推理小説の部屋

ひとこと書評


模倣犯 (四)(五)/宮部みゆき (新潮文庫)

★★★★ 

世間を騒がせた連続女性誘拐殺人は、犯人である二人組の事故死により幕を引いたかに見えた。 しかし真犯人Xは別にいると主張する元同級生の登場により、事件の真相は次々と様相を変えていく…。

というわけで、解決編に相当する第3部。読者には主犯がピースである、 ってことはわかっているわけで、そのピースがこうも堂々と表舞台へ登場するのは、 最初はちょっと意外な気もしました。 しかし彼の自己主張したがりな性格を考えればむしろ当然のことかと…。 特に5巻に入ってからの、輪が段々と狭まっていく様子は痛快でもあり。 ただ、由美子はかわいそうだったなあ…。

それ以外の登場人物は、皆収まるところに収まった、という感じでした。 特に、この物語は真一の贖罪の物語でもあったので、 その真一が義男の言葉によって解放されていくところがしっかりと描かれていたのは良かったですね。

さて、2005年の読破数は64冊でした。 まあ昨年とほぼ同じということで。

(2005.12.31)


バッテリー IV/あさのあつこ (角川文庫)

評価保留

4巻目。単行本と同じで6巻で完結なんでしょうか?

最初、いきなり冬になっているので、3巻読み飛ばしたかと思いました。

全国ベスト8の強豪と非公式な練習試合。巧の渾身の球で天才打者門脇を三振に打ち取った直後、 巧と豪のバッテリーは脆くも崩れ去った…。 レギュラーを外されたバッテリーに復活の時は訪れるのか?

巧がまともに投げるシーンがほとんどない巻でした。 豪がこんなに崩れるとは予想してなかったなあ。

そんな中、これまで「新田東の一年生仲間」程度の認識しかなく、 それほど目立っていなかったメンバーの中から強烈に飛び出してきたのが吉貞。 野球をやるのは女にモテるためと言い切り、持ち前の運動神経でキャッチャーもこなし、 横手の頭脳である瑞垣に対しても一歩も引かずに漫才を繰り広げる…。 いやあ、新田東はタレント揃いですね。

次巻は巧たちバッテリーの復活なるか?が見所でしょうか。

(2005.12.27)


ねじの回転(上)(下)/恩田陸 (集英社文庫)

★★★☆ 

国連管理の「時間遡行装置」により、過去の歴史を改変してきた近未来の人間たち。 しかし「聖なる暗殺」の影響は、HIDSという恐ろしい伝染病を引き起こしてしまう。 未来の人類を救うため、国連は歴史の「修正」を試みる。 そのために選ばれたポイントは、日本の2・26事件だった…。

がちがちのSFです。2・26事件とタイムスリップ、というネタだと、 宮部みゆきさんの蒲生邸事件もありますね。 2・26事件にはミステリ作家を引きつける「謎」があるんでしょうか。

主要人物がたくさんいるので、画面転換が多いですが、 色々張られた伏線が収束していく様はミステリにも通じる快感がありますね。 あまり歴史に詳しくない人(私とか)でも、ちゃんと理解できるように、 「史実」は書かれているので安心です。

メタに次ぐメタな展開によって、結局最終的な結論はどうなったんだろう… という疑問が残らないでもないですが、なんか最後は納得させられたような、 そうでもないような…。

(2005.12.24)


虹の家のアリス/加納朋子 (文春文庫)

★★★☆ 

螺旋階段のアリスに続く、 連作短編シリーズ第2弾。脱サラ探偵の仁木順平と、 可憐な助手の亜梨沙がささやかな謎に挑む。

アリスこと亜梨沙の母方の伯母も登場し、 若い割にしっかりしているアリスの生い立ちの秘密が垣間見えたり。 相変わらず家出状態のアリスの家の事情も進展があったり、 一方順平の家族もそれぞれに色々な悩みを抱えていたり…と、 前作と同じ「日常の謎」を扱いながら、家族のエピソードが多く含まれていますね。

一押しは最初の「虹の家のアリス」ですかね。 「犯人」に悪意がないところが、とても読後感を良くしてます。

(2005.12.20)


模倣犯(一)(二)(三)/宮部みゆき (新潮文庫)

評価保留

映画化もされた長編小説、ついに文庫化。

女性を狙った連続誘拐殺人。マスコミに届く犯行声明。 一体犯人の目的は何なのか?

被害者の家族、警察、ルポライター、と次々と視点を変えながら、 犯行の様子が描かれていく第一部。 そして「犯人」が意外な形で明かされた後、 犯人側の視点から描かれる第二部、まで。

全5巻で完結、らしいですが、4・5巻は12月末発売のようなので、とりあえずここまで。 いやあ、ここまで丁寧に書き込んで行ったらそりゃ長くなるよなあ、という感じ。 「火車」なんかでは犯人側の視点は一切描かれていなかったのとは対照的で、 もう「犯人」の生い立ちから、なぜ最初の殺人を犯したのかとバックグラウンドまで、 本当に丁寧に描写されてます。

本当の「悪」はまだ残ったままの状態なのですが、 でも最初に感じた「完全犯罪」っぽい仮面は既に剥がれて、 稚拙で自己中心的な犯人像が浮かび上がってます。 捕まっていないのはたまたま、という感じで。 ここから犯人側がどう追い詰められていくのか、楽しみです。

(2005.12.18)


青葉の頃は終わった/近藤史恵 (光文社文庫)

★★★  

瞳子が突然自殺をした。大学の仲間5人は突然の瞳子の死に戸惑う。 そして彼らの元に瞳子からの「私を殺さないで」という手紙が。 果たして瞳子の死は本当に自殺だったのか?

重い。重いよ。近藤さんの作品は、いつもどこか重いんですけど、これは格別に重いなあ。 章ごとに語り手が変わって、キャラクターが掘り下げられていく構成は見事です。 段々と真相に近づいていく様子もスリリングです。 さらに作中作が取り込まれていたり、と飽きさせない構成になってます。

(2005.11.27)


ナ・バ・テア/森博嗣 (中公文庫)

★★★  

スカイ・クロラの続編。

本作では主人公が、前作の主人公カンナミの上司だった草薙水素になっていて、 クサナギの一人称で話が進んでいきます。カンナミは出てきません。 もう一人の重要人物はNo.1パイロットのティーチャー。 彼はキルドレではないにも関わらずパイロットとして抜群の腕を持っている、という設定。

ところで、前作では上官になっていたクサナギが、今作ではまだ現役で、 しかも「女性初の管理職になってみないか」と誘われているということは、 時系列的にはこちらの方が前になるわけですね。

次作「ダウン・ツ・ヘヴン」は「クサナギとティーチャーとカンナミの物語」 だそうなので、1作目と2作目の世界が交錯して完結するんでしょうか。

(2005.11.26)


インストール/綿矢りさ (河出文庫)

★★★☆ 

史上最年少芥川賞受賞作家・綿矢りさのデビュー作。

受験勉強からドロップアウトした女子高生・朝子は、 近所の小学生かずよしと、オンボロのパソコンで秘密のバイトを始める。 押入れの中から二人がのぞいた大人の世界とは?

朝子の一人称なんですが、口語調の語感が何とも心地よいですね。 流れるように一気に書かれた文章は、まるで啖呵を切っている口上を聞いているよう。 そしてこれを本当の女子高生が書いた、ってのもあらためて驚きです。

380円と安くて、サクッと読めますので、ちょっとした時間潰しにでも是非。

(2005.11.24)


赤緑黒白/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Vシリーズ完結編。

秋野って誰だっけ?と途中まですっかり忘れてましたが、思い出しました。 1作目で出てたやつか。

「四季」につながりそうな伏線はありましたが、 シリーズ全体に仕掛けられたトリック、というのはいまだわからず。 時代設定がS&Mシリーズとどういう関係にあるんでしょうね。 「捩れ屋敷の利鈍」を見る限り、連続していそうなんですけど…。 今作で出てきた少女って初登場ですよね?

(2005.11.20)


西の魔女が死んだ/梨木香歩 (新潮文庫)

★★★☆ 

あの冨樫義博先生も泣いた、と評判の作品。

中学に入ったばかりのまいは、学校での生活についていけず、 西の魔女ことイギリス生まれの祖母の家の元で過ごした。 大好きなおばあちゃんから魔女の手ほどきを受けるまい。 おばあちゃんとの生活を通じて精神的に成長していくまい。 そして西の魔女との別れの時が…。

もうこの作品はラストシーンの鮮やかさに尽きますね。 ジーンと来ました。それまで何度も繰り返されてきたやり取りが、 ラストシーンに向かって収束していく様子は見事。

その後のまいの様子が垣間見られる短編も一緒に収録されているのも嬉しいですね。

(2005.11.13)


真説ルパン対ホームズ/芦辺拓 (創元推理文庫)

★★★  

芦辺拓によるパスティーシュ集。表題作・ルパン対ホームズをはじめとして、 ファイロ・ヴァンス、思考機械、サム・スペード、明智小五郎と怪人二十面相、… といった黄金期の名探偵たちが揃い踏み、という贅沢なパスティーシュになってます。

ただ、豪華なことは確かなのですが、正直「出しただけ」で終わっている感がなきにしもあらず。 まあ、元ネタがわからない探偵も結構いたから、というのはあるかも知れませんが。 表題作にしても、できればホームズとルパンの真剣勝負が見てみたかったんですが…。

このシリーズはもう1冊出るようですね。

(2005.11.12)


法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー/法月綸太郎 編 (角川文庫)

★★★  

有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー、北村薫の本格ミステリ・ライブラリーに続くシリーズ、だそうです。 って、遅いよ!何年かかっているんだよ!

そんな自分で書かなくても遅いノリリンですが、時間をかけただけのことはあって、 バラエティ豊かな作品が集まってますね。 章立ては辻真先さんのデビュー作「仮題・中学殺人事件」をモチーフにしています。 それぞれ怪しげなミステリ、密室物、犯人当て、バリエーションを集めた構成。

中では「消失!」っきり作品がない中西智明さんの短編「ひとりじゃ死ねない」が良かったです。 見事に騙されました。

(2005.11.01)


愚者のエンドロール/米澤穂信 (角川文庫)

★★★☆ 

古典部シリーズ第2弾。

文化祭を控えた夏休みの終わり。古典部の面々は、 2年F組から撮りかけのミステリ映画の結末を考えて欲しいという依頼を受ける。 最初の被害者が倒れた時点で途切れたビデオ映画。 三者三様の推理を披露する先輩たち。 志半ばで倒れた脚本家が意図した真相とは?

前作から各キャラクターの役割がより強調されて、心地よい感じ。 このキャラたちの日常をもっと見てみたい、というか。 今回は「毒入りチョコレート事件」をモチーフにしたというだけあって、 同じ場面にどれだけの解釈を加えられるか、 さらにそこから踏み込んで探偵の役割とは?という領域まで行ってます。 スニーカー文庫だったにしては、かなり本格テイスト満点ですね。

なかなか本番が訪れない文化祭ですが、まだ続編もあるようなので、 楽しみに待ちたいと思います。

(2005.10.30)


氷菓/米澤穂信 (角川文庫)

★★★☆ 

古典部シリーズ第1弾。

主人公のホータローは何事も省エネで済ませようとする高校生。 しかし対照的に活動的な姉の頼みで古典部へと入部。 そこで何事にも好奇心旺盛な千反田えると出会うことで、 意外な「謎解き」の役目を負わされることに…。

元々「角川スニーカー文庫」から出ていたシリーズですが、 Amazonを見る限り絶版になっているっぽいです。 でもAmazonだと角川文庫からの再版は対象になっていないっぽい。

文化祭に力を注ぐ高校を舞台にした、日常の謎物。 人が死んだりはしませんが、 過去に何があったのかを僅かな手掛かりを元にして解きほぐしていくのは面白かったです。 続編の「愚者のエンドロール」も楽しみ。

きっとスニーカー文庫版だと主人公達のイラストがあったんでしょうね。 それはちょっと見てみたかったかも…。

(2005.10.22)


黒の貴婦人/西澤保彦 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

タック&タカチシリーズの短編集。

「スコッチ・ゲーム」「依存」の間に位置する話、 その後のボアン先輩が国語教師になる直前の話、直後の話、 など時間軸に幅のある短編が収録されています。 まだ本編はそこまで進んでいないタックとタカチの仲ですが、 こちらの短編では既に一応「恋人同士」ということになっているようで…。

本編の「未来」をこういう短編でちらりちらりと見せる、 という手法はなかなか新鮮ですね。じれったくもありますが、 本編への期待も膨らみます。でも、長編の方は「依存」以来書かれていないんですね。 文庫で読める日はいつのことか…。

タカチの決意が胸に刺さる表題作「黒の貴婦人」、 どうやってタック達と絡むのかで意表を突かれた「ジャケットの地図」が面白かったです。

(2005.10.22)


ローウェル城の密室/小森健太朗 (ハルキ文庫)

★★★  

当時16歳という最年少で江戸川乱歩賞の最終候補まで残ったという、幻のデビュー作。 Amazonのマーケットプレースで入手。

森で迷って古い城に迷い込んだ恵と保理は、「三次元物体二次変換器」によって、 少女漫画「ローウェルの密室」の世界へと迷い込んでしまった。 厳格なしきたりと一癖も二癖もある登場人物たちが交錯する少女漫画の世界。 そんな中、王子の婚約者が密室の中から惨殺死体で見つかった…。

冒頭の章からメタミステリ色満載。本編もどちらかというとコメディタッチで進み、 誰にも感情移入できないまま事件発生。そのまま怒涛の解決編へ。

多分普通の人が読んだら怒ると思います。そういう類のトリック。 個人的には嫌いではありませんが、色んなミステリを読んでから読むべき作品ですね。

(2005.10.14)


猫丸先輩の推測/倉知淳 (講談社文庫)

★★★  

童顔で定職にもつかず何にでも好奇心旺盛。そんな猫丸先輩が縦横無尽に活躍する短編集。

「日常の謎」系に属するミステリ。猫丸先輩が、探偵役となって、 日常の謎に対して「猫丸先輩なりのある一解釈」を講釈してくれます。

誰とでも仲良くなれる才能を持つ猫丸先輩ですが、 直接の後輩からすると、かなり鬱陶しい存在なようで…。 究極のマイペースってところでしょうか。

講談社文庫では猫丸先輩初登場なんですね。 前2作品は創元推理文庫だったんですね。

挟まれたイラストがまたほのぼのテイストにいい味をつけています。

(2005.10.10)


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