推理小説の部屋

ひとこと書評


GOTH 夜の章・僕の章/乙一 (角川文庫)

★★★★ 

第3回本格ミステリ大賞に輝いたという乙一最大のヒット作。 単行本では1冊でしたが、文庫化に当たって2分冊に。

人を殺すことを常に考えている少年「僕」と、 死を常に考えている人形のような美少女「森野夜」。 殺人者の足跡を辿り、人間の残酷な面を除く彼らが出会う暗闇とは…。

「夜」に焦点を当てた「夜の章」と「僕」に焦点を当てた「僕の章」の2分冊になってますが、 この薄さなら十分1冊に出来ますよね。まあ少しでも利幅を増やしたいという算段と、 メイン読者層(ライトノベル)を意識した結果でしょうか。

で、どっちが上巻でどっちが下巻なのかという記述が特に無かったので (表紙を見れば「夜の章」が先なのはわかりますが)、 どちらから読んでも構わないのかと思って、先に「僕の章」から読み始めてしまったんですが、失敗しました。 いや、基本的にはどちらから読んでもいいんですが、 「僕の章」の最終話のエピローグは、「夜の章」読んでいないと理解できないと思います。

悪趣味なホラー的な小説に陥りそうなところを、乙一さんの「本格魂」が随所に散りばめられていて、 なるほどこれは確かに乙一さんの言う「ライトノベルで本格を」という試みは成功しているかも知れません。 特にデビュー作から顕著だった叙述の使いどころのうまさは円熟の域に達しているかも。

主人公2人の微妙な関係もいいですね。

(2005.07.01)


夏の夜会/西澤保彦 (光文社文庫)

★★★  

小学校の同級生の結婚式に出席した「おれ」は、 そのまま同級生と飲み直すことに。その場で30年前のある教師の殺人事件が話題となり…。

タック&タカチシリーズでおなじみの「妄想推理」を突き詰めたような物語。 「妄想」ではなくて、記憶を探りながら…なのですが、 その記憶がいかに頼りないものか、簡単に「捏造」されてしまうものか、 ということを思い知らされます。

さまざまな同級生達の証言を元にして、徐々に明らかになる真相。 そもそもの事件そのものが地味なので、ミステリ的な面白さには欠けますが、 妄想推理が二転三転する過程は面白かったです。

(2005.06.25)


殺人症候群/貫井徳郎 (双葉文庫)

★★★★ 

「失踪症候群」「誘拐症候群」に続く「症候群」シリーズ3部作の完結編。

環の「チーム」が召集された。一見無関係に見える事故死の数々。 その裏に、法で裁けない未成年などに復讐を行う「殺人代行者」の影が。 調査を開始するチームだったが、なぜか倉持だけは参加せず…。

貫井さんの最高傑作との評判もある作品。文庫化を楽しみにしておりました。 「失踪症候群」が原田視点、「誘拐症候群」が武藤視点だったので、 今回は倉持視点で行くのかと思いきやさにあらず。 しかし倉持の過去が明かされたり、とキーパーソンであることは間違いなく。

殺人代行者、重い心臓病の息子のためにドナーカード保持者を狙う看護婦、 環チーム、不自然な事故死を追う刑事達、と4つの視点が交互に進んでいきます。 果たして法で裁けない犯人に対して、被害者家族は泣き寝入りするしかないのか。 重いテーマで、明確な結論も出ないわけですが、 この物語の中ではどんな理由があれ人を殺した者は「相応の報いを受ける」、 という形で決着がついています。

ああ、もうこのシリーズも終わりなんだなあ、と少し寂しくなりました。

(2005.06.25)


ゲームの名は誘拐/東野圭吾 (光文社文庫)

★★★☆ 

藤木直人・仲間由紀恵主演で「g@me」として映画化もされた作品。待望の文庫化。

敏腕広告プランナー・佐久間は、突然クライアントの副社長の意向でプロジェクトを潰される。 そんな矢先、副社長の娘が手元に転がり込んできた。この駒を有効に使って、 誘拐ゲームを仕掛けるのだが…。

私は基本的に原作読むまで映画観ないほうなので(「指輪物語」とかは例外ね)、 「g@me」もまだ観てないです。恐らく映画の方は、樹理のキャラクタを相当変えてあるんだろうなあ。 いくらなんでも原作の設定のままじゃ仲間由紀恵じゃ無理がありすぎる。

で、この作品ですが、スピード感があり、会話のテンポもよく、次々話が進みますし、 誘拐の手順もなかなか考えられていて楽しめました。 誘拐モノというと岡嶋二人さんの作品など色々名作がありますが、 この作品の場合には誘拐自体があくまでコマの1つという感じで、 もう一段メタなレベルでの駆け引きを楽しむようなイメージですね。

ただ、解説にも書かれているように、登場人物がほとんど悪人ばかり、 というか感情移入できる人物がいないので、そういう意味では、 面白かったんですが読後感はあまり良くない感じ。 まあ、その分を減点しても、十分このくらいの評価はありますね。

(2005.06.14)


アデスタを吹く冷たい風/トマス・フラナガン (ハヤカワポケットミステリ)

★★★☆ 

ミステリはEMMに掲載された7篇の短編のみ(つまり本書に掲載された作品のみ)という幻の作家、 トマス・フラナガンの唯一の作品集。

職業軍人(憲兵)テナント少佐を探偵役に据えた4作と、それ以外の3作からなってます。 どの作品もまるでチェスタトンの短編のような風刺・皮肉・どんでん返しが効いていて、 なるほど復刊希望読者アンケート第1位、というのも頷けます。

元々は有栖川有栖さんの密室大図鑑で紹介されていた「玉を懐いて罪あり」目当てで買ったんですが、 いやあこれはなかなか良いものを読ませていただきました。 訳が古いのでちょっと読みづらいところはありましたけど。

…でもこれって密室物に分類するのは随分無理矢理なような。主題はそんなところにないですよね。

(2005.06.14)


秘密。私と私のあいだの十二話/ダ・ヴィンチ編集部 編 (メディアファクトリー)

★★★☆ 

吉田修一、森絵都、佐藤正午、有栖川有栖、小川洋子、篠田節子、 唯川恵、堀江敏幸、北村薫、伊坂幸太郎、三浦しをん、阿部和重、 12人の作家によるショートショートのアンソロジー。しかも各パートがAパートとBパートから構成されるという趣向。

一話が4ページと少ないので、4ページ×2×12で、あっという間に読めます。 Aパート・Bパートに分かれていて、それなりに趣向が凝らしてあるので、 楽しめました。

(2005.06.11)


帝王死す/エラリー・クイーン (ハヤカワミステリ文庫)

★★★☆ 

軍需界に君臨する帝王「キング」・ベンディゴ。 彼の元に届いた彼を殺すという脅迫状。 彼の支配する島へと半ば強制的に連行されたクイーン親子。 果たしてエラリーは、何重にも囲まれた密室の中での予告殺人を阻止できるのか?

防音を含めてあらゆる外部の干渉を受け付けない機密室。 しかも何人もの見張り付き。 殺人を「予告」した犯人が、壁を2つ隔てた部屋で弾のこもっていない拳銃を構えた時、 密室の中の帝王は撃たれていた。 弾道検査の結果、弾の線状痕は一致。

不可能状況ここに極まれり。これより強固な密室はなかなかお目にかかれないですね。 ちゃんと納得の行く解決が用意されているのは感心しました。 あと、ほんの一部だけライツヴィル編だったのが懐かしかったです。

(2005.06.04)


スカイ・クロラ/森博嗣 (中公文庫)

★★★  

戦争を請け負う会社で働く戦闘機乗り。 普通の人間の違う感覚を持って生まれ、大人にならずに永遠の時を生きる「キルドレ」。 人を殺すこと、生きることの意味を問う寓話。

飛行機の好きな森さんの新シリーズ。近未来なのかパラレルワールドなのか、 とにかく現代とあまり科学レベルなどは変わらない世界が舞台。 しかしこの世界では突然変異で生まれる「歳を取らない子供」キルドレが、 戦争を一手に担っているようです。主人公の一人称で書かれるので、 世界設定が詳しく描かれているわけではないのですが、 徐々に明らかになっていく構成は見事。

このシリーズ、続くみたいですが、次作でも主人公は同じなんでしょうかね?

しかし女性の上官の名前が「草薙水素(スイト)」って、甲殻機動隊?と思ってしまった…。

(2005.06.02)


ラグナロク洞 《あかずの扉》研究会影郎沼へ/霧舎巧 (講談社文庫)

★★★  

《あかずの扉》研究会シリーズ第3弾。今回は影郎沼の洞窟に「名探偵」鳴海とカケルが閉じ込められてしまいます。 さらに「ミッシングリンク」連続殺人と、ダイイングメッセージが…。

今回、真相が二転三転しますが、 うーん、どうもあまり「そう来るか」という感じがしないのは、 元々の推理にそれほど説得力を感じないからでしょうか。 それにしてもユイのキャラは癒されるなあ。

(2005.05.29)


消失!/中西智明 (講談社文庫)

★★★★☆

福×県高塔市を舞台に赤毛ばかりを狙った連続殺害事件が発生。 しかも犯人と死体の消失を伴って!3つの事件がやがて交錯して行き、 探偵がたどり着いた驚愕の真相とは…!

そのトリックが伝説となっている「消失!」。 既に絶版のようですが、Amazonのユーズドで出品されていたので購入(高かったけど)。 ようやく読むことができました。

一読、なるほど、これはやられた! 大きく分けて3つのトリックが仕組まれてますが、1つ目にも増してやはり2つ目のトリックは衝撃的。 こう来るか!3つ目のは正直蛇足のようにも感じました。

ミステリとしての出来なら正直★★★☆程度でしょうが、 斬新なトリックに★1つ分プラスです。

ところでこの中西智明さん、他に作品は書いていないんですかね?

(2005.05.29)


マレー鉄道の謎/有栖川有栖 (講談社文庫)

★★★  

火村&有栖の国名シリーズ、長編としては「スウェーデン館の謎」以来の2作目。

旧友・大龍の招きでキャメロン・ハイランドを訪れた火村と有栖。 しかし目張りされた密室での死体、バックパッカーの絞殺死体、 殺人の連鎖が二人を襲う。帰国までのタイムリミットが迫る中、 真相を見つけることができるのか?

カーとクイーンとクリスティーと有栖を足してxで割った作品だと自らのあとがきで述べていますが、 古き良き本格推理小説という感じですね。 タイトルほどに「鉄道」が事件とあまり関係していないのも、 クイーンの国名シリーズっぽいといえばぽいかも。

でもこの作品、発売日が1ヶ月遅かったらもしかしたら発売延期になってたかも知れませんね…。

(2005.05.22)


さおだけ屋はなぜ潰れないのか?/山田真哉 (光文社新書)

「身近な疑問からはじめる会計学」と副題にあるように、 表題をはじめとする身近な疑問をテーマに、会計学の基本である「利益」「連結」「在庫」 「回転率」「キャッシュフロー」といった概念を、わかりやすく解説しています。

驚くような画期的な答えが提示されるわけではないのですが、 なるほどなあ、と納得できるものでした。 「会計学って何か難しそう」と思っている人にお勧め。 逆に、少しでも知っている人にはやさし過ぎるかも知れませんね。

(2005.05.19)


バッテリー III/あさのあつこ (角川文庫)

評価保留

活動休止中の野球部もいよいよ活動再開。 3年生の最後を飾るために、全国ベスト8の強豪との練習試合をもくろむ。 そのためのデモンストレーションとして、レギュラーvs.1年生チームの紅白戦が始まった。

もう生意気で、爆弾で、扱いに困ることはわかっていながらも、 その実力ゆえに周りが認めざるを得ない、という巧の快進撃がもういっそ心地よいくらいです。 豪も捕ることのできないほどの「巧の本気」が垣間見え、 バッテリー同士の関係からも目が離せません。

で、第4巻まだ〜?(チンチン)

(2005.05.10)


バッテリー II/あさのあつこ (角川文庫)

評価保留

第2巻。ようやく中学に入学し、野球部に入った巧たちだったが、 プライドの高い巧は教師や先輩達と衝突し…。

こういう生き方って疲れるだろうな…、と思いつつ。 しかしピッチャーとキャッチャーの関係が「おおきく振りかぶって」と真逆なのが面白い。

(2005.05.01)


バッテリー/あさのあつこ (角川文庫)

評価保留

中学生になったばかりの巧は、父親の転勤で引っ越してきた田舎で、 自分より一回り大きなキャッチャー・豪と出会う。 自分の力さえあれば野球はできると信じている巧は、 豪たち仲間や親、教師達と時にはぶつかり合いながら、 豪腕ピッチャーとして成長していく…。

「児童小説」という範疇に入るらしいですが、子供に読ませるのはもったいない、 青春小説です。とても小学校を卒業したばかりとは思えないほど大人びた巧ですが、 自分で自分をコントロールできなくなるほどの衝動や、 気持ちのモヤモヤがよく伝わってきます。

評価は完結してから、ということで、保留させていただきます。 が、間違いなく面白いです。

でもVI巻が出るのっていつになるんだろう…。

(2005.05.01)


時の密室/芦辺拓 (講談社文庫)

★★★☆ 

時の誘拐に続く、「時の〜」シリーズ第2弾。 今回も、大阪で昔起こった事件と現代の事件がリンクする…。

明治時代、建築技師エッセルが遭遇した「死体消失事件」。 昭和45年、医者の卵・氷倉が遭遇した友人の刺殺体。 そして現代に起こった、透明人間による絞殺事件。 いくつもの「密室」が重なり合い、そこには意外な真相が…。

時を越え、これでもか、というほど不可能犯罪が出てきますが、 それらが見事に結びついて、解決する様は見事。 こうなると犯人探しは二の次、という感じになりますね。

(2005.04.29)


赤死病の館の殺人/芦辺拓 (光文社文庫)

★★★☆ 

素人探偵・森江春策の助手・新島ともかが迷い込んだ館は、 ジグザグに部屋が配置され、それぞれの部屋中が赤や黄色一色に塗られた、奇妙な館だった…。 中篇である表題作他全部で4編を収録した短編集。

「ちょっとそれは無理があるだろー」と思うようなトリックもなくはないんですが、 本格短編らしいハッタリが効いていて面白かったです。

中では表題作「赤死病の館の殺人」が一番良かったかな。 やっぱり新島ともかが出てくると、何とも癒されます。

「深津警部の不吉な赴任」の、短編ながらの切れ味というか、 怒涛の二転三転する推理合戦も面白かったです。

(2005.04.24)


劫尽童女/恩田陸 (光文社文庫)

★★★★ 

動物の能力を与える研究をしている組織「ZOO」。 その組織から逃げ出し、娘に研究成果である「能力」を与えた伊勢崎博士。 超常なる力を得た少女・遙は、「ZOO」との戦いを経て、やがて…。

恩田陸さんの連作短編SF。普通ではない力を持ってしまった少女が、 組織と戦う。それだけでも燃えるシチュエーションですが、さすが恩田さん。 敵側の視点やら、色々と交えて、飽きさせない展開になってます。

(2005.04.17)


真実の絆/北川歩実 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

DNA鑑定による親子関係をめぐる、連作短編集。 不治の病に冒された資産百億の大富豪が、 自らの血のつながりの可能性のある子を探し出した。 資産のおこぼれに預かろうと、あれやこれやの手を考える有象無象の男女たち。 果たして本当の子は、そして母親はどこにいるのか?

いやあ、見事です。短編単位で見ても見事にどんでん返しが決まっているのですが、 さらに幕間の「依頼人との会話」を挟んで、話と話の間のつながりもまた見事。 別の話で出てきた登場人物が出てきたり、伏線が別の話で解消されたり、 段々と真相に近づいていく構成が見事。そして最後の最後に大技で決めてくれました。

(2005.04.14)


名探偵に薔薇を/城平京 (創元推理文庫)

★★★☆ 

致死量で使えばただの心臓発作に見え、絶対に露見することのない究極の毒薬「小人地獄」を巡る、 名探偵・瀬川みゆきの活躍。

2部構成となっており、第1部は「小人地獄」をめぐる、予告連続殺人、そして鉄壁のアリバイ。 もういまどき珍しいくらいの「本格」っぷりがたまりません。

しかし第2部に入ると、そんな第1部が壮大な伏線であったことに気づかされます。 そこには、「後期クイーン問題」とでもいうべき、「探偵」の事件に対する関わり、 それ自体を問うような展開が。二転三転する真相。 悲劇的な結末。いやあ、堪能させていただきました。

(2005.04.10)


23分間の奇跡/ジェームズ・クラベル (集英社文庫)

★★★  

9時から始まり、新しい教師が来て、生徒たちの心を掴むまでの、23分間の短い物語。

あらすじを読んで想像していた話とは全然違っていて驚きました。 まさに「最後の授業」に対する「最初の授業」。 しかし短いながらも結構深いですよ、これは。 というか、普通にこういうことって行われてそうですよね、大なり小なり。

訳者の青島幸男って、あの青島幸男なんですよね?

(2005.04.08)


ミステリなふたり/太田忠司 (幻冬舎文庫)

★★★  

同僚からは「鉄女」「氷の女」と呼ばれる、美貌の敏腕刑事・景子(29)。 8歳年下の夫・新太郎(21)は、新進のイラストレーターで、家事を「趣味」と言い切るインドア派。 景子が直面した困難な事件の様子を詳しく話すと、新太郎の名推理によってたちまち解決に…。

安楽椅子探偵物の連作短編集。景子の刑事としての冷徹敏腕ぶりと、 家で新太郎だけに見せるラブラブ甘甘天然ボケっぷりとのギャップが楽しいです。 短編だから仕方がないとは言え、あまりにも少ない手掛かりから推理が的中し過ぎ、 という気はしますが、アリバイ崩し、密室殺人、ダイイングメッセージ、ミッシングリンク物、 とバリエーション豊富で楽しめました。

(2005.04.02)


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