推理小説の部屋

ひとこと書評


あぶない叔父さん/麻耶雄嵩 (新潮文庫)

★★★  

霧に覆われた地方都市。寺の次男・高校生の優斗は、鬱屈とした毎日を送っていた。 そんな彼が大好きなのは、町のみんなからは変わり者と思われている、 寺の離れに住む叔父さん。「なんでも屋」を営む彼の元には、町の様々な依頼が舞い込む。 そして、そんな町に起こる、心中事件、放火事件、首吊り殺人、犬神の祟り、温泉の死体、学校の七不思議……。 優斗は、事件の相談をしに、叔父さんの元を訪れる……。

「貴族探偵」以降、「神様ゲーム」「化石少女」と、風変りな探偵?役を据えた短編集が続く麻耶雄嵩先生ですが、 この「あぶない叔父さん」もその命脈を継ぐシリーズですね。 事件そのものはロジカルに解かれるのに、後に残るこのモヤモヤした感じは何だ!?という……。

まあ、でも元々メルカトル鮎からして、まともな探偵がいないですからね。

(2018.03.27)


ラプラスの魔女/東野圭吾 (角川文庫)

★★★☆ 

映画化を控えた長編が文庫化。

2つの離れた温泉街で起きた硫化水素中毒による死亡事故。どう見ても偶然の不幸な事故としか思えない状況だったが、 現場検証を依頼された地球化学の研究者・青江は、2つの現場で同じ若い女を目撃する。 彼女が追っているのはひとりの青年。 果たして2つの事故は人為的に起こされたものだったのか?

単行本のタイトルを見た時点では、ガリレオシリーズの一篇かと勝手に想像してましたが、 ノンシリーズものでした。細かいエピソードの積み重ねが利いていて、 説得力があるところはさすがですね。 ラストの派手さも含めて、なかなか映画向きの題材だな、と思いました。

(2018.03.21)


その可能性はすでに考えた/井上真偽 (講談社文庫)

★★★★ 

メフィスト賞受賞作家・井上真偽の第2作が文庫化。

山村で起きたカルト宗教団体の斬首集団自殺。唯一生き残った少女には、首を斬られた少年が自分を抱えて運ぶ不可解な記憶があった。 果たして事件の真相は「奇蹟」なのか? 探偵・上苙常はその謎が奇蹟であることを証明するために、あらゆる可能性を潰す。

いわゆる「毒入りチョコレート事件」のような多重解決ものなんですが、 仮説を立てる側は「どんなに確率的に低そうでもあり得るならばそれで良い。一切の証拠も必要ない」というところが、これまでのミステリと大きく違うところ。 奇蹟であることを証明するためには、あらゆる仮説をちゃんと論理と証拠に基づいて潰していかないといけない、というところがハードルが高過ぎます。

仮説をぶつけるステップが全て伏線となっている、というあたりの展開も良かったです。

強烈なキャラばかりですが、続編もあるようなので、楽しみにしたいと思います。

(2018.03.04)


虹の歯ブラシ 上木らいち発散/早坂吝 (講談社文庫)

★★★  

早坂吝の第2作目。

というか、シリーズ探偵だったのかよ! 援交女子高生が探偵、というのは意表を突くための一発ネタだと思っていたのですが、 まさかのシリーズ探偵だったようです。こんなん、仮にいくら人気が出たとしても、 映像化(TVドラマ、映画)不可能じゃん……。

本作は、虹の各色に見立てた短編に散りばめられた伏線を元に、 上木らいちとは一体何者なのか?という謎に迫るメタミステリ。 やりたいことはわかる。わかるが……。

こんだけのことをやってしまったら、シリーズ探偵として成立しないんじゃないの? と思ったら、3作目以降も普通に探偵として活躍しているらしいです。

(2018.02.24)


PK/伊坂幸太郎 (講談社文庫)

★★★☆ 

ワールドカップの舞台ででPKを決めた選手。もしあのPKを外していたら? 「PK」「超人」「密使」、似たようで異なる世界を描いた3つの物語をつなぐものは?

「PK」「超人」の2つに共通して出てくる「落ちてきた子供を受け止めた政治家」。 しかしその2つの世界は微妙に異なっているようで……。 そんな違和感を覚えながら3つ目の物語に進むと、そのからくりが明かされるという趣向。 俯瞰したメタな視点から世界を見下ろすこの感覚は、 「リング」「らせん」を読んだ後の「ループ」を読んだ時の感覚に近いものを覚えました。

(2018.02.11)


キャロリング/有川浩 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

クリスマスに倒産することが決まった子供服メーカー「エンジェル・メーカー」。 副業で学童保育も始め、預かっていた小学生・航平は両親が離婚の危機を迎えていた。 横浜に住む別居中の父親に会いに行って離婚を止めたい、という航平の願いを叶えるため、 エンジェル・メーカーの社員・大和と、かつて恋人だった柊子が奔走する。

読み進めながら、「こんなの絶対ハッピーエンドに決まってるじゃん」とニヤニヤしながら読んでました。 この手のを書かせたら絶対の信頼感がありますね。

お互いに大切に思っているのに、これ以上傷つけたくない、と踏み込めない大和と柊子の背中を、 小学生の航平が無邪気に押す、という構図がいいですね。

(2018.01.25)


○○○○○○○○殺人事件/早坂吝 (講談社文庫)

★★★☆ 

各章のタイトルがことわざになっており、タイトルも伏字になっているものの、 メイントリックの密接に結びついたことわざから取られている、 さてタイトルは何か?という前代未聞の「タイトル当てクイズ」が冒頭に「読者への挑戦」として掲げられた、 作者・早坂吝のメフィスト賞受賞のデビュー作。

いかにもメフィスト賞受賞のデビュー作、という感じの、自負と悪ノリと稚気に溢れた作品ですね。 いわゆる「バカミス」になるのかも知れませんが、しっかりと本格のルールを踏襲しています。

(2018.01.18)


鍵の掛かった男/有栖川有栖 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

大阪・中之島の銀星ホテルのスイートルームに5年間棲み続けていた男・梨田稔が、 室内で首を括って死んでいた。警察は自殺と断定していたが、 同ホテルが定宿の作家・影浦浪子は疑問を持ち、有栖川有栖と友人・火村英生に依頼をする。 果たして自殺なのか他殺なのか?梨田の人生を探り始める有栖だったが、 彼の人生はまるで鍵の掛かった密室であった……。

火村と有栖シリーズ最大の長編。ということで、12月中旬から読み始めたんですが、 年越してしまいました。 通常、殺人事件と断定されてから登板する火村ですが、 今回は他殺かどうかもわからない状態からのスタート、 しかも大学は期末試験中のためにまずは有栖だけで調査開始、という異例づくめの展開。 実際、火村が現場に到着するのは物語が3/5ほど進んだあたりから。 それまで一人で奮闘する有栖の意外な調査能力も発揮されます。

それまで自殺説を否定する決定的な証拠も無かったところに、 終盤になって立て続けに手掛かりが見つかって、一気に犯人特定までなだれ込む展開は、 まさに本格ミステリの醍醐味ですね。

(2018.01.06)


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