推理小説の部屋

ひとこと書評


空の境界(中)/奈須きのこ (講談社文庫)

★★★  

三分冊の二冊目、全7章のうち、 第4章「伽藍の洞」、第5章「矛盾螺旋・上/下」を収録。

二年間の昏睡から目覚めた式。しかしその中に「識」は既にいなかった…。 魔術師・蒼崎橙子と式との出逢いを描いた「伽藍の洞」。 そしてラスボスっぽい荒耶宗蓮との死闘を描いた「矛盾螺旋」。 しかし後2章残っているってことは、まだ敵がいるんでしょうか。 まあ、まだ2年前の真実が残っているか…。

さて、2007年に読了した本は81冊でした。 100冊には届かなかったか…。まあでも結構いいペースですよね。

(2007.12.31)


誰か Somebody/宮部みゆき (文春文庫)

★★★☆ 

今多コンツェルン会長の「婿殿」で、広報室所属の杉村三郎は、 元会長の運転手・梶田信夫の事故死の真相を探って欲しいと、梶田の娘達の相談を受ける。 しかしその調査は意外な展開を見せ…。

一見平凡な事件ながら、その裏に秘められた何重もの真相、という展開は、 宮部みゆきさんのお得意な展開。 キャラクターの掘り下げ方も丹念なだけに、エンディングのほろ苦さが余計に引き立つと言う感じ。

解説を読んで気づいたのですが、このほろ苦さは、なるほどハードボイルドのそれなのですね。 三郎とその家族の幸せぶりにカムフラージュされていますが、 なるほど確かにこれは宮部流ハードボイルドと言えそうです。 シリーズ化されているようなので、この先も楽しみですね。

(2007.12.18)


塩の街 wish on my precious/有川浩 (電撃文庫)

★★★  

突如飛来した「塩の塔」によって、人々はその姿のまま塩の柱へと変えられた…。 「塩害」の時代、生き残った人々は、廃墟と化した街で生きていた。 そんな中出逢った、一人の少女・真奈と、彼女を救った男・秋庭。 他人同士だった二人の絆が、やがて世界を救う奇跡を起こす…。

第10回電撃ゲーム小説大賞受賞作。 「SFラブファンタジー」と銘打たれてます。 「塩害」というアイデアがなかなか秀逸なのですが、 描かれているのはラブ要素が多目で、後半いきなり話が展開するので、 この設定ならばもう少し色々書けたんじゃないかなあ、という気も。

電撃文庫らしいイラストがちょっと恥ずかしいですが、気楽に読める作品ではあります。

(2007.12.04)

(2007.12.06追記)
どうやらこの作品、登場人物の年齢設定や、後日談・サイドストーリーを増補した版が、 メディアワークスより再単行本化されているらしいです。 そちらのバージョンが文庫化されるのは遠い先になりそうですが、 是非読んでみたいですね。

(2007.12.06)


The Book jojo's bizarre adventure 4th another day/乙一 (集英社)

★★★★ 

乙一氏によるジョジョ第4部のノベライズ。5年以上の時を費やし、2000枚以上を没にしてようやく完成。

鍵のかかった家の中で「交通事故死」していた女性。 この奇怪な事件はスタンド使いの仕業なのか? 「天国への扉」で犯行の目撃者である猫の記憶を読み取った露伴と康一は、 犯人がぶどうヶ丘高校の学生らしいことを知る。 犯人を探そうとする仗助と億泰の前に、犯人の魔の手が迫る…。

自分のこれまでの体験が全て記録されていて、そのページを見せることで相手に「感情移入」させ「追体験」させる、 という「The Book」のスタンドのアイデアが何と言っても秀逸。 制約と効果のバランスもちょうどいいですし、 単行本の装丁がそのままスタンドと一緒っていうのも面白いですね。

随所にちりばめられた、原作ファン向けの「くすぐり」も嬉しいですね。 久々にAct.2使ってる康一君とか、「スタンド名は洋楽からつけられることが多い」とか、 「生まれてから食べた食パンの数を全部覚えている」とか、 「物をやわらかくする能力でもあれば…」とか(普通の人は思わないよ)。

そして生い立ちからじっくりと描かれたオリジナルキャラクター達。 特に「ビルの隙間で1年間生きていた女性」なんざ、まさに黒乙一の本領発揮という感じ。 エピローグの後のなんとも言えない後味も含めて、 乙一らしさがよく発揮されている作品になってたと思います (決して子供向けじゃないですけどね)。

ところで『テュルプ博士の解剖学講義』は結局なかったことになってしまったのね…。

(2007.12.02)


フラッタ・リンツ・ライフ/森博嗣 (中公文庫)

★★★  

「スカイ・クロラ」シリーズ第4弾。全5巻らしいので、ラス前ですね。 今回の主人公は「クリタ」。 「クサナギ」を上司に持ち、その飛行っぷりに心酔している、というキルドレ。 立場的にはカンナミに近いのかも知れませんが、時間軸的には「スカイ・クロラ」よりも前ってことですよね。

これまでこのシリーズって、淡々と主人公視点で、出撃の様子が描かれるだけ、 という感じで、大きなストーリーはあまり進行していなかった感じなんですが、 今巻では物語の中心となっている「キルドレ」の設定について、 かなり大きな秘密が明らかになりました。なるほど、そうやって繋がるのか、という感じ。 しかし5巻目はどうやって締めるんだろうなあ。 ある意味大オチは「スカイ・クロラ」でバラしちゃってるわけだしなあ…。

映画化される、と聞いて、「一体『キルドレ』役を誰がやるんだろう?」と思ったんですが、 アニメ映画だったのか。

(2007.11.27)


空の境界(上)/奈須きのこ (講談社文庫)

★★★  

ゲームのシナリオライターが送る、新伝綺ストーリー。元は伝説の同人小説らしいです。 ちなみにタイトルは「そらのきょうかい」でも「くうのきょうかい」でもなく、 「からのきょうかい」と読みます。 全7章を3巻に分冊。上巻には第1章「俯瞰風景」、第2章「殺人考察(前)」、 第3章「痛覚残留」を収録。

両儀家の「超越者」として、二重人格を宿して生まれたで両儀式(りょうぎ・しき)。 2年間の昏睡から目覚めた彼女は、記憶を失う代わりにあらゆるモノの死を視通せる、 「直死の魔眼」を手に入れていた。式のことを気にかける元クラスメイトの黒桐幹也。 幹也の勤める建築事務所兼探偵事務所(?)のチーフ、“魔術師”の蒼崎橙子。 魔術も霊も超能力も存在する世界で、怪しげな依頼をこなしていく彼らであったが…。

ストーリーダイジェストで書いてもわけわからん(笑)。全7章らしいですが、 意図的に世界設定などが隠されているため、3章の時点では正直まだ全貌がよくわかりません。 せめて「殺人考察(後)」があれば過去編は把握できそうなんですが。 また、章の中の構成も、時系列や視点キャラがシャッフルされているので、 ちょっととっつきにくいかも。まあ読み進めていけば理解できますけど。

全7章が映画化されるらしく、合わせて3ヶ月連続で文庫版がリリースされるようです。 楽しみにしてます。

(2007.11.23)


φは壊れたね/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

新シリーズ・Gシリーズスタート。刊行予定を見る限りでは全6作になるんでしょうか。

全くの予備知識無しで読み始めたので、全くどういう設定のシリーズなのかも知らなかったのですが、 S&Mシリーズの数年後の時代設定なんですね。 国枝先生はN大からC大に移って助教授に、萌絵はN大D2ながら国枝先生の指導を受けるためかほとんどC大に常駐。 主人公達は、国枝研究室のM1山吹早月、彼の同級生だったのにいつの間にか2年後輩の寡黙な海月及介、 その同級生の加部谷恵美、の3人の模様。 萌絵は主に警察とのパイプ役としての役割で、探偵役は海月君が務めるようです。 犀川先生もちらっと出てきますが、ほとんど伝説の隠れキャラみたいな扱い。

「Gシリーズ」というから、S&MやVのように、人のイニシャルだと思って、 登場人物表のイニシャルを調べてもGのつく人物はいない。 後から出てくるのかな?と思って最後まで読み終わっても結局出てこなかった…。 ということで、後から気づきましたが、Gはギリシャ文字のGなんですかね?

で、内容に関しては、またまた密室、しかもかなり念の入った密室、 ということで、一体どんなトリックが!?と思っていたんですが、 この真相はいくらなんでも読めないよ…。

(2007.11.20)


リピート/乾くるみ (文春文庫)

★★★★☆

もし、現在の記憶を持ったまま、10ヶ月前の自分に戻れたとしたら? この夢のような「リピート」ツアーに誘われ、疑いつつも人生のやり直しに挑んだ10人の男女。 リピートは成功!しかし一人、また一人とリピーター達が不審な死を遂げていく。 リピーター達の繋がりを知るのはリピーターのみ。果たして誰が、 何の目的でリピーター達をターゲットとしているのか?

「リプレイ」+「そして誰もいなくなった」という宣伝文句が、 このミステリの性質を見事に言い当てています。 そして、時間跳躍系の話が大好きな私としては、 これはもう期待せざるを得ないわけで。 そして、期待通りに楽しませていただきました。

「リプレイもの」としての考察は 「リプレイ」ノススメに書きました。

しかし巻末の作品リスト見たら、これが現時点の最新作(単行本は2004年刊行)で、 これ以降新作書かれてないんですね。寡作な作家だなあ…。

(2007.11.15)


THE MANZAI 4/あさのあつこ (ピュアフル文庫)

★★★☆ 

シリーズ第4弾。ついに夏祭りで漫才の舞台に立った貴史と歩。 しかし真っ白になった歩にはその記憶はなく。 一方、ラブラブだった高原と森口の間に問題が…。 そしてついに歩の気持ちがメグにバレてしまい…。

すっかり思考回路が漫才モードに切り替わってしまっている歩が、 なんともけなげというか、かわいそうというか…。 いや、面白いんですけどね。ただ掛け合っているだけで漫才になっている、 っていうのがなんともいい感じですね。

(2007.11.10)


スクールアタック・シンドローム/舞城王太郎 (新潮文庫)

★★★  

単行本「みんな元気。」より2編・「スクールアタック・シンドローム」「我が家のトトロ」と、 書き下ろし「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」を収録。

「みんな元気。」収録作と同じく、やはりテーマは「家族」。 しかし舞城さんの作品って、展開と決着が全く見えないですよね。 特にその傾向は書き下ろしの「ソマリア〜」では顕著で、 こんな展開になるとは全く読めませんでした…。

(2007.11.08)


初恋よ、さよならのキスをしよう/樋口有介 (創元推理文庫)

★★★☆ 

柚木草平シリーズ第2弾。娘と訪れたスキー場で、高校時代の初恋の女性・卯月美可子と再会した柚木。 しかし再会後まもなく、彼女は何者かに殺害される。彼女の姪から事件の調査を依頼された柚木は、 かつての同級生を順に訪ねていくのだが…。

このハードボイルド、くさいセリフ、女に弱い、っていう柚木のキャラクターが、 なんというか癖になってくるようなシリーズですね。 女性を口説いた直後に、別居中の妻と同じ仕草で責めてくる娘にタジタジしている様子なんか、最高です。

プロット聞いただけで、ほろ苦い解決しか待っていないことは百も承知なのですが、 それでも会話の軽快さと、次々と現れる美女たちに、最後まで興味深く読み通せました。

(2007.11.06)


生首に聞いてみろ/法月綸太郎 (角川文庫)

★★★★ 

ノリリン、久しぶりの長編。2005年度「このミス」第1位の、本格長編。

彫刻家の川島伊作が病死する直前に完成させた、愛娘の江知佳をモデルにした石膏像の首が、 何者かに切断され、持ち去られた。これは江知佳へのストーカーによる殺人予告なのか? 調査を進める法月綸太郎だったが…。

ノリリンの長編ってもしかして「二の悲劇」以来でしょうか?実はレビュー書き出してからは初の長編だったりします。

本格ミステリでありながら、半分くらいまで殺人が起こらない、というのもなかなか新鮮。 本物の生首ではなく、持ち去られた石膏の首の方が真相の鍵を握っている、 という「主客逆転」なプロットも面白いですね。 久しぶりに本格を堪能させていただきました。

(2007.11.03)


富士山大噴火/鯨統一郎 (講談社文庫)

★★★  

富士山が噴火する?天文台に勤務する一美の「地震予測」はピンポイントで的中。 続いて富士山周辺では異常な現象が次々と観測され、ついに…。

何が言いたいんだかよくわからない小説ではありました。 基本的にはパニック小説に分類されそうですが、 そこに「幻のアングルから見た富士」と「恐竜絶滅の真相」という、 「歴史上の謎」を絡めているおかげで、なんだか登場人物たちの行動が普通じゃないことに。

読み始めて、どうも前作にあたる「北京原人の日」をまだ読んでいないことに気付いたんですが、 登場人物が同じという以外は特に共通点はないようです。

(2007.10.27)


最後の願い/光原百合 (光文社文庫)

★★★★ 

「劇団φ」を立ち上げるため、役者・脚本家・美術・制作、 才能のある人材を求めて奔走する、一見人懐っこく愛想のいい青年・度会恭平。 しかしその鋭い観察眼は物事の真相を見通し、仮面を外した時の鋭い視線は心を射抜くのであった。

「日常の謎」系、しかもほとんど話を聞いただけで推理してしまうという安楽椅子物に属する連作短編。 劇団に引きずり込みたい人物が章ごとに主人公として出てきて、 さらに探偵役も度会と風見という2人いて交互に出てくる、というちょっと変わった構成。 しかし登場人物全てが何かしらの才能を持っていて、 一癖も二癖もあるという感じで、非常に魅力的に描かれています。 続編があったら是非読みたいですね。

(2007.10.20)


工学部水柿助教授の逡巡/森博嗣 (幻冬舎文庫)

★★★  

『工学部』の『助教授』で、後に『ミステリを書く』ことになる、 水柿くんの日常を描いた、ノンフィクション的エッセイ、 工学部・水柿助教授の日常の続編。

前作では結局ミステリを書くところまで辿り着かなかったわけですが、 今作ではとうとうミステリを書いて、大ヒット作家になっていくまでの過程が、 例によって(照れ隠しの意味もあるのか?)寄り道だらけのエッセイ風に語られてます。

奥さんに言われて書く気になったとか、奥さんを見返すために応募したとか、 4作目がデビュー作になったとか、締め切りは守らなきゃいけないものだと思っていたとか、 色々と裏話的な話が満載です。

これでこのシリーズは終わりなんですかね? ネタとしてはこれ以上あんまり書くことはなさそうですが、 ここまで軽い森先生の文体をもう見られないのかと思うとちょっと淋しくもあったり…。

(2007.10.17)


螢/麻耶雄嵩 (幻冬舎文庫)

★★★  

麻耶雄嵩の長編ですが、メルカトルや木更津や烏有といったレギュラーキャラは登場しないノンシリーズ。 設定はベタベタな「嵐の山荘」。 いわく付きの心霊スポットをわざわざ巡る趣味の悪い大学サークル・アキリーズのメンバーが、 10年前に作曲家・加賀螢司が演奏家6人を殺した現場のファイアフライ館にやってきた。 果たして惨劇は繰り返されるのか?

麻耶雄嵩にしては随分と普通の本格フォーマットだなあ、というのが第一印象。 もちろん絶対に仕掛けはあるはず、と思いながら読んでいたので、 犯人の正体は覚悟していた分驚きは少なかったです。 しかし驚いたのはもう一つの方の仕掛け。 これって「逆叙述トリック」とでも言うんですかね?(読んだ人ならわかると思いますが) これはなかなか意表を突かれました。と共に、まだまだ本格には可能性があるなあ、とも感じました。

(2007.10.15)


となり町戦争/三崎亜紀 (集英社文庫)

★★★☆ 

ある日、突然となり町との戦争が始まった。銃声も聞こえず目に見える流血も無く、 しかし町の広報誌に載せられる戦死者数は増え続ける。そんな「僕」の元に、 町役場から一通の任命書が届いた。

作者のデビュー作らしいです。とにかく、「戦争」なのに、お役所仕事という、 そのとんちんかんなギャップが面白過ぎ。「協力して戦争事業を遂行」って…。

もちろん、この平和ボケした日本において 「見えない戦争」「実感できない戦争」というものを相対的にパロっているわけですけど。 おかしく、ちょっとほろ苦いながらも、こういう「知らない内に実は殺人行為に加担しているかもしれない」 という怖さを感じさせてくれます。淡々としているだけに余計に。

(2007.10.13)


QED 〜ventus〜 鎌倉の闇/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ。奈々の妹・沙織の頼みで鎌倉を散策しながら鎌倉の闇についてのレクチャーをすることになったタタルと奈々。 鎌倉幕府・源三代に渡る呪の正体とは? 一方、JASDAQ上場間近の「稲村モールド」では、「密室」と化した社長室で二人が死傷、 社長が消え失せるという不可思議な事件が起こっていた。

例によって、過去の謎解きと、現在の事件とがリンクする、という構成。 今回のテーマは「傀儡」といったところでしょうか。

ところで今後もこの「QED 〜ventus〜」シリーズっていくつか出るみたいですが (ventusは「風」という意味らしいですが)、 ただの「QED」シリーズとの違いが良くわかりませんでした。 登場人物が違うのかな?とか思っていたんですが、全く変わらないし…。 強いて言うと、少し薄くなって読みやすくなった?

(2007.10.06)


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