推理小説の部屋

ひとこと書評


イナイ×イナイ PEEKABOO/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Xシリーズ開幕。当主が死に崩壊に向かう佐竹家に、 美術品鑑定のために訪れた真鍋と小川。 しかし地下室で密室殺人が起き…。

レギュラーメンバはまた一新。 ηなのに夢のようで出てきた美術鑑定士・椙田と、 助手の小川令子、留守番役の美大生・真鍋、さらに坊ちゃん探偵・鷹知、 というメンバーのようです。しかし椙田は結局電話だけで登場せず。

椙田=保呂草が絡んでいるということで、また美術品絡みの事件がメインになるんでしょうか。

(2010.09.18)


ぬばたま/あさのあつこ (新潮文庫)

★★★  

リストラされ妻子からも愛想を付かれた男が山の中で見た風景は? 小学生の時に山に置き去りにした少年からの電話を受けた女が竹林に対する復讐とは? 「黄色い蝶の夢を見る」幼馴染の自殺に隠された秘密とは? 死者が見える女が初めて出会った「見える」男、その目的と正体とは? 「山」と人のかかわりを描いた4つの幻想恐怖短編を収録。

これまでのシリーズ物とは大分異なる作風。 こんなのも書けるんですね。 「山」に入るのが怖くなる作品でした。

(2010.09.15)


The MANZAI 6(完)/あさのあつこ (ポプラ文庫ピュアフル)

★★☆  

「The MANZAI」シリーズ完結。

8月に発売されていたんですね。発売リストに載っていなかったので気づきませんでした。

しかしこれまで続けてきたシリーズを完結させるには、 あまりにも唐突であっけない幕切れだったような。 少なくとも「The MANZAI」を読み続けてきた読者が望んでいた結末ではないですよね。

どうもあさのさんは、シリーズを立ち上げるのはうまいけど、 オチをつけるのが苦手なんですかね。「ほたる館」も「バッテリー」も、 途中の盛り上がりに比べて、結末がいまいちな印象があります。 「No.5」の幕切れが今から心配になったり。

「バッテリー」に対する「ラスト・イニング」のような、 「その後」をフォローする短編集が出ることを期待しておきます。

(2010.09.14)


ゾラ・一撃・さようなら/森博嗣 (集英社文庫)

★★★  

森流ハードボイルド?シリーズ外作品。 探偵・頚城(くびき)の元に絶世の美女・志木真智子が持ってきた依頼は、 「天使の演習」と呼ばれる美術品を法輪清治郎の元から取り戻して欲しい、という内容だった。 依頼を受けるうちに、次第に真智子自身に惹かれていく頚城。 無事依頼を完遂できそうだと思った時、清治郎が凶弾に倒れる…。

ターゲットの予告を流し、必ず一撃のもとに仕留める、という世界的な殺し屋・ゾラの存在が、鍵となっています。 各章の最後に挿入される別の人物の一人称が、見事なミスリードになってますね。

解説読むと「天使の演習」は他のシリーズでも出てきたらしいのですが、 保呂草が狙っていた美術品の中にでもありましたかね?

(2010.09.11)


NECK/舞城王太郎 (講談社文庫)

★★★  

「首」をめぐる4つの物語を収めた短編集。一応テーマは「ホラー」なのかな?

冒頭の「a story」は書き下ろしの小説。 普通の人よりもちょっと首が長い少女が、神とのいざこざに巻き込まれる。 突然不条理な暴力に巻き込まれていく、いつもの舞城節。 その中でもノジャジャのキャラが立ってますね。

「the original」以降は脚本形式で書かれています。 「the original」は舞台で演じられた原作らしいです。 「the original」と「the second」の2つとも、 首だけだした状態で埋められた人物が恐怖を味わう、という点でホラー色が強いですかね。 「the original」の方が人外の物の恐怖なのに対して、 「the second」の方は狂信に憑かれた人間の恐怖、ということで、 結局怖いのは人間なんだよ、というところでよりホラー度がアップしているかも。

最後の「the third」は映画「NECK」の原作。 恐怖を生み出す大発明「ネックマシーン」が登場。 「the original」「the second」と比べると、 主人公・杉奈のキャラもあいまって、テーマとしては「ホラー」なんでしょうが、大分ポップなノリになってます。 「フトンフォビア」「バスクリンフォビア」ってのもなんか楽しい。

絵コンテなどが書かれた脚本形式のため、枚数の割には早く読めました。

(2010.09.09)


阪急電車/有川浩 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

阪急今津線の各駅をモチーフにした、連作短編集。 人と人のさまざまな出会いが描かれた、心温まる連作短編になってます。

図書館で同じ本を取り合っていただけの男女、結婚式場に白いドレスで討ちいった女、 矍鑠とした祖母と孫、DV男と別れられない女子大生、 無学な年上男性と付き合っている女子高生、 名前や趣味にコンプレックスを持つ田舎から出てきた大学一年生同士の男女…。 各駅ごとに一人称となる「主役」は異なるのですが、 ある駅での「主役」が別の駅で脇役として出てきたり、 折り返しではまた別の繋がりが生まれたり、とキャラ同士の意外な交流が面白いですね。 また、行きで出会った2組のカップルが、折り返しでしっかりと愛を育んでいるのが確認できたり、 結婚式場に討ち入った彼女が、しっかり立ち直っていたり、 とキャラ達の「その後」をちゃんとフォローしているので、 短編でありながら、読後感が非常に充実したものになってます。

来年映画化されるそうですね。中谷美紀はユキ役かな? …と思ったけど、もしかして翔子役ですかね?

(2010.09.08)


毒草師 -QED Another Story-/高田崇史 (講談社文庫)

★★★  

QEDシリーズの番外編。これまでもちょくちょく出てきていた「毒草師」御名形史紋が探偵役として活躍するシリーズ。

「毒草師」だけあって、毒草に造詣の深いところは見せますが、基本的な構成としてはQEDシリーズとほぼ同じ。 過去の物語や伝説(今回は「伊勢物語」)と、現実の事件とをリンクさせながら、 最後に探偵役がみんなを集めて解決する、という構成。 ただ、今回は御名形史紋の隣人である西田真規が狂言回し兼助手兼サブ探偵役として機能していて、 彼の口から語られる「変人」御名形史紋像とあいまって作品のアクセントになっています。

(2010.09.03)


ηなのに夢のよう/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

Gシリーズ完結編?高いところで死んでいた自殺死体の傍には「ηなのに夢のよう」 というメッセージが。一連の自殺と関連があるのか?

萌絵が過去のトラウマと向き合ったり、 瀬在丸紅子さんまで出てきて、シリーズとしての締めくくり巻は高かったですが、 事件自体は一番投げっぱなし感が強いですね。

次からはXシリーズに突入ですか。

(2010.08.22)


びっくり館の殺人/綾辻行人 (講談社文庫)

★★★  

少年少女向けのシリーズ「ミステリーランド発」であるため、 てっきり番外編的な位置づけだと思っていたのですが、正当な「館シリーズ」の第8弾だったそうです。

あやしい噂が囁かれるお屋敷町の洋館「びっくり館」。 2年前に悲惨な殺人事件が起きたというその館で、 クリスマスの夜、びっくり箱に囲まれた密室の惨劇が繰り返される。

少年少女向けシリーズということで、これまでの「館シリーズ」に比べると、 だいぶ薄味な感じはします。 しかし人形やら腹話術やらびっくり箱やらが作り出す不気味な雰囲気は、 「館シリーズ」だけでなく、綾辻さんの得意の幻想譚的な雰囲気も持っていて、 小学生にトラウマを植え付けるには十分なレベルですね(?)。

「館シリーズ」の場合、「館」の仕掛けが殺人のトリックと結びついていることが多いのですが、 今回の場合はその結びつき方が「逆」なのが興味深かったです。

これで「館シリーズ」のあと残り2作。次は「奇面館の殺人」だそうで。楽しみです。

(2010.08.19)


有頂天家族/森見登美彦 (幻冬舎文庫)

★★★★ 

京都の町を駆け巡るのは、人間と、天狗と、狸。 狸の名門・下鴨総一郎の4人の息子は、しかし落ちこぼればかり。 責任感は強いが、肝心な時にしくじる長兄・矢一郎。 引きこもりが高じて、井の中の蛙となってしまった次兄・矢二郎。 「面白きことは良きことなり!」が信条の三男・矢三郎。 化けるのが下手な坊や・四男・矢四郎。 半天狗の美女・弁天や、 天狗の師匠・赤玉先生とのやり取りを通じて、 宿敵・夷川家との決着を目指す。

ゆる〜い毛玉ファンタジー。人間に化けて人間と同じ行事に興じ、 苦手に当たると尻尾を出してしまう狸が可愛過ぎます。 なんとも愛すべき狸たちですね。

(2010.08.15)


ひかりの剣/海堂尊 (文春文庫)

★★★  

東城大の「ジェネラル・ルージュ」速水と、「ジーン・ワルツ」の帝華大・清川による、 医学部剣道部の「医鷲旗」大会を目指す、医大生時代の物語。

高階さんが師匠として出てくるなど、「バチスタ」シリーズでおなじみの面々も出てきますが、 基本は剣道をベースにした青春小説になってます。 ストイックな天才・速水と、全力を出そうとしない天才・清川の対比が面白いですね。 そのまま行けば実力を発揮することなく腐っていたであろう清川を、 彼の一番嫌いな修行に駆り立てた女剣士・朝比奈ひかりの存在がまたアクセントになってますね。

(2010.08.10)


遠まわりする雛/米澤穂信 (角川文庫)

★★★★ 

「古典部」シリーズ第4弾にして初の短編集。入部直後から春休みまでの一年間のエピソードを収録。

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければならないことなら手短に」を信条とする、 自他共に認める怠け者の折木奉太郎が古典部の一年間で過ごした7つのエピソード。 夏休みの旅行、初詣、バレンタインデー、雛祭り、と主要イベントは押えていますね。 そしてホータロー自身もえるに対する自身の感情を徐々に自覚しつつある、という。 今後の展開が楽しみですが、卒業までやるとなるとまだまだ完結までは遠そうだなあ。

(2010.07.31)


映画篇/金城一紀 (集英社文庫)

★★★★☆

4篇の短編と1篇の中編から構成された、「映画」をテーマにした連作短編集。 作者の様々な映画に対する愛に溢れてます。

「太陽がいっぱい」は、北朝鮮出身で日本で小説家になるという夢を実現した、 作者の半自伝的な設定の友情物語。龍一はゾンビーズシリーズの舜臣のモデルですかね? 「父親はいない方がいいな」の繰り返しがいいですね。

「ドラゴン怒りの鉄拳」は突然夫に自殺された女性の再生と正義の物語。

「恋のためらい/フランキーとジョニー」は現代版ボニーとクライド? 傷を抱えた高校生男女の愛と逃亡の物語。

「ペイルライダー」はパンチパーマで5頭身のおばちゃんがやたらとカッコ良く見える、 少年との交流と、復讐の物語。

そして最後を締めくくる「愛の泉」は、優しさと感動に溢れた家族の物語。 孫のキャラクター達がみんないい味出してます。オチには爆笑しました。

「ローマの休日」以外にも短編間のリンクが色々あって楽しめます。

(2010.07.24)


ふたり探偵 寝台特急「カシオペア」の二重密室/黒田研二 (光文社文庫)

★★★☆ 

北海道取材旅行の帰り道に寝台特急カシオペアに取材班らと乗り込んだ友梨。 友梨の婚約者で刑事のキョウジは、無差別殺人鬼・シリアルキラーJを追っていた。 そんな時、Jの罠によりキョウジは意識不明の重体となってしまう。 携帯で彼の事故を知り茫然自失としている友梨の頭の中に、キョウジの声が聴こえてきた…。

婚約者の意識だけが乗り移ってきて、二人で推理をして解決するので「ふたり探偵」。 なかなか面白いアイデアなんですが、二人が相談して推理するという以外には、 メイントリックを成立させるための道具立てにしかなっていない点がちょっと残念。 この設定ならもう少し色々応用が利きそうなんですが。

メイントリックを支える伏線の数々が、ちょっと不自然であからさま過ぎるのは、 これもあくまで本格たろうとする黒田先生の味と捉えるべきなんでしょうね。そこも含めて楽しめました。

ふと思ったんですが、2つのパラレルワールドで微妙に違う状況で殺人事件が起こって、 2人の主人公が意識を交換しながら、一方の世界でしか手に入らない手掛かりを元にして、 両方の世界の事件を解決していく「街」みたいなザッピング仕掛けのサウンドノベルゲームってあったら面白そうだな、と思いました。 もうあったりして…。

(2010.07.22)


舞田ひとみ11歳、ダンスときどき探偵/歌野晶午 (光文社文庫)

★★★☆ 

刑事の叔父と、姪の小学生のコンビが送る、連作短編集。

タイトルに偽りアリで、ひとみは別に探偵はしません。 ただ色んな形で事件に間接的に関わったりして、 その時々の言動がヒントとなり、叔父の歳三(としみ)が事件を解決する、 という構図。無自覚な探偵役、とでもいいましょうか。

さらに特徴的なのが、連作短編集ならではで、短編間が独立ではなく、 間接的に関連し合っていたりすること。 ある事件における被害者や関係者が、別の話では別の形で関わってきてたりして。 話を跨った伏線もありますし。

そして連作短編ならではのラストに仕掛けられたサプライズも見所。 しかしこの結末だと、まだ続編がありそうな雰囲気なんですが、 どうなんでしょうね?

(2010.07.20)


犯罪ホロスコープI 六人の女王の問題/法月綸太郎 (光文社文庫)

★★★☆ 

ノリリン久しぶりの短編集。クイーンの「犯罪カレンダー」にならって、 「犯罪ホロスコープ」というテーマで、牡羊座から乙女座までの6本の短編を収録。

久しぶりの短編集ですが、妙な捻りはなくて、オーソドックスな本格系の短編集になってました。 星座&神話縛りがありながら、ちゃんとパズルっぽくなっていて。 一時期の苦悩の状態からは脱したようですね。 パート2が出るのは何年後かわかりませんが、楽しみに待っていたいと思います。

しかし「六人の女王の問題」というタイトルから想像した通りの展開だったのは逆に驚きました。

(2010.07.13)


ジーン・ワルツ/海堂尊 (新潮文庫)

★★★  

「クール・ウィッチ」曽根崎理恵が、体外受精そして代理母出産という、 タブーに挑む。

人間は生命に対してどこまで踏み込めるのか?という新シリーズ。 どうやら時系列的には「極北クレイマー」の後に位置するようですが、 そっちはまだ文庫化されてませんよね。

どうやら、同じ時系列を別視点で描いた「マドンナ・ヴェルデ」とセットで、 両方読んで初めて完結する、という仕掛けになっているようです。

(2010.07.10)


砂漠/伊坂幸太郎 (新潮文庫)

★★★★ 

「世界はきっと変えられる」そんな思いから始まった大学生活は、 ボウリング、合コン、プレジデントマン、超能力対決、捨て犬の救出、 キックボクシングのスカウト、などさまざまな事件に彩られていた。

鳥瞰視点で冷静真面目な北村、女に遊びに忙しいお調子者・鳥井、 クールビューティー・東堂、癒し系超能力者・南、 パンクロックを愛し世界を憂い平和を上がり続ける西嶋。 「東西南北」というだけで麻雀の面子として集められた5人の男女が、 4年間で体験した数々の事件。

1年春、2年夏、3年秋、4年冬、の4編の中編+卒業の完結編からなる連作短編。 伊坂さんらしい伏線の活かし方と、軽妙な会話劇に浸れます。 南の超能力なんて、普通の小説だったらかなりの飛び道具ですけど、 ここぞという場面でのみ活躍するあたりが弁えてるなあ、と。 でもやっぱり強烈な印象を残すのは西嶋ですよね。

語っていないエピソードもいっぱいありそうなので、スピンオフ短編集とか、 できそうですよね。また彼らに会えるのを楽しみにしたいと思います。

(2010.07.06)


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