推理小説の部屋

ひとこと書評


レタス・フライ/森博嗣 (講談社文庫)

★★★☆ 

90ページの中編2本と、10〜30ページのショートショート・短編8編を収録した短編集。

中編の1つ「ラジオの似合う夜」は、林さんの一人称という珍しい一編。 林さんの天然ジゴロ体質が明らかに。無自覚だったのか…。

もう一編の中編「刀之津診療所の怪」は、Gシリーズのメンバーが登場。 しかし萌絵と海月が初対面だったりするってことは、時系列的には「φは壊れたね」より前にあたるのかな? ラストに判明する医師の正体がなかなかファンのツボをくすぐりますね。

(2009.03.31)


クリスマス・テロル invisible×inventor/佐藤友哉 (講談社文庫)

★★★  

高校受験を控えた女子中学生・小林冬子。衝動に突き動かされ、貨物船に乗り込み、 辿り着いた先は小さな孤島。拾われた冬子は、小屋の男の監視の仕事を任される。 来る日も来る日も同じ行動を繰り返す男は、しかしある時突然冬子の前から姿を消した…。

佐藤友哉の問題作。本編がある意味壮大な前フリで、全ては「終章」にある、というとんでもない構成。 作者から読者に仕掛けられたテロル。

しかしこのとんでもないテロルのお陰で当時の作者が復活できたのだと思うと、 なかなか感慨深いものが。

そして文庫版のために作者自らが書き下ろした解説もなかなか読み応えがあります。

(2009.03.25)


ネクロポリス(上)(下)/恩田陸 (朝日文庫)

★★★★ 

英国と日本の文化が奇妙に融合した土地・Vファー。 古くからある風習・ヒガンで訪れるアナザー・ヒルでは、 亡くなった人々が「お客さん」として現れるという。 嘘をつけない「お客さん」との対話は、証拠としても採用される。 しかし今年のヒガンは、「血塗れジャック」の被害者5人が現れるのか、 「黒婦人」はどうなるのか、と言った話題で持ちきりだった…。

とにかく世界観に圧倒されます。イギリスと日本の融合っぷりとか (お稲荷さんにオムレツが供えてあったり)、細かい描写がされているので、 本当にアナザー・ヒルを訪れたかのような臨場感が得られます。

人間消失や密室殺人といった事件はむしろおまけで、 何しろ「アナザー・ヒルならではのルール」に支配されているので、 推理するとかそういう次元ではないですよね。 そういうことが起こり得るのも含めてアナザー・ヒルなんだ、と補強する材料になってます。

(2009.03.20)


秋期限定栗きんとん事件(下)/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★☆ 

上巻発売から半月も経たずにリリース。これなら同時発売もできたんじゃないの?

放火事件を追う瓜野君と、裏で暗躍する小山内さん。 一方、仲丸さんに二股をかけられていることを知った小鳩君は…?

小市民互恵団、元鞘。 仲丸さんはまあ自業自得なところもあるけど、 瓜野君はホントにお気の毒。まあ相手が悪過ぎたということで。 小山内さんの怖さが、最後の一行に凝縮されているなあ。

(2009.03.15)


カンニング少女/黒田研二 (文春文庫)

★★★☆ 

姉の死の真相を探るため、難関私大・馳田学院入学を決意する玲美。 しかし彼女の学力では合格どころか、受験さえさせてもらえない。 そこで優等生・愛香、理系オタク・隼人、陸上インターハイ選手の杜夫の協力を得て、 完璧なカンニングによる入試突破を試みるのだった。

青春コンゲーム小説。ちょっと馳田受験を目指す動機付けがあまりにも強引過ぎる感じはしますが、 奇抜なカンニングトリックのアイデアが楽しいですね。 「カンニング」を扱っているはずなのに、青春と友情で何とも爽やかな読後感。

(2009.03.14)


The MANZAI 5/あさのあつこ (ピュアフル文庫)

★★★☆ 

シリーズ第5弾。新年を迎え、今年こそは秋本のペースに乗せられないように、 と誓う歩だったが、やはり身についてしまったボケとツッコミの習性はぬぐいようもなく…。

期間でいうとこれまでで最短か?除夜の鐘から一日経ってないんじゃないでしょうか、 と思ったら最後の数ページで少し時間が経っているか…。 いよいよ中学卒業、そして「漫才甲子園」なる存在も明らかにされましたが、 高校編もやるんでしょうか。

個人的には秋本が森口の腐女子妄想に「オチがない」とダメ出しするところが面白かったです。 そりゃあ、オチないだろうよ。

(2009.03.12)


ペルソナ探偵/黒田研二 (講談社文庫)

★★★☆ 

黒田研二先生の第2作目。チャットルーム「星の海」に集まった作家を志す6人の男女。 それぞれの身の上に起こった不思議な事件も、 チャットルームのリーダー・カストルにかかればたちどころに解決。 しかしそんな彼らに迫る悲劇の影…。最初で最後のオフ会の場で、全てが明かされる。

連作短編形式。それぞれの短編のトリックは小粒ですが、伏線が散りばめられており、 最後にそれらが結実する、という連作短編ならではの醍醐味が味わえます。

(2009.03.06)


秋期限定栗きんとん事件(上)/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★☆ 

「小市民シリーズ」第3弾。シリーズ初の上下巻分冊で2ヶ月連続リリース。 しかし「2月中旬」になってたのに、実際に発売されたのは27日…。 創元社の2月って何日まであるんでしょうね。

小市民としての袂を分かつことになった小鳩君と小山内さん。 そんな小鳩君にも彼女ができました。 デート中もついつい推理癖が出て怪訝な顔をされる小鳩君。 一方、小山内さんには年下の熱血新聞部員・瓜野君が。 木良市連続放火事件を追う彼をよそに、背後で暗躍する小山内さんの影…。 果たして一連の事件と小山内さんとの関わりは?

「ぼく」が一人称の小鳩君パートと、「おれ」が一人称の瓜野君パートが交互に繰り返される構成。 タイトルは「秋期限定」となってますが、秋から始まって春まで続いてます。 何を考えているのかわからない小山内さんの意味深な態度が何とも不気味。 果たして小鳩君と小山内さんの再会はあるのか?といったところで以下次巻。

(2009.03.01)


スカイ・イクリプス/森博嗣 (中公文庫)

★★★☆ 

「スカイ・クロラ」シリーズ初にして唯一の短編集。 本編で謎だった伏線の数々が、この短編で明らかになる! …という触れ込みだったようですが、読み解くのに要求されるレベルが高過ぎた(笑)。

巻末の解説である程度のところまでは詳しく解説されてますが、 謎が全て解けた、というところまでは行ってません。 きっとどこかに詳しく解説したサイトとかあるんだろうな…。

本編では脇役に過ぎなかったキャラが主人公となっている短編なんかもあるので、 世界観の広がりには役に立ってます。

(2009.02.28)


宇宙創成(上)(下)/サイモン・シン (新潮文庫)

★★★☆ 

「フェルマーの最終定理」「暗号解読」に続く、 サイモン・シンのサイエンス・ノンフィクションシリーズ第3弾。 単行本時は「ビッグ・バン宇宙論」だったのですが、文庫化に当たって「宇宙創成」に改題。

今回のテーマは「宇宙」。天動説の昔から、ビッグ・バンモデルが確立されるに至るまでの、 さまざまな科学者・天文学者たちのドラマが、コンパクトにかつ濃密に描かれてます。 従来のモデルを否定する新たなモデルが提唱され、対立し、 やがて新しい証拠を掴むための観測技術が確立し、新しいモデルへと置き換わっていく… という科学のアプローチを徹底的に描き出してます。

ビッグ・バンモデルが正しいことが証明されるまで、で実質終わっているので、 最新の宇宙論に関してはあまり書かれてません。 しかし割と最近まで、ビッグ・バンモデルに対抗するもう一つのモデルがあった、 ということは知りませんでした。

(2009.02.27)


ラスト・イニング/あさのあつこ (角川文庫)

★★★☆ 

「バッテリー」シリーズの最後の新田東との練習試合、 その直前を描いた短編「マウンドへと」と、その後を描いた中編「天藍の空」を含む「ラスト・イニング」、 巧の弟・青波視点の短編「空との約束」、小学生時代の豪が巧と初めて出会った「炎陽の彼方から」を収録。

さあ試合開始!ってところで終わってしまったバッテリー本編ですが、 試合そのものは詳しくは描写されていないものの、ちゃんと結果はわかってすっきり。 しかし主人公は瑞垣ですか?ってくらい、瑞垣視点が多いですね。

(2009.02.22)


理性の限界 /高橋昌一郎 (講談社現代新書)

★★★★ 

社会科学の限界を示す「選択の限界」、 自然科学の限界を示す「科学の限界」、 論理学の限界を示す「知識の限界」の3章からなる、論理学ディベート。

「選択の限界」では、万人にとって本当に公平な投票システムが存在し得ない、 という民主主義の限界を示した「アロウの不可能性定理」をはじめ、 「囚人のジレンマ」や「ナッシュ均衡」などの「ゲーム理論」についてもわかりやすく説明されています。

「科学の限界」では、「ハイゼンベルグの不確定性原理」と、 さらにそこから導かれる電子銃の二重スリットの実験などについても触れられています。

「知識の限界」では、自己言及のパラドックスから、ぬきうちテストのパラドックス、 そして「ゲーデルの不完全性定理」、さらには「チューリング・テストの停止問題」 にまで言及されてます。

「ロマン主義者」や「カント主義者」などの極端な思想の持ち主から、 「大学生」や「会社員」などの素人キャラも含めたディベート形式を取っているため、 どの話題も専門的になり過ぎず、パズルやたとえを使ってわかりやすく解説されてます。

(2009.02.22)


ネコソギラジカル(上) 十三階段/西尾維新 (講談社文庫)

★★★  

戯言シリーズ最終章の第1弾。語り部・ぼくの“敵”・狐面の男率いる“十三階段”との対決が始まる。 12人しかいない“十三階段”の13人目のサプライズゲストとは…?

登場人物紹介、多ッ!というわけで、 これまでのシリーズで出てきたオールスターキャストで送る最終章。 「6年前」のことやら妹のことやら玖渚とのことやら、“いーちゃん”の過去の因縁がどうやら全て清算されるシリーズになりそうな感じですね。

しかしこれまで何度も“殺し名”については触れられてきたと言うのに、 同じアパートの“闇口”と“石凪”に気づいていなかった、というのはいくら何でも…。 まあでもあの朴念仁っぷりに比べれば幾分マシな方か…。

(2009.02.17)


夢はトリノをかけめぐる/東野圭吾 (光文社文庫)

★★★  

2006年のトリノオリンピックを題材としたちょっと変わったエッセイ。 照れ隠しなのか、東野圭吾本人ではなく、飼い猫の「夢吉」を語り部として、 SFチックな物語の体裁を採ってはいますが、実際にトリノに行って体験記が元になっているようです。

東野さん本人もウインタースポーツが好きなので余計に思い入れがあるのでしょうが、 このままではダメだと言ったダメ出しも含めて、厳しい中にも愛に溢れたエッセイになってます。

しかし編集者の前で思いつきで発した発言が元で実際にトリノ行きが決まってしまい、 しかもその後直木賞を受賞することになってしまって出発の前日がその祝勝会、 というのは、何と言う運命のイタズラか…。

文庫版書き下ろしで、「2056クーリンピック」も収録。

(2009.02.13)


そして名探偵は生まれた/歌野晶午 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

中篇3編と、ボーナストラック短編1編を収録した中短編集。 共通テーマは「広義の密室状況における殺人」?

表題作「そして名探偵は生まれた」は、一種の名探偵パロディ本格。 現代日本において名探偵が存在したらどうなるか?というリアルシミュレーションにもなっているような感じですが、 パロディらしくオチの皮肉さが効いてます。

「生存者、一名」は以前400円文庫で出た物の再録。 伏線の張り方とミスリードを誘う情報の提示の仕方が何とも絶妙。 サスペンスとしても読める一編。

「館という名の楽園で」も同じく400円文庫で出た物の再録。 金と力を持ったミステリマニアが人生の最後に叶える夢とは? 推理ゲームをベースとしていながらも、どこか物寂しさを覚える読後感。

ボーナストラック「夏の雪、冬のサンバ」は、外国人ばかりが住む安アパートで起こった、 「雪の密室」における殺人事件。密室トリックとアリバイトリックの融合のさせ方、 および叙述の使い方あたりは、これがベースとなってあの長編が生まれたんだろうなあ…と思わせるところもあったり。

2/4が既読だったという意味でお買い得感はちょっと薄れましたが、 どれも「フェアな手掛かりを示した上で読者を騙してやろう」という気概に溢れる作品ばかりで、 本格好きとしてはやはりこういう姿勢には敬意を表しますね。

(2009.02.12)


少女には向かない職業/桜庭一樹 (創元推理文庫)

★★★  

あたし、大西葵13歳は、中学2年生の1年間で、人をふたり殺した。 少女の魂は殺人に向かない。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけ。 宮乃下静香だけだったから。

一言で言うと「ジュブナイル・ハードボイルド」といったところでしょうか。 中2女子の一人称で、学校では陽気なキャラを演じているものの、 家では酒びたりの義父に怯え、母からは無視され、 追い詰められた少女の前に現れたゴスロリファッションの奇妙な女の子。

大人っぽい割に、あまりにも幼稚な静香の「作戦」にチグハグなものを感じていたのですが、 二人の関係性が、ラストで鏡のように反転する様子はなかなか見事でした。

(2009.02.01)


扉は閉ざされたまま/石持浅海 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

成城の古い屋敷を改造したペンションに集まった七人の旧友。 大学のサークルの中でも特に酒好きの「アル中分科会」所属のメンバーには、 もう一つ全員が「臓器ドナー登録者」であるという共通点があった。 そんな館の中で、完璧な密室をつくり、伏見亮輔は後輩の新山を殺した。 この密室は何のために作られたのか?

倒叙物で、犯人と殺害方法、トリックは最初に明示されるのですが、 動機や目的が不明なまま話が進んでいく、という形式。 これまで作られた密室の中でも、かなり必然性を持った密室なのではないでしょうか。

そして何と言っても心理戦も含めた仮説の応酬と推理合戦が見所。 特に探偵役の碓氷優佳のキャラクターがクールビューティーという感じで、不思議な魅力に溢れてます。 WOWOWでドラマ化された時は黒木メイサが演じたらしいですが、 ああなるほど、確かに。

「倒叙三部作」としてシリーズ化されてるそうで、続編も楽しみです。

(2009.01.31)


まほろ駅前多田便利軒/三浦しをん (文春文庫)

★★★☆ 

東京のはずれに位置する都南西部最大の町・まほろ市。 駅前で便利屋を営む多田のもとに高校時代の同級生・行天がころがりこんできた。 生活力の無い行天に振り回されながらもペットあずかりや塾への子供の送り迎えなどをこなす日々だったが、 いつのまにかきな臭いトラブルに巻き込まれて…。

第135回直木賞受賞作。 全然似てないのに、どこか通じ合っている、お互いに傷を持つ二人の奇妙な友情が面白いですね。

しかし何と言ってもこの作品の見所は「まほろ市」。 JR八王子線と私鉄箱根急行線(通称ハコキュー)が交差し、 東京都にもかかわらず市内には横浜中央高速バス(通称横中)が走り、 戦後の闇市の面影を残す「仲通り商店街」があり、といった具合で、 モデルはバレバレですが、地元に詳しい人が読むとより楽しめるかと (警察署の前のファミレスって多分ロイホの事だと思うんだけど、さすがに席から入り口は見えないよなあ、とか)。 特に駅前の描写はかなり真に迫ってます(まだハンズがバスターミナルの方にある時期のようですが)。

(2009.01.30)


稀覯人の不思議/二階堂黎人 (光文社文庫)

★★★  

水乃サトルシリーズ。作者の趣味全開で、手塚治虫の稀覯本・希少本を巡るミステリー。

手塚治虫愛好会の会長が自宅の離れで殺され、貴重な手塚マンガの古書が盗まれた。 しかもその部屋は二重の密室に仕立てられていた。 果たして犯人は手塚マニアなのか?

作者の手塚治虫に対する愛情を深く感じる作品。 本人が手塚治虫ファンクラブ二代目会長を務めただけのことはあり、リアリティがあります。

ミステリ的には、密室トリックがアリバイトリックとして解体されるところは見事だと思いました。

(2009.01.25)


ジェシカが駆け抜けた七年間について/歌野晶午 (角川文庫)

★★★☆ 

葉桜の季節に君を想うということ後の第一作。 ニューメキシコ州にある長距離専門の陸上競技クラブに属するエチオピア出身のジェシカ。 彼女は親友の日本人選手アユミ・ハラダから殺してやりたいほど憎んでいる人物の名を明かされる。 彼女はクラブを辞めた後、自殺してしまうのだが…。

トリックとしてはほとんど一発ネタに近いものがありますが、 それを成立させるために周到にプロットを組み立てたんだろうなあ。 特に中盤の「ハラダアユミを名乗る女」の章って、ストーリー全体からすると別にあっても無くても良さそうなもんですが、 トリックを強化する(あるいは伏線を張る)役割としては効果的に機能しているように思います。

(2009.01.22)


機巧館のかぞえ唄 名探偵夢水清志郎事件ノート/はやみねかおる (講談社文庫)

★★★  

「怪談」と「さよなら天使」の2本のショートに挟まれて、 メインとなる中篇「夢の中の失楽」から構成されるシリーズ第6作。 テーマは「夢と現」?

特に執拗な作中作とメタな設定で謎解きが繰り広げられる「夢の中の失楽」は、 とても子供向けとは思えない難しい作品。子供向け相手でも一切手を抜かない、 という作者の気概を感じる一品ですね。

(2009.01.22)


ジェネラル・ルージュの凱旋(上)(下)/海堂尊 (宝島社文庫)

★★★☆ 

「田口・白鳥コンビ」シリーズ第3弾。第2弾の「ナイチンゲールの沈黙」と同じ時系列で起きていた、もう一つの話。

酔いどれ迦陵頻伽こと水落冴子をVIPルームに運んだ夜、 小夜と一緒にいた救急のエース看護婦・翔子が物語の牽引役、 そして救急センター部長にして田口の同期・「血まみれ将軍」の速水が主役。

しかし驚くのは「ナイチンゲールの沈黙」とのクロスオーバーっぷり。 これって、完全に2本のプロットを組み立ててから書かないと矛盾を来たしますよね。 一体どんなペースで作品を仕上げているんだろう…。

前3作と違い、殺人事件は絡んでこないのですが、独立法人化した大学病院の構造的な問題や、 どろどろとした権力争い・派閥争いの問題点が描かれてます。 「行灯」田口が、本人の意思と関係なく、権力争いに巻き込まれていく様子も面白いですね。

(2009.01.20)


夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦 (角川文庫)

★★★★☆

何にでも興味を持ち、酒にめっぽう強く、おともだちパンチを繰り出す「黒髪の乙女」。 彼女にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、真夏の古本市に、大学の学園祭に、 彼女の姿を追い求めた。なぜか彼女の周りに現れるのは一癖も二癖もある変人奇人ばかり。 果たして「先輩」の想いは彼女に届くのか?

山本周五郎賞受賞&本屋大賞2位受賞作品。 帯には「恋愛ファンタジー」と書かれていますが、ちょっと変わった青春物といった感じです。 乙女と先輩の視点が交互に出てきて、相互に絡み合い、謎の提示とネタ晴らしを交互に行いながら話が進んでいく形式も面白いですね。 また、とにかく出てくるキャラが濃い人ばかりで、セリフが大仰で文語体なのとあいまって、 何とも不思議な味わいがあります。

そして何といっても乙女の描写が魅力的。 緋鯉を背負い、達磨をぶら下げ、「なむなむ」をし、淑女としてのたしなみを常に忘れず、 蒟蒻におともだちパンチを繰り出すその姿には、「先輩」ならずとも萌えてしまいます。

(2009.01.15)


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