推理小説の部屋

ひとこと書評


浜村渚の計算ノート 5さつめ 鳴くよウグイス、平面上/青柳碧人 (講談社文庫)

★★★  

「5さつめ」だけどシリーズ第6弾。

「ドクター・ピタゴラス」亡きあと、さらに過激度を増す「黒い三角定規」。 京都の町を格子点の座標軸に見立てた、放物線と直線の接点には一体何が……?

「キューティー・オイラー」は味方になりそうな雰囲気ですね。

(2014.03.27)


眠り姫とバンパイア/我孫子武丸 (講談社文庫)

★★★☆ 

「かつて子どもだったあなたの少年少女のための」というコンセプトの、 ジュブナイル向けミステリ「ミステリーランド」の1冊として刊行された、 現時点での最新配本の1冊。

母親と2人で暮らす優希の元へ、海外へ留学してしまった大好きだった美沙に代わって、 大男の歩実が新たな家庭教師にやってきた。 優希は、交通事故で死んだはずの父親と逢っていた。 果たして父親は、彼女の妄想なのか、別人のなりすましなのか、 それともバンパイアなのか?

父親の正体は?という謎を主軸に、優希と歩実の二人の視点から交互に描かれる構成。 ファンタジーなのか?と思わせるギリギリのところで、 きっちりとミステリの枠内に落としてくるところはさすがです。

(2014.03.25)


狩場最悪の航海記/山口雅也 (文春文庫)

★★★  

「ガリヴァー旅行記」には詳しく載っていなかった日本への航海、 そしてそこから巻き込まれた「最悪の航海」について書かれた第二の航海記、という体。

途中、海賊物としても楽しめますが、島に辿り着いてからは恐竜やら竜人やらも登場し、 まさに奇想天外な展開。途中ちょいちょい挟まれるミステリをきちんと理詰めで解いていくあたり、 ベースはちゃんとミステリに軸足を置いてるんですね。

(2014.03.22)


運命しか信じない!/蘇部健一 (小学館文庫)

★★★☆ 

蘇部健一さんの恋愛連作コメディ第x弾。 今回のテーマは「運命だと思っていた出逢いの裏には、様々な偶然と、意志が隠されていた」です。

「バタフライ効果」ではないですが、ほんの少しのタイミングの違いや誤算が、 次々と波及して、ある二人の出逢いをアシストしたり邪魔したり…… といった話が収められています。

さらに連作短編集ならではの仕掛けも施されていますので、お楽しみに。

(2014.03.13)


ほっこりミステリー/伊坂幸太郎・中山七里・柚木裕子・吉川英梨 (宝島社文庫)

★★★☆ 

「人の死なない物語」と帯にある通り、ミステリでありながら、 読後感が「ほっこり」する短編を集めたアンソロジー。

……と言いつつ、いきなり最初の伊坂幸太郎さんの「BEE」が、 殺し屋大集結の「グラスホッパー」「マリアビートル」のスピンオフで、 殺し屋「兜」が主人公、ってところが面白いですね。 その道では有能な殺し屋である彼も、家庭では恐妻家。 いかにして妻の機嫌を損ねずに、庭に巣をつくった蜂の巣の除去を行うか、 というスリルとサスペンス(?)が楽しめます。

中山七里さんの「二百頭かの風」は、開発と自然保護で対立する田舎を舞台にした、 「衆人環視の中の消失ミステリ」を核に据えつつ、ファンタジー風味で味付けした作品。 勧善懲悪派からすると、まだ報いが足りない、という気もしますが……。

柚木裕子さんの「心を掬う」は、弁護士/検事・佐方シリーズの一作。 僅かな手掛かりから組み立てていく過程を魅せます。プロ意識が心を打ちます。

吉川英梨さんの「18番テーブルの幽霊」は、人気シリーズのスピンオフらしいです。 爆弾騒ぎやらちょっと詰め込み過ぎな印象も受けましたが、 そもそもの発端の謎の解決は、感心させられました。

それまで知らなかった作家の人気シリーズへ取りかかるの切っ掛けとなる、という意味で、 こういうアンソロジーはなかなか効果的だと思います。

(2014.03.11)


夢違い/恩田陸 (角川文庫)

★★★☆ 

夢を「夢札」によって映像化して視られるようになった近未来。 日本で初めて「予知夢」を見ていると認められた古藤結衣子。 彼女が自分の見た「予知夢」に巻き込まれて死んでから十年以上。 各地の小学校で子供たちがパニックになる事例が相次ぐ。 さらに集団行方不明が……。各地の防犯カメラに現れる結衣子の影。 果たして何が起きようとしているのか。

ドラマ「悪夢ちゃん」の原案小説、ということで、あれって(見てませんでしたが) ちょっとコメディタッチの学園ホラーみたいな感じでしたよね。 あまりに雰囲気が違うんで戸惑いました。何しろ主人公だと思っていた古藤結衣子は最初から死んでるし。

恩田さんらしいリアルとホラーとファンタジーの境界線が曖昧になるような感じの描写でした。

(2014.03.08)


下町ロケット/池井戸潤 (小学館文庫)

★★★★☆

ドラマ「半沢直樹」の原作者として一躍有名になった池井戸潤の、直木賞受賞作。

大学でのロケット打ち上げ失敗後、佃は父の後をついで町工場の社長となっていた。 しかし大手取引先の離反、特許訴訟、そして大企業との取引、 と次から次へと試練が訪れる。果たして、佃は、夢を追い続けられるのか?

さすが直木賞受賞作、という感じで、非常にテンポ良く、楽しめました。 次から次へと試練が訪れるのですが、必ずしも相手企業=悪、佃製作所=善、 といった描かれ方では無く、相手企業の中にも理解のある人はいるし、 社内にも佃の方針に不満を持つ者はいるし、といった感じで、 リアリティもあり、救いもある描き方になってました。

(2014.02.27)


遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?/詠坂雄二 (光文社文庫)

★★★☆ 

詠坂雄二の第2弾。80人以上を殺し、しかしそのほとんどを死体も残さずに処理した佐藤誠。 彼の殺人の中でも特異な犯行である「遠海事件」を、犯罪学者が振り返る、という体の小説。

死体をほとんど残さずに処理する技術と決断力を持ちながら、 「遠海事件」の時だけはなぜ首を切断しただけで死体を残したのか。 しかも第一発見者となってまで、首を切断する必要があったのか。 このホワイダニットを巡る部分が物語の核心です。

しかし佐藤誠が捕まったきっかけとなった事件や、 捕まえた女探偵のことはほとんど出てこないあたり、 相当ひねくれてます。

(2014.02.22)


麒麟の翼/東野圭吾 (講談社文庫)

★★★★ 

胸を刺された男は、刺された状態のまま、日本橋の麒麟の像まで歩いて息絶えた。 容疑者と思われる男は警官の職務質問から逃げようとして車に撥ねられ重体。 一見単純な殺人事件の裏に潜む秘密とは……?

映画化もされた加賀恭一郎シリーズ。テーマは「家族」。 加賀恭一郎自身、父親との大きな確執があるので、 より一層テーマが際立ちますね。

(2014.02.19)


GOTH番外編 森野は記念写真を撮りに行く/乙一 (角川文庫)

★★★  

GOTHが映画化された際に、 販促用写真集に寄せる小説ということで書かれた番外編。

ナチュラルに殺人者に出逢い、相手を魅了してしまう属性を持つ森野夜の魅力が、 十分に現れている番外編となってます。

しかし単行本としてはなかなか不幸な運命を辿った本だったようですね。

(2014.02.19)


こめぐら/倉知淳 (創元推理文庫)

★★★☆ 

倉知淳のノンシリーズ短編集、「なぎなた」と2冊同時刊行。

鍵を必死で探す男たちの「Aカップの男たち」、 ラジオの犯人当てクイズの出来は?「『真犯人を探せ(仮題)』」、 時代劇ミステリの裏に隠された驚愕のトリックとは?「さむらい探偵血風録 風雲立志編」、 世界を恨み不死となった男の結末とは?「遍在」、 ジュブナイル向けかと思いきやのバカミス?「どうぶつの森殺人(獣?)事件」、 猫丸先輩の番外編、「毒と饗宴の殺人」。

バラエティに富んでますね。どちらかというとコメディ寄りですかね。

(2014.02.08)


なぎなた/倉知淳 (創元推理文庫)

★★★☆ 

倉知淳のノンシリーズ短編集が2冊同時刊行。こちらは第1短編集の位置づけの「なぎなた」。

「死神」刑事の倒叙物「運命の銀輪」、 サスペンス物の皮を被った叙述バカミス「見られていたもの」、 不可解な死際だった別れた父と猫の死が重なる「眠り猫、眠れ」、 話題の残虐な誘拐犯がコンビニに?「ナイフの三」、 帰って来ない猫を探すためのポスターが意外な結末を導き出す「猫と死の街」、 映画の残虐なラストで一人笑う美女の正体は?「闇ニ笑フ」、 翻訳ミステリパロディで銃弾の痕無き死体の謎を追う「幻の銃弾」。

どれも一工夫がされてて、本格に対する愛を感じます。 もう一つの短編集「こめぐら」も楽しみです。

(2014.02.04)


群衆リドル Yの悲劇'93/古野まほろ (光文社文庫)

★★★  

古野まほろ作品絶版後の、再デビュー作。 通信手段と脱出手段を断たれた雪山の山荘で、 一人また一人と密室殺人が繰り返されていく……。

なんというか、過剰なまでに本格。シチュエーションはまんま「そして誰もいなくなった」 ですし、密室への異常なこだわりも感じます。読者への挑戦も2回入ってますし。

正直、トリックに納得できたかといわれるとかなり微妙なのですが、 雰囲気で最後まで一気に持って行かれた、という感じですかね。

(2014.02.01)


叫びと祈り/梓崎優 (創元推理文庫)

★★★☆ 

第5回ミステリーズ!新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」収録。 著者・梓崎優のデビュー連作短編集。

全編に共通して登場するのは斉木という青年。7か国語を操り、 海外の動向を分析する雑誌の記者として世界中を飛び回り取材する。 その先々で殺人事件等に巻き込まれるのだが……。

独特の文化・民族・風習の中で起きた「殺人」の「動機」が最大の見せどころ。 理解しがたい動機も多いのですが、独特の風習の描き方が丁寧なので、 納得させる説得力を持ってます。

叙述系の技も色々と駆使されており、今後も楽しみなミステリ作家ですね。

(2014.01.25)


はやく名探偵になりたい/東川篤哉 (光文社文庫)

★★★  

私立探偵・鵜飼杜夫&戸村流平による、「烏賊川市」シリーズ初の短編集。

これがギャグミステリでなかったら、鵜飼さんも戸村君も何度か死んでるような気がしないでもないですが、 まあ例によってゆるーい感じで読めます。 しかしトリックに関しては、(そんなバカな、と思わないではないものの)一応ちゃんとしているんですよね。

ドラマ「私の嫌いな探偵」の原作本、という位置づけのようです。

(2014.01.22)


QED 伊勢の曙光/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズ、ついに完結。伊勢神宮の裏の「闇」に近づき過ぎたタタルと奈々に、 命の危機が迫る。

最後は神山禮子含めたオールスターキャスト(毒草師は伝言だけで姿は見せませんが)が勢揃い。

タタルと奈々の関係も少しは進展した……んでしょうね。 小松崎は色々とフラグ立てまくってたような気もしたんですが、 そのまま放置なんでしょうか。

今回、各章のタイトルの最初の文字を取って行くと、 「いろはにほへとちりぬる」になっていますが、 最後の文字を取って行くと「せかいじゅうのだれより」になってるんですね。

(2014.01.19)


ケルベロスの肖像/海堂尊 (宝島社文庫)

★★★☆ 

いよいよAiセンターが稼働、しかし東城大学に「ケルベロスの塔を破壊する」という脅迫状が届く。 田口・白鳥コンビによる「チーム・バチスタ」シリーズ、ついに完結。

これまでのシリーズはもちろん、「螺鈿迷宮」、「ブラックペアン 1988」、 「極北」シリーズ、さらには「モルフェウスの領域」まで掠めて、 これまでのシリーズに出てきたオールスターキャストが、 それぞれの役割を果たして、物語はカタストロフィへ。

しかしこのシリーズ、不定愁訴外来主任に過ぎなかった田口先生の、 成り上がりサクセスストーリーでもあったんですね。

(2014.01.15)


リロ・グラ・シスタ/詠坂雄二 (光文社文庫)

★★★☆ 

著者のデビュー作。

ハードボイルド1人称の文体と、高校生でありながら「名探偵」という設定のギャップに、 読み始めた時はかなり混乱しました。 とても高校生とは思えないハードボイルドな呟きに、 高校生とは思えない職業特化した「情報屋」やら「愛情屋」やらの存在。 それでいて、起こる事件の中核に居座るのは、ど真ん中な物理トリック。

しかし読み終えた時、これらの一見チグハグな舞台装置全てが、 作者の狙いだったことに気づきます。久しぶりに「やられた」感を味わいました。

他の作品も楽しみです。

(2014.01.11)


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