推理小説の部屋

ひとこと書評


風の万里 黎明の空 十二国記/小野不由美 (講談社文庫)

★★★☆ 

またしても十二国記シリーズ。慶国の女王となった陽子のその後の話。

蓬莱から流されてきた海客・鈴、討たれた芳国の王の娘だった祥瓊。 2人の少女がそれぞれの理由から慶国を目指し、 そして景王・陽子と出会う。

王になってもなかなか一筋縄では行かないんですねー。 恭国の女王はまた偉く幼い高ビー系の女王みたいで。 これが次の「図南の翼」の主人公みたいですね。 一方、才国の女王はかなり年配になってから神籍に入ったみたいですね。

しかしあの流されるままだった陽子が立派になったもんだなあ。 もう冗祐の助け無しでも剣が使えるみたいだし。

さて、2001年に読んだ本の数は115冊(のべ119冊)ということになりました。 さすがに1ヶ月10冊、とまではいきませんでしたが、 目標だった年間100冊をクリアできて満足です。 来年も面白い本に出会えますように。

(2001.12.31)


東の海神 西の滄海 十二国記/小野不由美 (講談社文庫)

★★★☆ 

すっかりハマってます、十二国記シリーズ。 今回は、延王・尚隆と延麒・六太が出会って雁国が再興していく、約500年前の話。

前作・前々作にもちらっと登場している延王。 すでに500年も雁国を治めている「名君」と謳われていますが、 どうも六太とは軽口をかわしてるし、勝手に市井に降りてくるし… と思っていたら、やっぱりバカ殿キャラでした。 しかしやるときはやる、オヤジのかっこ良さが滲み出てます。 もともと瀬戸内海の海賊出身だったんですねー。

六太の金髪は蓬莱に行くときには自動的にカムフラージュされるようですね。 陽子の赤髪は隠し切れなかったみたいなのに。

(2001.12.29)


風の海 迷宮の岸 十二国記/小野不由美 (講談社文庫)

★★★☆ 

十二国記シリーズ。「魔性の子」の高里が10歳の時に1年間神隠しに遭った、 まさにその時のエピソードです。というわけで、「魔性の子」、そして 十二国記入門編としての「月の影 影の海」は読んでおいた方が良いかも。 っつーか、順番に読んでいけば問題ないってことですね。

「月の影 影の海」では、無理矢理連れてこられた陽子の視線を通して、 「十二国記」の世界観そのものの説明となっていましたが、 今回は「泰麒」の目を通しての、麒麟の役割および王の選び方にフォーカスを当ててのわかりやすい説明となってます。

また、前作で出てきた景台輔、延王、延台輔、といった面々が見られるのも、 シリーズものならではの楽しみですね。景台輔って昔からこうだったんだあ、とか。

今作は今作で一応ハッピーエンドになってますが、「魔性の子」や前作を読む限り、 戴国はどうやら大変なことになるようで…。

(2001.12.25)


死体を買う男/歌野晶午 (講談社文庫)

★★★★ 

江戸川乱歩の未発表作?が作中作として現れる小説。 「内側」の作品「白骨鬼」にも推理小説家・江戸川乱歩と詩人・荻原朔太郎が探偵役として登場しますが、 「外側」の構造の中にもさらに作家が出てくるという、 2重の構造を持ちながらさらにメタミステリとしての体裁も持っている構造となってます。 なんかここら辺の構造は折原一さんの作品っぽいですね。

ただ、叙述トリックが仕掛けてあるというわけではなくって、 あくまで動機と犯人を巡るミステリとして書かれてます。 双子をめぐる二転三転するフーダニットは、法月綸太郎さんの「誰彼」を彷彿とさせますね。

最後の着地も綺麗に決まっていて、作中作モノとしてはなかなかの快作ですね。 ただタイトルの「死体を買う男」はちょっとピンと来ないかなあ、 という気もしました。

(2001.12.23)


月の影 影の海 十二国記/小野不由美 (講談社文庫)

★★★☆ 

ついに手を出してしまいました、《十二国記》シリーズ。 講談社X文庫ホワイトハート版は、ちょっと表紙が恥ずかしいので(笑)、 講談社文庫版に。それでも、この薄さで上・下巻ってのは、 やっぱり読者の対象に合わせてのことなんでしょうね (この上下合わせたのよりも分厚い文庫だっていくらでもあるのに)。

どちらかというと臆病で受身だった陽子が、 ある時突然現れたケイキに連れられてこちらの世界へ。 絶えず妖怪に追われ、人に裏切られながら、成長していきます。 前半はかなり辛いですが、陽子が開き直る辺りから俄然面白くなりますね。 あとはもう一気読み。なるほど、これは面白い。 それにしても世界観の描写が細かいですね。

(2001.12.20)


森博嗣のミステリィ工作室/森博嗣 (講談社文庫)

★★★  

森博嗣先生の、ルーツとなったミステリ紹介、S&Mシリーズ各作品の解説、 趣味に関する話などを集めた、一種のエッセイ集。

面白かったのはルーツとなった100冊のミステリですね。 意外と、と言っては失礼かも知れませんが、 ガチガチの本格志向だったのにはちょっと驚き。 クイーンが4冊、カーが3冊も入ってるよ。 そりゃあ、メフィスト賞作家なんだから、本格志向なのは基本なんでしょうけど。 密室にこだわるのはこういうルーツがあったからなんですね。

と思えば数学の本が入ってたり、哲学書が入ってたり、漫画が入ってたり、 と森先生らしさも存分に出てる選書でしたけどね。

これ見て何冊か欲しいのがあるんですが、探してもなかなかないんだよなあ。

(2001.12.18)


新千年紀古事記伝 YAMATO/鯨統一郎 (ハルキ文庫)

★★☆  

これって「邪馬台国はどこですか?」を書くために調べてた取材結果から生まれたんですかね?

基本的に「古事記」の神話をなぞってるだけです。いや、もしかしたら、 新しい解釈とかが入ってるのかも知れませんが、 何しろ元ネタをそんなに知ってるわけじゃないので、 どう違うのかはさっぱり。 ただ、ところどころうるおぼえで知ってる限りでは、そのまんまのような。

で、一応最後の最後でメタな「新解釈」が入るのですが、 私にはさっぱりピンと来ませんでした。うーん、いまいち。 このシリーズの一つ前に「ONOGORO」ってのがあるそうなんですが、 同じような感じなのかなあ。

(2001.12.13)


煙の殺意/泡坂妻夫 (創元推理文庫)

★★★☆ 

チェスタトンばりの推理が冴える、泡坂妻夫さんの短編集。

切れ味鋭い短編が集まってますねー。最後のどんでん返しの手際が見事です。 シリーズものとかでない、純粋な短編集ですので、 使い捨てのキャラも含めて楽しめます。

個人的な一押しは、前代未聞の動機・表題作「煙の殺意」、 倒叙モノならではのサスペンスな展開「歯と胴」、 絵に秘められた秘密が鮮やかな「椛山訪雪図」、 ってところでしょうか。

(2001.12.06)


とむらい機関車/大阪圭吉 (創元推理文庫)

★★★  

初期の探偵物・青山喬介シリーズや、中編の傑作(らしい)「坑鬼」を収録した短編集。

青山喬介シリーズは、ホームズの直系って感じですが、 謎の提示が十分でない、という解説には納得。 なんか、こちらが不可能性を理解する前に、勝手に解決へと向かってる感じがしますね。 中では「あやつり裁判」は面白かったかな。

あとやはり「坑鬼」はさすがの面白さでした。

(2001.12.04)


銀座幽霊/大阪圭吉 (創元推理文庫)

★★★  

解説によると「日本本格ミステリ界の沢村栄治」らしい、大阪圭吉の短編集。

なるほど、ど真ん中の本格です。トリックは正直言ってしょぼいのも多いのですが、 解決にいたる論理はまさに本格の王道。

中では「大百貨注文者」が面白かったです。「三狂人」もなかなか。

(2001.12.01)


堪忍箱/宮部みゆき (新潮文庫)

★★★☆ 

宮部さんお得意の時代物、その上宮部さんお得意の短編集。 今回は、特に決まったテーマや、共通の登場人物がいるわけではないんですが、 全体を通してみるとテーマとしては「隠された本心」ってところでしょうか。 本心が読めないからこそ起きるすれ違い、 いなくなって初めて判る本心、 死ぬまで誰にも明かさない本心、 そんな秘めた本心をめぐるエピソードの数々。

個人的な一押しは「敵持ち」ですかね。

(2001.11.28)


嗤う伊右衛門/京極夏彦 (集英社文庫)

★★★★ 

京極堂シリーズ以外の作品を読むのは初めてです。

ホントに何の前知識も持たずに読んだので、 途中まで読み進むまでこれが「四谷怪談」をモチーフにした作品だということに、 全く気づいていませんでした。ああ、伊右衛門ってその伊右衛門だったのかあ、って感じ。

いやあ、しかしいわゆる四谷怪談とは大きく違ってますねえ。 そのアレンジっぷりを楽しむ作品というか。 伊右衛門もとってもいい奴だし。

確かにホラーチックなところもありますが、全体としては紛れも無い純愛物と言っていいでしょう。 あの著名な怪談をここまで印象の違う作品として構成し直した作者の力量に感心しました。

(2001.11.27)


「ABC」殺人事件/有栖川有栖・恩田陸・加納朋子・貫井徳郎 (講談社文庫)

★★★☆ 

講談社文庫創刊30周年記念・書き下ろし。 5人とも好きな作家なんで、とっても楽しみでした。

アガサ・クリスティーの名作「ABC殺人事件」のような、 「一見無関係な被害者たちがある法則に従って殺されていくように見える連続殺人事件」 をモチーフにしています。

有栖川有栖さんの「ABCキラー」は一番原作に忠実ですね。 Aのつく町でAの被害者が、Bのつく町でBの被害者が…という具合で、 場所名までこだわっていたのはこの作品だけでした。

恩田陸さんの「あなたと夜と音楽と」はラジオのDJ番組を舞台に、 会話だけで進む異色作。毎週番組の日に放送局に置かれるオブジェの意味は?

加納朋子さんの「猫の家のアリス」はアリスシリーズの一作。 連続殺人ならぬ連続殺猫事件に挑みます。 全体的にどこかほんわかしてるのはこの人の作品の特徴ですね。

貫井徳郎さんの「連鎖する数字」は、 高校生の連続撲殺事件。現場に残された数字は一体何を意味するのか? この探偵役の吉祥院慶彦って、私は初見でしたが、シリーズ物なのかな?

そしてトリを務めるノリリンは(っつーか単に五十音順だと思うんだけど)、 探偵ノリリンが出てくる新作「ABCD包囲網」。 明らかに関係のない事件に対して「自分がやった」と自白してくる男の目的は? さすがになかなか凝ったプロットでしたね。

「『Y』の悲劇」といい、こういう試みは非常に面白いので、 是非ともまたやって欲しいですね。 文庫書き下ろし、ってのは文庫派の私としてもお得な気分。

(2001.11.23)


有限と微小のパン/森博嗣 (講談社文庫)

★★★☆ 

ついに犀川&萌絵シリーズ完結。 業界ナンバー1に成長した新興ゲーム会社・ナノクラフト。 若き社長塙は実は萌絵の婚約者だった。そしてその影にはあの天才プログラマ・真賀田四季博士が。

最後だけあって、死体消失、密室殺人、ヴァーチャル・リアリティの中での殺人、 と不可能犯罪のオンパレード。しかし…このトリック(?)はかなり反則気味だなあ(笑)。

まあ、今回はWho Done It?やHow Done It?はかなりどうでもよくて、 四季博士と犀川&萌絵の対決がメインなので。 四季は博士の正体(?)はかなりびっくりしましたが。

うーん、しかし最後になってもあんまり犀川と萌絵の仲はあんまり進展しなかったのね…。

(2001.11.19)


日曜日には鼠を殺せ/山田正紀 (祥伝社文庫)

★★★  

前回言い忘れましたが、ついに年間100冊突破しました。 というわけで、101冊目がこれ。

「この門をくぐる者、すべての希望を捨てよ!」
二十一世紀型最新鋭の恐怖政治国家。その統首(ファーザー)の誕生パーティが始まり、 政治犯が檻から解き放たれた。 一時間以内に恐怖(フィアー)城から脱出できたら特赦が下りるのだ。 究極バトル・レースの火蓋が切って落とされた!

ステージは、 監視抹殺ロボットの徘徊する迷路を抜ける「連続記録」、 リニア・トロッコで脱出するる「瞬間記録」、 断崖絶壁を飛び越える「1-0記録」、の3つから成ってます。

参加させられた「鼠」たちは元公安刑事、テロリスト、ニュースキャスターから、 普通の(?)主婦まで。 長編だったら各人の過去やらがじっくりと描かれるんでしょうけど、 中編なのでそこら辺の描写はかなり淡白。 しかし描写が少ない分想像力で補えるので、 ある意味「映画の予告編だけ見て想像する」といった感じで、 一番おいしいところだけを小説にしてある、とも言えますね。

(2001.11.14)


どんどん橋、落ちた/綾辻行人 (講談社ノベルス)

★★★★ 

綾辻行人、久しぶりの講談社ノベルスです。1999年に四六判で出た単行本の新書版です。 表題作「どんどん橋、落ちた」をはじめとした5篇を収録した中編集。 全ての作品が「犯人当て」に焦点が当てられており、 うち4篇には「読者への挑戦」がついているという徹底ぶり。 全ての作品に「綾辻行人」が登場し(あとなぜか「タケマル」も登場し)、 中で小説なり、話なり、ビデオなりの物語に挑戦する、というメタフィクションの構成をとってます。 そしてメタならではの叙述トリックが使われています。 そのメタさ加減も後半へ行くに従ってより増していくような…。

というわけで、こういう「本格」の道もアリだと個人的には思います。 ただ、「ぼうぼう森、燃えた」の最後の方で出てくる「これは袋小路への道標である」 というのは、これはこれで真実かも知れないなあ、と。 この作品中に出てくる「綾辻行人」氏の行き詰まり具合を見るにつけ、 大丈夫かなあ、と心配になってきます。 特に「伊薗家の崩壊」といった作品を書いてしまう綾辻氏の精神状態が、 かなり心配になってきたりして。

とにかく、来年には「暗黒館の殺人」が読めそうです。

(2001.11.11)

そしてこの1冊でついに2001年読了100冊目となりました(パチパチパチ)。 100冊目が偶然にも綾辻氏の作品だった、というのも何かの縁でしょうか(笑)。

まあ、「チーズはどこへ消えた!?」なんかも入ってるので、 厳密に「ミステリ100冊読破」ではないんですが、 このペースならミステリに限っても年末までには100冊読破できそうです。

(2001.11.14)


Vヴィレッジの殺人/柴田よしき (祥伝社文庫)

★★★☆ 

山梨県自治郡V村。非公式に政府が公認する吸血鬼村には、 自殺願望あるいは不老不死を夢見て、密かに進入しようとする者が後を絶たない。 依頼V村出身の女探偵・メグは、10年ぶりに故郷を訪れる。 しかし人間には入ることのできない墓地の中で、 吸血鬼には触れることのできない十字架が突き刺さった他殺が起こった。 一体犯人はどうやって…?

吸血鬼の設定がとても細かくて面白いです。 寿命は700年以上、 昼間はほとんど寝てる、 寿命が長いため細かいことは気にせず基本的に怠惰、 にんにく抜きのギョーザ屋、 栄養価の高いトマトジュースが特産、などなど。 この世界観だけでも楽しめます。

正直、メイントリックの方はちょっと単純すぎたかな、という気がしますが、 これ1作だけで終わってしまうのはちょっと惜しい世界観だと思いました。 是非続編が読んでみたいです。

(2001.11.09)


アイ・アム/菅浩江 (祥伝社文庫)

★★★  

末期患者を扱うホスピス病院で介護ロボットとして目覚めた《ミキ》。 完璧な介護を続けていたある日、ふと「自分は誰なのか」という疑問が生じはじめた。 「私は本当にロボットなの?」ミキの自分探しが始まった。

ロボットやアンドロイドの「自我」は普遍的なSFのテーマですね。 この作品の場合は、「人間とロボットの違いとは」というテーマに絡めて、 痴呆症や先天的精神疾患、あるいは植物状態の患者と、 普通の人との境目は?といったことが論じられていて、なかなか深いです。 中編らしくよくまとまっている佳作ですね。

(2001.11.06)


星の国のアリス/田中啓文 (祥伝社文庫)

★★★  

十六歳のアリスが乗った宇宙船〈迦魅羅〉号。地球を出航直後、 密航者の死体が発見された。しかも、体内の血液を全て抜かれて……。

惑星間航行宇宙船の中で繰り広げられる「密室」殺人事件。 SFの形をとってますが、ミステリの要素十分。 ミスリードもたっぷりと用意してあって、なかなか楽しませてくれます。 一体「吸血鬼」の正体は誰なのか?

しかし、アリスを含めて、登場人物は変な奴ばっかり……。

(2001.11.02)


CANDY/鯨統一郎 (祥伝社文庫)

★★☆  

目覚めたとき、元の世界にいるとは限らない。
記憶を喪い、不思議な世界に迷い込んだ“あなた”。 この世界であなたはどうやら敵に追われているらしいが、 どうも皆ふざけている……。
「キャンディを三つ集めなければ世界は破滅する」

「邪馬台国はどこですか?」でデビューした鯨統一郎氏のSF(?)コメディ。 文庫派の私は、鯨氏の作品はデビュー作しか知らないんですけど、 歴史や民俗学に絡めたなかなか斬新なミステリを書いている、 という評判は聞いてます。

で、その氏の書くSFってことでちょっと期待してたんですが…。 うーん、これはどうだろうなあ(^^;)。 ちょっとふざけすぎかなあ。まあ、こういうのも嫌いじゃないですが、 単なるダジャレのオンパレードって感じでいまいちでした。 話の展開はふざけていても、世界観の設定、例えばパラレルワールド間の法則みたいなものがもう少し凝っていれば、 それなりに楽しめたのかもしれませんけどね。

(2001.11.01)


虹の天象儀/瀬名秀明 (祥伝社文庫)

★★★☆ 

400円 6冊買っても 2,400円 (字余り)

というわけで、今年も出ました祥伝社の400円文庫。 オール書下ろしの中編で消費税込み400円。 昨年の400円文庫は、祥伝社文庫創刊15周年の記念だったはずですが、 おそらく好評だったんでしょうね。今年も出ることになりました。

今年は全部で13作品。テーマは「SFファンタジー」 「愛の物語」「吸血鬼」「恐怖」、ということで、 昨年のラインナップに比べると、ミステリ色は随分と薄くなってます。

で、まずは「SFファンタジー」の一作。 「パラサイト・イヴ」「BRAIN VALLEY」の瀬名秀明です。 44年間の使命を終え閉鎖した渋谷の五島プラネタリウムを舞台とした、 タイムスリップもの。あのプラネタリウムが閉鎖したのって今年の3月なんですね。 そういう意味ではなんともタイムリーな題材&作品です。

五島プラネタリウムといえば、渋谷文化会館の屋上のゲームセンターでゲームやってたら、 18:00過ぎてゲーセンの親父に電源落とされてしまったなあ、 とか色々思い出が駆け巡るわけですが、 この作品のタイムスリップは、「リプレイ」+「リセット」って感じかな? 「思いは残る」というテーマも似てますね。

中編なのでちょっと詰め込み過ぎという感じもありますが、 私は基本的にタイムスリップものが大好きなのでOKです。

(2001.10.30)


自選ショート・ミステリー/日本推理作家協会 編 (講談社文庫)

★★★  

ショート・ショート集。33名の作家の自選のショート・ショートを集めたアンソロジーです。

ショート・ショートって、ちょっとした合間に読めるからいいですよね。 中では有栖川有栖先生のがイチオシだったかな。

(2001.10.27)


マリオネット症候群/乾くるみ (徳間デュアル文庫)

★★★☆ 

乾くるみさんは、1998年のメフィスト賞受賞作家。 今までに講談社ノベルスで3冊出しており(まだ未読。早く文庫落ちしないかなあ)、 これが2年半ぶりの書き下ろし新作だそうです。

ある夜中、主人公の里美は自分の体が何者かに「乗っ取られた」のに気づく。 しかもどうやら乗っ取ったのは憧れのサッカー部キャプテン・森川先輩らしい。 しかもしかもどうやら森川先輩は誰かに殺されたらしい。 やがて意外な犯人が判明して…。

人格入れ替わりや憑依自体はよくある話。 しかしこの作品は、そんな「よくある展開」を大きく裏切ってくれます。 まさに「そーくるかー!」という感じ。 「犯人」判明後の怒涛の展開も意表衝かれまくり。 なんだかんだいっても最後はハッピーエンド…なのか?(笑)

(2001.10.23)


月曜日の水玉模様/加納朋子 (集英社文庫)

★★★★ 

「日常の謎」系の連作短編を得意とする加納朋子さんの作品。 本作の主人公はOLである陶子さん。 毎朝満員電車に揺られながら女子社員が2人しかいない中小企業で頑張ってます。

もう一人のパートナーは、いつも朝の電車で幸せそうに居眠りをしている萩君。 いつもニコニコ笑顔で、陶子さんに振り回されてますが、記憶力は抜群。 話によって探偵役が入れ替わるというのも、加納さんの作品の特徴ですね。

今作の特徴としては、たしかに「日常の謎」ではあるんですが、 小さいながらも割とホンモノの犯罪が多いってことですかね。 で、その結果も必ずしも法律によって裁かれるわけではないという。 時には「会社」が「国」に優先する、 というサラリーマン社会を反映してますね。

そして最終話では、それまでの話に出てきたゲストキャラが勢揃い。 こういう趣向は連作短編ならではで、楽しいですね。

それにしても、あれだけ卓越した推理力を持つ陶子さんが、 萩君の遠回しの告白に全然気づかないっては(笑)。

(2001.10.21)


魔性の子/小野不由美 (新潮文庫)

★★★☆ 

講談社文庫(および講談社ホワイトハート文庫)で今話題の「十二国記」シリーズ。 その「第0弾」ともいうべき作品がこの「魔性の子」らしいです。 本のどこにも「十二国記」とは書いてませんが(しかも新潮文庫だし)、 確かに中に「十二の国に十二の王」というような記述が出てきます。

教生として母校にやってきた広瀬は、 クラスでの中で一人「異質な」雰囲気を持つ高里を見つける。 彼は子供の頃1年間「神隠し」にあったことがあり、 その1年間のことが思い出せないという。 そして彼に対して喧嘩をしかけたりしたものは、 ことごとく事故による「報復」を受けるのだった…。

「十二国記」ってカバー絵とかから勝手にファンタジーだと思っていたんですが、 いやまあ確かにファンタジーの要素もかなりあるんですが、 これって完全にホラーですよねえ。怖いわー。 「報復」のエスカレートぶりなんかもう…。

単品としては一応これで完結してますが、 色々伏線らしきもの(というか世界観を形作るキーワード)が張ってありますね。 この作品のキャラが後の作品に出てくることなんてがあるのかな? (さすがに版元が違うからそれはないかな)

しかしこの耽美なカバーイラストはどうなんだろう(笑)

(2001.10.20)


建売秘密基地 中島家/太田忠司 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

中堅企業をリストラされ、何でも屋を営む中島家。 ある日、近所にある巨大な屋敷・伊呂波城の城主から、 屋敷を交換してくれという依頼を受ける。 その頼みを断ると目の前に忍者が現れて…。

伊呂波忍軍(いろはにんぐん)48人衆と或葉部党(あるはべとう)26部衆。 この組み合わせを見ただけで中身の馬鹿馬鹿しさが想像できるのでは? 平和に暮らしていた中島家が、 家族をあげて地球存亡の危機を賭けて戦うコメディです。 ロボットやら、宇宙人やら、変形城砦やら、巨大化ヒーローやら、 もうなんでもアリ。

(2001.10.16)


猿若町捕物帳 巴之丞鹿の子/近藤史恵 (幻冬舎文庫)

★★★☆ 

文庫書下ろしの新シリーズ。 強面で仏頂面の南町奉行所同心・玉島千陰と、 女形の人気役者・巴之丞を中心とした、 時代物ミステリー。

今回の事件は、「巴之丞鹿の子」という人気役者の名のついた帯揚げをしていた娘たちが、 連続殺人に巻き込まれるという、一種のミッシングリンクもの。 「江戸時代版・九尾の猫」ってところでしょうか。

人気役者・巴之丞も得体が知れないし、劇作家・利吉もなかなか怪しい。 巴之丞にそっくりな花魁も出てきたり、と怪しい人物には事欠きません。 しかし怪しさで言えばぶっちぎりなのが、 やはりもう一人の主人公・お袖と絡む侍・小吉でしょうね。 いやあ、まさか時代物でこんなフェティズムを持ったキャラが出てくるとは思いませんでした(笑)。

それぞれのキャラが十分に生きていて、中編ならではの切れ味がある佳作ですね。

(2001.10.15)


トップランド2001 天使エピソード1/清涼院流水 (幻冬舎文庫)

★★★  

2ヶ月ごとの書き下ろしの「トップラン」シリーズが完結して半年。 新たなシリーズの登場。

今度の「トップランド」シリーズは、毎年10月に出る「現代編」と、 2002年4月の「トップランド1980」から始まる「過去編」との2段構成だそうで。 現代編の主人公は前回恋子たちを翻弄したあの貴船天使、 そして過去編の主人公は恋子だそうです。 といっても、今回は1巻ごとの読み切り形式で、 「トップラン」を読んでなくても一応わかるようにはなってるそうですが。

で、あの食えない男・貴船天使が、なんと21世紀と同時に「記憶喪失」になったところから、 物語は始まります。相変わらず突飛な設定、 そして「エンジェルQ」なる謎の相性診断も出てきます。 この作者ホント好きですねー、こういうのが。

1話目にあたるこの「2001」は、まあ顔見せというか、 そんな感じのエピソードでしたが。 でも貴船天使は記憶喪失後の方が好感が持てますね。

(2001.10.14)


死にぞこないの青/乙一 (幻冬舎文庫)

★★★  

幻冬舎文庫が、書き下ろしの中編を大量に発売。 月末には祥伝社文庫の「400円文庫」も出るみたいだし、 薄目の本をたくさん読めそう。 まあ、先月の「鉄鼠」の反動だという話もアリ(笑)。

で、中編といえば、の乙一の書き下ろし。 ある些細な行き違いから担任の先生に目の敵にされ、 クラスの「最下層」の役割を負うことになってしまった少年。 そんな最低な生活を続ける少年の前に、 彼にしか見えない「アオ」が現れる…。

うーん、これはちょっと乙一の「負」の部分が強く出過ぎてるかなあ。 あまりに「負」の部分が強過ぎて、 読み終わった後のカタルシスがちょっと。

(2001.10.13)


白い犬とワルツを/テリー・ケイ (新潮文庫)

★★★  

最近エラく売れてるらしいので、読んでみました。

妻をなくした老人が、子供や孫に心配されながら、 しかし静かな生活を望む。そんな時突然現れた白い犬。 彼以外の人には姿を見せない不思議な犬と、 やがて不思議な交流が始まる…。

まあいい話ですけど、別になんてことない話ですよねー。 結局白い犬の正体は何なのか、 ってことはまあ読者の想像にまかせますってことなんでしょうが。

(2001.10.13)


BASTARD!!II 悪魔の褥に横たわりて/萩原一至・岸間信明 (集英社スーパーダッシュ文庫)

★★★  

BASTARD!!の小説化第2弾。今度は長編。

四天王全てにそれなりに見せ場が用意してありますが、 やはりメインはカルとネイか。 カルって、愛を知り過ぎているがために、ことさらクールに振舞っている、 という設定なんだけど、 漫画と違って小説だと、モノローグとかで考えていることが全部わかるので、 なんかとっても人間っぽく描かれてて、別人のよう。

(2001.10.11)


プロジェクトX〜リーダーたちの言葉/今井彰 (文藝春秋)

★★★☆ 

読むと中島みゆきの「地上の星」が頭に鳴り響く、 「プロジェクトX」の単行本。

こうしてみると実はそんなに見てないんだよなあ。 噂に名高い「ホテルニュージャパン火災」編とか見てみたいなあ。 再放送してくれないかしら。

(2001.10.09)


BASTARD!! 魍魎たちの鎮魂歌/萩原一至・岸間信明 (集英社スーパーダッシュ文庫)

★★★  

先に書き下ろしの「黒い虹」の方を読んでしまいましたが、 実は3ヶ月連続で文庫リリースされていたBASTARD!!。

途中で出てくるイラストにどうも見覚えがあるなあ、と思ったら、 初出が「ジャンプノベルズ」なんですね。1号と2号は買った記憶があるよ。 あの雑誌っていつの間にか休刊になったのね (賞の方は継続してて、「乙一」なんかを排出してますけど)。 ストーリーの方は全然覚えてなかったのに、イラストには覚えがあるということで、 視覚的データの方が長期的記憶に残りやすいことが実証されました(笑)。

3編の短編を収めた短編集。四大国との大戦前、ということで、 四天王のキャラも既に固まっているし、まあ普通の展開。 外伝ならではの、本編との意外なつながり、とかを期待したんですけどね。

(2001.10.09)


天狗風 霊験お初捕物控<二>/宮部みゆき (講談社文庫)

★★★☆ 

「震える岩」のサイキッカー少女・お初が活躍する時代長編第二弾。

今回は「神隠し」にあってしまった少女たちを巡る謎にお初が挑みます。 どうやら神隠しの正体はもののけの類らしい。 しかしその一方で怪しい同心やら人物やらが現れて…。

超常現象としての「もののけ」と、人の犯した犯罪とを、 絶妙にブレンドしているのがこのシリーズの特長ですね。 超常現象に偏りすぎると妖怪モノになってしまうし、 人の犯罪のみに偏りすぎると時代設定を古くしただけの単なるミステリになってしまうところですが、 その両者の微妙なブレンド具合がこの作品を独特の「捕物帳ミステリ」たらしめているように思います。

お初の周りの人たちが基本的にいいひとばかりなのは、 宮部さんらしくてほっとさせられます。

(2001.10.05)


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