推理小説の部屋

ひとこと書評


ドッベルゲンガー宮 《あかずの扉》研究会流氷館へ/霧舎巧 (講談社文庫)

★★★  

メフィスト賞作家・霧舎巧のデビュー作。 「《あかずの扉》研究会」に入った翔(かける)は、 ユイたちに引っ掻き回されながら、本物の殺人事件に巻き込まれ…。

ああ、キャラ萌えミステリだったんですね。まあ、ラブコメは嫌いじゃないんですけど、 キャラクターのノリと、小説としての重さがアンバランスなような。 このノリだったらもう少し軽いボリュームでもいいんじゃないかなあ、と思いました。 いや、面白いことは面白いんですけどね。 ちょっと解決編とかクドかったかなあ、と。

(2003.06.29)


美濃牛/殊能将之 (講談社文庫)

★★★☆ 

ハサミ男で鮮烈デビューの殊能将之の第2作。 分厚いので最初の方はなかなか読み進めるのに難儀しましたが、 事件が転がり始めてからは一気に引き込まれましたね。

牛の角を持つ鬼が隠れ住んでいたという亀恩洞。 その中にあるという癌を治した奇跡の泉を取材に来た天瀬達は、 地主一家を襲う連続殺人に巻き込まれる。 果たして犯人は?

赤毛の一族、遺産相続、カルト、同性愛、迷宮、伝説、 そして首無し死体に串刺し死体、果ては童謡見立て殺人、 とこれでもかという本格要素のテンコ盛り。 お腹いっぱいごちそうさまでした、という感じでした。 犯人の正体は結構驚いたし。

窓音のキャラクターがやはり印象に残りましたね。 しかし「アリアドネ」から取っていたとは、解説見るまで気づかなかった。不覚。

ところで、「村長」藍下と出羽の子供の頃の記憶の齟齬は結局なんだったんだろう…? 絶対何かの伏線だと思っていたのに。

(2003.06.21)


幻惑密室/西澤保彦 (講談社文庫)

★★★☆ 

超能力問題秘密対策委員会(チョーモンイン)出張相談員見習・神麻嗣子シリーズの第一弾。 といってもホントの第一話は短編の「念力密室」らしいのですが。

ワンマン社長の家で開かれた新年会。 誰も家から出られなくなってしまった。そんな中で起きた殺人事件。 一体「超能力者」は誰なのか?そして「犯人」は?

巫女さんのカッコをしているから、もっと霊的な事件を扱うのかと思っていたんですが、 超能力なんですね。いわゆるノン・シリーズのSFパズラーの流れを汲んでいるんですね。 今回の作品も、「ハイヒッパー」というかなりマニアックな超能力が出てきますが、 細かいルールが定められていて、 そのルールの中で本格パズラーたろうとしているところがさすがです。 そしてキャラ萌えの要素も付加されて、こりゃなるほど人気でそうなキャラだなあ。

しかし西澤さんの作品(文庫)、1年ぶりなんですね。 コンスタントに出しているイメージがあったんだけどなあ。

(2003.06.15)


ダブル・キャスト(上・下)/高畑京一郎 (電撃文庫)

★★★★ 

タイム・リープの高畑京一郎先生の3作目。 序章でいきなり撃ち殺されてしまった川崎涼介。 しかしその魂は偶然その場に居合わせた優等生・浦和涼介の体に乗り移って…。 涼介は果たして意識が消えるまでに復讐を成し遂げることができるのか?

二重人格者の変形ですが、全く違う熱血不良系キャラが、 優等生の中に入ってしまう、というギャップが面白いですね。 犯人の追及と復讐、手掛かりの捜索と盛りだくさんな内容。 気が強いけどツボにハマると泣き虫な妹のキャラもいいです。 途中に仕掛けられた仕掛けには気づきましたが。

(2003.06.10)


おれは非情勤/東野圭吾 (集英社文庫)

★★★  

小学校を渡り歩く非常勤講師の「おれ」が遭遇するさまざまな事件。 学研の「学習」に連載されていたという、ハードボイルドタッチのジュブナイル小説。

文庫化に当たって加筆修正はされているそうですが、 これが小学生の読む「学習」に掲載されていたというのは結構驚き。 殺人とかも出てくるし。 あんまり後味のよくない事件も多いですが、 小学生ならではの自覚のない悪意とかそういうのがよく出てると思います。 教育に熱意を持てず醒めた目を持つ主人公の「おれ」には、 教師だったこともあるという東野さんのイメージが重なりますね。

(2003.06.05)


ネバーランド/恩田陸 (集英社文庫)

★★★☆ 

伝統ある地方の名門男子校の寮「松籟館」。 冬休みを迎え多くの生徒が帰省する中、 それぞれの事情を抱えた4人の少年が居残った。 「告白」ゲームを境に、次々と明かされていく少年たちの「秘密」。 そして7日間が過ぎた時…。

恩田さんの描く少年は、いかにも女性が書く少年という感じで大分理想化されてますが、 青春してていいですねいいですね。 ちょっとあまりにも重過ぎる「秘密」もあるような気もしますけど、 そんな「告白」の後でも一晩明けるとすっかり元通りになっていたりして。 喧嘩の後の仲直り具合とか、いいなあ、と思います。

(2003.06.01)


マニアックス/山口雅也 (講談社文庫)

★★★  

山口雅也さんの短編集。ノンシリーズものとしては「ミステリーズ」以来となりますか。 一応「マニア」をテーマにして編まれてますが、 基本的には趣向もテーマもバラバラな短編が集まってます。 収録作のうち、「モルグ氏の素晴らしきクリスマスイブ」と「人形の館の館」は、 他の短編集で既読でした。

山口さんの、本格ミステリは好きなんだけど、それを正面から書くのは照れくさい、 といったようなスタンスが良く顕れているんじゃないかと。 どれもこれもひねくれてて素直じゃない、というか。 ミステリというよりもホラー寄り、とあとがきでも書いてありますが、 最後が理に落ちない作品が多いですね(「モルグ氏の素晴らしき素晴らしきクリスマスイブ」意外は全部そう?)。

収録作中では「割れた卵のような」が印象に残りました。これは結構怖い。

(2003.05.24)


トランプ殺人事件/竹本健治 (角川文庫)

★★★  

囲碁殺人事件将棋殺人事件に続く、 ゲーム三部作完結編。コントラクト・ブリッジを中心に据え、 現実と虚構、事実と叙述、メタレベルとメタメタレベルが交錯するような、 なんとも不思議な作品に仕上がっています。一番竹本さんらしい作品かも知れませんね。

コントラクト・ブリッジはよく知らなかったのですが、 ゲームのルールそのものよりも、その前のビッドの過程のほうが遥かに複雑で奥が深い、 というのは面白いですね。色々とためになりました。 あ、ミステリとしても面白いと思いましたよ。

(2003.05.17)


だれもがポオを愛していた/平石貴樹 (集英社文庫)

★★★☆ 

笑ってジグソー、殺してパズルに続く、 更科ニッキシリーズ第2作。 ポオの「アッシャー家の崩壊」「ベレニス」「黒猫」をモチーフとした連続殺人事件が発生。 たまたま父親の用事でボルチモアに来ていたニッキは、警察と共に調査を行うことに。

アメリカの刑事ナゲット・マクドナルドが書いた手記を翻訳した、 という体裁を取っているため、文章や台詞回し等が翻訳小説風なのが芸が細かいですね。 正直、犯人は全然印象に残りませんが、ロジックは見事。 本格の申し子・ニッキのキャラがいいですね。

(2003.05.13)


ストロボ/真保裕一 (新潮文庫)

★★★☆ 

写真家・喜多川光司の人生の節目を彩る「写真」を振り返る、連作短編集。

「第5章・50歳」から始まり、 「第1章・22歳」へと段々と時代を遡っていくという構成。 最初はなんでこんな構成になっているんだろう? と疑問でしたが、あとがきを読んでみて、なるほど確かにうまい構成だな、 と思いました。

殺人や誘拐などの事件はもちろん起こりませんが、 各章に鍵となる写真やそれを巡る謎が用意してあり、 ミステリとしてもちゃんと成立してます。 カメラに詳しい人だともっと楽しめるかも。

(2003.05.09)


ダーク・エンジェル 最終戦争/マックス・アラン・コリンズ (角川文庫)

★★★  

ダーク・エンジェル スキン・ゲームに続く完結編。

前回のラストでのゴチャゴチャで、ローガンのウイルスもいつの間にか消滅。 しかしそのタイミングでなぜそんな告白を?という不自然さは隠せなかったなあ。 まあ、引っ張るためにはしょうがないか。 そんなこんなでローガンが誘拐され、 ホワイトを含めたファミリアとの最終決戦へ。

TVシリーズの宿題も一応全て片付いてめでたしめでたし、かな? でも映像で見たかったなあ。 まあこの内容はちょっとそのまま映像化はキビシいだろうけど。

この作者のマックス・アラン・コリンズって名前、つい最近どっかで見たなあ、 と思ってたら「ロード・トゥ・パーディション」のタイトルバックに原作者として出てたんですね。

(2003.05.06)


耳すます部屋/折原一 (講談社文庫)

★★★  

叙述ミステリの第一人者・折原一先生が送る、10篇の短編集。

叙述トリックはその性質からして、「叙述トリックが使われている」という情報そのものが既にネタバレになってしまいます。 そういう意味で、「叙述トリックの第一人者」という肩書き自体が、 とんでもないハンデを背負っているわけですが、 それでもこの人は叙述トリックを書き続けるんですね。 この10篇も、叙述トリックあり、ホラー風味あり、作中作あり、 ながらいつもながらの折原節が炸裂しておりました。

ただ、いつもながら、作中人物に感情移入ができないので、 どうしても読後感がいまいち。というわけで、どうしても評価は厳しめになってしまいます。 本作中では「目撃者」が一番良かったかな。

(2003.04.30)


あやし/宮部みゆき (角川文庫)

★★★☆ 

時代小説の短編集。

今までの時代短編集とちょっと違うのは、ミステリ・本格軸とホラー・ファンタジー軸だと、 後者にかなり寄っているという点でしょうか。 妖怪やら、霊感やらが出てきても、一応は「理」によって分解されていた作品が多かったと思うのですが、 今作品ではそのまま「妖」やら「怪」のまま残ることが多い。 ハッピーエンドになる場合でも、物の怪やら霊やらの存在は別に否定されないし。

ただ、単なるホラーと違って理不尽な怖さかっていうとそうではなくて、 ちゃんとそれなりの因果応報というか、妖なりの理由があったりするので、 そこら辺はちゃんと納得できます。

(2003.04.27)


妖奇切断譜/貫井徳郎 (講談社文庫)

★★★  

鬼流殺生祭に続く、 九条・朱芳シリーズ第2弾。

戊辰戦争の傷もまだ癒えぬ東京で、遺体がバラバラにされ、 稲荷神社に捨てられるという事件が起きた。 被害者は錦絵「美女三十六歌仙」に描かれた美女ばかり。 捨てられる部位も毎回バラバラ。 果たして被害者達を結ぶ糸は錦絵だけなのか? 犯人の意図は?目的は?

いわゆる「ミッシングリンク」をテーマにした、本格ミステリ。 被害者達の共通項、捨てられる稲荷神社の法則、 そして犯人の目的と、謎がいっぱい。 このトリックは正直驚きました。

ただ、残虐なシーンや描写が結構多いので、 一種のホラーとしても読めるかも知れません。 そういうのが苦手な人はちょっとやめた方がいいかも。 まあ、前作が読めた人なら大丈夫でしょう。

全ての謎が解けてすっきりとしているところに、 「あれ、そういえばあれは…」というところで、次巻へ。 うまい作りですね。

(2003.04.25)


タイム・リープ あしたはきのう(上・下)/高畑京一郎 (電撃文庫)

★★★★☆

Kotaさんより教えていただいた、時間跳躍ものの小説です。

日曜の夜から目覚めると、翔香は火曜の朝にいた。 月曜日のことを全く自分は覚えていないが、 ちゃんと学校にも行っていたらしい…。 月曜の日記には自分の筆跡で「若松くんに相談なさい」と書いてあった…。

意識だけが未来に行ったり過去に行ったりするという、 「ターン」や「リプレイ」にも通じる時間跳躍もの。 時間跳躍の法則がしっかりしていて、 翔香の視点(時間系列がバラバラ)で語られる様々な伏線が、 ピッタリとハマっていく様は、まさに本格ミステリの醍醐味。

いくら何でも主人公、落っこち過ぎだろう、というのはご愛嬌。 時間跳躍SFとしても、本格ミステリとしても、恋愛小説としても読める、 タイムトラベル大好きっ子(笑)の私にはたまらない一作でした。

(2003.04.16)


クロへの長い道/二階堂黎人 (講談社文庫)

★★★  

幼稚園児にして私立探偵のシンちゃんこと渋柿信介を語り手とする、 パロディ・ハードボイルド連作短編集。

とにかく地の文と『』(二重カギカッコ)で囲まれたセリフと、 実際の会話(ある程度は想像で補う必要あり)とのギャップが面白い。 ただ、やっぱり一発ネタ、という感じであって、 4作も読んでくると段々飽きてくるのは確か。 それにしても、思いっきり舞台は日本なのに、 「黄色人種だ」「流暢なNHK式標準語を話す」みたいな、 ハードボイルドを意識したセリフが飛び出すってのは、 シンちゃんってば一体どんな育ち方をしたんでしょうね。

(2003.04.15)


安達ヶ原の鬼密室/歌野晶午 (講談社文庫)

★★★★ 

太平洋戦争中、疎開先を飛び出して梶原兵吾少年は、 倒れていたところをある館へと運び込まれる。 そこで少年は「鬼」に出会う。 翌日から、人ならざる者の手によるとしか思えない奇怪な「死」が次々と館を襲う…。 50年の時を経て、直感探偵・八神一彦が解き明かす真相とは。

いきなり本編と関係ないと思われる短編・中編が挟まっており、 「これって連作短編だっけ?」と不安になりました。目次もついてないし。 でも本編「安達ヶ原の鬼密室」の館の見取り図が最初についてるところすると、 きっと一連の作品なんだろうな、と。

本体の方も、過去の回想録、それに続く現代の探偵編の中に、 さらに別の事件の回想が挟まる、という凝った構成。 冒頭の短編・中編も含めるとこんな感じの構成に:

A→B→C→D→E→D'→B'→A'

奇怪で不可能に思える様々な状況が、 ある「一点」を加えるだけで全て説明がつくようになる、 というカタルシスを味わうことが出来ます。 冒頭の短編・中編も、ちゃんと伏線になってたんですね。 「○○家の殺人」シリーズでデビューした歌野晶午さんですが、 本格トリックのキレに加えて、 構成の巧みさにも磨きがかかってきたようですね。

(2003.04.13)


蛇行する川のほとり 1/恩田陸 (中央公論新社)

評価保留

書き下ろし三部作の第一弾。第一部「ハルジョオン」を収録。 本屋でふと見つけて買ったんですが、2巻が4月、3巻が8月に刊行予定のようです。

夏休みに先輩の家で演劇祭のための絵を描くことになった毬子。 憧れの先輩に誘われて浮かれる毬子の前に、 見知らぬ男の子が現れて「関わるのはよせ」。

「六番目の小夜子」でも思いましたけど、 恩田さんは高校生くらいの女の子の心理描写が抜群にうまいですね。 もう生々しいくらいに。

まだ序章、という感じですが、不安を感じさせるには十分な導入。 果たしてこれからどんな風に展開していくんでしょうか。

(2003.04.10)


名探偵は密航中/若竹七海 (光文社文庫)

★★★  

戦前の昭和、横浜を出てロンドンへ向かう豪華客船・箱根丸に乗り込んだ、 鈴木家の末弟・鈴木龍三郎。船の中では、殺人あり、誘拐あり、 入れ替わりあり、脱走騒ぎあり、幽霊船あり……。

若竹さんお得意の連作短編集。 個々のエピソードは一応それなりに完結していつつも、 全体を通してまた仕掛けがある、という若竹さんお得意のパターンです。

「主人公」サイドの絡みが少な目なのがちょっと物足りなめ。 でもこの物語の真の主人公はお嬢様なのかも。 お嬢様のキャラはかなり良かったです。メイドも込みで。

(2003.04.08)


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