推理小説の部屋

ひとこと書評


サイタ×サイタ/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Xシリーズ第5弾。次の「ダマシ×ダマシ」でXシリーズ完結らしいので、ラス前ということになりますね。

「サイタサイタ」というメッセージと共に繁華街に仕掛けられたガソリン発火装置。 一方、小川たちの探偵事務所に来た匿名メールによる依頼は、佐曾利という男を監視して欲しい、 というものだった。佐曾利は元妻の野田優花をストーカしているようなのだが、 毎日野田の職場を外から眺めるだけで、何をすることもない。 そんな毎日が続く中、しかし尾行を続ける小川たちの周りでは発火事件やら殺人事件が起こる。 果たして、それらの事件に関連性はあるのか?

永田さん、わざわざ真鍋くんのために弁当を作ってきてくれるとか、 大分進展しているじゃないですか。

(2017.09.26)


まほろ駅前狂騒曲/三浦しをん (文春文庫)

★★★★☆

「まほろ駅前多田便利軒」シリーズ3冊目にして、完結編。

多田と子供との関係、行天と子供との関係、そして多田の恋の行方はどうなるのか? 横中の間引き運転に抗議を続ける岡さんがついに老人たちと立ち上がる。 健康オタクなインテリヤクザ星は無農薬野菜販売集団との対決で暗躍をする……。

これまでのシリーズを通して積み残されていた問題が、 すべて綺麗に片付く、爽快感のある大団円でした。

今後も「番外地」のようなキャラごとの短編は読んでみたいですが、 メインストーリーとしてはこれで完結しているのがすっきりしていいですね。

(2017.09.20)


探偵が早すぎる(上)(下)/井上真偽 (講談社タイガ)

★★★★ 

父の死により莫大な遺産を相続した女子高生の一華。その遺産を巡り、一族は彼女を事故死に見せかけ殺害しようと試みる。最初に殺害に成功した一家の総取り、というルールだからだ。 一華は使用人の橋田に、守って欲しいと依頼をし、橋田はある人物を雇う。 その人物は、事件が起こる前に未然に犯罪を防ぎ、かつ証拠を固めて犯人にその殺害トリックを返す「トリック返し」と呼ばれる探偵だった。

設定だけの出オチみたいな探偵ですが、ちゃんとどういう筋道でトリックを見破ったのか、 そこからどうやって犯人を特定するに至ったのか、そしてそのトリックをどうやって未然に防いだのか、 まできっちり説明してくれるあたり、ちゃんとそれぞれのトリックが作りこまれています。 究極の倒叙もの、というところでしょうか。

作者の井上真偽さん、中々尖った作品を書く人のようですね。 文庫はこれが初ですが、これからの文庫化が楽しみです。

(2017.09.12)


名探偵・森江春策/芦辺拓 (創元推理文庫)

★★★☆ 

探偵・森江春策のエピソード0。小学5年生、中学3年生、大学生、そして仮名文字新聞文化部時代のエピソードをそれぞれ1篇ずつ収録。 そして最後に新島ともかを助手に迎えた「探偵」森江春策に、連作短編ならではの1篇で締め、という構成。

レトロな雰囲気と文体が、怪奇小説っぽい舞台設定とよく合ってますね。 そして各短編に残された「謎」が最後の短編で解ける……?という趣向。 芦辺先生らしい振り幅が利いていて面白かったです。

(2017.08.30)


アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

伊坂作品では珍しい「恋愛」をテーマにした連作短編集。

冒頭の「アイネクライネ」は、斉藤和義の「ベリーベリーストロング〜アイネクライネ〜」の元になった小説。 そしてここでの登場人物、日本人初のヘビー級チャンピオンになったボクサー、 嫁さんに逃げられてサーバを蹴っ飛ばしてデータを消してしまった先輩、 「僕」の大学の同級生、などが絡み合って、後の短編に登場。 そして最後の「ナハトムジーク」で再び絡み合う、という構成。

各短編での巧みな伏線とサプライズ、そして最後に繋げる構成、さすがの短編集でした。

(2017.08.23)


数学ガール ガロア理論/結城浩 (SBクリエイティブ)

★★★  

「数学ガール」シリーズ第5弾。2017年現在、これ以降の作品はリリースされていません。

今回は、「5次以上の方程式には、解の方程式が存在するとは限らない」ことを証明するために、 「解が存在する必要十分条件」を示したガロア理論。

「あみだくじ」からスタートして、「フェルマーの最終定理」などにも通じる「体」の世界と「群」の世界を行き来する橋渡しを解説していきます。

ミルカさんやテトラちゃんとの関係など、何か色々と棚上げにされている気はしますが、エピローグを読んで後は想像してください、ということなんでしょうかね。

(2017.08.17)


数学ガール 乱択アルゴリズム/結城浩 (SBクリエイティブ)

★★★  

「数学ガール」「数学ガール フェルマーの最終定理」「数学ガール ゲーデルの不完全性定理」に続く第4弾は、 乱択アルゴリズム。これまでは数学史上の難題に挑む、という感じだったのに、 随分と毛色が変わった感じですね。

学年が進み、1年生のクール系(ハルヒの長門みたいな)コンピュータ少女・リサが加わりました。

ミルカさんのアメリカ行く問題は、行きっぱなしということではなく、 ちょくちょく行く、ということだったようですね。

(2017.08.11)


満願/米澤穂信 (新潮文庫)

★★★☆ 

ノンシリーズ短編集。テーマは動機。ホワイダニットに焦点を当てた作品、全6篇を収録。

意外な真相と共に、何とも言えない余韻が残る作品が多かったですね。

(2017.08.11)


数学ガール ゲーデルの不完全性定理/結城浩 (SBクリエイティブ)

★★★  

「数学ガール」「数学ガール フェルマーの最終定理」に続く第3弾は、 ゲーデルの不完全性定理。

「私の言っていることは嘘である」のような、自己言及に関する命題は、 肯定も否定も証明できない、ということを数学的に定義して示しました。 その鍵となるのが、証明する数式そのものを数として扱う「ゲーデル数」という考え方。

今回も、ペアノの公理、ラッセルのパラドックス、イプシロン・デルタ、対角線論法、 といった理解に役立つ色々な小ネタを先にバラまいておいてから、 最後に一気にゲーデルに掛かるので、大分理解を助けていただきました。

果たしてミルカさんは海外留学してしまうのか?

(2017.08.05)


フロスト始末(上)(下)/R.D.ウイングフィールド (創元推理文庫)

★★★☆ 

フロスト警部シリーズ、最後の長編。R.D.ウイングフィールドさんの遺作だそうです。

今回も、犬が見つけて咥えてきた足から始まり、未成年の行方不明、 スーパーマーケットへの毒物混入脅迫事件、腐乱死体にバラバラ死体、 と事件のてんこ盛り。そんな中、フロスト警部の不正を盾に他署へ強制異動させようと乗り込んできたスキナー主任警部に、 いつにも増して振り回されるフロスト。果たしてデントン署に平穏は訪れるのか?

このスキナー主任警部ってのが、面倒くさいことは全部部下に任せて、 手柄だけは自分で独占する、という最低な奴で、マレット署長がまだ可愛く見えてきます。

解決しない事件が積み重なり、寝不足でストレスがマックスになったところから、 一気に事件が片付いていくカタルシスはこのシリーズならではですね。

これで終わりかと思ったフロストシリーズですが、別の作家が遺族の許可を得て、 フロストの巡査長時代から書き始めているそうです。 そのうち若き日のフロストに出会えるかもしれませんね。

(2017.08.01)


数学ガール フェルマーの最終定理/結城浩 (SBクリエイティブ)

★★★  

「数学ガール」の第2弾。 フェルマーの最終定理を理解するのに必要な道具を、ピタゴラスの定理から始め、 アーベル群、群・環・体、無限降下法、オイラーの公式、そして楕円曲線、 保型形式(モジュラー形式)、そして谷山・志村予想とフライ曲線、 まで説明してくれています。

ミルカさん、テトラちゃんに加えて、従妹のユーリも加わり、 いつの間にかハーレム状態に。

もちろんこれだけで理解するのは無理なんですが、どういう理屈で証明されたか、 という道筋は理解できるのがいいですね。

(2017.07.27)


風ヶ丘五十円玉祭りの謎/青崎有吾 (創元推理文庫)

★★★★ 

「○○館の殺人」の裏染天馬が探偵を務めるシリーズの第3弾にして短編集。 各キャラを掘り下げる、長編の間を補完する正当な短編集になっています。

表題作は、創元推理文庫ではおなじみ、「競作 五十円玉二十枚の謎」をモチーフとした作品。 その他、食券20枚のために天馬が推理を行う「もう一色選べる丼」 ツンデレ針宮視点の「針宮理恵子のサードインパクト」、 柚乃が百合に目覚める?「天使たちの残暑見舞い」、 そして天馬の妹・鏡華が探偵役を務める「その花瓶にご注意を」を収録。

次の長編「図書館の殺人」も楽しみです。

(2017.07.23)


シャーロック・ホームズたちの冒険/田中啓文 (創元推理文庫)

★★★  

歴史上の有名人または有名な小説の主人公を探偵役にした短編集。 ホームズ、忠臣蔵、ヒトラー、小泉八雲、ルパン&ホームズ、とバリエーションに富んでます。

こういうパスティーシュものは、原典の記述といかにこじつけるかが腕の見せ所ですよね。 そういう意味では、ちょっとダジャレがキツいかなあ、という感じもしました。

史実物系が比較的論理的解決に落ちるのに対して、ホームズ物2本が色々とぶっ飛びまくっているので、好みは分かれそうだと思いました。

(2017.07.19)


さよなら神様/麻耶雄嵩 (文春文庫)

★★★☆ 

神様ゲームに続く、神様シリーズ第2弾。 自称神様の鈴木太郎は、「俺」こと淳に、殺人事件の犯人を告げる。 その人物は身近な人物の関係者だったりして、淳は思い悩む。 そして真相を探るために久遠小少年団は動き出す……。

1行目が「犯人は○○だよ」から始まる、という掟破りな連作短編集。 段々と捻りが加わっていくあたりが、いかにも麻耶雄嵩作品ですね。

(2017.07.12)


少年たちは花火を横から見たかった/岩井俊二 (角川文庫)

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?/大根仁 (角川文庫)

★★★  

元々フジテレビの「ifもしも」の1話目として作られた岩井俊二監督の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」が、 この度「モテキ」「バクマン。」の大根仁監督の脚本によってアニメ化されることになったそうで。 というわけで、その「打ち上げ花火〜」のプロトタイプ版を岩井俊二監督自身が、 アニメ版のプロットのノベライズを大根仁監督がそれぞれリリース。

当時、このドラマリアルタイムで観ました。奥菜恵が、同級生に見えないくらい大人びてたのは良く覚えてます。

アニメ映画版は、タイムスリップ要素が追加されているようで。タイムスリップ物好きとしては楽しみな反面、 あの原作(ドラマ版)の切ない感じが残るんだろうかと少々不安もあります。

(2017.07.09)


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