推理小説の部屋

ひとこと書評


月は幽咽のデバイス/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Vシリーズ第3弾。「化け物屋敷」の噂が絶えない屋敷の一室で起きた密室殺人事件。 狼男の仕業なのか?

トリックというか真相に関しては、まあこういうのもアリかな、と。 で、まあこのシリーズってのは、キャラクターを楽しむってのが一つのポイントだと思うんですが、 どうなんでしょうか?なんかこのシリーズのキャラっていまいちノレなくないですか? 紅子にしても保呂草にしても、もったいぶってて、腹に一物抱えてる、って感じが強くて、 ちっともキャラクターがつかめない。 それだけ複雑に「人間が描けてる」のかも知れませんが、 それで魅力あるかって言われると別問題のような。 S&Mシリーズの方がもっと素直に楽しめましたね。 まあ同じもの書いてもしょうがないっちゃそうなんですが。

重要キャラなのにいまだに苗字しか出してもらえない林さんがかわいそう…。

(2003.03.30)


長野・上越新幹線四時間三十分の壁/蘇部健一 (講談社文庫)

★★★  

デビュー作「六枚のとんかつ」で賛否両論(本人いわく「否否一論」)を巻き起こした蘇部健一の初の長編。

帯に「お笑い鉄道ミステリ」と書いてありますけど、デビュー作に比べるとそんなにふざけた作品じゃないんですね。 「六枚のとんかつ」に収録されていた「しおかぜ17号四十九分の壁」と 「丸の内線七十秒の壁」はいかにも短編らしい一発ネタのアリバイもののパロティでしたが、 この作品は警察の描写とかに、ギャグっぽい記述が散見されますが、 事件そのものはいたって普通の時刻表アリバイ風。 双子とアリバイ、という本格の中でも手垢のついたネタでどこまで新しいことができるのか? そしてそれが成功しているのか? トリックそのものは途中で割れてしまいましたが、 それを見抜く手掛かりなどはよく出来ていたと思います。

ああ、しかしあとがき読むと売れてないっぽいですね(自虐ネタの可能性もありますが)。 特にこの2作目は、1作目と比べるとかなり「まとも」になっちゃったんで、 そういう意味では1作目のノリを期待していた読者にはきついかも。 果たして3作目の文庫化はあるんでしょうか。

(2003.03.21)


将棋殺人事件/竹本健治 (角川文庫)

★★★  

ゲーム三部作・囲碁殺人事件に続くシリーズ第2弾。 前作と同じく、Amazonのマーケットプレイスで入手しました。

「将棋」といっても、今回取り上げられているのは詰将棋。 指将棋とはまた別の進化を遂げて芸術の域にまで達した詰将棋の歴史に関する薀蓄が得られます。 そういや小学校の頃「煙詰」とか「寿」とか友達と並べてた記憶があるなあ。

章毎に視点が目まぐるしく変わり、一見意味不明な断片が挟まっていたりするので、 最初はちょっと戸惑いますが、全ての欠片が一点に収束していく様は圧巻。 でも正直「殺人事件」に関してはかなりどうでもいいかも。

途中「マイクロ・コンピュータ」に、 5分くらいで入力できるプログラムを手で入力して、 17手詰めの詰将棋を1分くらいで解かしている描写には時代を感じました。 ありえねー。どんなプロセッサだよ。 しかもPascalなのにインタプリタかよ。

(2003.03.15)


少年たちの四季/我孫子武丸 (集英社文庫)

★★★☆ 

今はなき「jump novel」に掲載された、 我孫子武丸さんのジュヴナイルもの4編を収めた連作短編集。

4編ありますが、主人公は2人。同じマンションに住む男の子と女の子。 探偵役は共通だし、前の話の主人公が次の話の脇役として登場したりして、 連作感を強めています。

あとがきで我孫子さん自身が書いているように、 フォーマット自体はジュヴナイルの体裁をとっていますけど、 中身はかなりミステリ色が濃くなってますね。 ネタ自体は途中で気づくことが多かったですが、 解決に至るまでの思春期の少年・少女達の心理描写が濃密なので、 青春小説としても十分に読めます。 「ジュヴナイル」と呼ぶにはちょっと重いかもしれませんが。

(2003.03.12)


転生/貫井徳郎 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

心臓移植された直後から、自分の趣味や嗜好が変わったことにとまどう和泉。 夢で現れる女性はドナーなのか。 自分の体に起こった謎を解き明かすために、 タブーであるドナーとの家族との接触を図る和泉に、 やがて謎の脅迫電話がかかり…。

「臓器移植」をテーマとした作品。社会的なテーマを据えながらも、 青春恋愛物としても読めるような、そんなエンタテインメントに仕上がってます。

(2003.03.08)


ミステリ・アンソロジーV 血文字パズル/有栖川有栖・太田忠司・麻耶雄嵩・若竹七海 (角川スニーカー文庫)

★★★  

スニーカー文庫の書き下ろしアンソロジーシリーズ第5弾。 今回のテーマは「ダイイングメッセージ」。

砕けた叫び/有栖川有栖
おなじみ火村&有栖シリーズ。 ダイイングメッセージって、「わかるわけないよな」ってな感じのものが多いですが、 これもご多分に漏れず、納得しかねるオチ。 まあでも有栖が久しぶりに役に立ったということで。

八神翁の遺産/太田忠司
シリーズものなんでしょうか?なんとお婆さん探偵のデュパン鮎子と、 その孫にして助手の女子高生奈緒、という異色の取り合わせ。 ミステリかと思ったら、ファンタジー?ホラー?

氷山の一角/麻耶雄嵩
相変わらずのメル鮎&美袋。ダイイングメッセージの謎もそれなりに面白いですが、 何と言っても美袋のいじめられっぷりに尽きるでしょうね。 メルカトル鮎の性格の悪さが素晴らしい。一押し。 そして、助手でも有栖や奈緒は表紙にも書かれているのに、美袋は書かれていないし。 編集(?)にもいじめられている美袋。

みたびのサマータイム/若竹七海
「クールキャンデー」の杉原渚の一人称で語られる、ひと夏の物語。 青春してるなー、って感じですね。

(2003.03.06)


法月綸太郎の功績/法月綸太郎 (講談社ノベルス)

★★★★ 

法月綸太郎シリーズの第3短編集。 前作「法月綸太郎の新冒険」から3年ぶりのリリースです。

「イコールYの悲劇」と「ABCD包囲網」はオムニバス短編で読んだことがありましたが、 細かいところは忘れていたのでまた新鮮な気持ちで読めました。 基本的に、それほどトリック重視なわけではなく、ロジック重視なので、 再読でも結構楽しめますね。

ペースは落ちていますが、論理の切れ味は相変わらず冴えてますね。 ホント、クイーンの短編集を読んでるみたい。 これからもマイペースでリリースを続けて欲しいものですが、 そろそろ長編も読みたいなあ…。

(2003.03.02)


塔の断章/乾くるみ (講談社文庫)

★★★  

メフィスト章作家・乾くるみさんの第三作目。 序章と終章の間に、時系列もバラバラに並べられた34もの分断された「断章」が入る、 という構成。

ああ、こういう感じの構成の作品はいくつも読んでるんで、 犯人を特定する方のネタは途中でわかってしまいました。 まあ、でもこの作品の場合は、この物語の構造自体に仕掛けられたもう一つのネタの方がメインじゃないかと思うのですが、 そちらは終章を読むまで気づきませんでした。なるほどなあ。

そしてノベルス版にはなかったらしい作者本人のネタバレ後書きつき。 うんうん、確かに密かに仕掛けたネタに誰も気づいてくれないと、 言いたくなる気持ちはよくわかります。 しかし読者が気づかないような小ネタやミスリードなんかを、 たくさん考えてあるもんなんですね。

(2003.02.25)


嘘をもうひとつだけ/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★★ 

東野さんの作品中、唯一のシリーズ物と言ってもいいかもしれない、 加賀恭一郎刑事が登場する短編集。

三人称なんですが、どちらかというと犯人側の視点にそって書かれているので、 完全な倒叙というわけではないですが、刑事コロンボのような感じを受けました。 加賀刑事のしつこさもコロンボっぽい。 しかしわずかな「違和感」を見逃さず、しつこく証拠を集め、 時には罠に嵌めて犯人を追い詰めていく様は、本格推理の醍醐味。

5作品とも甲乙つけがたい出来ですが、タイトルはやはり表題作の 「嘘をもうひとつだけ」が秀逸ですね。 加賀刑事ファンはもちろん、初めての方も是非。

(2003.02.22)


象と耳鳴り/恩田陸 (祥伝社文庫)

★★★★ 

退職した元判事の関根多佳雄を主人公とした連作短編集。

日常の何気ない会話などの手掛かりを元にして、 その背後にある犯罪や真相を解き明かしていく、という本格ミステリ。 これは「九マイルは遠すぎる」だなあ、と思っていたら、 「待合室の冒険」の中でそのまま「九マイルは遠すぎる」が出てきたので、 やっぱり意識してるんですね。 収録作品中では「待合室の冒険」「机上の論理」が好きですね。 「誰かに聞いた話」の切れ味も捨てがたいなあ。

しかし後書き読むまで、「六番目の小夜子」に出てきた関根秋のお父さんだと気づきませんでした。 春、夏、と出てきて、3番目の息子は出てこないのかなあ、と思っていたんだけど (←バカ)。

(2003.02.16)


赤ちゃんをさがせ/青井夏海 (創元推理文庫)

★★★  

主人公が助産婦助手で、「伝説のカリスマ助産婦」が安楽椅子探偵役を務めるという異色の短編集。

いわゆる「日常の謎」系に属するのでしょうが、主人公の設定が設定だけに、 「3人の妊婦の中で本当の母親は誰?」とか「3人の男の中で本当の父親は誰?」とか、 ちょっと日常離れしたシチュエーションばかり。 設定に合わせるために仕方ないんでしょうが、登場人物もどこかちょっとおかしい人ばかりで、 それに輪をかけて思い込み激し過ぎの行動力あり過ぎの主人公にちょっとついていけませんでした。

NHKでドラマ化されるみたいですが、多分もうちょっとソフトにアレンジされるんだろうなあ。

(2003.02.11)


プリズム/貫井徳郎 (創元推理文庫)

★★★★☆

久々に面白い「本格推理小説」を読んだ!という感じです。 まさに現代に蘇った「毒入りチョコレート事件」ならぬ「睡眠薬入りチョコレート事件」。

4つの章からなり、それぞれ異なった語り手による一人称で事件が語られます。 それぞれの立場から得られる「証拠」を元に、 何度も壊されては組み立てられる推理と浮かび上がる犯人。 そして一応の「犯人」が定まったかに見えますが、 次の章へ行くと前の章の結論が否定されるという…。

まさにバークリーの「毒入りチョコレート事件」を彷彿とさせる、 純粋推理ゲーム。さらにそれを一歩踏み込めた驚愕の結末が。 いや、もしかしたら怒る人もいるかも知れないけど、私的にはアリですね。

貫井さんの作品って、「重い」って感じがしてたんですけど、 この作品は語り手が小学生だったり女性だったりということもあって、 特に前半は読みやすいですね。引き出しの多さには驚かされます。

(2003.02.01)


ゲーデル・不完全性定理 “理性の限界”の発見/吉永良正 (講談社ブルーバックス)

★★★☆ 

ミステリでも何でもねーよ(笑)。いやまあ、人智の謎を解き明かすという意味で…。

文系の人でもおそらく名前くらいは聞いたことがあるであろう「ゲーデルの不完全性定理」を、 数学の歴史を踏まえながらやさしく解説してくれている本です。 大学のとき論理学の講義でやったはずなんだけど(あれ?やったのは「完全性定理」の証明だったか?)、 こうやって系統立てて説明してもらえると、なんかわかったような気になりますね。 しかし「一階述語論理」は「完全」なのに、 そこに「自然数」の概念がはいってくると「完全」でないことが証明されてしまうとは、 なんとも不思議な感じです。「無限」おそるべし。 もはやここまで来ると哲学と数学の境目がなくなりそうな感じ。

見返しに「ゲーデルの不完全性定理は中学生にもわかる!」と書いてあるけど、 うーん、さすがに中学生でこの内容はちょっと辛いような。 いや、「ゲーデルの不完全性定理がわかる中学生はいる!」ならば否定はできませんけど。

(2003.01.31)


ダークエンジェル スキンゲーム/マックス・アラン・コリンズ (角川文庫)

★★★  

ジェームズ・キャメロン監督ながら、 2シーズンで終わってしまったTVシリーズ「ダークエンジェル」の、 「その後」を描いた小説。

いろんな意味で伏線張りっぱなしで中途半端だったダークエンジェルですが、 別にそれらの伏線が解決するわけではないんですよね。 結局のところ、「番外編その1」といった程度の位置づけ。 もし再開することがあっても、これを映像化するのはちょっときついかなあ。

本編のほうはどうも再開する気配はないようですが、 単発物でもいいから、続編出て欲しいなあ…。

(2003.01.26)


美しき凶器/東野圭吾 (光文社文庫)

★★★  

ずっと積ん読にしてあったのをようやく読了。

前にも書きましたけど、東野圭吾さんの場合、光文社文庫と講談社文庫で明らかに作風が違いますね。 掲載雑誌の作風とかそういうのに合わせているんだろうな。 講談社文庫が本格ミステリ寄りなのに対して、 光文社文庫のはサスペンスよりというか2時間ドラマ寄りというか(笑)。 で、この作品も「スポーツ医学」(もっというとドーピングによる肉体改造)をテーマにしたサスペンス。 「犯人」の視点、「獲物」の視点、「警察」の視点が入り混じって、 スピーディにサスペンスフルに展開していきます。 特に潤也の「処刑シーン」は、陸上選手であることを最大限に活かしたインパクトのでかいものでした。怖え〜。

これ、2時間ドラマにしたら相当面白くできそうだけどなあ(もうなってたりして)。 あ、でも主演女優が最大のネックですね。

(2003.01.14)


屍鬼(五)/小野不由美 (新潮文庫)

★★★★ 

そしてついに人間側の反撃が始まる…。

人と屍鬼のどちらが本当に「鬼」なのか、 わからなくなるような怒涛の展開。 屍鬼になっても生前の記憶や信念・信仰などはそのまま、 という点が、屍鬼を単なるゾンビなんかのモンスターと分かつ大きな違いですね。 屍鬼になったことで枷が外れたように嬉々として人を襲う奴や、 悩みながら自分に言い訳をして人を襲う奴もいて、人間と同じだなあ、と思います。

「人」側は、一矢は報いましたが、勝ったと言えるのかどうか…。 なんとも皮肉な逆転の構図。 各キャラクターの「最期」をきっちりと描いているのは、 溜飲が下がるというか、すっきりしました。

結局序章で白いワゴン車に乗って村を出て行った人物は誰なんだろう。 辰巳かな、と思ったんですが、辰巳はセダンに乗ってたみたいなんですよね (乗り換えたのかもしれませんけど)。

(2003.01.11)


屍鬼(四)/小野不由美 (新潮文庫)

評価保留

深く侵攻していく「病」。ついに寺や病院にまで「鬼」の手が迫る…。

「人」対「屍鬼」の戦いになるのかと思いきや、 完全に屍鬼側のペースで進んでいて、 「人」の反撃のチャンスはなさげですね。

さて、次はいよいよ最終巻。一体どういう結末が待っているのか…。

(2003.01.10)


屍鬼(三)/小野不由美 (新潮文庫)

評価保留

物語が加速するに従って、読むペースも加速してます。 ああ、続きが気になる!

ついに「病」の正体が明らかに! 複数の「探偵」役がそれぞれ集めた断片的な情報が合わさって、 段々と「脅威」の姿が明らかになっていく様子は、 まるで本格ミステリの謎解きを見ているよう。 しかしついに「屍鬼」側の視点も描かれるにあたって、 準備期間が終わっていよいよ…という予感が。

(2003.01.05)


屍鬼(二)/小野不由美 (新潮文庫)

評価保留

二巻目。加速する「死」。そして相次ぐ辞職と転居。 一体村に何が起こっているのか?

おお、なんか面白くなってきました。致死率100%の「病」の正体は? まさに村が「死に包囲されていく」という感じ。 次の巻が楽しみです。

ところで、昨年の1冊目は「十二国記」でした。 今年も小野不由美さんで幕を開けるとは。

(2003.01.04)


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