推理小説の部屋

ひとこと書評


聖なる怠け者の冒険/森見登美彦 (朝日文庫)

★★★  

京都を舞台に繰り広げられる、ぽんぽこ仮面とテングブラン流通機構との戦い。 小和田君は、平穏な週末を確保できるのか。

狸が暗躍する京都、というシチュエーションは「有頂天家族」なんかの世界観にも通じるものがあるんでしょうか。

人間の中には、誰しも「怠け者」と「理性の人」と「野生の人」がいる、 というのはなかなか含蓄に溢れているなあ、と思いました。

(2016.10.02)


異次元の館の殺人/芦辺拓 (光文社文庫)

★★★☆ 

SF×ミステリ。ハイゼンベルグの不確定性原理がミステリに適用されると何が起こるのか?

一つのシチュエーションに対して、複数の推理が提供されるタイプのミステリ、 というジャンルがあります。「毒入りチョコレート事件」とか。 タック&タカチシリーズもそんな側面ありますね。 しかしこの作品では、間違った推理をすると、その推理が成立しない別のパラレルワールドに飛ばされて、 もう一度推理をやり直すハメになる、という点が異なります。 元の世界に戻るためには、正しい推理を導き出すしかない!

しかし森江春策は、こんな飛び道具みたいな作品の探偵役も務めるんですね。

(2016.09.18)


さよならの手口/若竹七海 (文春文庫)

★★★  

葉村晶シリーズ、久しぶりの長編。

ただ古本の買い取りに向かっただけなのに、白骨死体を見つけてしまい、 さらには入院中のベッドでその真相まで見抜いてしまうという、 根っからの探偵である葉村晶。

設定は大分違うんですけど、読み味は「フロスト警部」シリーズに似た感じがあるかも、 と思いました。とにかく次から次へと事態が積み重なっていき、 それらが重なり合った上で、一気に解決していくあたりとか。

(2016.09.11)


静かな炎天/若竹七海 (文春文庫)

★★★  

葉村晶シリーズの短編集。

いつの間にか古書店の手伝いをする片手間に探偵業をすることになった葉村晶。 40肩になったりと散々な目に遭いながらも、事件を解決していく。

次々と舞い込む事件がすべてあっという間に解決してしまう表題作「静かな炎天」なんか、 コージーミステリのようで楽しんでましたが、ちゃんと「次々と舞い込む」ことに意味があったりするのには感心しました。

そしてこれを読んだ後、長編「さよならの手口」を読んでなかったことに気づきました。

(2016.09.11)


燦(8)鷹の刃(完)/あさのあつこ (文春文庫)

★★★  

文庫書下ろしシリーズ、8巻にして完結編。

お吉も篠音も無事田鶴へ到着。静門院まで幸せに……とはいかなかったですが、 まあハッピーエンドと言っていいのでは。

ラスト、圭寿と伊月の出生に関わる秘密が明らかになりますが、 これ正直言って、要る?と思ってしまいました。 これまでそれに関する伏線らしきものもあまり無かったような気がするし、

(2016.08.12)


赤目姫の潮解/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

「百年シリーズ」、3部作の完結編、らしいです。という割には、出版社も違うし、 ミチルとローディも出てきませんが。

篠柴と鮭川は、赤目姫に招かれた屋敷で、互いの体験を話す。それは、 他人の意識や経験を次々と移りゆくような体験だった。 そしてその周りには必ず特異な色の目を持つ者たちが。彼らは「人形」なのか?

最終章のタイトルは「フォーハンドレッドシーズンズ」=百年×四季。 うーん、結局四季は何がしたかったんでしょうね。 人形で人間を代替可能ならば、人形だけで世界を構成できる、ということを示したかったんでしょうか。

(2016.08.11)


フォグ・ハイダ/森博嗣 (中公文庫)

★★★☆ 

シリーズ第4弾。

ノギやチハヤと交わるうちに、段々と人の心の機微のようなものを身につけていくゼン。 剣の道を究めたいという思いと、人を殺めたくないという相反した思いが、 彼を段々と人間っぽくさせていってますね。

次の第5弾で一旦完結となるようです。

(2016.07.31)


キアズマ/近藤史恵 (新潮文庫)

★★★☆ 

フランスから帰国し一浪の末大学に入学した正樹は、はずみで先輩である村上を怪我させてしまう。 村上から自分の代わりに入るように乞われ、一年の約束で入部した自転車部で、 正樹はロードレースの楽しさに目覚め、才能が開花する。しかし……。

ロードレースシリーズの第4弾ですが、登場人物はこれまでのプロではなく大学生。 ということで、この巻から読み始めても問題ないです。 むしろ主人公が自転車の初心者なんで、初心者向けにはこちらから入る方がいいかも。

ロードレースの駆け引きや激しさを感じることもできますし、 絆とその裏に潜むトラウマを乗り越える青春物として読むこともできます。

(2016.07.28)


銃とチョコレート/乙一 (講談社文庫)

★★★  

講談社「ミステリーランド」として刊行された作品の文庫化。 ひらがなの多い文章、怪盗と名探偵に宝物の地図、とジュブナイルな雰囲気をまとわせつつ、 移民と混血の差別や、裏切りと欺瞞に満ちた展開など、結構小学生くらいの子が読んだらトラウマになりかねないハードな内容でした。

誰が敵で誰が味方なのか、コロコロと目まぐるしく入れ替わる展開がスリリング。 一番人畜無害そうなお母さんが実は結構したたかな人だったとか。 伏線の張り方も子供向けだからといって全く手を抜いていないあたりがさすがでした。

(2016.07.24)


死神の浮力/伊坂幸太郎 (文春文庫)

★★★★ 

連作短編集「死神の精度」の続編にあたる長編。 ミュージックを愛し渋滞を憎む、クールな死神の千葉が、娘を殺された復讐を誓う山野辺夫妻と共に犯人を追う。

伊坂さんの小説に度々登場する良心を持たないサイコパス(「マリアビートル」でいうところの王子慧みたいな)。 普通に立ち向かったら、どこか抜けてる一般人である山野辺夫妻ではあっという間に返り討ちにあってたでしょうが、 どこかズレてて規格外の千葉さんが一緒にいることで、何とか切り抜けていきます。

ハッピーエンド、とは言い切れないかも知れませんが、なかなか余韻のある結末でした。

(2016.07.17)


八月の六日間/北村薫 (角川文庫)

★★★  

雑誌の副編集長をしているアラフォーの「わたし」は、3年前男と別れたのを機に、 山へ登るようになる。 親友の死、編集長への昇格、何かがあるたびに「わたし」は山へ登る。

山登り描写がかなり細かいのですが、北村薫さん自身は登ってないらしいです。 凄いな。

山登りなんてしようとも思わない私ですが、 やっと山小屋に辿り着いた時のビールの美味しそうなところだけはよく伝わりました。

(2016.07.17)


探偵が腕貫を外すとき 腕貫探偵、巡回中/西澤保彦 (実業之日本社文庫)

★★★☆ 

腕貫探偵シリーズ。タイトルからして最後なのか?と思いきや、全然そんなことはありませんでした。

相変わらず神出鬼没の腕貫探偵ですが、腕貫探偵さんがグルメであることから、出てきそうなレストランの描写がやたらと微に細に凝っていて、読んでいるだけでお腹が空いてきます。

新作も単行本化されているようなので楽しみです。

(2016.07.03)


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