推理小説の部屋

ひとこと書評


夏の名残りの薔薇/恩田陸 (文春文庫)

★★★☆ 

3人の魔女が住むホテルに、今年も訪れた「私」。「私」の復讐劇は果たして成し遂げられるのか?

章が変わるごとに語り手が変わる、という構成は良くありますが、 この作品の場合、前の章で起こっていた殺人事件が「なかった」ことになって、 次章に引き継がれる、という構成。読者視点では、嵐の山荘における連続殺人事件なんですが、 実際にはまだ一つも殺人事件は起きていない、という不思議な世界。

正直、オチには納得してませんが、この構成だけでで☆一つおまけって感じですね。

(2008.03.30)


タイムスリップ釈迦如来/鯨統一郎 (講談社文庫)

★★★  

タイムスリップシリーズ第3弾。今回はうらら達が紀元前のインドへとタイムスリップ。 悟ったばかりのブッダと出逢い、仏教を世界的に広めるために奔走します。 さらに中国に行って老子を、最後はギリシャに行ってソクラテスを弟子にしようと試み…!?

ブッダがオカマだったり、老子やソクラテスを弟子にしようとしたりと、 色々とトンでもない歴史フィクションで、マジメな人からは怒られそうですが、 歴史パロディみたいなもんだと捕えれば楽しめるんじゃないでしょうか。 デビュー作の「邪馬台国はどこですか?」からの伝統ともいえる、 歴史上の些細な謎に対する大胆な仮説、というのも散りばめられていますし。

(2008.03.28)


モロッコ水晶の謎/有栖川有栖 (講談社文庫)

★★★  

国名シリーズ第8弾。中編3編と、掌編1編を収録。

「助教授」と渾名された往年のスターが誘拐され、殺害された。 成功するとは思えない杜撰な身代金の受け渡し計画。 果たして犯人の目的は何だったのか?
「助教授の身代金」

アガサ・クリスティーの名作・「ABC殺人事件」をなぞり、 Aの町でAの被害者が、Bの町でBの被害者が同じ銃で殺された。 警察に届いた無差別殺人を匂わせる予告状。 被害者同士の繋がり、そして犯人の目的は?
「ABCキラー」

酒場で見せた火村と朝井女史の推理合戦。一人蚊帳の外だった有栖は、 その謎を解き明かすべく駅に降り立ったのだが…。
「推理合戦」

出版社社長のホームパーティで乾杯の直後に起きた毒殺事件。 しかし被害者は無作為にグラスを選び、またグラスを取った後に被害者に近づけた者はいなかった。 無差別殺人だったのか?どうやって被害者に毒入りのグラスを選ばせたのか? 「モロッコ水晶の謎」

中では、やはり表題作「モロッコ水晶の謎」に感心させられました。 これは確かに盲点ですね。純粋に感心しました。

これで国名シリーズも8作目。本家エラリー・クイーンは10作で完結でしたが、 こちらも後2作で締めるんでしょうか。

(2008.03.25)


θは遊んでくれたよ/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Gシリーズ第2弾。全く無関係と思われていた飛び降り自殺。 しかし死体の一部には口紅で描かれた「θ」の文字が。 果たして一連の事件は集団自殺なのか?それとも自殺に見せかけたシリアルキラーなのか?

あくまで海月くんが探偵役なんですが、犀川先生も「名誉探偵」みたいな役割で出てくるのがおかしいですね。

このシリーズ、S&Mシリーズの後継なのかと思っていたんですが、 保呂草が(声だけだけど)出てきたり、真賀田四季が絡んできたり、 と今までのシリーズの集大成的側面もあるんですね(時系列で並んでいるんだから当然ですが)。

(2008.03.20)


謎亭論処 匠千暁の事件簿/西澤保彦 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

タック&タカチシリーズ短編集第3弾(初出は黒の貴婦人より早いので第2弾らしいですが)。 このシリーズの短編集の常で、時系列がバラバラな作品が収められてますが、、 主に社会人以降の話が多目ですね。

「匠千暁の事件簿」となってますが、視点はウサコだったりタカチだったり。 例によって飲みながら、妄想とも言える様な酩酊論理を重ねて行き、 意外な真相へ辿り着く、という安楽椅子探偵フォーマット。 中には、結局真相はどうだったのかわからない話も。

4人のその後の中では、ウサコが刑事と結婚していたのがやはりちょっとした衝撃。 よりによってあの幼児体形のウサコが! しかもその馴れ初めにはタックが関わっているらしいとか…。 そして、タカチはもはや歩く女神とでも形容すべき気高きオーラを纏い、 相変わらずタックを虐める事に喜びを見出しているようです。

しかし結局これで既刊のタック&タカチシリーズは全部文庫化されちゃったのか…。 いい加減、次の長編書いて欲しいですよね。

個人的メモ・4人のその後:

タック
大学卒業後、喫茶店《アイ・エル》の給仕を続け、「身代わり」のバイトを始める。 安槻署の面々とコネを作りつつある。
タカチ
大学卒業後、安槻を離れたらしい(仕事は何をしているのか不明)。 たまに戻ってきてはタックと会っている様子。
ボアン
丘陽女子学園高等学校の国語教師に就任。生徒からは「ユウちゃん」と慕われる。
ウサコ
刑事の平塚総一郎と結婚。自身は大学院の心理学科博士課程で博士論文執筆中。

(2008.03.18)


弥勒の手/我孫子武丸 (文春文庫)

★★★★ 

家庭内別居状態だった妻が失踪し、途方に暮れる高校教師・辻。 愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。 事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがて「救いの御手」という新興宗教に辿り着くのだが…。

我孫子武丸さん、久々の文庫化作品。 辻視点のパート「教師」と、蛯原視点のパート「刑事」が交互に現れ、 最後の「弥勒」の章で全てが明らかになる、という構成。

2つの視点が交互に現れるというのと、新興宗教が絡むという点で、 貫井徳郎さんのデビュー作「慟哭」を彷彿とさせますね。 あちらもかなり驚きの仕掛けがありましたが、こちらも我孫子武丸さんらしく、 切れ味の鋭い仕掛けが施されております。 いやあ、久々に騙されたなあ。

(2008.03.11)


犬はどこだ/米澤穂信 (創元推理文庫)

★★★★ 

都会で夢破れ、田舎に戻って来た紺屋長一郎が、お好み焼き屋の代わりに始めた自営業は「紺屋S&R(サーチ&レスキュー)」だった。 犬専門の私立探偵とする予定だったが、最初の仕事は都会から消えた孫娘を探してくれ、という依頼だった。 さらに探偵に憧れる高校時代の後輩のハンペーも表れ、二番目の依頼である古文書の謎を解き明かす依頼に。 2人の探偵に2人の依頼。やがてその2つの事件は意外な接点を持ち…。

米澤穂信先生の新シリーズ。私立探偵を主役に据えたハードボイルドということなんでしょうが、 犬専門の探偵だったり、後輩のハンペー視点になるとやたらと探偵稼業に憧れていたり、 とどこかとぼけた味が。

しかし2つの事件が重なり合う時、見事な構図の逆転が起こります。 この余韻は確かに何とも…。シリーズ化されるようなので、続編も楽しみです。

(2008.03.11)


桜姫/近藤史恵 (角川文庫)

★★★  

歌舞伎の女形・小菊をワトソン役とし、今泉文吾を探偵役とする「歌舞伎シリーズ」の第3弾。

大物歌舞伎役者の娘として笙子。彼女には幼い頃に死んだ兄・音也がいた。 笙子は夢で自分が兄を殺す夢を何度も見ていた。 そんな彼女の元に、音也の親友だったという若手歌舞伎役者・銀京が現れた。 音也の死の真相を探ろうとする二人の前に、様々な妨害の手が…。

ワトソン役の小菊視点と、笙子視点のパートが交互に現れる、という構成はこれまでのシリーズ通り。 今回は小菊は情報収集のみで、いまいち活躍しませんでしたね。

しかしどうやら私は「散りしかたみに」を読み飛ばしているようです。 いつか読まないとなあ。Amazonでも品切れになってるんですが…。

(2008.03.02)


時砂の王/小川一水 (ハヤカワ文庫)

★★★★ 

西暦248年、邪馬台国の女王・卑弥呼の前に現れた「使いの王」は、 想像を絶する未来の物語を語った。 地球外から現れた人類の敵・自己進化する機械生命体ETによって、 26世紀の人類は滅びようとしていた。 ETを根絶するために、人類は過去に知性体・メッセンジャーを送り、 各時代の地球人と協力してETを掃討する時間遡行作戦を決行した。 しかしそれは10万年にも及ぶ長き戦いの幕開けであった…。

時間SF。過去に干渉するとその影響で未来が分岐し(作中では「時間枝」と呼ばれている)、 その時点で干渉したメッセンジャー達には分岐前と後の両方の記憶が現れる。 分岐した時間枝の未来からさらに別のメッセンジャー達が送り込まれてくることもあるが、 その場合発生した時間枝が生まれた時点より前に遡行することはできない、 というのが基本的なルール。

色々作戦を立てて挑んでいくメッセンジャーたちですが、 その時代の地球人たちのエゴもあってことごとく失敗していく様子が何ともリアル。 「ああ、まあいきなり未来から来たとか言われてごちゃごちゃ指示されても、 そういう反応するだろうねえ」みたいな。

邪馬台国での戦いも、切迫感が伝わってきますが、 やはり一番の見所は使いの王と卑弥呼の心の交流でしょうか。 そこに意識体として指令を出すだけのカッティ・サークがそこにいいアクセントとして加わってます。

(2008.02.27)


I LOVE YOU/伊坂幸太郎・石田衣良・市川拓司・中田永一・中村航・本田孝好 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

注目の男性作家6人による恋愛アンソロジー。

ホッキョクグマをこよなく愛す姉が、行方不明になってから3年が経った。伊坂幸太郎「透明ポーラーベア」。

幼馴染で20年を超える友人の間に、男女の愛は成立するのか?石田衣良「魔法のボタン」。

社会人になってから再会した中学の同級生。初恋の人の外見は余りにも変わっていて…。市川拓司「卒業写真」。

尊敬する先輩の頼みで、女の子と付き合うフリをすることになった相原だったが、本気になってしまい…。中田永一「百瀬、こっち向いて」。

「全部決めちゃうってのはどうかな?」週に三度の電話と一度のデートを予定通りにこなすカップルだった僕ら。 そんな僕だったが、破天荒な先輩・木戸さんと出逢ったことで何かが変わり始める。中村航「突き抜けろ」。

5年間連れ添った彼女との最後の晩餐。その最後に思い出したこととは…。 本田孝好「Sidewalk Talk」。

どれも短編ながらなかなかのクオリティ。さすがという感じです。 中でも特に、とっちらかったエピソードを散りばめているようでいて、 最後にはピースがハマるように収束する伊坂幸太郎の「透明ポーラーベア」が印象に残りました。

(2008.02.21)


届かぬ想い/蘇部健一 (講談社文庫)

★★★☆ 

運命の赤い糸を信じる嗣利だったが、最愛の娘・美香と妻・広子を失くし、 失意の中、百合子という女と出会う。やがて百合子と再婚したのだが、 生まれた娘は生まれつき珍しい遺伝病を患っていた。20年後ならば治せる、 その言葉を信じ、嗣利は娘を救うために未来への旅へ出る…。

全然予備知識無しに読んだんですが、タイムトラベル物でした。 しかもかなりベタな一人乗りのタイムマシンが登場するタイプ。

タイムトラベルが絡む恋愛物というと、古典のあれとかこれとか、 色々な名作が思い浮かびますが、そこはやはり蘇部健一、 そういうのを期待して読むとまず裏切られます。 作者自身のあとがきによれば、

私は昨年「届かぬ想い」という時間SFを書いた。だが、その作品はこれまででいちばん自信があったにもかかわらず、 評判は最悪なものであった。おそらくその原因は、感動的な話を期待して読みはじめたのに、 ラストに読者が引いてしまったためではないかと思われる
とあるように、まあそれなりに覚悟して読んだ方がいいかと思われ。

「六とん2」と「六とん3」に、姉妹編の「叶わぬ想い」「秘めた想い」が載ってるらしいので、 そちらも楽しみにしてます。

(2008.02.19)


てるてるあした/加納朋子 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

ささら さやの続編。 経済観念ゼロの両親のせいで夜逃げし、一人「佐々良」に来ることになった照代。 彼女が一緒に暮らすことになったのは、「遠い親戚」であるおせっかい婆さん・久代だった。 心を閉ざす照代の元に、謎のメールが届き始める。 さらに小学生の女の子の幽霊まで登場して…。

2006年春クールにテレ朝ミッドナイトドラマ枠でドラマ化されたので、 内容はほとんど知ってました。 ドラマは「ささら さや」と「てるてるあした」をミックスした内容でしたが、 こうしてあらためて原作を読んでみると、かなり忠実な原作につくりだったんだなあ、と。 まあ、原作の照代と黒川智花だと大分印象は違いますが。

加納朋子さんらしく、人情味に溢れていて、かつリアリティに溢れた苦味もあって、 そんな現代の童話のような物語でした。

(2008.02.16)


死神の精度/伊坂幸太郎 (文春文庫)

★★★★ 

死神の「調査部」に属する千葉。音楽を愛し、渋滞を嫌う彼が、人間界にやってくるときはいつも雨。 死神は、ターゲットとなる人間に7日間接触し、「可」か「見送り」かを決める。 「可」と判定された人物は8日目に事故や事件に巻き込まれて死ぬ。 人間の死に何の興味を持たない死神達だが…。

死神のキャラクターが何ともクールでユニーク。基本、人間の動向には興味を持たずに冷めてるんですが、 比喩や言い回しを知らずに頓珍漢な応答をしたり、ミュージックに関しては異様に興味を示したり、 といったところが面白いですね。

基本、短編が連続している構成なんですが、短編同士のキャラクターのリンクも散見されていて、 なるほどよくできてるなあ、と感心しました。 しかし映画はどうやってまとめるんだろうか。

(2008.02.12)


探偵は今夜も憂鬱/樋口有介 (創元推理文庫)

★★★  

柚木草平シリーズ第3弾は、初の中編集。「雨の憂鬱」「風の憂鬱」「光の憂鬱」の3本の中編を収録。

元上司の冴子から、あるいはオカマバーのマスターから、 柚木は「アルバイト」を依頼される。本業(雑誌のフリーライター)はあるし、 気が進まない柚木だが、依頼人に会ってみるとその美人っぷりにあっさりと引き込まれてしまう、 「病気」の治らない柚木なのであった。

まあしかし出てくる女性出てくる女性、よくもまあこんなに美女揃いですよね(草平視点なので本当にどうだかはわかりませんけど)。

相変わらずキザったらしい台詞回しが面白過ぎます。

(2008.02.10)


不確定世界の探偵物語/鏡明 (創元SF文庫)

★★★☆ 

この世に1台きりのタイムマシン“ワンダーマシン”。 それを作ったタイムズ・コーポレーションの大富豪エドワード・ブライスにより、 世界は常に変容を遂げる不確定な世界となった。 そんな中、ダウンタウンで冴えない探偵家業を続ける主人公・ノーマン・ギブスンの元に、 ブライス直々に依頼が来た。ブライスは一体何をさせようというのか?

タイムマシンネタは色々ありますが、過去に干渉して現在に変化が起こった瞬間、 皆変化が起こる前の記憶と後の記憶を二重に持っていて、 段々と前の方の記憶を失っていく(この忘れ方には個人差がある)という設定はなかなか面白いですね。 でもって、設定はモロSFなのにも関わらず、 主人公は女にだらしなく、腕力もないダメ探偵、というハードボイルド設定の、ギャップが面白いですね。 現在が刻々と変わっていくような世界で、果たして探偵稼業に意味があるのか? という疑問は当然本人も感じているわけですが。

肝心のタイムとラベルシーンとか、ブライスの正体とか、 そこら辺の謎は一切明かされないまま終わってしまうのですが、 それはそれでハードボイルドなこの作品らしいかも。 同じ設定で本格系の作家が書いたら、また全然違う作品になりそうで、 それだけ魅力的な設定ですね。

(2008.02.03)


バベル島/若竹七海 (光文社文庫)

★★★  

若竹七海さんの、ノンシリーズ短編の中から「ホラー」系の作品を集めた短編集。 文庫オリジナル。

ホラーといっても色んなバリエーションがありますが、 超常現象オチから、人間の悪意まで、様々なバージョンが収録されてます。 しかし若竹さんの場合だと、超常現象パターンよりも、 むしろ人間の悪意メインの方が、リアリティがあって怖かったり。

オチが決まっているという意味では「回来」、 ネタの壮大さという意味では「バベル島」がオススメでしょうか。

(2008.01.26)


魔女の隠れ里 名探偵夢水清志郎事件ノート/はやみねかおる (講談社文庫)

★★★  

名探偵夢水清志郎シリーズ第4弾。準レギュラーとなる雑誌記者・伊藤さん初登場。 雪山で起きる神隠し事件と幽霊のシュプールの謎を解く「消える足跡と幽霊のシュプール」、 桜舞う隠れ里で起きた連続殺人予告、さらに推理クイズに秘められた謎を解く「魔女の隠れ里」 の二作を収録。

古今東西、名探偵には変人が多いですが、夢水清志郎の場合は段々変人というよりも、 社会不適格者じみて来ましたね。果たして三姉妹の隣に引っ越してくる前は、 どうやって生活していたんだろう?

新キャラの伊藤さんも、車を運転すると人格が変わるなど、 なかなか良いキャラをしているようですね。

(2008.01.24)


空の境界(下)/奈須きのこ (講談社文庫)

★★★★ 

三分冊の三冊目にして完結篇。全7章のうち、 第6章「忘却録音」、第7章「殺人考察(後)」を収録。

荒耶宗蓮は既に敗れたものの、彼が残した「種」が式たちを襲う…。 というわけで、やっぱりラスボスは荒耶だったんですね。

幹也の妹・鮮花と共に式が礼園女学院に潜む「妖精」の謎へと挑む「忘却録音」。 何かと反発し合う鮮花と式ですが、二人とも大くくりすると「ツンデレ」だよなあ。 実は意外と合うんじゃないかと思います。

そして「殺人考察(後)」では、3年前の真実も含めて、 これまで謎だったところが繋がっていくところはなかなか快感でした。 全てを読んだ上でもう一回読み返してみたいかも。

(2008.01.20)


美少女代理探偵の事件簿 カレーライスは知っていた/愛川晶 (光文社文庫)

★★★  

かつて警察で敏腕な刑事として知られた根津信三。事故を機にリタイアし、 料理研究家へと転身をした父譲りの明晰な頭脳と推理力を受け継いだ、 一人娘の根津愛。彼女を探偵役とする本格短編集第1弾。 ワトソン役はかつての父の部下の長身だが頼りない桐野刑事(通称・キリンさん)。 愛がまだ小さな頃からぞっこん、という真性のロリ。

タイトル「カレーライスは知っていた」の他に「コロッケの密室」や「納豆殺人事件」 など、 食べ物や料理にまつわる事件が多いのが特徴。 また、ヒントとして丸々レシピが載ってたりと、料理そのものの知識が事件解決の鍵になっていたりするところも面白いですね。 「読者への挑戦」が挿入されていたり、というところもかなり本格チックです。

根津愛の独り言が挿入されていたりと、なかなか面白い構成の短編集になってます。 愛には本当のモデルがいたみたいで、ホームページはそちらの方が運営していたとか。 残念ながらホームページはもう無くなってしまったみたいですが…。

(2008.01.18)


生贄を抱く夜 神麻嗣子の超能力事件簿/西澤保彦 (講談社文庫)

★★★  

チョーモンインシリーズ第6弾・短編集。 今回は、超能力者(犯人)視点で語られる話が多いため、 レギュラーキャラの登場は少な目。 シリーズ的には番外編的な位置付けの短編集になってます。

登場する超能力は、変装、予知夢、燃焼、テレポート、念写、とスタンダードなものばかり。 能力は割と最初にネタバレされるので、後はどうやってその能力を使ったのか、 使う必要があったのか、と言ったあたりを推理しながら読むことになります。

しかし主人公(だと個人的には思っている)保科さんですら1話にしか登場しないのはさすがにちょっと淋しいですね。 保科さんの神麻さんに対する「かあいい♥」を聞かないと、 このシリーズを読んだ気がしない(笑)。 まあ、そのセリフは「情熱と無駄のあいだ」の女性が言ってくれましたが。

神麻さんのほんわかした雰囲気とは対照的に、 結構救いの無い話が平気であるのが西澤作品らしいところですね。 個人的には最後の「情熱と無駄のあいだ」みたいなライトな方が、 この世界観には合っていると思うんですけどね。

しかしもうこのシリーズ、短編集1冊分しかストックが無いのか。

(2008.01.09)


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