戦も含めて非常に興味深く読めたのですが、 上下巻に別れてしまっているために、上巻で参照されている補遺が下巻にある、 という構成だけはどうにかして欲しかったです。上巻の分は上巻に載せて欲しかったなあ…。

(2007.08.05)


天使の歌声/北川歩実 (創元推理文庫)

★★★  

親子関係を巡る6つの物語。探偵・嶺原克哉が挑む6つの事件簿。

真実の絆はDNA鑑定を巡る連作短編集でしたが、 こちらもテーマは親子関係。ただし、探偵役が共通と言うだけで、 各話同士のリンクは薄目。 もう少し連作短編集ならではの仕掛けがあるのかと期待していたんですが、 そこはちょっと肩透かしでした。

あとは、話によって仮説検証のところがちょっとくどい印象を受けましたね。

(2007.07.31)


重力ピエロ/伊坂幸太郎 (新潮文庫)

★★★☆ 

落書と放火と遺伝子の物語。

兄・泉水と、二つ下の弟・春。二人が揃えば無敵だった。 連続放火と落書(グラフィティ・アート)の法則。 そして、遺伝子のルールとの奇妙なリンク。 謎解きの果てに現れる真実とは?

「オーデュポンの祈り」「ラッシュ・ライフ」は、 視点も時制も断片的に切り替わる手法を採っていましたが、 今作は兄・泉水視点で固定。しかし断片的な回想が挟まる上に、 各章に名前がついているので、よりシャッフル感は強くなっているかも。

泥棒兼探偵の黒澤やら、不思議な島へ渡ったことのある男やらも出てきて、 前作へのリンクもバッチリ。ということは、最後の方に出てきたペットショップは、 「アヒルと鴨のコインロッカー」へのリンクで、 あのゴールデンレトリーバーは「チルドレン」へのリンクだったりするのでしょうか。

(2007.07.24)


消える総生島 名探偵夢水清志郎事件ノート/はやみねかおる (講談社文庫)

★★★  

名探偵夢水清志郎事件ノートシリーズ第3弾。 今回は、無人島とも言える島で、人間消失・館消失・山消失の謎に挑みます。

メイントリックの大筋は、ミステリ慣れしている人なら大体想像は付くと思うのですが、 核心部分は読めませんでした。ちょっとそれは私の想像力の斜め上を行っていた…。

あんまり人間関係に進展がなかったので、シリーズ物としてはちょっと評価低め。 次回作は「シリーズ屈指の傑作」らしいので、期待したいと思います。

(2007.07.17)


ラッシュライフ/伊坂幸太郎 (新潮文庫)

★★★★ 

「金で買えない物など何もない」と豪語するパトロンと共に新幹線に乗る新進画家、 群れることを嫌い美学を持って仕事を行う泥棒、 父に自殺され「神」に憧れる青年、 不倫相手の妻の殺害を企む女性カウンセラー、 リストラされ40社連続不採用中の中年男性…。 5つの物語が交錯し、さらに幕間に現れるバラバラ死体。 そして騙し絵のごとき真実が浮かび上がる…。

伊坂幸太郎さんの第2作。 第1作の「オーデュポンの祈り」もカットバックを多用していましたが、 今度は5つの物語が並走し、しかも途中で絡み合うという離れ業。 段々と絡んだ糸が解れていって、最後にパズルのピースがピッタリハマるように落ち着くところは、 何とも言えない快感ですね。

また、他の伊坂作品へのリンクも多数あって、他の作品を読むのも楽しみになってきました。

(2007.07.17)


ちゃれんじ?/東野圭吾 (角川文庫)

★★★☆ 

40過ぎのおっさんがスノーボードに目覚め、今日も雪山へ。

さいえんす?に続くエッセイシリーズ。 あちらは科学雑誌に載っていたので、科学の話題が中心でしたが、 こちらはそういう縛りはなかったらしく、 割と好き勝手書いているようです。

書き下ろし?の短編小説「おっさんスノーボーダー殺人事件」も収録されていて、 お得な一冊?

しかしこんなにスノーボードに行きまくっていて、 それでも書く時間があるんだなあ…。 あと東野さんって、奥さんに逃げられていたんだ、知らなかった。

ところで、くろけんさん、悪いけどこれ読んだ人は間違いなく好感度下げると思います……。 まあ知名度は上がるでしょうけど。

(2007.07.10)


オーデュポンの祈り/伊坂幸太郎 (新潮文庫)

★★★★ 

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。 江戸時代以来外界から遮断されている「荻島」には、嘘しか言わない画家、 詩集を読む殺し屋、地面に寝転がる少女、など変な人ばかり。 そして極め付けが、人語を操り、「未来が見える」カカシ・優午。 そのカカシの優午が、何者かに殺された。 なぜ優午は、自らの死を予見できなかったのか? あるいは予見したのに告げなかったのか?

伊坂幸太郎さんのデビュー作。 「荻島」という、今の日本とは異なるルールで動く異世界を構築し、 その中のルールに従って、謎を解明していく、というタイプの物語。 敢えて探すと、日常世界に一つだけ「飛び道具」である超能力を導入する西澤保彦さんのSF新本格シリーズが近いのかも知れませんが、 この作品に限っては「荻島」という世界そのものを一から創造しているので、 よりファンタジー色は強いですね。しかしその中でもしっかりとルールが存在して、 それまで謎だったさまざまな断片が、ピッタリとハマっていくところはさすがです。

しかしこのタイトル、なんというか、内容が伝わりにくいですよね。 「オーデュボンの祈り」というタイトルで、こんなブッ飛んだ内容だなんて、 想像も出来ませんでした。

(2007.07.10)


最後の記憶/綾辻行人 (角川文庫)

★★★☆ 

発症と共に急速に白髪化し、新しい記憶から順に失っていき、やがて死に至る脳の病「白髪痴呆」。 もはや子供たちの名前さえ思い出せないほど記憶を失っている母・千鶴の脳に残る、 「最後の記憶」とは、幼い頃に体験したという「凄まじい恐怖の記憶」だけだった。 全身黒尽くめの顔のない男、突然の白い閃光、ショウリョウバッタの飛ぶ音、 そして逃げ惑う子供たちの悲鳴…。 母と同じ病気が自分にも遺伝していたら、という恐怖から生きる気力を無くしていた波多野森吾だったが、 幼馴染の藍川唯と共に母の出生の秘密を探る旅に出る。

「囁きシリーズ」や「眼球綺譚」のような幻想譚(「咲谷由伊」も出てくるし)。 しかし散りばめられた伏線が最後にパズルのピースのようにハマっていくところは、 さすが新本格の盟主といったところでしょうか。ミステリともホラーともサスペンスともつかない、 綾辻ワールドとしかいいようのない世界ですが、私は結構好きです。

しかし唯のあからさまなラブラブ光線に気づかない森吾の朴念仁っぷりにはもう…。

(2007.07.07)


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