推理小説の部屋

作者エラリー・クイーンについて

エラリー・クイーンの小説(ドルリー・レーン四部作を除く)には、 同名のエラリー・クイーンという名前の探偵(肩書は「犯罪研究家」)が出てきます。 彼は父親が警視である関係上、さまざまな事件に関わり、そして解決して いきます。さらに彼は自分が解決した事件を元に、小説も書きます。 つまり作家エラリー・クイーンの小説は あたかも作中の人物であるエラリー・クイーンが書いた、とも取れるわけです。 「作中作」とでも言うのでしょうか? こういう茶目っ気があるところが エラリー・クイーンの特徴ですね。日本では有栖川有栖さんの小説の 主人公が、やはり有栖川有栖という名前だったりします。

エラリー・クイーンというペンネームは実はダネイとリーという従兄同士 ふたりの合作ペンネームです。「ローマ帽子の謎」でデビューした当時、 この作家エラリー・クイーンの正体については隠されていました。 そして、エラリー・クイーンの代表作としても名高いドルリー・レーン四部作 (「Xの悲劇」「Yの悲劇」「Zの悲劇」「レーン最後の事件」)は バーナビー・ロス、という別のペンネームで刊行されました。 もちろんこのロスの正体も明かされていなかったため、クイーンとロスとが 同一の作者であることは当時は誰も気づきませんでした。 ダネイとリーはお互いに覆面を被り、一人がクイーン、一人がロスとして 壇上でお互いに議論し合ったことまであるそうです。ここら辺にも クイーンの茶目っ気が見られますね。

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国名シリーズ

デビュー作「ローマ帽子の謎」から始まる「国名シリーズ」はクイーンを代表する シリーズで、ある意味最もクイーンらしさが出ているシリーズです。 「ローマ帽子」「フランス白粉」「オランダ靴」のように一見後ろの物は 国と関連が深いように見えますが、実は直接の関連はなかったりします。 「ローマ帽子の謎」では「ローマ劇場」で殺された男の持物のうち、なぜ犯人は 帽子だけを持ち去ったのか? が鍵となっていますし、「フランス白粉」の場合は デパート「フレンチ」で麻薬が手掛かりとなる、「オランダ靴」では「オランダ 記念病院」で靴が鍵となるだけで、別に木靴は出てきません。 これらの初期のシリーズでは、手掛かりが全部揃った時点で「読者への挑戦」 というページが挿入されていて、そこまでに与えられた手掛かりだけで論理的に 犯人を推理することができるようになっています(金田一少年で言うところの 「謎はすべて解けた」ってやつですね)。厳密に言うと「ニッポン樫鳥の謎」は 原題が``The Door Between''で国名シリーズとは言えないような気もするんですが、 ``Japanese Fan Mystery''(ニッポン扇の謎?)という題がついていたこともある、 という話もあり、はっきりしたことはわかりません。

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ドルリー・レーン四部作

クイーンの国名シリーズは知らずとも、「Xの悲劇」の名前を聞いたことが ない人はいないのではないでしょうか? それほど有名なシリーズです。 このシリーズに出てくる探偵はエラリー・クイーンではなく、 ドルリー・レーンという名前の元シェークスピアの舞台俳優です。 彼は若い時の事故が元で耳が不自由になってしまったのですが、それを逆に活かし(?) 目を閉じることで外界と遮断した世界で推理に没頭することができます。 また元俳優だけあって変装の名人でもあり、他人になりすまして証言を 引き出したりします。そして卓越した推理力で犯人を追い詰めるのです。

四部作のうち「Xの悲劇」「Yの悲劇」は特に評価が高く、ミステリの 人気投票などでも必ず上位に来ます。「Zの悲劇」はこの2作品に比べると かなり評価が落ちるようです。ともあれ、このシリーズをまだ読んだことがない という人にはぜひ一読をお勧めします。

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ライツヴィル・シリーズ

クイーンの作風は中期に大きな転機を向かえます。 国名シリーズ、ドルリー・レーン四部作、など初期の作品群では どちらかというと謎と論理だけを追い求めて 心理描写などがないがしろにされていた面がありました。 しかし中期以降の作品では登場人物の心理描写などに重点がおかれ、 探偵エラリー・クイーンもただ犯人を追い詰めるだけでなく、 同情さえ見せるようになってきます。結末も初期の作品ほどすっきり しないものが多くなってきます。この中期のクイーンの作品を 象徴するのが架空の田舎町「ライツヴィル」を舞台とした一連のシリーズです。 もちろんニューヨークとは違い、父親のクイーン警視はいません(いたとしても 所轄外です)。しかしなぜかクイーンがこの町を訪れる度に殺人事件が 起こるという……(あまりこういう人とは関わり合いになりたくありませんね)。 このシリーズではやはり最初の「災厄の町」の評価が一般に高く、 人によってはクイーンの代表作だという人もいます。

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後期クイーン問題

中期から後期にかけてのクイーンの作品の大きな特徴の一つとして、 「探偵の存在」が物語に対して大きな影響力をもつ、という点が挙げられます。 これがいわゆる「後期クイーン問題」と呼ばれるものです。 元々推理小説における「探偵」とは、事件を一段上から俯瞰する神のごとき視点を持ち、 事件に対して解決を与える存在でした。 しかしクイーンの中期以降の作品では、「探偵」であるはずのクイーン自身が、 事件に対して大きな関わりをもってしまいます。 それは、単に事件に巻き込まれる、というレベルではなく、 犯人が最初から「探偵エラリー・クイーン」の存在を前提としてトリックを仕掛ける、 というものです。探偵の存在なくしては成立しないトリック。 それは、探偵の存在を、一つ上のメタレベルから、登場人物の1人へと引き摺り下ろすことに他なりません。 犯人の思惑に乗せられ間違った方向へと推理を進めてしまった探偵=エラリー・クイーンは苦悩し、 もう事件に首を突っ込んだりするのはしない、などと決心をしたりします。 この後期クイーンの代表作としては、 ミッシングリンク物の傑作と言われる「九尾の猫」、 ライツヴィル物でもある「十日間の不思議」などがあります。

余談ですが、クイーンを敬愛して止まない日本の法月綸太郎氏の書く探偵・法月綸太郎も、 同じような「後期クイーン問題」にはまり込んでしまい、苦悩する探偵となりました。 しかし同名探偵故か、その悩みは作者・法月綸太郎氏にも伝播してしまい、 彼は作品そのものが書けない寡作な作家となってしまいました。 悩める作家ノリリンの復活はあるのか?


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