推理小説の部屋

ひとこと書評


謎の館へようこそ 白/東川篤哉・一肇・古野まほろ・青崎有吾・周木律・澤村伊智 (講談社タイガ)

★★★  

新本格30周年記念アンソロジー。もう一つ「黒」も一か月後に発売されています。 若手中心に、「館」をテーマにしたミステリのアンソロジー。

意外とシリーズキャラクターを使う人は少なくて、古野まほろさんの臨床真実士くらい? アンソロジーのための書き下ろし短編、ということで、 かなり無茶な一発ネタ(あるメイントリックを成立させるためだけに無茶なプロットが存在する)が多い印象。「新本格の精神」は十分に感じることができました。

(2017.12.13)


さよならは明日の約束/西澤保彦 (光文社文庫)

★★★★ 

中性的で長身のモデル体型、実は大食いで本大好きの美少女・エミールと、 そのクラスメートで地味だがB級映画フリークの甘いもの好きというユキサキ。 2人の高校生が、稀覯本がたくさん置いてあるカフェ「ブック・ステアリング」で、 マスターの梶本さんと共に繰り広げる妄想推理の結末は?

西澤さんお得意の妄想推理系。しかし今回は主人公達が高校1年生のため、 酒は抜きの健全なカフェでの推理。主人公二人のキャラクターがまた魅力的で、 本にやたらと詳しくなんちゃってグルメを愛する大食い美少女のエミリーと、 B級映画になると人が変わったように熱く語る甘いもの大好きオクテ少年のユキサキ。 軽妙な二人の会話もいいですね。

後書きではないですが、シリーズ化希望です。

(2017.12.03)


7人の名探偵/綾辻行人・歌野晶午・法月綸太郎・有栖川有栖・我孫子武丸・山口雅也・麻耶雄嵩 (講談社ノベルス)

★★★☆ 

講談社新本格ミステリ30周年記念、ということで、初期の新本格作家7名による、 書き下ろしのアンソロジー。テーマは「名探偵」。

麻耶雄嵩「水曜日と金曜日が嫌い −大鏡家殺人事件−」は、 遭難した美袋が辿り着いた山荘で起こった連続殺人事件に巻き込まれる、というもの。 この設定だと短編じゃすまないんじゃ?と思っているところに、 メルカトル鮎が駆けつけていきなり解決してしまうあたり、相変わらずです。

山口雅也「毒饅頭怖い」は、落語の体裁をとった毒殺事件。 途中で挟まれる推理パズルは、犯人の特定に何ら寄与しない、というのが面白いですね。

我孫子武丸「プロジェクト・シャーロック」は、あらゆる事件を解き明かす人工知能がネット上に現れたらどうなるか? という近未来(?)SF。

有栖川有栖「船長が死んだ夜」は、火村と有栖が偶然殺人事件の近くにいたために巻き込まれる(むしろ積極的に巻き込まれに行く?)本格もの。 3人の容疑者にはそれぞれ弱点があり、それが犯人特定の決め手となる、という趣向。

法月綸太郎「あべこべの遺書」は、いがみ合っていた二人の男が、 それぞれお互いの家でお互いの遺書を手に自殺(?)していた、という舞台設定が魅力的な一篇。 久しぶりに探偵ノリリンを見ることができました。

歌野晶午「天才少年の見た夢は」は、戦争が起きた近未来、シェルターに閉じ込められた天才少年・少女たち。 目覚めない名探偵。そこで起こる連続殺人。 相変わらずトリッキーな趣向がこらしてあります。

綾辻行人「仮題・ぬえの密室」は、綾辻行人、法月綸太郎、我孫子武丸、小野不由美が実名で登場するフィクションともノンフィクションとも取れる作品(竹本健司さんの作品みたいですね)。 京大ミステリ研伝統の犯人当てクイズでかつてあった画期的な作品「ぬえの密室」 の正体とは?

各人の個性が活かされて良い作品集でした。

(2017.11.26)


化石少女/麻耶雄嵩 (徳間文庫)

★★★  

京都のお坊ちゃま・お嬢様が通う名門高校・私立ペルム学園。 そこで奇人変人の評判をほしいままにする化石オタクの(黙っていれば)美少女・神舞まりあと、 まりあの一年後輩で幼馴染のお守り役・桑島彰。 二人だけの弱小クラブ・古生物部は、5名以上部員がいなければおとりつぶし、 という「過疎部問題」のターゲットとして、生徒会から目をつけられていた。 そんな折、学園で殺人事件が相次ぐのだが……。

まりあ=探偵、彰=ワトソン、という役割分担で進む学園ミステリー……かと思いきや、 最後にまりあが披露した推理を、彰が「誰にも口外しないように」と念を押して、 それっきりで真相もわからないまま終わる……という何ともモヤモヤする構成。

きっと最後の章でネタバラシがあるんだろうなあ、と思いつつ読み進めたんですが、 予想の斜め上を行く結末でした。

(2017.11.17)


かたくりがたり/西澤保彦 (幻冬舎文庫)

★★★  

受験生だった兄が自殺した。妹は、兄の遺品の中から日記を見つける。 そこには女教師、妹の同級生、喫茶店店員との恋愛遊戯が綴られていた。 しかし妹はその日記が妄想の産物であることに気づく。 しかし妹の周りでは、殺人や事故などが相次ぐようになった。 常に現場に現れる謎の男〈計測機〉とは一体何者なのか?

ミステリーのようで、ホラーのようで、やっぱりミステリーのようで、 何とも微妙なところに着地します。 ラストを真だとしても、じゃあ〈計測機〉は何だったんだ?とか、 とても人の手によるとは思えない災厄はどうやってなされたのか?とか、 どうしても疑問点が残ってしまうという……。

(2017.11.08)


太宰治の辞書/北村薫 (創元推理文庫)

★★★  

「朝霧」で完結したと思われていた《円紫さんと私》シリーズに、 まさかの最新刊が登場!大人になり、結婚して、子供も中学生になった《私》が、 芥川、三島、太宰らの文学の世界の謎に取り組む。

まさに「まさか、また読めるとは思わなかった――。」という感想がピッタリ。 正ちゃんと飲むシーン、円紫さんと飲むシーンとか、なかなか感慨深いものがあります。 残念ながら謎のテーマ自体があまり個人的に興味を持てなかったのが残念ですが、 懐かしいキャラクターと再会できたのはうれしかったですね。

(2017.10.24)


怪盗グリフィン対ラトウィッジ機関/法月綸太郎 (講談社文庫)

★★★  

「シュレディンガーの猫」に真っ向から向き合った作品。

やたらと怪盗グリフィンのキャラクターが深いなあ、と思っていたら、 これは2作目なんですね。1作目、何で見逃していたのかと思ったら、 文庫版発売が2014年9月。日本にいなかった頃か……。

この作品を読み終えた日に、こんなニュースが。
グーグルが量子超越性の実現にめど、数カ月内に実証も
フィクションとはいえ、かなり真実に迫っていたんではないですかね。

(2017.10.15)


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